2016/08/26 のログ
糸車 歩 > どこかの路地から、男女の言い争う声が聞こえてくる。
雑踏を分けて見渡せば、遠く日陰になっている方、
学生らしき少女がキャッチだろうか、だらしなくスーツの前をはだけた男に捕まっている様子が見えるだろう。
暗いセミロングの髪に、日焼けをしていなさそうな肌。
紫の瞳をわずかに伏せ、一言だけ伝えてその場から立ち去ろうとする少女だったが、
しびれを切らしたのか、その背後、黄昏の闇から同様のいで立ちをした男たちが3名、現れた。
強引に少女の手をつかむと、驚き声を出そうとする口元を別の男が抑え、狭い裏通りへ連れていこうと、その躰を小路へ引っ張り込む──

セシル > (…この辺りは、異状なしか)

そう判断して、セシルは今日の警邏コースの歩を進める。
今夏警邏に勤しんだ功績や訓練・実技科目の成績を鑑みて、夏休み明けから落第街方面の警邏にも携わることになっていた。
ここで見落としがあってはならないと、周囲のチェックに力が入る。
…と、言い争う男女の声と、不穏な気配が、裏の方から漂ってきた。

「…ん?」

不穏な様子に眉をひそめながら、気配の方へ向かうと…肌を露出しないような服装をした暗い色の髪を持つ少女が、狭い裏通りへと引き込まれようとしていた。

「…!」

男たちの方へ、まっすぐ「踏み込む」。
異能を用いて一瞬で男たちの傍に駆け寄ってみせたセシルは、少女の手を掴んだ男の首筋に警棒を突きつける構えを取った。

「…貴様ら、何をしている」

太く張られた中性的な低い胸声は、そんじょそこらの男にはまず負けない威圧感を持っていただろう。

糸車 歩 > 男たちはチンピラである。
何をしていると聞かれて、素直に答えるほど善人ではない。

「あァぁ?!邪魔すんな……て……その服……?!
やべーぞ、小兄ィ! 風紀だ!!」

小兄といわれた──首筋に警棒を突き付けられた男は、独特の制服を見て呻いた。
周囲の2人もとっさに身構えるが、そのうち顔色の悪い男が震える指で乱入者を指さす。

「……いや、よく見ろ。
ひょッろい餓鬼一匹じゃねーか。いっちょ前にドス効かせやがって。
オイおめーら、ビビるこたーねー、やっちめェ!
せっかくの金蔓、わざわざ逃してたまるかよ」

男たちは風紀委員を取り囲むようにすると、めいめい懐に素早く手を入れ、拳銃やら懐刀やらスタンガンやらを取り出す。
さっきはどういうわけか、4人も居たにもかかわらず不意打ちを喰らったが、よくよく考えれば4対1、負けるはずがない。
……実際は警棒を押し付けられている小兄さんを除く3人なのだが。それでも少女の手をしっかりつかんだまま、腰を落としている。ただのごろつきではないらしい。
肝心の少女の方はこの隙に逃げ出そうと腕をねじっている、もう片方の手はフリーのようだ。

「寝てろやァ!!!」

右方からは、電気が迸るスタンガンを振り上げる男。
タイミングを半歩ずらし、左手方向から小刀をめちゃめちゃに突きまくる男。
口々にわめきながら襲い掛かる2人の後ろで、3人目、顔色の悪い男が拳銃を向けている。
隙あらば2人に構わず撃つつもりのようだ。

セシル > 「…貴様らの経緯は分からんが、ご婦人を「金蔓」呼ばわりして力づくで連行しようとする様は、この制服に与えられた責任において見逃すわけにはいかんな」

相変わらずの胸声と鋭い目つきで、怯む様子も見せずに男たちに告げるセシル。
…しかし、相手が武器を取り出すのを見て、叫ぶ。

「…伏せろ、ご婦人!」

無論、女性に注意を促す意図もあるが…相手が、注意をセシルに向けるべきか捕まった女性に向けるべきか、迷って隙が生まれれば儲け物だ。
そして、手にした警棒に魔力を込めるよう意識して、更にこう叫ぶ。

