2017/01/21 のログ
■クローデット > 冬期休業明け。
公安委員会という職務上、調査対象は落第街になりがちだ。
それでも、「病み上がり」のクローデットの「リハビリ」業務は、路地裏ではなく大通り…そして、まだ陽の高い時間の見回りとなった。
(…深入りは厳禁、かしら)
実のところ、不調の「本質」を隠せるようになっただけで復調の目処の立っていないクローデットは、あまり面倒なことが起こらないことか、「力の行使がやむを得ないほどの」何かが起こることのどちらかを願うという、極端なことにならざるを得なかった。
…それでも、装備した精神隠蔽術式のおかげで気分の荒れが気配として漏れることのないまま、クローデットは大通りを淑やかに歩く。公安委員会の腕章を、隠すこともなく。
■クローデット > (…それにしても、薄汚い街)
手にした羽根扇子で顔の下半分を隠し…清潔感とはほど遠い街並み、建物の陰に時折見かける浮浪者のような人々を横目に見ながら、どこか剣呑に、すっと目を細める。
風紀委員ではないクローデットは、浮浪者の背後に危険な組織の影を見なければ、特に声をかけることもしない。
ただ、その青い瞳はどこまでも怜悧で、弱い者達に冷淡だった。
ご案内:「落第街大通り」に三拍子天歩さんが現れました。
■三拍子天歩 >
その声は、こんなに明るい昼間だと言うのに。
「あ、公安の人間だ。石でも投げようかな」
何の前触れもなく、クローデットから程近いちょっとした『日陰』から発された。
一瞬目をやった時には、きっと誰も居なかったはずの場所に――今は、その彼女が立っている。
「冗談だけど」
ソフトボール程もある、大きめの石を片手に。
■クローデット > 昼間の太陽が浮き上がらせる、建物の陰。
誰もいなかったはずのその場所から聞こえてきた声の方に、怜悧に細められた視線を静かに向けるクローデット。
そこにいたのは、「黒」の印象が強い女性。
「…職務上やむを得ないとはいえ、そうまで敵視されてしまうと、少々寂しいものもございますわね」
そう言いながらも、たおやかな微笑を作って彼女の方に向き直る。
その微笑の陰で、小指の指輪に仕込んだ探査魔術が、相手の出現経路を特定しようと周囲の魔力の動きや術式の痕跡、異能の発動の痕跡などを探そうとしていた。
■三拍子天歩 >
カカカ、と、彼女は笑う。薄口のパーツが更に細くなり、まるで鬼にも見える。あるいはその姿が鴉にも見える。
「おや、慈悲の目を向けなかったのはそっちなのに、被害者面なんて、公安委員らしいよ。
安心してね、もし貴女が敵意を感じているとすれば、それはこの街からではなく、この私からだから」
ちらりと。笑顔の端で、相手の全身を舐めるように精査した。
何に気づいたわけではないが、その小指に輝く指輪を認めると、彼女は手にしていた石を、地面に落として。
「あけましておめでとうございます。ところでなんの用ですか? やましいことは何もないですけど」
石はそのまま、影の中へ消えた。
■クローデット > 「殊更に敵対したつもりも、なかったのですけれど。
…まあ、敵意の相手が見えるのであれば、随分楽ではございますが」
羽根扇子で下半分を隠しながらも、笑うように目を細めた。
実際は、クローデットは「公安の魔女」として街の多数派から敵意を持たれていても当然くらいに思っているので、街全体の敵意の「目くらまし」くらいまでは頭においている。
「…ええ、明けましておめでとうございます。
特に用はなくとも、「裏」で体制に仇なすものが動いていないか、調べるのが公安委員(あたくし達)というものでしょう?他意はございませんわ」
品位を保ちながらも甘く響くソプラノが、お嬢様然とした空気を崩さぬ口調で返す。
その実、相手の周囲の気配などを、探査魔術で丁寧に…自前の魔力を軽く注いでまで確認しながら。
■三拍子天歩 >
「日頃の行いが悪いんじゃないかな」
それ以上は特に言うことはない。とでも言うように、ふーん、と大きく相槌を入れた。
