2018/06/01 のログ
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にアリスさんが現れました。
■アリス >
私、アリス・アンダーソンは一年生。今年の4月からの、一年生。
今年の初めくらいから常世学園で勉強をしている14歳。
致命的ぼっちの元いじめられっ子。
『おい』
元々本土にいたけど、いじめられてる真っ最中に異能に覚醒。
壮絶な仕返しの果てにめでたく常世行きに。
今はパパとママと学生通りで暮らしている。
『おい、起きろ』
うん、意識がはっきりしてきた。
やっぱり朦朧としている時には、自分のことを思い出すに限る。
『いい加減に起きねぇか!!』
頭上から劈く怒鳴り声に薄く目を開いた。
後ろ手に縛られた手が時折痛む。
私、アリス・アンダーソンは……監禁されている。
■アリス >
「……なに、ここ…」
どうやら、ご丁寧に椅子に縛り付けられているようで。
身動きひとつ取れない。
『目が覚めたかな、アリスちゃん』
下卑た笑いを浮かべた、いかにもな違反学生。
いかにもな二級学生、いかにもな――――不良。
そんなのが、何人かボロいビルの中にいるようで。
「私、下校してバイト先に……?」
意識が唐突に途切れている。
気付いたら、この廃ビルの中だった。
『お前さんは誘拐されちゃったワケ』
『ヘヘ、大丈夫大丈夫。ちゃんと言うこと聞いたらパパとママの待つ家に帰れっから』
何が大丈夫なんだろう。
既に気分は最悪です。
『俺の仲間にさ、眠気をガスにする異能、スリーピー・ホロウっつーのが使えるやつがいてさ』
『そそ、俺がアリスちゃんにガスを食らわせてここに来ていただいたわけ、わかる?』
思い出した。その時、道に携帯を落としたんだっけ。
連絡手段ゼロ。ぼっち下校のバイト直行コースだったけど、目撃者くらいいたんだろうか。
私は誘拐犯たちと視線を合わせないように俯いた。
■アリス >
窓から見える景色は黒一色。つまり夜。
パパとママ、きっと心配してる。
ううん、最近両親に内緒のバイトで遅いから、またあの不良娘はって思われてるのかな。
パパとママが通報してくれてたら、こんな奴ら……
『なんか喋れよ』
そう言われて、ようやく顔を上げて主犯と思われる男の顔を見た。
異能持ちか、魔術師崩れか。どっちにせよ、最悪の事態。
「何が目的? 身代金?」
縛られたまま相手の目的を聞いてみる。
そう言われると、不良学生たちはニタニタ笑いながら喋りだした。
『そんなことしねーって。ただ、アリスちゃんってさー』
『あるんだろ? 異能。それも何でも創り出せるって話のヤツがさ』
『それでさー、金目のもの作って欲しいんだよね。もしくはカネそのものォー?』
彼らはギャハハと笑い始めた。何が可笑しいんだろう。
こういう雰囲気の人間は苦手。
あの時の敵は女子だったけど、いじめられていた頃を思い出す。
異能の噂、知られてたんだ。悔しい。
■アリス >
「異能でお金を作っちゃいけないって研究所の人が……」
その言葉に、顔を歪ませた茶髪な不良は、私の頭を掴んだ。
痛い。力任せに、頭を……
『知るかよ。俺らさ、悪いことしすぎてこの島じゃもう後がないワケ?』
『だからさー、高飛びするお金ちょーだいちょーだいアリスちゃーん?』
頭を掴んだまま左右に力任せに揺らされる。
それだけで痛いし、気分が悪くなった。
『さっさと金目のものを出しますって言えよ、あるんだろ、ジャバウォックとかいう異能!!』
正直、この拘束から抜け出すだけなら簡単だ。
手元に刃を練成すればいい。
ただ、その後に何も繋がらない。
こいつらの異能がわからない今、戦闘になったらどうなるか。
……私が追影さんみたいに強かったら躊躇わなかったのにな。
ようやく手を離されて涙の滲む目で相手を見上げる。
別に泣きたくて泣いているわけじゃない。
いじめられていた頃の記憶が、暴力に耐性のない自分を作り上げているだけで。
■アリス >
『もう痛いことされたくないだろ? だったらちょちょいっと異能、使おうぜ?』
歪んだ笑顔のまま私たちを取り囲んだ男たちは、私に異能を使うことを要求してくる。
私の異能は……こんなことをするためにあるんじゃない…
「わ、私は携帯を道に落としたわ。拾ったら誰かが通報するかも…」
「それに、パパとママも黙ってるわけがない! 風紀に連絡して、私を探しているわ!!」
主犯の不良学生が手を上げた。
私は反射的に目を瞑ってヒッと短く声を漏らした。
『うるせぇーーーーんだよ……』
『ハハ、こいつやっぱ元いじめられっ子って本当だったんだ! すぐビビるぜ!!』