「付与・地《エンチャント・アース》!」

その場に魔術の心得があるものがいれば、セシルの手にした警棒がさほど強力ではないながら地の属性の魔力を帯びたのが分かっただろう。
それから、右から左へ、それぞれの男達の手の辺りを狙って警棒を薙ぎ払うように振るう。
地の属性を帯びた警棒は電気を通さない。手の辺りを狙えば武器には間違いなく当たるだろうとの判断だ。鍛錬によって鍛え上げられたその「斬撃」は、無駄のない速さ。ちょっとやそっとの訓練では、無駄なく避けることは困難であろう。
おまけに地の属性を帯びて打撃攻撃力が跳ね上がっている。武器に当たればそこまででもないが、運悪く手や腕に当たってしまえばかなり痛い。

自分が制圧しにかかった左右両側の男たちはもちろん、女性を押さえる男や、銃を構える男に向けての注意も怠らない。
不穏な動きが察知出来れば、そちらの方へ流れのまま突きを繰り出すつもりでいる。

糸車 歩 > “伏せろ”の叫び声にきょろきょろと周囲を見回す2人の後ろで、銃の男は風紀委員が手にした警棒に魔法を使うのを目にする。

「ア?付与魔法……んな小技こっちだってできらァ!
エンチャント・ダブル!!」

拳銃をもった男が叫び、空いた手で銃をポンとたたくと。
既にある物と全く同じ拳銃が、その手に現れる。
だが詠唱速度は風紀委員よりやや遅れ、そのために前衛を失う事となった。

「痛ッ?! ……ウグァーッ」

1人はしたたかに親指の根元を打ちつけられ、ぽろりとスタンガンをこぼす。
次の瞬間、違法改造によって威力の上がった電流が当たり、白目をむいて倒れ込んだ。

「ッてェェよォー」

もう1人は突きだす刀を難なく払われ、衝撃で指が何本か、妙な方向に曲がる。
刃のない斬撃だったが、それは確実に2人を打ちのめした。

「オイッ、しっかりしやがれッ!
……畜生、こんなのやってられるかァ!」

拳銃を二丁に増やした男が、半ば自棄になって引き金を引く。
発射された弾丸は常に同時2発、それぞれ足元と警棒をもつ腕をめがけて飛来するが、狙っていないせいか、全く当たらない。

少女は言われたとおりに伏せる。
だが反撃を警戒するほどの知能はあったらしい男が、一緒に頭を低くして吹っ飛んだ仲間から逃れた。

「へ、へへ……思ったよりやるじゃねえか。
だがな、こちとらわざわざやり合う必要はねーんだぜ?」

小兄と呼ばれた男は、さらに姿勢を低くして前傾体勢をとる。その身体を薄く光の膜が覆い。
次の瞬間、地面を蹴ってひと飛びし、古びた標識や看板を足場にビルの壁を駆け上る。
当然、その手には攫った少女を乱暴につかみ……

「……ん?」

雑居ビルの屋上にたどり着けば、振り切るのはもう簡単だ。
だが、底にその足がつくことはなかった。
片足を前に振り上げ、駆け足で走る姿勢のまま、空中で停止する。高さは地上から6mほどだろうか。
いつの間に解いたのか、すぐ近くの壁にスカートをたくし上げ、“垂直に立つ”少女の姿があった。

「お、オイ、こりゃあいったいどういう」

目を白黒させて問いかける、ランニングポーズのまま宙に浮く男を置き去りに。
壁を地面のように歩いてきた少女は、そのまま地上に着地するとぱんぱんと埃を払う。

「うーん、ちょっと不用心だったかしら。
風紀委員さん、ありがとうねー」

迅速な対応に感謝しよう、ぺこりと頭を下げる。

セシル > 魔術で武器を増やす場合、増やした武器を持ち直す時間のロスがある。
属性を纏わせるだけの方が、何なら武器を振るいながら発動させられるため、特に近距離では隙がないのだ。

「甘いっ!」

前衛2人を戦闘不能にした薙ぎ払いの流れのまま、わずかな動きの調整で銃弾の合間を縫うように警棒を振るうと…拳銃を持った男の方に踏み込み、警棒を、銃を持った手めがけて薙ぎ払い…そのまま、男の喉元に警棒を突きつけた。
首元を強く突かれればどうなるか。小刀を手にしていた男がそのヒントには十分過ぎるだろう。

そして、残りの一人に横目で視線を向けると…何らかの力でアクロバティックな動きを披露し上方に逃げる、女性を捉えていた男性が宙に浮かんでいる。
そして、壁に垂直に立っていたかと思えば、優雅に地上に降り立つ少女。

