2015/07/20 のログ
ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」に『墓掘り』さんが現れました。
『墓掘り』 > 「――――」

誰もいない舞台を見下ろし。
男は煙草に火を点ける。

「『癲狂聖者』は『癲狂聖者』らしく。
『七色』は『七色』らしく。
『死立て屋』も『鮮色屋』も。
幕引きは順調か」

そう、あと残っているのはもう。
一条と自分を含めごく僅かだ。

『墓掘り』 > 舞台の終わりはいつも虚しい。
誰も彼もが幕を下ろす事を嫌がり、何時までも演劇の狂乱にひたりたがっていた。

だが、それも終わりだ。
演者は去り、舞台はバラしに入った。
あとは適当に幕を引いて終わりだ。

男は持っていた書類に火を点けた。
『後援者』たちの一覧、そして今後の舞台の為に必要であろう各種取引先との書類。
それら全てを火にくべる。
これ以上、迷惑はかけられないだろうし、もう必要無い物だ。

『墓掘り』 > 結局俺は三文役者で。
それでも、この舞台にしがみついていたかった。
気の合う仲間たちと共に、永遠に公演の準備をしていたかった。

「――本当、俺は何にもなれねぇな、団長」

出来た事といえば、結局。
『七色』ほか演者たちの準備の手伝い、それに一条を逃がすための金とクスリ。
その程度だ。
彼は結局、公演の準備のそのまた裏方しか出来なかった。
――だが

「あぁ、でも――楽しかったなぁ」

『墓掘り』 > 楽しかった。
最高に、楽しかった。

舞台は常世島。観客はこの島の全て。
そんな舞台の準備をするのは、最高に楽しかった。

「ありがとうな、一条」

彼は呟く。
彼女を最後まで『脚本家』とは呼ばなかった男。
だってそうだろう――あいつは、あいつだけは。

「演劇仲間、だもんな」

そう、ただ唯一。
あの日見た、団長の演劇を目指した同志。
フェニーチェの中でも、ひとりだけの理解者。

――もっとも、そう思ってるのは『墓掘り』だけかもしれないが。

『墓掘り』 > さて、一条はどうするのか。
あいつも幕を引くのか、それとも『次』を目指すのか。

うん、どちらでもいい。
あいつの事だ、きっと思いもよらぬ『脚本』を書いてくれる事だろう。
――それを、見たい気もするが。

「――そうも、いかないなぁ」

彼は舞台監督。
バラしは彼の責任だ。
――見届けよう。この舞台の幕が下りるのを

ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」にジブリールさんが現れました。
ジブリール > 「―――こんばんは」

【炎の明かりが暗い舞台を照らしている。さながら――否、その実フィナーレを演出するかのようにも思える焔。
 女は彼の人のもとへと歩み寄る。口元に笑みを浮かべて、観客席だった場所から舞台へと歩く。
 カツカツ、コツコツ。白杖を持ち、目に包帯を巻いた女はその姿を声でしか把握できぬというに、感傷に耽る彼の人をしっかりと見据えていた。】

「少々、お時間よろしいでしょうか」

【できるかぎり柔らかく女は口にした。】

『墓掘り』 > 死神にしては随分と可愛らしい少女だ。
さて――

「――当劇場は、現在休演中でしてね。
再演の予定は未定でして」

煙草を咥えたまま呟く。
舞台の淵に座る彼は、みすぼらしく見える事だろう。

ジブリール > 「承知の上です」

【表舞台に立たない彼の人の存在感はとても薄く思えた。けれどそんなことはどうでもいい。
 みすぼらしい彼の姿が見えても、女の対応は変わらない。こんな場所にいるのだから、五十歩百歩。
 天使の名を冠するのに、死神のお迎えとはこれ如何に。】

「劇団の方に、"観客"としてご挨拶を、と思いまして。ファンレターもご用意できませんでしたが、せめて誰かいる内にお話がしとうございました」

『墓掘り』 > 「――そいつはどうも」

観客といわれれば悪い気はしない。
もっとも、彼は舞台監督。
特に人の口の端に上る職業でもなければ、脚光を浴びる役目でもない。
裏方の裏方。居ないも同じの人間。

「とはいっても、もう幕引きの最中でしてね――」

見ての通り、と彼は肩を竦めてみせる

ジブリール > 「再演を望む熱狂的信者ではございませんので。諸事情がおありなら致し方ありません。」

【劇場をぐるっと一瞥し、女は一回転する。きゅ、と靴音が、古びた道に響く。】

「すぐにお暇しますので――どうぞ作業の途中でしたら続けて構いません」

『墓掘り』 > 「――すみませんねぇ」

ふぅ、と溜息ひとつ。
これで書類は全て焼き終わり。
あとは――

「ま、いいか」

クスリが無いのなら、ここを焼く必要もないか。
あとはこのまま――演じる者もなく、朽ちていくのが、この劇場にはお似合いかもしれない。

ジブリール > 【棄てられた建物は朽ちるまで幾つ時がかかるのやら。大小問わず、動物の住処になりそうなもの。
 それはそれで、揺るやかに終わりを迎えるに相応しそうな。】

「――いえ」

【女は作業する様子を楽しげに眺めていた。一つ一つの挙動を観るのも楽しそうに。】

「――舞台役者さんではない裏方とお見受けします。
 それでもこの劇団の一員のお方ですから……」

【お疲れさまでした。女はそんなことを言いたげに口元を引き結んで、ゆるりと背を向ける。】

『墓掘り』 > 「――ありがとな」

ふぅっと煙を吐く。
劇団の一員。あぁ、そうか。
そうだな。

彼は劇団の一員でありたかったのか。
演劇をしたかったのか。
演劇の準備をしたかったのか。

それすらも、分からなかったが。

(――うし。一条、あとはうまくやれよ)

ジブリール > 「――では、多忙のところ失礼しましたわ。
 どこかまた、こことは違う場所でお会いできれば良いですね」

【めぐり合わせは果たしてあるのか、それすらも分かりませんが。
 彼はそれでも劇団に所属する存在。少なくとも見えぬところまで見定める"観客"にはそう思えていた。
 客観的にはそう見えていた。その真がどうなのかまでは、知る由もなし。】

「それではさようなら。お元気で。」

【幕引きの最後まで出しゃばる必要はなかった。裏方にかけるのは労いの言葉だけだった。
 唇を震わせてもう一度。】

「お疲れさまでした」

【女は一礼をして、鑑賞会を終えたよな気分で劇場を去っていった。】

ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」からジブリールさんが去りました。
『墓掘り』 > なんの華もない、ただのバラしではあるが。
それでも、誰か観客が居たのなら。彼も、一瞬舞台へ戻ったのだろう。

「――へへ」

少しだけ嬉しそうに笑い。
『墓掘り』は舞台に寝転がった。

『墓掘り』 > 『墓掘り』はいつの間にか舞台から消えていた。
ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」から『墓掘り』さんが去りました。