『やめとけって、可哀想だろ? アーリースーちゃんがさー! わはは!!』
羞恥に赤くなる。自分が情けない。
こんな奴らに良い様にされているのも、この状況も、何もかも。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > ――アリスが攫われて間もない頃、道端で彼女の携帯電話を拾い上げるひとりの男があった。
周囲に落とし主らしき人物はない。彼は至極当然のように、携帯電話を風紀委員会へと届け出る。
ヨキと名乗ったその教師は、風紀委員会の建物で引き渡しの書類を記入しているところだ。
もしも彼女の両親が風紀委員会へ娘の捜索を願い出ていたなら、この遺失届ともすぐに結び付くだろう。
「今どきの子が珍しいな。携帯電話を落として気付かないだなんて」
自転車にでも乗っていたのかな、などと暢気に笑った。
■アリス >
携帯が拾われて数時間後。
風紀がアリスの両親からの連絡に動き出した頃。
廃ビルの一室でやり取りは続いていた。
こんな連中のやること。
お金を作ったら口封じに殺されるかも知れない。
絶対に言うことを聞くわけにはいかない。
「わ……私が本気で異能を使ったら…逆襲されるとか考えないの…?」
話を引き伸ばすにしても、相手を逆上させるかな?とちょっと失敗気味の発言だった。
それでも男達は大して意に介することもなく笑いながら言った。
『俺ら強いし? 良いんだよ、抵抗しても…その代わりちょっと痛い目見てもらうことになるかな』
『そうそう、アリスちゃんをいじめたくなんかないからさ』
『チッ、ここは蒸し暑いな……オラ早くしろよ、金だよ金!!』
不良の一人が語気を荒げた。
■ヨキ > カウンター越しに風紀委員と談笑を交わしていたヨキの顔が凍るのは、それから間もなくしてのことだ。
連絡の付かない女子が居る、という話。
脳裏を推測が駆け巡ったのは一瞬のこと。
捜索に動き出す風紀員たちに、あとはよろしく頼む、と伝え――そのまま帰るように見えて、男は単独で動き出す。
土地勘だけなら、こちらも風紀委員にも負けてはいない。
使われていない建物。人目を避けるのに絶好の場所。ならず者の根城……。
培った知識と情報を頼りに、夜の落第街を駆ける。
やがてアリスの居場所を知らしめたのは、犯人の一人が上げた怒声だった。
コンクリートに反響したその声が、夜気を辿って研ぎ澄ませた耳に届く。
密集するビルの隙間を飛び移り、屋上から続く階段を跳ぶように駆け降りる。
廊下に高く響くヒールの音は、アリスや不良たちの耳にも届くことだろう。
「――おい!誰か居るのか?返事をしろ!」
■アリス >
誰かが廃ビルに来た。
その誰かの声が響いた時、風紀だと誰もが思った。
その場にいる誰より行動が早かったのは、私だった。
「ここよーー!! ここに私はいるわー!!」
そう叫んだ瞬間、主犯が私を殴った。
椅子ごと横に倒れながらも、私は笑っていたんだと思う。
口の端から血を流しながら、倒れこむ。
『このガキィ!!』
『追っ手を始末して……場所変えるぞ!!』
『俺らなら風紀の一人や二人くらい!!』
その時になって思った。
この声の主が、風紀でも何でもなかったら私の負けね、と。
■ヨキ > 響き渡る少女の声に、廊下を駆ける足が早まる。
倒れた椅子の音を手掛かりに、目指す一室へ滑るように駆け込んだ。
やってきたのは、長身だが荒事には無縁そうに見える、ごく軽装の男がたった一人。
見るからに風紀委員でも何でもない。
転倒したアリスと不良たちとを素早く見定めた瞬間、笑う口の端が怒りに震えるのが見えた。
「……風紀の一人や二人が、何だって?」
徐に腰を落とし、低く構える。
それまでの軽薄そうな雰囲気から一転して、芯の通った身体が戦闘の態勢を取った。
「そこの君。今助ける」
不良たちを見据えたままアリスへ向ける声は、その一言きり。
■アリス >
来たのは、軽装の男性。
それを見て、不良たちが顔を見合わせた。
『ンだてめぇ、見世物じゃねーぞ』
戦闘の態勢を取る男性に、不良たちも構える。
『やる気か!!』
不良たちは気付いていない。けれど、私はその人を見たことがある。
確か、美術の……
『眠気をガスにする異能ッ! スリーピー・ホロウ!!』
一人の不良が掌からガスを放出した。
自分の口元も押さえている辺り、指向性は持たせられても敵味方の区別はつかない異能。
私もあれにやられた。
異能を叫ぶ。それは昔から基本となる異能の作法。
――――異能認知学。
大勢に自分の異能の名前を教えることで、異能の出力が上がると信じられている。
不可思議が思議に変わる時、異能もまた現実に存在を始めるという学問の一種。
