2015/07/23 のログ
ご案内:「路地裏」にメアさんが現れました。
メア > 【コツコツと足音を立てて少女が一人路地裏を進んでいる】

.....

【慣れた足取りで路地裏の少し開けた場所...3日前、能力者同士の争いが起きた場所に辿り着く】

メア > ......

【辺りには所々に血痕が飛び散り血の香りが残っている】

あ....

【辺りを探しながら隅に置かれているポリバケツなどを退けていく】

メア > 【物を退けていくとスーツの上半身が地面に落ちている
黒地に所々紅が滲んだスーツ、それを拾い上げじっと眺める】

......

【スーツを床に広げ中に入っていものを取り出していく
財布に...携帯。後は小さいナイフが入っていた】

たくさん....

メア > 【物取りのように取り出した携帯を自身のポケットにしまい財布の中を見る
多少の金銭も入っていたがそれには興味がないのか目を向けず、名刺やカードを取り出していく。】

......

【あの時咄嗟に一人のスーツをここに隠しておいたが当たりだった。
これで色々洗うことが出来る...用の無くなったスーツを適当に済においておき、財布を新たにポケットにしまいもときた道を歩き出す】

ご案内:「路地裏」からメアさんが去りました。
ご案内:「路地裏」に奇神萱さんが現れました。
奇神萱 > とにかく蒸し暑い一日だった。
常世島に立ち込めた湿気から逃れる術はなく、日中には大勢の生徒が倒れたらしい。
ヴァイオリンケースを担いで、日陰から日陰をたどって歩いた。
こんな日にわざわざ街角に出て、しかも音楽を聴いていこうという酔狂な客はなかなかいない様だった。

こんな日は早く切り上げるに限る。暑い季節は陽が落ちてからが本番だ。
人のいない場所をみつけて、ひたすら練習に明け暮れるのも悪くない様に思えた。

奇神萱 > その足音に気付いたのはいつのことだっただろう。
散漫な人出の、雑然と入り混じった靴音のなかにぴたりと歩調を合わせてくる存在がいた。
風紀か、公安か。それともマンハントを生業とする輩か。物取りの類ではない。
嫌なものに目をつけられた感覚だけがあった。

「…………ん……」

そいつは俺だけが気付くことを知っていて、存在を誇示しているのだ。
振り返ってたしかめる気にもなれない。

歩調を速め、頽廃の迷宮にして悪徳の自由区たる落第街の深奥へと足を向けた。

奇神萱 > 聞こえる。

聞こえない。

―――聞こえる。

こいつの耳でも感じ取れるぎりぎりの距離を尾けられている。
こちらが焦れるのを待っているんだろうか。一度も振り向かず、意固地になって突き進む。
この辺りはまだ知ってる場所だ。目を瞑っても歩ける自信があった。

いつまでも付きあってやる理由もない。潮時だろう。
人一人がやっと通れるほどの隘路へと曲がって、わき目も振らずに駆け出した。
木賃宿の通用口から裏口へと抜けて、モグリ酒場が客を逃がすための秘密の出口を駆け抜ける。

「―――はぁっ……はぁっ!!」

ケースの重量が非力な腕をぎしぎしと苛む。これでも命より大事な仕事道具だ。
好奇の目。濁りきって瞳孔の開いた瞳。酒に侵された臓腑から吐き出される吐息。
好色を取り繕おうともしない視線。意味を成さない嘲りの声。すべて無視して突き進んだ。

奇神萱 > 疲労は澱のように溜まるばかり。

「…っ………はぁ…は、はっ……ぁ……!」

膝に手をついて、崩れかけたモルタルの壁に肩をあずける。
不摂生のつけを俺が払わされた形だ。悪態のひとつもつきたい気分だった。

追跡者の足音は消えていた。だが、じっとしてもいられない。
息切れを起こす身体に鞭打って歩き出した矢先、真後ろから声がかかった。

『――――何だ、もう終わりか?』

ぞくり、と冷たい戦慄が走る。
意識の中へといともたやすく滑り込んだその声を、俺はよく知っていた。

他人の空似なんてあり得ない。

二度と聞くはずのない声だった。

奇神萱 > 逡巡。

振り返ってはいけない。

追いつかれた。

そいつはすぐ真後ろにいる。

どこに行く? どうやって? 逃げ切れるあてはあるのか?
強烈な嫌悪感に吐き気がこみ上げて、そのまま餌付いてしまいそうになる。

『ハッ、そうだよな。今更逃げようだなんて虫が良すぎる話だ』

やめろ。嘘だと言ってくれ。あり得ないことだ。そんなことは。悪い夢だ。
包帯だらけの手が伸びて、肩越しに襟首を捕まれた。
息が詰まって、襟元のボタンが千切れ飛んで、それからまともに見せつけられた。

