2018/06/17 のログ
ご案内:「密輸組織の展覧会」にアリステアさんが現れました。
アリステア > これは……怖い人のマーケットなんでしょうか。
ボーっと周りを見渡しながら現実逃避気味に私は考えていました。
この辺りに居る異能者のヒトはどちらかというと人身売買に近い感じで……
大体が身寄りがなくて契約じゃなくて”買われて”行く人達ばっかりです。
結構な需要があるみたいで、兵器部門の辺りと同じくらいのヒトがいる感じがします。
そんな絶対に近づかない方がいい一角に私は今いるわけです。
勿論武器を買うつもりはありませんし、誰か異能を持っている人を雇おうと思ったわけでもありません。

「6番に200万!」

「220万」

「220、220以上の方はいらっしゃいませんか?」

あ、先に舞台に出されたヒト達がだいぶ売られて行きました。
割りと容姿が整っている人が多かったので恐らくそういう感じなのでしょう。
そして……

「おい、ぼーっとしてんな。
 さっさと歩け」

後ろから棒で小突かれて私は舞台の上へと追い出されました。
はぃそうです、今私は商品側に立っています。

アリステア > ジャラジャラとなる足の鎖と手枷に引きずられるように舞台に上がった私は
此方を眺めているヒト達から目をそらし、足元へと視線を落としました。
きっと私は今、一緒に並んでいるほかのヒトと同じくらい死んだような瞳をしているでしょう。
正直に言うと初めての経験でもありませんし、最早驚きもしませんが……
この島でもやはりこういう事はあるんだなぁとぼんやりと考えます。
とりあえず目を合わさない、目立たない。
運がよければだれも私には気が付かな……

「今回の商品は特別に容姿に華があるものを選出しております。
 皆様どうぞ近くに寄ってご検討ください。
 少々値がはりますがいずれも有益な異能保持者です」

あ、ちょっと待ってくださいそんな近くに寄られたら……

「……あれは例の羊か?」
「いやまさか。連邦捜査局に保護されたと聞いたが」
「しかし、此処は異能者の最先端だ。納得できる立地ではある」
「異能欄は空欄?っち、無能出品者め。だが、もし本人なら……」
「ああ、想わぬ掘り出し物かもしれん。9番に1200!」

あわわわわわ、いきなり注目されてますよぅ……

アリステア > ああもう、こうなってしまえば私にできる事なんて何もありません。
嵐が過ぎ去るのをただただ小さくなって待っているだけです。
……今度のご主人様は優しい人だと良いな。
そんな幸運。私には望むべくもないですけれど。

「4番に1000!」
「5番に2500!」

やっぱり今回はかなり高めになってるみたいですね値段……。
狂ったように値段を叫んでいる人たちから目を背け、
耳に入る音をすべて聞き流して目を瞑ります。
どうやら会場にはジャミング装置か何かがあるようです。
それともまた”不運”にも機械壊れちゃってるかもしれません。
黒服さん達顔を青くしてるだろうなぁ……
こんな日は決まって悲しい程良い天気で、なんだかお日様が嫌いになりそうです。
ああ、もともとあんまり好きじゃなかったでしたっけ。

アリステア > どうすればこの状況をよくできるでしょうか。
一瞬全員巻き込んでしまえばと頭によぎりますがそれはダメ。
きっとまともに機能しませんし、機能したらしたで大惨事でしょう。
怪我人だって出る可能性が高いですし……まぁきっと一番痛い思いをするのは私なんですけれど。
それに大人しくしていればもしかしたら黒服のヒトが回収しに来てくれるかもしれません。

「おい、こういうタイプにはGPSを仕込むのが常套手段だがその辺はちゃんと対策されているのか」
「ええ、あらかじめ電磁系能力者に精査させて破壊してありますのでご安心ください」
「ん、処置されていたのか。誰かの所有物ではないのか」
「手元から話す間抜けに配慮が必要ですか?」
「それもそうだな。3200」

ああ抜け目ない……
そもそもどうしてこうなったんでしたっけ。
覚えている限りでは2日ほどたっていますが……。

アリステア >   
思い返せば夜のお散歩に出かけた事が発端でした。
確か良い月の夜で、ふらふらと歩いていたら
最早オヤクソクとなった迷子になってしまって……

「おい、何で外に出てんだ。どうやって出た」
「え、ちょ、ヒト違いデス」
「うるせぇ逃げ出しやがって」

そこからはずっとコンテナの中です。
対異能者用のお薬が食事の中に仕込んであったのでしょう。
殆どの時間を眠って過ごしていたような気がします。
お陰でどれくらい時間がたったのか感覚はあんまりありません。
もしかしたら思ってる以上に時間がたってるかも。

アリステア >   
「はい、ありがとうございます」

商人さんのその声ではっと我に返ります。
どうやら私の”ご主人様”が決まったようです。
此方を嫌な目で先ほどから眺めていた男のヒトが私の新しい”ご主人様”なのでしょう。
そのヒトは”商品”を眺める他のヒト達と同じように歪んだ笑みを浮かべています。
それは期待と欲と、嗜虐心を隠し切れない愉悦の表情。
他の子同様私はまた無事では済まなそうです。
注がれる視線も、その意味も、これから起きる事も……
私はよく知っているのです。
せめて私の事を知らない相手であってほしいです。
そうすれば最初から死ぬような目には合わないでしょうから。
それも時間の問題ですけれど。

「……」

うなだれたまま、手枷に繋がる鎖を引かれ、舞台の下へと降りていきます。
明日から、また辛い日々が続きそうです。
ここ数か月、平和だったことがまるで夢のよう。
いえ、元々私には”幸せ”なんて似合わないのでしょう。

『……空綺麗だなぁ』

故郷の言葉で呟くと鎖を引いていた商人さんは一瞬立ち止まり此方に振り返りましたが
空耳だと思ったのでしょうか。すぐにまた歩き出しました。
此方では可聴範囲ギリギリの音になるみたいですし仕方がないかもしれません。

……今日はこんなにも良い天気です。
日差しが刺さるようで、お前の気持なんか知らないよと言わんばかりに
悲しくなるほど余所余所しい晴れた空。

黒服さん達ごめんなさい。
――私はやっぱり、玩具が似合っているようです。

ご案内:「密輸組織の展覧会」からアリステアさんが去りました。