2016/11/01 のログ
ご案内:「落第街大通り」にギルバートさんが現れました。
■ギルバート > 落第街の一角。治安については相も変わらずお察しレベル。
喧騒や違法店の客引きなど、目に余る光景が目に付く。
青年がこの街を訪れたのは初めてではない。
公安委員会に身を置いてからの一年とその半、仕事柄幾度も通った街並みだ。
だが今回はいつもと勝手が違う。
まず、もう彼は公安委員会の所属ではない。
名前も知らない上役に呼び出されたのが数日前。
除名を宣告されたのがその数分後。
言葉を失い唖然としていたところに、部の設立命令を言い渡されたのがその数十秒後だ。
「特別対策部……ねえ。
もうちょっと、捻った名前はなかったのか……?」
電灯がイかれたエレベータの中で、ぼんやりと。
ヤニで黄ばんだカウンタが、目的地への到着を指し示す。
《5階です。》
「そりゃどーも。」
アナウンスを背に、オフィスの戸を叩く。
ご案内:「落第街大通り」に大河さんが現れました。
■大河 > 戸を叩く音に、ボロボロのベッドの布団の中から、何かがむくりと起き上がる。
「んだあ、こっちは帰ってきたばかりだってのによ…」
ゴミだらけの部屋を面倒そうに抜け、洗っていない食器の溜まったキッチンと碌に掃除をしない風呂場を横切り
適当にかけていた服を着ると、寝癖も碌に直さずにドアを開ける。
「どーも、依頼なら聞くから中に入ってくれ。
勧誘か喧嘩だったら一発で終わらすからそこ動くんじゃねえぞ。」
物騒な挨拶と共に、顔を出したのは茶髪の男、寝癖に未だ半覚醒といった様子の顔は、そこらで暴れている強面の違反学生とは
程遠い様子だ。
■ギルバート > 「酷い有様だな……人間がここで生きていけることに驚いてる……。
あまりの臭気に気が狂いそうだ……。」
露出した片目を露骨に歪め、嫌悪感をあらわにする。
好き好んでこんなところに来る奴なんか、誰もいない。
その範疇に彼も入っている。出向くだけの理由がなければ、来ない。
「……まあ、そんなことはいい。
オレの要件は勧誘で、そして依頼だ。
新しく立ち上がった部活動がある。部員はまだいない。部長であるオレだけだ。
なんせ、行政が構わぬ事件を解決することが主な仕事になる。
危険な仕事もあるだろうさ。だからできれば独り身、それも後腐れないタイプがいい。」
そう、いつ死んでもいいような。
言外に含む意味合いは、余程の鈍感でない限りは通じる程に露骨なもの。
■大河 > 「よしわかった、喧嘩売りに来たってことだな…」
ギルバートの発言に、寝ぼけ眼が見る間に険しくなっていく。
が、続く言葉に、その目は若干穏やかになり
代わりに、皮肉な笑みがその顔に浮かぶ。
「んだよ、バンド募集中のボーカルかてめえは。
お前の下で働くぐらいなら俺は一人でかまわねえ、他あたってくれ。」
にべもなく断ると、欠伸をして引っ込もうとし…
「ま、退屈しなさそうな依頼だったら、土下座して靴舐めるなら手を貸すぐらいはしてやるぜ。
俺がいてどうにかなるならそもそも俺一人で十分だろうがな。」
負けじとばかり、こちらも露骨にギルバートを挑発するような返しをする。
その大口に恥じない程度の腕前を持っているという、己への絶大な自信と
力への信頼の現れ。
ご案内:「落第街大通り」に大河さんが現れました。
■ギルバート > その誇りは尤もだろう。
こんな街で生きていくには、相当な実力と幾らかの運がいる。
そのどちらの持ち合わせがあるからこそ、小汚くはあるが居を構えることができる。
「設立理由はもう一つあってな……。」
しかし、そのギラつくようなプライドを前に臆さないのがギルバートという青年であった。
元奴隷という以外の出自が不明で、記憶は疎か本名すらもない。
自我が確立されたのも、公安委員会に救出されてからだ。
それでも飛び交う火線の最中だろうが、恐怖感を抱くことができなかった。
根本的に、何かが欠落しているのだろう。
対峙する目の前の男が場数を踏んだ猛者ならば、それを感じ取るのは難しくない。
「わかるかな。躾のなってない犬が放し飼いじゃ、危ないだろう?