そいつの髪は、燃えるようなバーガンディとワインレッドを混ぜたような紅蓮一色。
目鼻立ちは包帯に覆われていてよくわからないが、青い炎のような眼が炯々と輝いていた。

『目ェ逸らしてんじゃねえよ。おいクソ女、黙ってねーで何とか言ったらどうだ?』
『わざわざ帰ってきてやったんだぜ。―――『伴奏者』サマのお帰りだ!!』

―――哄笑が脳髄を揺さぶる。そいつは奇神萱に殺されたはずの男。
背格好も手の大きさもそっくり同じ。おどけた時の口ぶりまで似通ってるなんてもんじゃない。
ゴシックホラーの亡霊みたく薄汚れた包帯にまみれて、もう一人の俺が嗤っていた。

ご案内:「路地裏」にアーヴィングさんが現れました。
奇神萱 > 驚愕に目を見開いた。言葉が出なかった。悪い冗談にしか思えない。過去の亡霊が蘇ったって?
ただの妄想だったらどんなに良かったことか。こんな直接的な形で来られてたまるかよ。

『――――ああ? そうかよ声も出ねえか! くく、あっはっはっはっはっはっは!! だよなァ?』
『お前は俺の全てを奪いやがった。いいか、何もかもだ!』

聞き慣れた声が裏返って、鼓膜が痛みを覚えるような勢いで怒鳴りつけられる。
俺は俺だ。二人はいない。一人もいない。故人だからな。自分の墓に花を供えてやったこともある。
その『伴奏者』が帰ってきたって? こいつは何を言っているんだ。不条理で理不尽な戸惑いだけが広がっていく。

「――――よせ。誰だ。お前は誰だ―――?」

動揺が隠せない。沸き返る感情を押し殺して問いかけた声は無様にかすれていた。
身体が宙を舞って、廃工場の煤けた煉瓦塀に頭から突っ込んだ。鈍痛があって視界に極彩色の星が瞬く。
―――かろうじて。そうだ、かろうじてヴァイオリンケースを守ることができたのは不幸中の幸いだったか。

ご案内:「路地裏」にアンヘルさんが現れました。
アンヘル >  じゃら、じゃら、じゃら。
 まるで蛇めいた金属音。執拗に迫る狩猟者の影。
奇神萱の意識の最中に割りこむように、耳障りな音が響く。
 この瞬間を待っていたのか。それともたまたま偶然か。
廃工場の中に微かに煌めく黒。
――少なくともここが"彼"の狩場の一つであることは間違いない。
「あー、アーァァアアー……」
 狂乱めいた胡乱な唸り。
それはかつてトラットリオで響き渡った男の声。
誰かれ構わず破壊を振りまいた男の声。
「オイ、オイオイオイ」
 じゃらり、と。一際大きく結ぶ音。
「ごきげんじゃねえか。ラリってやがんのか? ええおい?」
 廃工場の廃材を蹴り飛ばして現れた乱入者。
頭を掻きむしり、怒りのままに現れる。
「遊ぼうぜ。誰も彼も関係ねえ。なあ、そうだろ」

ご案内:「路地裏」からアーヴィングさんが去りました。
奇神萱 > 頭がずきずきと痛んで、むせ返るような血の匂いがした。
生温かくどろりとしたものが滴って、視界の端にどす黒い水溜りが広がっていく。

『伴奏者』を名乗る包帯男がケースに手をかける。
盛り上がってるところすまないが、こいつを呉れてやるわけにはいかない。
親父が遺した数少ない形見だから? まさかな。
―――かけがえのない戦友。無二の相棒。『伴奏者』の仕事道具だからだ。

『離せよクソ女。ええおい、こいつは俺のもんだろうが!!』

腹に蹴りが入って内臓が悲鳴をあげる。腕に靴底が撃ち下ろされる。

「――――ぐ……ぁ…!」

ケースに爪を立てて、その手の甲が執拗に踏みにじられた。
そうかよ。確信した。お前は俺じゃない。どこかのクソ野郎が成りすましてる贋物だ。

耳が遠くなって、聴覚に水中にいるみたいな負荷がかかる。三人目の声が聞こえる。
―――それだけで誰かわかった。アンヘル。目が眩みそうなほどの激昂に一瞬意識が飛んで、ケースを奪われた。

