2015/08/13 のログ
ご案内:「医院会」にヘルベチカさんが現れました。
ヘルベチカ > 阿鼻叫喚。四文字の内に二つの地獄。八熱地獄の第四、第八。
この場所に熱はなかった。けれど地獄ではある。
居るだけで気の滅入りそうな、処々から聞こえる叫び声。
城に詰まった芥子粒を数えるだけの時間があれば、
樹脂を使って飛ぶのを選ぶような連中の犇く様、哀れに過ぎた。
『外科』、『内科』、『preteenのみ』、『女は入るな』。
パーテーションの表に書き殴られた文字たちの中、猥雑なものも混ざって。

ヘルベチカ > その一角。パーテションで区切られた場所。
それらしい看板などないこの医院会の中において珍しく、
拾ってきた蒲鉾板に書かれた文字、『猿渡』。
その中、シミ汚れはあれど洗われて清潔なシーツに覆われたベッド。
横たわって少年は居た。
傍ら、作業台に向き合い、素手のまま医療器具を持ち上げて眺め、また置いている男。

ヘルベチカ > 『それにしても、わざわざ俺のところに来るなんて、毎度のことだが趣味が悪い』

発された声。バリトンボイス。安い女なら濡れているだろう。
銀一色の撫で付け髪と、整った顔立ち合わせて役満だ。
今夜の宿は、香水の匂いのする柔らかなベッドに決まったようなもの。
その程度には、この落第街と呼ばれる街には似合わない、白衣姿。

ヘルベチカ > 「あんたが一番、医者みたいな見た目してる」

対して見窄らしい少年。ボロボロになった夏制服。
血液は今も溢れ、シーツを濡らす。
其れを見て、男は片眉を軽く上げてから、緩く首を振って。

ヘルベチカ > 『そりゃ、これが商売道具だ。俺にとっちゃな』
「道具が在るだけマシだ。どうせここにいる連中皆、免許なんか無いんだ」

先ほど打たれた注射の中身のお陰だろう。身体は上手く動かないが、
頭は少し回るようになった。
少年は視線だけ、パーテションの向こう側、聞こえてくる悲鳴の出元へ向けて。

『元からないか、剥奪されたかの違いはあるだろうけどな』
「俺らにはわからないさ。三軒隣の治療術師だって、破れた腹を塞ぐのは一緒だけど、
 塞がった皮膚の中、どういうふうに”繋ぎ合わされてるか”なんて、誰も気にしてない」

言うと同時、言及した先と思われる区画から、天井に向けて青白い光が漏れた。
男もそちらへ視線を向けて、肩をすくめた。

『死ぬよりゃましだと思ってる奴しか、こんなところにはこないからな』
「だったら、能力なんて殆ど使わないあんたが、一番マシだ。……治してくれ」

ヘルベチカ > 少年の言葉を聞いて、男は口元に笑みを浮かべる。
手にとっていた鉗子を置いて、マスクを付けた。
そして銀色に輝く二本の器具を、両手に持って。

『やれやれ。あっちのお前に比べたら、随分と素直なもんだ。
 ハハハ。直してやるともさ。こんなヤブの手でよけりゃあな』
「おい。なんでいきなりメスなんだ」
『麻酔が切れてる。歯、食い縛れよ。ほらこれ布。咥えて』
「ふざ、ふざけ、も、ご、       、ギィ―――――――!」

ヘルベチカ > 今日も絶えず、悲鳴が響く。
ここは路地裏医院会。

ご案内:「医院会」からヘルベチカさんが去りました。