けど首輪と鎖があれば安心だ。それにしっかりとした飼い主もいればどうだ。
言うことなし。ママさんだってお子さんを安心して公園に送り出せる……って、何だ?」
青年が来た道のりを、誰かが辿ってくるように足音が近づく。
一人二人のものじゃない。無数のカカトが軋んだ床を叩き付ける。
振り向いたギルバートの視線の隅、ちらりと映ったその影。
そいつを確認する前に、ギルバートは大河を部屋に押し込んで、自らも続いて飛び込んだ。
銃声。火線。轟く怒号。
「ふざけんな、こっちは仕事中なんだぞ! 後にしろよ……ッ!!」
叫び声の主は、ゴミ袋に顔を埋めながら。
■大河 > 内心、早々にびびって帰るかと思ったが目の前の相手は
臆することなく話を続ける。
意外に思った男が、目の前のギルバートの目を見た瞬間
何となくその理由を察する事ができた。
目の前の相手は、恐怖感がない。アレほど凄まれればどんな人間であれ
多少の同様が見られるが、それが全くないのだ。
「言ってくれるなおい、俺が鎖と首輪ぐらいで大人しくするとでも思ってるのか。
んなもんお前の喉ごと噛み千切って…あ?」
ギルバートとドアで後ろの状況は音でしか判断できない男は、突然押し倒され飛び掛られたことに反応できず
そのままゴミだめに、仰向けにダイブする。
「て…め!散々前置きしといてそういう目的かよ!?ふざけんな俺にそっちの趣味はねえ!
とっとと帰れこの女顔が!」
完全に勘違いした様子の男が、暢気にそんな事を大声で口にする。
銃声は頭に血が上って聞こえていない。
■ギルバート > 「こんな状況でお前な! よくそんな冗談が言えるな!?」
そんな頭の悪いやり取りの途中でも、黒服の男たちは通路に雪崩れ込んでくる。
ドア越しだろうとお構いなし。文字通り蜂の巣である。
「あの服、龍神会のやつだろ……最近幹部が留置所にブチ込まれたってのは聞いてたけど、お前か……?
あのお怒り具合、相当だぞ。親の仇でもああはならない。」
手早く柱の影に隠れながら、手持ちの拳銃で応戦を始める。
冬場の乾燥した空気が、味気ない発砲音をさらに乾かせた。
「ああもう多いな! 手りゅう弾置いてないのか!?」
■大河 > 「知らねえな、最近ぶちのめした奴なんて星の数ほどいるしよ。」
最早扉の様を為さない、無惨な板が目に入れば、その顔は憤怒の表情に変わる。
「そんなモンねえ、そもそも」
言うが早いか、その手と足が光ったかと思うと、床を突き破るほどの轟音と衝撃と共に、男は敵の只中へ。
「俺の方がもっとヤベえからな!!」
機械のような、鎧のような不可思議な装甲をいつの間にか手足に纏った男が、敵の集団へ飛び込むや
旋風を巻き起こすような勢いでの回し蹴りを敵の集団に叩き込む。
それだけで異能も碌に持たないであろう黒服達は、凄まじい勢いで壁に叩きつけられ
更に不幸な数人は窓や壊れかけの壁を突き破り、ビルの外へ落下していった。
「もうめんどくせえからこのまま聞くぞ、で、さっきの理由って何だ。」
なみいる黒服を片手間にちぎっては投げながら、男は話の続きをギルバートに聞く。
■ギルバート > 「なんつー非常識な……『理由』ってお前、もういいよ……もっと分かりやすい皮肉を考えておくから……。」
破壊された玄関から通路を覗けば、まるで大嵐が吹き荒んだかのように。
密室故にありえぬことである。だが、考えようによっては、大嵐の方がマシまであった。
特にこの黒服の木っ端らにとっては。
「話の続きなんだが、何処まで喋ったか……ああ、勿論部費の名目で報酬も出る。
設立に公安委員会が絡んでいるからな。下部組織みたいなものだ。
というかお前まず、真っ当に学生登録されてないだろ。そのあたりも保証される。
あとは希望すれば寮や……。」
床に転がる"取りこぼし"から、握り手を蹴り飛ばす。
安物の拳銃は、乱雑に積まれたダンボールの山へ。
「……邪魔をするなと言ってるだろ。話を聞けッ!」
顎先につま先を叩き込み、その体もやはりダンボールの山へ。
「……ったく。」
グズグズに呼損した外壁越しに月光が覗く。
廃墟ならではの趣。……と風流な感想が抱けるほど、物静かなものでもない。
加えてまた別の爆音がなるのだから、いくらネジの飛んだギルバートでも目を白黒させるのは仕方なかった。
「……は?」