『そうかよ。聞いたかクソ女、遊んでくれるとさ!! ほら持ってけよ。どこのどいつだか知らねえが呉れてやらぁ』

アンヘル > 「あー、ぁああー? あぁあ?」
 状況を理解した。誰だか知らないが"獲物"に手を出す奴がいる。
まだ邪魔が入るのか。いや。違う。
「持ってけだァ?」
 誰に物を言っているのか。――轟音。怒りの再現。
暴虐。苛立ちのあまり放たれた蹴りは鉄骨を吹き飛ばした。
なあおい。テメエよお。その手に持ってるのはなんだ?」
 "伴奏者"の持つヴァイオリンケースを睨みつけるようにして言い放つ。
「オレぁそれを聞きに来たんだよ。分かるか、ええおい部外者。
オレはよぉ、こんなクソ暗いクソ寒いクソ熱いクソみてえなところによォー、そいつとそれを探しに来たんだよ」
 じゃらじゃら。じゃらじゃらじゃら。
やかましく響く鎖の金属音。
まるで蛇のように執拗な、耳に絡みつくような耳障りな音。
「演目はなんだっけかァ。あれが気に入ったんだよなァー……」
 ぶち殺す。そう宣言してからも。
なんだかんだとあの演目たちは、思ったより"面白かった"。

奇神萱 > 『ギャハハハハ、何だよおいリクエストか? いいぜ。聴かせてやるよ』

ケースが解放されて、グァルネリウスが『伴奏者』の肩に収まる。
正気でいられなくなりそうな光景だ。視界が歪んで、白く、赤黒くぼやけていく。

『ジュゼッペ・タルティーニのヴァイオリンソナタ。古代レバントの伝説に題材をとった曲だ』
『男に捨てられたバカ女が狂って死んだ。それだけの歌だ!!』

―――『捨てられたディド』。第1楽章はAffettuoso.
愛らしくも儚く、英雄を想う女王の恋慕の情を歌い上げる哀切きわまる曲だ。


紅蓮の包帯男が奏でる旋律は―――昔の俺とあまりにも似ていて。落ちていく。めまいの中へと。

アンヘル >  包帯男の奏でる音。きっとそれはあまりにも素晴らしい音なのだろう。
心を掻きむしるような、痛切極まる曲なのだろう。
 だが。目の前の狂人はその音を食い破るように足音を鳴らす。
 ガン、ガン、ガン。
 やかましく鳴らされる金属音。それは男の怒りの顕れ。
機械式の大型ブーツがやかましく廃工場の床を歪ませる。
「聞こえなかったのかよあぁ!?
テメエはあれか? ベースボースチップスはカードだけ取って捨てるタイプか!?
恵まれない子供たちのために食べ物を捨てるのはやめなさいって叱られなかったクチかァ!?」
 デタラメな論理を吹き出しながら男へ迫る。迫る。
狂気めいた、怒りに満ちた双眸のまま、歩む。
既にブーツに火は灯っている。臨戦態勢。当然だ。
そこでくたばっている女を叩き殺すために男は来た。
「"オマケ"と"チップ"はセットだろーがァ!
わかるか、わかんねえよなあ! わかったんならそいつをとっとと捨てて帰りやがれ! 捨てねえなら……」
 ガン。
 一際大きくたたきつけられたブーツが、硬い床を踏み砕く。
狂気に満ちたその声は、あの時に似た宣戦布告。
「――ぶち殺すぜ、おい」

奇神萱 > 『ああそうかい! 何言ってんだお前。悪ィがわけわかんねえ! やってみろよ!!』

奇神萱が奏でている時よりずっと小さく見えるヴァイオリンを『伴奏者』がかき鳴らす。
狂人の理屈を喚いて暴れる男をせせら笑って、三連符が散りばめられた第1楽章を通り過ぎていく。

第2楽章はPresto non troppo. 指示の意味は「急速にしかしやりすぎないで」。
通説を信じるならば、炎にまかれて燃え盛る王宮を描いた急速楽章だ。せわしく煽情的な上昇音階が叩きこまれる。

異界の魑魅魍魎に愛された男。『伴奏者』ならばどんな奇跡を生み出しただろう。

―――例えば、逸話のとおりに特大の火柱をあげて、三千世界を紅蓮に包んだだろうか。

『伴奏者』を名乗る男にとっては造作もないこと。廃工場に火柱が立って、獣のような男に炎の波が押し寄せる。

アンヘル >  せり上がるような曲調。吹き上がる爆発。
それはアンヘルの激情に同調するようにも見える。
「テメエはよォ! あァ!? 一度聞いたことも覚えられねえ低能かァ!?」 
 猛禽の瞳。サメのように歯を見せるアンヘルが、じゃらり、と音を立てて掻き消えた。
 "伴奏者"の左右から挟むように迫る金属音。
それはアンヘルの最初の一手。
掻き消えた姿。その姿を耳で捉えようとするなら陥穽にハマる一手。
 左右からは"次の一手"の布石のチェーン。
それに気を取られた相手を刈り取るべく、アンヘルは音もなく宙を疾駆する。
 やかましく音を立てていたそれが、何の気配もなく消えるのだ。
 爆発的脚力、独特の歩法から生まれた"無音の疾駆"は、超重量のブーツで伴奏者の首を狙う。