■ヨキ > 怒気に張り詰めたヨキの眼差しに、昂った魔力の小さな光がぱちりと瞬く。
流派や体系とは程遠い、無法の構え方。
迎え撃つ姿勢で、相手方の初手を窺う。
向かってくるなら、誰から殴り合っても構わなかった。が――
「……――!!」
異能の名が叫ばれた瞬間、真っ先に叩くべき標的を決めた。
鋭く息を吸い込み、呼吸を止める。動けるのは恐らく一瞬。
ヒールが床を蹴った瞬間、足を勢いづかせた魔力が渇いた破裂音を立てた。
他の面子には目もくれず、迷わずガス使いとの間合いを詰める。
その懐へ飛び込み、異能を放出する掌を掻い潜るように左の拳を放つ。
■アリス >
意外。乱入者の解法は息を止めて突っ切る。
『な、バ、』
声を短く上げて鉄拳がガスを放出していた不良を吹き飛ばした。
地面をバウンドして、呻く。
呼吸が難しいほどの激痛に苛まれていることだろう。
残りは三人。
『ふざけんな!! 囲んで畳め!!』
主犯の一声に、ガスが消えるのを見計らって不良たちが異能を発動させる。
『飛んで……蹴る!! クラッシュ・ダイブ!!』
『全身を硬化させる異能!! アイアン・フィスト!!』
一人が跳躍した瞬間、脚が薄く輝く。
恐らく跳んでいる間に格闘威力を増加させるなどの限定条件がついた近接異能。
もう一人は恐らく防御面を高める異能。ううん。
硬化させるのが拳でもあるならば……攻撃面も。
二人同時に、予期せぬ乱入者に向けて襲い掛かる。
一人は空中から蹴りを、一人は姿勢も低くボディ狙いのブロー。
■ヨキ > 勢いづくあまり半ば転げるところを、受け身を取って素早く身を起こす。
口を抑えた右手を、残りの仲間たちが口を開くのに併せて放した。
「――ぶはッ!……はあッ、大丈夫そうだな。死ぬかと思った」
肩で大きく息をして呼吸を整え、外した眼鏡を背中の鞄に突っ込む。
裸眼でも顔立ちが変わらないところを見るに、伊達眼鏡なんだろう。
同時に放たれる異能に、こちらからも次の一手。
空中からの蹴りを間一髪で避けたように見えて、頬を掠められた顔が反動に揺れる。
「……ッてえ!」
生身とは異なる足の重みに、擦れた皮膚にじわりと血が滲む。
間髪入れずに向かってくるボディブローを、咄嗟に身を引きつつも真正面から受け止める。
「『アイアン』なら――これは効くかなッ?」
今度は右の拳を引き、低い位置にある二人目の顔面目掛けて横殴りを仕掛ける。
硬く握られた右手は、スタンガンのように迸る魔力の紫電を纏っていた。
ヨキの魔力そのものは、外敵には一切影響しない。
文字どおりの鉄か、はたまた生身の硬質か。通電させてみればあるいは――という心算だった。
■アリス >
『!!』
一撃必倒の蹴りがかわされ、重く鋭い硬化した拳が受け止められる。
構えといい、先ほどの仲間を一撃で倒した拳といい、素人ではないのはわかっていた。
しかし。
しかし…
紫電を纏う拳をまともに顔に受ける不良。
その勢いは完全に殺されていた。ノーダメージ。普通の殴打であれば。
紫電に全身を痺れさせ、硬直させた舌を棒のように突き出して硬化不良は倒れた。
『テメ、死ねぇ!!』
クラッシュ・ダイブの不良がこちらにすぐに身を翻し、ローリングソバットを乱入者の頭に向けて繰り出す。
その隙を見計らい、私を人質に取ろうとこっちへ駆け寄ってきた主犯。
私は直後に自分を縛っていた縄を材料に錬成した拳銃を向ける。
「下がりなさい」
『アリス・アンダーソン……てめぇ…!!』
血を流しながら、主犯とにらみ合う。
■ヨキ > 躱した蹴りの余韻が遅れて脳裏を揺らす。
どうやら思った以上に頭に血が上っているらしい。
硬化した皮膚をしこたま殴った右手を衝撃に痺れさせ、再び顔を顰めた。
倒れ込んだ相手から目を離し、蹴撃使いと相対する。
見開いた目が放たれた蹴りを視認するも、一発目よりも近い距離で真っ向から加速されては敵わない。
両腕を顔の前に翳して受け止め、後方に勢いよく転倒する。
「が、……ッ!」
吹き飛ばされて間合いを稼ぎ、次に備えて身を起こす。
それと同時、主犯と向かい合ったアリスの姿が目に入る。
錬成されたばかりの真新しい拳銃に、思わず目を瞠った。
「……君、何を!」
■アリス >
「助けてくれるんでしょう?」
体を起こして、ジリジリと主犯との距離を測る。
「だったら……お願いね」
アリスの拳銃を前に主犯は異能を繰り出す機会を探っている。
蹴撃の不良は転倒したヨキに向けて追撃の跳躍を行なう。
『キエエエエェ!! クラッシュ・ダイブ!!』
叫びながら踏みつけるような、カカトからの蹴りを放つ。
その脚の輝きはどんどん強くなっている。
戦闘のテンションで能力が変わるタイプだろうか。