「いや、貴殿が大事ないようで何よりだ。
…萎縮しておらんから、無力なご婦人ではないと思っていたが…見事だな」

銃を持っていた男の首筋に警棒を突きつけたまま…つまり、警戒を解いていないので女性には横目で対応になってしまっているのだが…不敵に笑みながら女性の礼に応じる。

糸車 歩 > 「くそ、役立たず共がァ」

銃などの飛び道具は確かに一定の脅威と見なされるだけの効果はあるだろう。
だが、それも伸ばした手首よりも内側に入ってこられるとなすすべもない。
あえなく二丁拳銃を取り落とし、喉元に警棒をつきつけられる。
下手に動けば首の骨が折れるだろう、そう男は判断し、観念したように両手を上げた。

地上の戦闘はどうやら短時間で終わったようだ。近づいて来ても大丈夫、そう判断した少女は、風紀委員の傍まで近づいてきた。
自身のことについて褒められれば、細い手を顔の前で振り、否定する。

「ううん、ちゃんとした戦闘術を修得してる、風紀委員さんほどじゃないわ。
そっちこそ、警棒の扱いだけじゃない、素早い機転と効果的な対応、それを可能にする魔術……
よろしければ、お名前をうかがっても? あ、私は3年の『糸車 歩』ね」

視線はちらりと、転がっていたり、警棒を突き付けられて口をパクパクしている暴漢を見る。
それから上空で固まっている男を見上げて。

「拘束、手伝いましょうか。すくなくとも、“アレ”を下ろす必要はあるでしょ?」

何処から取り出したのか、ワイヤーのような糸状の物を指先で遊ばせながら、少女は首を傾げて問うた。

セシル > 「…ほう、貴殿が首謀者か」

味方だった男達に罵言を零す男に、冷静に声をかけながら少しだけ警棒を首筋に近づける。
警棒が纏った魔力が首筋に触れると、そこに実体はないのにゴツゴツとした岩肌を感じるかもしれない。
…実際のところ、首筋は急所だ。そのままぐっと強く押し込まれるだけでも結構苦しいだろう。今のセシルにはまだそこまでする気がないのは不幸中の幸いなのかどうなのか。

「どれも地道な鍛錬の賜物だから派手なものではないが…その分、裏切らん。

…アルクか。私はセシル・ラフフェザー。1年生だ。」

やっぱり警棒を突きつけた男から注意を離さずに答える。
そして、拘束の手伝いを申し出てもらえれば

「…助かる。流石にこの人数を一人では骨が折れるからな」

と、素直に協力を請うた。
なんせ、元は軍人志望である。最後まで抵抗する人間を確実に捕縛するのは、まだまだ慣れていない。

糸車 歩 > 警棒を首筋付近に当てられると、顔色の悪い男はぐぇ、と苦しそうに声を出す。
まだ若干の空間的な余裕はあるものの、地属性の魔力は見えない岩肌のように固められ、男の喉を圧迫する。
少女はそれを見ていたが、ほっと息を吐く。

「付与魔術は興味はあるのだけれど、なかなか難しくてねー。
セシル君ね。よろしく……って、もしかして女の子かな?」

服装は男子の物だし、性別を感じさせないような言動だったが。
間近で見ると、それも微妙に隠しきれていなさそうだ。驚いたように目を丸くする。

「じゃ、ちょっと失礼するわね」

そういうと、少女が伸ばした指先から、白く細かい糸が飛び、あっという間に縄となって男たちの体に巻き付く。
ついでに見上げると、宙に浮く男を下ろすために、ふたたび壁を歩いていった。
其方をよく集中して見れば、男は浮いているのではなく、ワイヤーのような銀色の糸で絡めとられているのが分かるかもしれない。

セシル > 男の抵抗の意がきちんと削げているのを確認する。
…もっとも、だからと言って油断をするセシルでもないのだが。

「汎用的な付与というよりは、武器限定のものだから修得が容易なんだ。
物理的な武器だけでは対処は難しい場合には頼りになる。隙も出来にくいからな。

身体がそうなのでな、一応そういうことになっている。
…まあ、婦人を肉体的に欲することもないからそれで支障はない」

付与魔術については、(警戒を続けながら)そのように回答をする。いかんせん場が場なので、細かいことまでは説明しないが。
そして、性別に驚かれたようなのには、軽く笑ってそう答えた。
…「一応そういうことになっている」と答えるあたり、「女」としての自覚はかなり怪しい。

