2018/07/15 のログ
■筑波 察 > 陽が沈めば多少なりとも暑さは和らぐ。
しかしコンクリートが密集したこの一帯は、
その有り余る熱容量いっぱいに熱をため込んだせいで熱いままの空気を残していた。
「ここに来るのも随分久しいねぇ」
そんな独り言を言いながら大通りを闊歩するのはゴーグルをつけた少年だ。
ならず者が集まるこの場所でも、ゴーグルをつけた姿は人の目を惹いた>
■四凶 > (……何かゴーグルを付けた人が居るな…とはいえ)
フとその少年の姿が目に止まる。年齢は自分と同年代…いや、多少下だろうか?
とはいえ、自身の正確な年齢など元々が孤児だったので覚えてなどいないが。
一応、生徒っぽく見えない事も無いし声を掛ける、もとい接触してそれとなくここを立ち去るように薦めてみる事も考えたが。
(…いや、大きなお世話だろうしなぁ。もう10回連続で不審者認定されたし)
さっきのダメージがちょっと響いている。とはいえ、この青年も首元に包帯を巻いているので多少目立つ。
まぁ、それ以前にならず者が闊歩している中で、”普通の服装”だから逆に浮いているかもだが。
■筑波 察 > 「……?
何か僕に用事かな?」
知らない人に声を掛けられた。
声といっても相手の”声”は聴いていないのだけれど。
身振り手振り何かを訴えようとする彼を、初めは怪訝そうに見ていたが――
「君、もしかして声が出せないのかい?
なんだかその包帯が気になってねぇ?」
彼の首もとに視線…といってもゴーグル越しではあるが、
目を向けるとちょっとした推察。
自身の身体の傷に触れられるというのはなかなかデリケートな話題だが、
こちらとて考えなしにそんな話題を振ったわけじゃない。
「もし"声の形"を覚えてるならこれを使ってみておくれよ」
そう言って差し出したのはこまごまと計算式が書かれた付箋。
魔術で言うところのお札のようなものだ。
それをのど元に貼るよう促して>
■四凶 > (いや、単に生徒がここをウロつくのは危ないよって一言伝えたいだけなんだけど…いや、うんおせっかいなのは承知なんですけどね)
と、いう事を伝えたいが喋れないので心の中に思うだけで。さて、どうしたものかと。
ただ、彼からの質問には頷いてから一度喉の包帯をトントンと指先で叩いてから、両手の人差し指を交差させて×の字を。
既に数年前からこの状態で、少し接すれば誰にも分かる事だからデリケートという程でもない。
なので、喋れないというこちらのハンデが伝わればそれで十分だろう。
あとは、ジェスチャーと面倒だが筆談を交えれば最低限会話は成立する筈。
「………?」
不思議そうに少年が手渡してきた付箋を受け取る。ザッと眺めてみるが計算式らしい、という事しか分からない。
ともあれ、言われた通りにそれを包帯をズラして喉元へと貼り付けてみる。
声の形、という表現は難しいが声帯が駄目になる前の自分の”声の出し方”を思い返し。
『…ぁ…あ…あーあー……喋れ…てる…の、か?』
と、ぎこちないが”声の形”が音声という”振動”として現れる。
流石に、久方ぶりの”発声”なのでぎこちないが、年齢相応の男の声が出ただろう。
とはいえ、ぎこちなさに加えてややしゃがれた感じだ。あくまで付箋の計算式の補助がある事が前提の発声だ。
■筑波 察 > 残念ながら彼が何を伝えたいのかを、
彼のジェスチャーから読み取ることはできなかった。
元々相手が何を考えているのかを察するのがあまり得意ではないというのもあるし。
そして彼の必死の訴えを無視するように付箋を渡したわけだ。
「ああ、やっぱり喋れないんだ?