「酷い話。疑わしきは罰せずって言葉がこの国にはあったのに。
戦力差なんて歴然としてるんだから、起こってから鎮圧するくらいの横綱っぷりを見せて欲しいところだよ。
そういうところが嫌いだったよ、公安委員は。昔から。
……まあいいんだけど。いじけてたッてつまらないしね」
何もしていない。何かしていたところで、気取られない自信がある。
それが忍びの技術である。
魔力的に動いているのは、彼女の内部。魔力を――彼女はチャクラと呼ぶが。それが腹中にて練られ、足から広がり、彼女の真下にある影に広がる。
「私の名前はテンポ。この街の治安維持をしていますが、何かお答えしましょうか?」
■クローデット > 「「誰にとって」という点で言うならば…この街の皆様にとっては、概ね「悪い」ことでしたでしょうね。
…全て、ではないつもりですけれど」
涼しげに目を伏せてみせるが…次に続いた相手の言葉には、再度、笑みの形で目を開く。
「…あら、この学園都市は厳密には日本国ではございませんのよ。
それに…表向きの戦力差がどうであろうと、何が起こるか分からないのが《大変容》後の世界ではございませんか。
…まあ、この学園のあり方については、あたくしも手放しで礼賛する気はございませんけれど」
そう言って羽根扇子を閉じれば、そこにあるのは柔らかく、嫌味のないように笑んだ口元。
…もっとも、この会話の内容でこんな表情を浮かべればかえって相手の神経を逆撫でするものであろうし、クローデットの内心からすれば、「手放しで礼賛する気はない」なんて話ですらないのだが。
表に作った表情と、精神隠蔽術式のおかげで、クローデットの内心を読み取るのは難しいだろう。
「…テンポ様、ですわね。
この街なりの秩序を保全されている方、ということなのでしょうが…」
すっと、考えるように目を伏し目がちにするが、それはわずかな間。
「………最近、この街に今までとは別の種類の危険薬物が、出回っている様子があるのですが…何か、ご存知でいらっしゃいますか?」
口元も目も笑っているが…その青い瞳は、冷たく冴えていた。
テンポの体内で動く魔力と、その挙動は、うっすら察している、程度である。
相手の慎重な魔力の扱いに、これ以上むやみに探れば明確に悟られることを察し、静観していた。
■三拍子天歩 >
「そうなの? 貴女も壊す側に回ればいいのに。
それとも内部工作ってヤツかな、ヨーロピアンニンジャだ、ふふ」
相手の笑みにつられるように、年相応よりも一回りも二回りも幼い笑顔で応える彼女。
相手のことは――割と行動派の公安委員で、結構な数の落第街住人の安寧が破られていると言ったことくらいにしか知らない。
その言葉以上の敵意をこの島の政府へ向けている――なんて想いを、汲み取る術は持たない。
それでも彼女の発言は、表情の作為を微かな違和感として拾い上げたからだろうか。
「あー、なんだっけ。『舶来品』? みたいなことを聞いたね。
あれはこの街の中でもう一層か二層くらい面倒な利権を産んでいるようだから、こちらとしてもちょっと困ってるよ」
相手の問いかけに少しだけ首を傾げ、ポンと手を叩いて返す。
■クローデット > 「あたくし個人の思想と職務は、また別の話ですので…職務に逆らうつもりは、ございませんのよ」
柔らかいソプラノで、控えめにそう語るに留めるクローデット。
…実のところ、「内部工作」というテンポの指摘は、全く的外れなわけではなかったりする。
ただ、「内部工作」という視点から見ても、公安委員会の職務が、クローデットの意図から外れることはあまりないのだ。
「『舶来品』ですとか…もしかすると、他にもあるかもしれません。
どうも、この街の…特に治安の悪い辺りで、おかしな話が多いようなのです。
…そうですか…この街の秩序を守っていらっしゃる、テンポ様でも掴みきれておりませんか…」
思慮がちに、視線を落とすクローデット。
その口調は淑やかで、テンポを責める様子はまるで伺えない。
