2017/03/16 のログ
■暁 名無 > 穏やかな春の午後
とはとてもとても言えそうにない、曇天かつ寒い風が吹く三月の半ば。
週半ばにも拘らず予期せぬ休みを手に入れた俺は、運動不足解消も兼ねて散歩に出て来ていた。
「それで何故歓楽街に来たのか、俺は。独りで。」
無意識化で出会いでも求めたのだろうか。
もうそんな歳でもないのに。もうそんな歳でもねえのに!
運動不足解消の為に精神が犠牲になるのは、何か違うんじゃねえかと思いつつ、俺は歩を進める。
■暁 名無 > 「このクソ寒いなか元気そうだな、どいつもこいつも。」
既に日は落ちてだいぶ経ち、夕飯時も過ぎているだろうってのに。
薄らと靄が掛かった様に雲が掛かった月明かりの下、大勢の人間が通りを行き交っている。
流石に幼子は見掛けないが、老若男女様々でこの島が“都市”である事を思い出させられる。
「普段学校に篭りっぱなしだから気付かねえけど──」
それに、今の時代の俺はあまりこっちには足を運ばなかった筈だ。
今となっちゃ理由も思い出せないが、妙に抵抗があったように思う。何故だろう。
そんな事をぼんやり考えながら、俺はタバコを取り出そうとして、
折角だからと家に置いてきたことを思い出した。
■暁 名無 > 「──あれ。」
ぼんやりと、本当に何も考えずに気の向くまま足を動かしていたらいつの間にか人気のない通りに出ていた。
雑踏が遠くから聞こえるから、一本外れた路地に入っただけなのだろう事は容易に想像がつく。
それでも、先程までの大通りとは比べるまでも無いほどに人通りの少ないその場所は、
「うーん、ますます一人で居るのが虚しく感じられるな。」
ピンクを主としたネオンに彩られた建物が立ち並ぶ、いわゆるホテル街だった。
まばらに歩いている影も、よく見りゃ仲睦まじい男女だったり。
思わず舌打ちと悪態が出て、直後に途方もない虚脱に襲われた。
「はぁ~……なるほど、一歩道を逸れれば“こう”だから俺はこの辺近寄らなかった訳ね。」
変に童貞拗らせていた俺らしい、といえば、俺らしいなと思う。
■暁 名無 > 「しゃあねえ、良い時間だしタバコ買って帰るか。」
ピンク色のライトに一人、照らされながら俺は進む。
確かこの通りを抜けて二度曲がれば、行きつけのタバコ屋に当たる筈だ。
偏屈な異邦人の婆さんが小遣い稼ぎにやってるのだが、生憎と俺が愛用しているのはこの店と異邦人街の店でしか売っていなかった。
「あの婆さんまだ生きてんのかな。最後に行ったのはクリスマス前だっけか──」
まあそうそう簡単に逝きそうな婆さんでも無かったから、多分生きてんだろう。
サルの干物かと思う様な見てくれの割に、目も耳も確りしているし動きも機敏だ。
俺は電灯の陰で二人だけの世界に浸る連中に舌打ちをしつつ、足早に通りを抜けたのだった。
■暁 名無 > 果たしてタバコ屋の婆さんは生きていた。
他愛無い世間話をし、目当ての銘柄のタバコを買って俺は店を出る。
次に来るのは夏ごろになるだろうな、と特に根拠も無く考えていた。
「そっか、そろそろこっちに来て一年だな──」
その割には何も成せていない気がするが、まあ急ぐような事でも無い。
幸いにも風向きは上々、ようやく軌道に乗って来た気がする。気がするだけ。
「まあ、なるようになるだろ。」
今は出鱈目にでも日々を生きていくことを重視するのが肝要だ。
俺は自分に言い聞かせながら、ホテル街通りを二度と通るもんかと遠回りして家路についたのだった。
ご案内:「歓楽街」から暁 名無さんが去りました。