ならちょうどいい。
実験台って言えば響きは悪いけど、検証してなかったからねぇ?」
周りに声の出ない人がいなかったからねぇ
なんて楽し気に言って見せれば、ぎこちなくも発声する彼を見やる。
「おおお。
喋れてるよ!ちょっとぎこちないけど、ちゃんと聞き取れる!」
興奮した様に頷けば、満足した風にして結果をメモしていく。
そうしてひとしきり記録を終えると『で、何か用事があったのかな?』
と再度問いかけるのだ>
■四凶 > (考えたら、この人はゴーグルをしてるし…目に何か障害とかがあるのかもしれない)
と、いうのはあくまで勝手な推測でしかないが。そうなるとジェスチャーと筆談は無理になる。
だからこそ、彼から渡された付箋での音声での会話…誰もが当たり前にやっているそれがとてもありがたい。
『…それは…かまわな、い…さ。ぎこち、ないの…は、数年…ぶり、に喋った…から、だと思、う。』
途切れ途切れだが、しゃがれた感じが少しずつ消えてきた。喋る事で思い出してきた。
彼の問いかけに『…大した事、じゃない…よ。生徒、らしき…人が、興味本位…で、うろつく場所…じゃ、ないから…警告、のつもりだった』と、答える。
まぁ、お節介なのは承知だし、そもそも表向きこの街は”存在しない”扱いだ。
それも込みで来たのだから何が起きても自己責任。彼も自衛出来る程度の力量はおそらくあるのだろうし。
そもそも、このような芸当が出来るのだからただの好奇心旺盛なだけの生徒ではあるまい。
■筑波 察 > 「もともとは共振で物体を破壊するための物なんだけど、
こういう使い方ができるかもしれないって思ってね?
でもなかなか声の出ない人が見つからなくてねぇ?」
ずいぶん昔に、教師が兎に変身してしまうことがあった。
その時に思いついた代物が、今こうして役に立つとは思わなかった。
「ああ、そう言うことだったんだ。
腕っぷしには自信はあるけど、確かにこの辺は治安が悪いからねぇ?
その分新しいアイデアが転がってたりするんだけど」
こちらの安全を気にかけて声をかけてくれたとわかると、ひとまずはお礼を言う。
そしてここに来た理由も。
次いで思い浮かんだのは――
「君は生徒じゃないのかい?」>
■四凶 > 『…俺は学が…あまり無いから…イマイチだけど…物体の周波数を…同じにして…共鳴破砕させる…感じ、かな?』
少しずつだが途切れ途切れの感覚が変化してきている。段々と付箋の計算式の補助での発声に馴染んできたのだろう。
彼の思いつきでこうして真っ当な会話によるコミュニケーションが出来るのだからありがたいものだ。
『…腕…だけじゃ…生き残れない…からね…駆け引きとか…頭もある程度…回らないと』
ホームグラウンドであるからこそ言い切れる。ただの強いだけの連中なら腐るほど居るだろう。
大事なのは、その連中と渡り合う他の武器。知恵やら組織やら道具やら人脈やら何でもいい。
『…残念ながら…ただのスラム上がり…さ。二級学生ですらないよ。…ん、よし慣れてきた』
そして、割と短時間でもう慣れてきたようで。順応性、というより適応性が高いらしい。
■筑波 察 > 「そうそう、イメージはそんな感じだよ。
発振できる周波数に幅を持たせているから、
ただ喉を振動させるよりも自然に発生できるように手を加えてあるんだ」
そういう工夫が施されているにしても、彼の順応性の高さは評価されるべきものだ。
「あっはっはっは、別に勝たなくたっていいんだ。
僕はここにきて腕試しをしに来てるわけじゃないからねぇ?
新しいアイデアが欲しいだけ。
危険に直面すればすぐに逃げるさ」
そんな戯言、風紀委員には通じないが、彼は風紀委員ではない。
「なるほど、ここの危なさを知っているがゆえにって感じだ。
学生ですらないならここを受験してみてもいいんじゃないかな?
ちゃんとした戸籍がないと入れないわけじゃないだろうし」
じゃないと異邦人の受け入れなんてできないからねぇ?
そんな風に言って見せるが、実際はいろいろと難しいのだろう>
■四凶 > 『成る程…道理で、補助があるとはいえ…スムーズに割と喋れる訳だ。俺の喉は完全に使い物にならなくなってる筈なのにここまで喋れてるから、少し不思議でもあったんだけど』
そして、もう発声の感覚を完全につかんだのかかなり違和感無く喋れるようになっていた。
ついでに、『これ、効果時間とか制限はあるのか?』と、質問を。
はがしたらまた喋れなくなるのは当然として、持続時間とかが気になる。
『…それ、裏を返せばアイデアが浮かんだらここのゴロつきとかを利用する、と宣言してるようなものだよ?』
実際、彼の力も戦闘能力もサッパリ分からないが強いのは理解できる。
それに、彼も決めたら割と迷い無く実行できる行動力と決断力はありそうに思えた。
『…戸籍よりも経歴がね…不問、という訳にはいかないだろうさ。
風紀委員会とかに追求されたり質問されるのは面倒だから避けたいしね…。』
もはや普通に会話をしながら肩を竦めて。ただ、彼の言葉は一考する価値はあるだろうか。
(…とはいえ、学力とか色々と問題も別にあるんだけど)
まぁ、それはそれとして。彼に軽く頭を下げて。
『…ともあれ、久々に喋る感覚を味わえた…ありがとう。俺は…四凶。名前は元々無かったから仮名みたいなモノだけどそう呼んでくれ』
苗字も名前すら無い。二級学生ですらない少年。名乗る名前も所詮は借り物でしかない。
■筑波 察 > 「でも君の適応力も貢献してると思うよ?
