2015/10/06 のログ
ご案内:「地下闘技場」に『ラズル・ダズル』さんが現れました。
■『ラズル・ダズル』 > (乱痴気騒ぎである。
男が三人寄れば下卑るのだから、それが無数に集えば大変に喧しいのである。
人の輪の中心で偉そうにギャラリを煽っているのは、全身を板金鎧ですっぽりと覆った長身痩躯の怪人だ。
頭から足の先、うねる尻尾に至るまで、そのすべてが深い黒紫に輝く金属に覆われて、その素顔を窺い知ることは出来ない。
人びとの熱気に合わせ、目元のスリットからごうと漏れる金色の焔だけが、いやに生々しい活力に満ちていた。
今宵、この空間に突如として現れたその怪人は、ムチャなフットワークで連勝に連勝を重ねた。
身のこなしからして異能者、あるいは異邦人の類と察するのは容易く、今のところ新たな挑戦者も途切れている。
そういう訳で、今現在の闘技場はかの怪人オンステージ、デモンストレーションの場と化しているのである。
次アレやってアレ、という野次に合わせて、怪人は三下相手に次々と技を披露してみせる。
場が沸く。何しろ昔なつかしの漫画で見たあの技、である。
怪人は漫画からアニメからゲームまで、何でもよく知っていたし、知らぬ作品の飲み込みも早かった。
その重量に反して軽やかに身を翻した怪人が、左手で高らかなメロイックサインを掲げる。
ゲラゲラ。一同爆笑。その手に四本しか指がないことなど、今となっては誰も意に介さなかった。
この空間においてしんとしているのは、ただ怪人の鎧の内側のみである。
どれほど激しく動き回ったところで――怪人は、息遣いのひとつも漏らさなかった)
■『ラズル・ダズル』 > (手にした禍々しい異形の野太刀を、ぶるんと振るって肩に担ぐ。
風を切る音はひどく重たかったが、見た目は丸めた新聞紙でも振り回しているかのように軽い。
怪人は『誰かいないの?』とでも言いたげに、可愛らしく小首を傾いでみせる。
爆笑苦笑冷笑失笑、ありとある類の笑い声。
お前行けよ、やいのやいの、という声に押されて、ひとりのチンピラが駆り出される。
まるで鎧の中で目を伏せて笑ったかのように、焔がひとたび途切れてまた燃え上がった。
ぐわっしゃん、と重く甲高い音を立てて、野太刀を地に突き立てる。
次の瞬間、風のようにチンピラの間合いに入った怪人の、長い腕が伸びる。
頭突きでも食らわすのではあるまいかというほど、両者の顔が近付く……
一瞬の間、)
(――怪人と向き合っていたチンピラが、突如として総毛立つ。
はいィ!という、彼の気の抜けて裏返った声。
次の瞬間――決して小さくはないチンピラの身体が、怪人に掬われるまますぽんと宙を一回転した)
■『ラズル・ダズル』 > (結果的に、チンピラは遊ばれるままに目を回し、怪人が呆気なく一勝を重ねた。
みっともないだの情けないだの、場が再び沸き上がる。
投げられる間際に彼が上げた悲鳴は――哀れなるかな、彼が怪人に怖気づいて上げた声だったのだろう、ということになった。
誰も――
誰ひとりとして、かの気絶したチンピラが唯一『怪人と会話を交わした』ことに気付きはしない。
怪人が、左手で野太刀を拾い上げる。
空いた右手が、場の空気を掻き乱すように観衆を煽る)
■『ラズル・ダズル』 > (金色の焔が、見栄を切るように周囲を見渡す。
そこではじめて怪人は、微かに漏れ聞こえるほどの息遣い――否、何かを啜る音、を漏らした)
「(…………。いかんな。
いくら楽しいとは言え、ヨダレはいかん)」
(新顔の怪人ラズル・ダズルの、誰も知らない『中の人』――ヨキは、破顔するあまり緩みきった唇を小さく舐めた。
異能で作られた鎧の中でてらてらと光る金色の目は、『遊び相手』を探すことに余念がない)
「(――は。仕留めるより手軽で、飲むより割安、か。
いい遊び場だな、ここは)」
ご案内:「地下闘技場」に王百足さんが現れました。
■王百足 > 「へェい」
得物である大太刀を乱雑に引き摺りながら、一匹の百足が闘技場に現れた。
周囲に一切気を使っていないので大太刀をそこらじゅうにぶつけており、派手な騒音を響かせている。
「ちーッすちーッす、今日も今日とてハデに暴れてんなァお前ら」
適当にそこらの観客たちに声をかけながら、ズルズルと大太刀を引きずって歩いていく。
濃緑の瞳が黒紫の怪人をじいっと見つめ……ぐわん、と腕を揺らし、大太刀の切っ先を怪人へと向ける。
「……なンか面白そうな奴だなァ、お前」
毒々しい美しさを感じさせる、樋の無い厚く重い刀身、その刀身には異様なまでに傷が無い。
奇怪でありながら人を魅了する、毒蟲めいた大太刀を怪人へと向けた。
■『ラズル・ダズル』 > (怪人が、長い腕を腰に当てて新たな乱入者を見遣る。
少年の声と向けられた切っ先に、ヒーローショーよろしくジェスチャのみでこくこくと頷く。
間もなく、左手に掴んだ野太刀の細く重い峰を、軽やかに返して肩に載せる。
右の半身を相手へ向け、腰を低く落とした。
――ひとたび水を打ったような観衆へ向けて、右の手のひらを宙へ向け、長い腕を水平にひらりと一回し。
その指先が人びとの声をいっぺんに引っ張り上げたように跳ね上げ、闘技場が再び賑やかになる――
“来い”。
無言の挑発。
右腕の、獣のように鋭利な指先が、少年を手招く)