2016/11/03 のログ
竹村浩二 >  
「……………」

良い人認定が止まらない。
どうしよう。死ぬか? 殺すか……?
真剣にこの場で自害する方法を考えた。

「思いっきり負けてんじゃねぇか」

見つけた自販機にコインを突っ込み、コーンポタージュを買ってポケットに突っ込んだ。
すぐには飲まない。温もりがあるうちは。

「あのな……普通、ちょっと怖いくらいの相手を探すか…?」
「探してどうすんだ…? 惚れてもいない、むしろ戦って負けた女の子を……」
「龍宮鋼の蹴りを目の前で見たが、あれ骨とかイワすタイプのアレだろ…」
「ちょっと怖い程度で済んでるなら会うのはやめといたほうがいいんじゃあないのか…? 死ぬぞ、下手すると」

自分を助けてくれた女が、自分に声をかけた善人っぽい男をウッカリ殺す場面を想像した。
なんとも夢見が悪い。

「助けられる範囲って……」

その時、ああ、その時。
やめておけばよかったのに。
俺は目の前の男の瞳を覗き込んでしまった。

ヒッ、と声が出そうになった。
まるで自分が青臭いガキだった頃のような、純粋さと。
その瞳に写った自分の汚らしい姿を同時に見てしまった。

深淵をのぞく時、深淵が覗き返してくるとかいう話。
あの話をした奴も、自分と同じで人の目が大嫌いだったに違いないのだ。
人間嫌いを神学の話で誤魔化していただけの。

キョドりながら視線を外し、ポケットの中のコンポタ缶を握った。
まだ温かい。
大丈夫だ、勇気を持て。嫌われる、勇気を持て。

「……何も困ってねぇよ」
突っぱねろ。今だ。やれ、竹村浩二。
「行け、どっか行っちまえ!」

真乃 真 > 「…でも僕はあの子にあって話をしなくちゃいけない。
 そうしないと助けられない人がいるんだ。だからその人の為…
 …いや、違うな。あの子為じゃない、僕は僕の自己満足の為に!
 僕が真乃真であるために僕は龍宮鋼と話さなくちゃならないんだ!」

ああ、怖い確かに怖い。
あの時の傷は治癒魔術で綺麗に塞がったとはいえ下手すればあの時死んでいたかもしれない。

そして、これから会ってする話はきっと彼女にとっては不快このうえない話だろう。
今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。

だけど…

「僕は、自分が自己満足すらできないならそんな僕なら。
 生きていても死んでいても同じだと思う。
 自分をカッコいいと思えるように、カッコいいと言えるように生きたいんだ!
 …それにきっと大丈夫だよ!なんだかんであの子も優しいところあるみたいだしね!!」

少し、怖くなったきた気持ちをいつもみたいに無駄にカッコいいポーズで誤魔化して。
自信ありげに笑ってみせる。

「…そうかい?お兄さんがそういうなら…」

本当に困っていないのだろうか?
さきほどと明らかに変わった様子を疑問に思いながらも離れる。

「ああ、分かった行くよ…。でも、なにか困ったことがあったら何でも言ってよ!
 助けるからね!今日はありがとうそれじゃあ!」

少し、残念そうにそう言うとすぐに元気を取り戻し白いタオルを靡かせて男は走り去っていく。
きっと、他の人にも探し人の情報を尋ねたりするのだろう。

竹村浩二 >  
「………助ける…」

自分も昔、対異能犯罪のヒーローになろうとした時は。
緑のスーツに身を包み、五人の戦隊で悪と戦っていた頃は。
こいつみたいな目をしていたんじゃあないのか?

自分をカッコいいと思えるような生き方が、あの頃はできていたんじゃないのか?

大丈夫だと胸を張って言える目の前の男が。
眩しくて、鬱陶しくて、若くて、どうしようもなく、ダメだった。

弱くて、直視できなかった。

「助けなんていらねぇよ!」
「どこへなりと行っちまえ! 人生が後悔するぞ!!」

てにをはが狂った言葉を浴びせると、地団太を踏むように力強くその場を離れた。
寒い。
寒い。
寒い。
どうしてこう寒いんだ。

本当に後悔しているのは誰なんだ、クソッタレ。

道はわからないが、どこでもいい。
どこかに行きたかった。
こいつのいない、どこかへ。

ご案内:「歓楽街」から真乃 真さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」から竹村浩二さんが去りました。