それでも、男として考えれば不自然なくらいに腰は細い。かなり鍛えているようだが、それを割り引くと肩もかなり細いようだ。男達が「餓鬼」と判断したのもむべなるかな、といったところだ。
嗅覚に優れていれば、ミントの香りに紛れる体臭が男のものとは異質であることも分かるし、何より「気」や「魂」の類は隠蔽出来ないし本人にする気もない。
…そもそも、男装してはいるが、別に男性と偽りたいわけではないので本人に隠す気はないのだが。

観察眼があれば、割と分かるのだった。…ただし、制服の上着があると胸はほとんど分からない。

そうこうしている間に、女性の指先から伸びた糸が縄となり、男達を縛り上げていく。
おまけに、宙に浮いた男に対処するために再び壁を歩いていく女性。

「………器用だな………」

周囲の状況(「宙に浮く男」のタネも、微かだが「見えた」)と、女性の行動に感嘆したような呟きを漏らし…男達の身体の自由が奪われ、警戒の必要がなくなったところで、警棒を通信機器に持ち替えて本部に連絡を取る。

「こちら、警邏中のラフフェザーだ。女生徒に絡んでいる男4人組を制圧、確保した。
連行のための応援要員を要請する」

糸車 歩 > 「んー、使い慣れた道具に効果範囲を限定することで、より素早く正確に対応できるようにした、
というところかな。あくまで採れる選択肢を広げるためのもの。
確かにかゆいところに手が届きそうだしね」

自分なりに解釈してみる。
今はまだ無理だが、もし似たようなものを使えるようになったら、糸に付加するような形になるのだろうか。

「ん、敬称をどうしようか迷ったんだけど、……じゃあ、セシルって呼ぶことにするね」

ワイヤーで縛り上げられ、ポーズをとったままゆっくりと降ろされる男。
自力では逃れられず宙ぶらりんであったことで、すっかり青い顔をしていた。

少女は無事に地上へ運べたのを確認すると、セシルの下へ歩いてゆき、はい、と言わんばかりに拘束糸の束を差し出す。
ここまでくれば、簡単に連行できるだろう。

「んーん、これくらいわけないわ。
異能ですらないし、ちょっとした身体技術の応用ってだけ」

器用、とのつぶやきを拾うように聞き取り、答えるが。
頬に手をあて、ただ、と続ける。

「種族的なもの由来だから、他のヒトが誰でもできるわけじゃないでしょうけど。
ところで話は逸れるけど、セシルは虫、苦手?」

セシル > 「…まあ、そんなところだ。道具自体が持つ魔術親和性の問題もあるがな」

歩の解釈にざっくりと頷く。
…実際のところ、よほど魔術適性が低いとかでない限り、得意不得意はあれど「魔法剣」を全く覚えられない剣士はセシルの世界にはあまり多くなかったので、細かい向き不向きなどは詳しくないのである。セシルは魔術理論に明るくない。

「貴殿の方が学園にいて長いようだし、呼称はそれで構わん。
…協力に感謝する」

呼び捨ての呼称を大らかに受け入れると、礼を言って拘束糸の束を受け取った。
簡単に連行出来そうだし、間もなく応援が来る状況ではあるが…その表情は真摯そのもの。

「ふむ、種族的なもの、か………
………虫?害虫でなければ問題はないぞ。子どもの頃から野外で動くのが好きだったしな」

「種族的なもの由来」と聞けば、思案するように口元をきゅっと結び。
その顔つきのまま、虫についてもそのように答えた。

その逸れた質問と符合させて、歩が虫に近い種族的特徴を備えているのだろうかとの予想は付けるが…だからと言って、態度を変えることもしない。

糸車 歩 > 「あ、やっぱり解釈はあってたんだ。
これで実践が伴えばもっと理解できたんだけどなー」

歩の場合は、所詮は知識だけの代物である。
理解していても使えない。これほど悲しいことがあろうか。

「うふふ、でも年の差なんて些細なものだと思うな。
長命の割に子供っぽい先生なんかもいるし」

具体的な名前は伏せる。
今までの言動から、彼女には真面目な印象を受ける。この人なら、信用してもいいかな?