■三拍子天歩 >
これでも真剣に街を守る。
『事なかれ主義』は新たな争いの火種を良しとしない。
「スラムまで行くと管轄外だからね、興味なし。
そうは言ってもスラムから流れてくるもので面倒なことにはなりたくないよね。
と、言っても、ここで表のほうから突っつかれると、また騒ぎが起こりそうで嫌なんだよね。やっぱり帰ってもらってもいい?」
話の流れで。協力的な態度こそ見せていても、それ以上先へ行くのは面倒だよ、とのスタンスは、変えない。
不意に腰を落とし、地面の影に手を突っ込んだ。
「…………うん、これだ」
取り出したのは、3つのチャック付きビニール袋。
手のひらに乗るくらいのサイズで、中には――。
「これが『舶来品』と、あと二つは多分まだ公安にも風紀にも流れてない薬物の現品なんだけど、お土産に包みましょうか。
出処は決して探れない。
でもどういうものか調べるくらいはできますよね」
■クローデット > 「………そう、ですか…
いえ、無理はなさらなくて構いません」
「管轄外」の言葉に、思案がちに言葉を詰まらせる。
…しかし、「裏」の住人にそこまで頼るものでもないだろうと、テンポの方にまっすぐ視線を投げ掛け。
「この学園都市の秩序としては、表に騒動が侵食してくる恐れがあるならば、踏み入らざるを得ないのですけれど…
………あら?」
不意に腰を落とし、地面の影に「手をつっこむ」テンポを、大きく目を瞬かせて見る。
「…あら、現物をお持ちでいらっしゃいましたのね…
これだけで出処を探るのは難しいかもしれませんが…患者の検査と、彼らの確保場所からある程度情報は…
それに、仰るように「どういうものか」を調べるには、あたくし達のように「表」の者が適しておりましょうね。
………あなたとのことは、本部にどこまでなら話して構いませんか?
検査結果の外部への連絡は、どこまで伏せておけるか、確証が持てませんの」
「表」の利点は、「表」のネットワークを堂々と使えることだろう。例えば研究機関。例えば病院。
これは、お互いの立場にとって益になる取引になり得ると、クローデットは踏んだ。
■三拍子天歩 >
ちなみに『うっかり間違えて』、いま取り出したのは薬物ではなく、それらしくパッケージされた調味料の類である。
調べたら、旨味成分の詳細が恐らく分かることだろう。
調味料を手渡すために近づく――殺気もなければ敵意もない。
友好的な気配でもないが。
「風紀を通せば適当に扱ってくれていいよ。
この粉も、持ち帰ったら風紀に渡してみるといい、『落第街の三拍子天歩から渡されたものだ』とでもいえば、色々察してくれると思う」
公安委員会の人間が嫌いで嫌がらせしたんだな、と。
この手渡す場で見破られたらそれまでだが。てへぺろだ。
■クローデット > 「三拍子天歩様、ですわね…
風紀委員会の皆様とはご縁がおありでいらっしゃいますのね?」
近づいてくる天歩の様子に、こちらも警戒する様子なく手を差し伸べて袋を受け取ろうとする。
天歩が魔術を読み取る能力に長けていれば、クローデットがそう簡単には破れないような防御術式で「重装備」しているのが分かるかもしれない。
…流石に因果を超えられたら防げないが、その場合には「身代わり」がどうにかしてくれるだろう。
実は魔術の得意分野と無縁でもないので、クローデットにはそこそこ料理の心得がある。普段はやらないが。
目を近づけたら、術式で探査するまでもなく違和感を覚えてしまうだろう。南無。
■三拍子天歩 >
「元風紀委員で、今は死刑囚」
そう言って笑った。
「言い過ぎた、無期懲役だったっけ。……貴女も強そうね。やっぱり石投げても大丈夫だったかな」
読み取るのは魔術的な因子ではなく、相手の全てを。
体捌きから精神の置きどころ、気の練り方から――詳細は分からないが、彼女はクローデットは強いと認識した。
「これを受け取ったら――」
出しかけた手を止めて。嘘を見抜いてもらう必要はない。