振り向けば大河とギルバートが共に突っ伏していたエリアがない。
ないというか、目の前で爆ぜた。粉微塵に。
白煙越しに見えたのは、子供向け番組によくあるロボットをその場に再現したような。
だがしかし、その姿はあまりにも大きい。
この6階建てのボロビルよりも、遥かにだ。
「大河ァァァァァァァァァァァァァ!!! 待っていたぜこの時をよォォォォォォォォォォォ!!!!」
器物破損に騒音被害。このあとの生活委員の苦労を思うと、胃が軋むようだった。
「アレもお前……なんかやったのか……。」
あきれ顔でマガジンを交換する間にも、「この超ド級合体戦士テラグレート……」と、名乗り口上が長々と続いている。
■大河 > 「あぁ!?んだよ馬鹿にすんだったらもう少し分かりやすく…って馬鹿にしてたのか手前!!」
怒りを抱えた黒服にぶつけるように投げ飛ばす、あわれな黒服は悲鳴を上げながらビルの下へと落ちていった。
「うるせえ、真っ当だろうがなかろうが今の俺はとりあえず学生だし、施設にだって入れんぞ。
ってかそもそも誰かの下に作ってのが気にいらねえんだよ。
特にお前の下に作ってのが気にいらねえ。
そんなに俺に入って欲しけりゃ…なんだ?」
轟音と共に現れたのは、何処であったかも覚えていない知らない男。
その怒声と憎悪に塗れた視線から察するに、多分どこかで
叩きのめした輩なのだろうが、生憎と記憶にない。
だが、そんな事より重要なのは…
「知るか!おい手前!人の家勝手に壊すんじゃ…」
言うより早く、敵の玩具のようなロボットが、これまた冗談みたいな大きさの剣を背後から取り出すと
「喰らって光になりなぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
その剣を真一文字に振り下ろす!
巨体から振り下ろされた大質量の剣は、その切れ味は勿論衝撃も尋常ではなく
余りの威力で大河のいたビルは勿論
近隣の脆くなった建物やそもそもつくりの甘い家等を、その衝撃波で破壊する。
「ははははああ!!!やったぞ!ついにあのクソ野郎をぶっ倒してやった!!やはり最後は正義が」
勝利の高笑いをあげる男、だが、見上げたその頭上には勝利を祝福するつきではなく
「てめぇ…!!よくもやってくれたな…!!」
怒り心頭といった様子の男が、肩まで装甲を纏った右腕を今まさに振りぬかんとしている。
「ひっ」
「死ねこの腐れロボオタクがぁぁあああああ!!!」
激怒と共に拳をロボットの頭上に振り下ろす、自信の体格の何十倍もあるはずのロボットは、その一撃だけで
頭部が破壊され、全身に亀裂が入り大爆発を起こす。
「ぼ、僕の超ド級合体戦士テラグレートマキシマム天元勇者ベインガーがぁぁああああああああ~~~!!!」
悲鳴を上げる男もまた、大爆発に飲まれてゆく。
そして気がつけば、そこはロボットの剣の一撃、男の強烈な拳の一撃、大爆発の大災害三連発で
変わり果てた瓦礫の山と、吹き飛ばされて瓦礫に突き刺さった、先程の男と黒服たちが。
■ギルバート > 彼らはじきに風紀委員によって連れられていくだろう。
通報を終えたギルバートは、瓦礫の山と化したビルの隣、放逐された家屋の屋上で佇む。
「テラ……ええと、なんだっけ。まあ、なんか……災難だったな……。」
煤けた髪を払いながら。
「……とりあえず、家ぐらいはすぐ用意できるぞ。」
■大河 > ひとしきり暴れて落ち着いた男は、心底渋い顔をしている。
多くはないが残っていた全財産は、今の闘いで光…否、塵となった。
今の男は完全な無一文、加えて宿無し、簡単にいえばホームレス入門者だ。
だが、そこでかかるギルバートの声。
最初こそ睨みつけたものの、これから冬を家も金もなく過ごすか
気に入らない男に一時的にでも頭を下げる屈辱を受け入れるか考え込むが
やがて観念したのか
「ちっ…借りを返したら直ぐに出ていくからな。」
彼なりの精一杯の抵抗を交えつつ、肯定の返答を返した。
■ギルバート > その軽い気持ちの返答が、すぐ後悔の念へと変わるのに時間はかからなかった。
が、それはまた次回の話。
ご案内:「落第街大通り」からギルバートさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から大河さんが去りました。