「そ。よかった。
名簿をちょちょいと調べればわかるでしょうけど、私、本性は蜘蛛なのよ。
糸を生成できる力があるから、それと異能を組み合わせて、服とか、その材料になる糸とか布なんかをつくってたのだけど」

赤紫の瞳が、遠くを見るように動く。

「何かを創れる、生産できる能力者や異邦人を家畜同然に扱って、搾取による利益を得てた組織が、昔の違法部活にあったらしくて。
このごろつきも何番煎じの模倣犯かわからないけど、似たような事言ってたから、しっかり絞っておいてね」

それだけ。とぱたぱたと手を払うと。

「そろそろ本格的な夜になるし、私はもう行くね」

手を振り、その場を離れようと歩き出す。

セシル > 「…私も魔術は専門ではないからな。あまり細かい指導は出来んぞ?」

「実践が伴えば」の言葉に、そう返して…少しだけ、困ったように笑う。
魔法剣の指導助手的なものが………いつか、出来たら良いね、うん。

「まあ、これだけ多様な種族が集う地だ、時間の感覚もそれぞれだろうな。
………長命の割に、か…まあ、教員を務められる程度の人物ならば、そう問題でもあるまい」

具体的な名前は思い当たらなかったようである。

…そして、彼女からの告白。驚きは、さほどなかった。
それよりも、問題はこのごろつき共の所業である。

「…なるほど…糸の扱いが巧みな虫の代表格だな。

………しかし、曲がりなりにも「ヒト」としての精神を持つ存在を家畜同然に扱おうとは度し難いな。
たっぷりと「補習」を受けてもらうとしよう」

無論、ここでの「補習」とは通常の補習ではなく、風紀委員が違反学生に施す「再教育」…つまりは外でいう刑罰の話である。

そうこうしているうちに、応援の風紀委員が到着し…歩が、帰途に着こうとする。

「ああ、今すぐでなくていいが、此奴らの取り調べに際して、証言のために協力してもらうこともあるかと思うので、その際にはよろしく頼む。

………ところで、近くまで送る必要はないか?こんなことがあった後に、一人で帰るのも精神に良くはないだろう?」

未遂とはいえ、犯罪被害者である。
真摯な表情で、そう相手に申し出た。

糸車 歩 > 「それでもいいよ。時間はあるし……。
魔力の流れは見えるから、そういう服は作れるんだけどねー」

この少女、妙なところで器用であった。

「ん、わかった。
個人的にも、この手のグループは一切なくなってほしいから、予め呼んでもらえれば」

メルアドはこっちね、と携帯端末を取り出し、連絡先の画面を開くと、それを見せる。
ちなみに住所は一切、書かれていない。

「んー、そうねぇ。
じゃ、駅までは送ってもらおっかな。
自宅がある場所をあんまり他人に知られたくないから、ホームから先は一人で行くけど」

せっかくの申し出だ、無下にするのもどうなのかと考える。
しかし迷いはあまり見られず、セシルの仕事が終わるまで待っているだろう。

ご案内:「歓楽街」から糸車 歩さんが去りました。
セシル > 「…魔力の流し方の向き不向きの問題もあるかもしれんな。
私は道具自体に効果を持たせる方がさっぱり分からん」

歩の出来ることを聞けば、そう言って苦笑を漏らす。
セシルからすれば、彼女のやっていることの方がよほど高度に思えてしまうのだ。

「ふむ、なるほど…
感謝する。近いうちに、何らかの形で貴殿に協力の要請連絡があると思うので、その際にはよろしく頼む」

連絡先をメモ帳(破り取れるタイプのもの)に記すと、そう言って頭を下げる。
セシルは電波などを利用した機器に詳しくないので、連絡をするのは恐らく事務方の担当者になるのだろう。
…そして、「自宅を知られたくない」という歩の希望を聞けば、ふむと頷き。

「…そういうことならば仕方がないな。
それでも、駅までは送らせて頂こう。…夜が更ければ、この辺りもますます物騒になってしまうからな。

…引き継ぎを急いで済ませる。時間はかけん」

そう言って応援要員のトップに、被害者たる歩を一旦最寄り駅まで送ること、彼女の連絡先は教えてもらったし捜査の際に証言等で協力してもらう許可はもらえたことなどなどを伝えて、一旦この場を離れることの許可を仰ぐ。

そうして、許可を得れば歩のところに戻ってきて、その旨を伝えて駅まで送るのだろう。
…無論、風紀委員の仕事はまだしばし続く。

ご案内:「歓楽街」からセシルさんが去りました。