「とりあえず、お帰り願いますね?」
受け渡しはその約束の後。
「……実際、新たな利権の問題は、住人にとっても問題だから。莫迦がそちらへ持ち出す前にどうにかするつもりではあるよ」
■クローデット > 「……、………そう、ですか」
相手の立ち回り方、ただ者ではないと思っていた。
「死刑囚」と聞いた時に少し眉を動かしたが、最後まで聞いて納得したように視線を落とした。
…が、「石投げても大丈夫だったかな」の言葉には
「石を投げられた程度でどうにかなってしまうのであれば、単独行動は許されないでしょうね」
と、天歩の方を見て、柔らかく笑んだ。相手の「読み」を、否定はしなかった。
「…「こちら」で調査している方と知り合えただけでも、悪くはない成果とは言えましょうね。
よろしいでしょう。その条件、今日は呑みましょう」
そして、改めて掌を天歩の方へ伸ばした。
そこまで強気の条件を出すのであれば、まずは信じる方針、らしい。風紀委員と繋がりがあるようだし。
………流石に、手に取ったら気付きそうだが。
■三拍子天歩 >
言質を得て、袋を手渡す。
「ありがとう。貴女は勘も良さそうだから助かるな。ノリも良いみたいだから、私は好きよ」
その袋が相手の手に渡ったならば、近づいてきた時を巻き戻すように、日影へ入る。
「公安委員は嫌いだけど」
カカカと笑って、彼女の歯が三度、カチと鳴る。
「『土遁・潜影独歩』」
でも、こちらは本当にお土産だ。
術を唱えて、相手にハッキリと見せるその『忍法』。
途端、足場の影が水場へ変わったかのように、彼女の身体が一瞬で沈み込み――。
水面に波が残るようなこともなく、大地の影は不動のまま、彼女の存在だけが、その空間から消え去った。
■クローデット > 「あら、光栄ですわ」
相手に軽口でも褒められれば、花の綻ぶような微笑を作ってみせる。
それでも、相手の奇異な足運びはしっかり捉えていて。
「…ええ…ご協力感謝致しますわ」
影の中に飲み込まれるように消えた彼女のいた場所に、そう言葉をかけてから受け取ったものを見て…
「………あら」
してやられたことに気付いて…不快な表情を見せるでもなく、おかしそうにくすくすと笑った。
(強気な条件を突きつけた上でこんなことをするなんて…随分と「面白い」お方ですこと)
ご案内:「落第街大通り」から三拍子天歩さんが去りました。
■クローデット > しかし、気配が消えたのを察してか、不意にクローデットの目が剣呑に細められた。
その口には、柔らかい笑みを刻んだまま。
(…ご存知かしら?ゲーム理論で一番得点が高いのは「しっぺ返しモデル」ですのよ?)
先ほどまでやりとりしていた相手は、最初の「信頼」をこの悪ふざけで使ってしまったわけである。
…いくら落第街でクローデットの評判が悪かろうと、個人としてやりとりするのは今回が初めてなのだから、多少当てつけても理不尽ではあるまい。
(…まあ、面白いものは見せて頂けましたし…全く成果なしでもありませんから、風紀委員の方の対応次第では、今回は不問に付しますけれど。
…引き際を決められたことも、一概に不利益とは言えませんし)
やや、古典的な類の…東洋系の術式、だっただろうか。
魔術師として、純粋に興味深いものではあった。流石に、修得までの手間は割けないだろうが。
そして、何より。
クローデットは「病み上がり」の「リハビリ」だったのだ。
風紀委員の方でも調査が進んでおり、風紀委員側に「裏」の協力者がいること、その顔を知ったことは、悪くない成果と言えるだろう。
…そして、「病み上がり」の身で引き際を決められたことは、一概に不利益とも言えない。
クローデットは、本部との通信機器をつなげた。
「…ええ、あたくしです。少々出会いがありまして…全く成果がなかったわけでもありませんでしたので、一旦戻ろうかと」
一言二言連絡した後、クローデットは落第街を後にしたのだった。
ご案内:「落第街大通り」からクローデットさんが去りました。