普通の人間なら半日は練習しなきゃいけないだろうしねぇ?
効果時間はマチマチなんだ。
付箋に充填されたエネルギーを使う方式だからね。
エネルギーの充填自体も一次電池と同じで使いきりなんだ。
一応理屈の上ではそれ一枚で1週間は発声できるはずだよ。
もっとも、叫んだり、喋りっぱなしだともっと短くなるだろうけど」
裏を返せば喋らなければもっと長持ちするわけで。
『なんなら何枚か持ってるからあげるよ?』なんて。
「まぁ、そういうこともあり得るけど、
僕はみんなにとって特別な存在でありたいからねぇ?
使うだけ使って後はサヨウナラってのは寂しいし、
僕が望むものではないから」
そういう意味で、彼に付箋を与えたのも狙いがないわけじゃないし、
彼を利用したといえなくもない。
「経歴ねぇ。
まま、昔のことは大事だよねぇ。
今の自分を作っているのは過去のじぶんだものねぇ?」
何か難しい理由でもあるのだろう。
そこはあえて聞かないが、彼が選択できる道が一つでも増えたのならそれで御の字だ。
「シキョウ、ね。覚えておくよ。
僕は筑波察。観察の察でミルだよ。
もっとも、目は見えないんだけどねぇ?」
ちょっとしたブラックジョークと共にこちらも自己紹介。
目は見えないが、ゴーグルでお視界は確保出ているのでたいして気にすることじゃない>
■四凶 > 『…まぁ、俺も何だかんだここは長いからね。多少なりとも適応力は身に付くさ』
そうでないと生き残れない程度の過酷さは潜り抜けてきたつもりだ。
とはいえ、自身が元々持っていたモノと環境で育まれたモノの相乗効果かもしれないが。
『……そうか。じゃあありがたく貰っておこう。…礼は…今は持ち合わせが無いからツケで頼むよ』
と、軽く笑って。普通に喋れるようになれば会話そのものは真っ当に近い。
と、彼も彼で中々に独自の思考の持ち主のようだ。自身を平凡と証するつもりも無いが。
なので、彼の考えからその狙いとかも察してはいるが、敢えてそこは指摘もしないしこちらも助かったのだから問題なし、だ。
『…まぁ、そこらの孤児の一人だったってだけだがね…。分かった、ミルだな。よろしく』
この付箋の礼もあるし、彼の見た目と名前は勿論しっかり覚えておこう。
目が見えない、という発言に『ああ、そんな気はしてた。障害持ちは面倒だなお互いに』と、小さく笑って。
『……さて、俺はそろそろ適当にねぐらを探すよ。そっちは?』
と、歩き出そうとしつつ一応尋ねて。まぁ、予備の付箋数枚きっちり受け取ってからかもしれないが。
■筑波 察 > 「慣れは怖いからねぇ?
いつの間にかそれが当たり前になって、昔を思い出せなくなる。
別にお礼なんて要らないさ。片手間に作った物でお礼をもらっても僕が困る」
何よりもこちらとしてはデータが取れただけでも大きいのだ。
そんな思惑を、彼も知ってて指摘しないのだろうけど。
「身寄りがないってのは障害よりも厄介なように思うけどねぇ?
なにより、僕は半ば望んでこの目になったわけだし」
小さく笑う彼になんともおどけた言葉を返す。
望んで障害を抱えているなんて言えばどこで誰が反感を抱くかわからないが。
「僕は満足したから帰るさ。
お互い大変な者同士、楽しく生きていけるといいねぇ?」
そんな風に言って手を振れば、踵を返してこの場所を去るのだった>
ご案内:「落第街大通り」から筑波 察さんが去りました。
■四凶 > 予備の付箋を数枚頂く。むやみに使わなければ…半年くらいは持つだろうか?
ともあれ、彼の思惑などをうっすらと察しつつもそこは尋ねないのが礼儀みたいなもの。
『…まぁ、そもそも親というモノの感覚がサッパリ分からないからな』
物心付いてから今まで独りだ。人体実験されていた時に回りに人は大勢居たが、今は全員死んでいるし慕う情なんて無い。
ともあれ、彼の言葉に『ああ、良い日を』と短く返してから緩く手を振って見送り。
さて、と一息入れて青年も歩き出す。今夜は何処で寝るとしようか――
ご案内:「落第街大通り」から四凶さんが去りました。