2015/12/14 のログ
奥野晴明 銀貨 > 「そう、じゃあ先生、僕のことを頼ってください。
 頼ってくださることが僕にとってのご褒美、だってあなたと一緒にいられるから」

それだけですよというようにほのかに微笑む。

「聞かなくてもわかるでしょう。好きじゃないですよ。
 でも信仰がないと生きていけない人もいるから
 人間が発明したものの中ではかなり良いものなんじゃないですか。
 僕には必要ないですけれど、迷える人々には指針が必要ですから」

信仰が必要なはずの魔法をその信仰心さえ欺いて扱うのは
なかなかに不敬ではあるが、神の概念は2000年以上前に起こったメジャーな神秘と信仰である。
魔法も神秘ならば相性が良いわけで自然とそれは使いやすいからそういうものだというものだ。

蓋盛に手を取られると少し首を傾げるが振り払うことはしない。
さらりとミルクティ色の髪が揺れ、じっと蓋盛のすることを見ている。
白魚のような華奢な指は肉付きが薄い。だが男のようなしっかりとした骨も、女のような柔らかく丸みもある手ではない。
どっちつかずな未成熟な手である。石膏像のような冷たさと白さの手。

「先生の手、気持ちいいですね」

もっと触ってほしそうにそう呟いた。

蓋盛 椎月 > 「だよな~気が合うな~。
 あたしも、信仰ってシステム自体は結構評価している」

呑気な口調。

ずっと子供のままの未成熟な手を慈しむようにして指でなぞる。
無表情のまま、取った手を顔の近くまで運ぶ。
すんすんと匂いを嗅ごうとするように鼻を鳴らし……
舌先で掌の中央をちろりと舐める。
そうして、手を離す。

一連の所作を無言で済ませて、
恋人がするように腕を絡め、落第街を抜けるべく
先導して歩み始めた。

「……ごめんね、銀貨。
 ごめんね」

何度か唇を開き、閉じ、やっと漏れたのは小さなつぶやき。

奥野晴明 銀貨 > 動物のような蓋盛の仕草に本当に気が合うなぁと心の中で思う。
確かヨキに対してもいつか似たようなことをした気がする。
きっと相手を確かめたくなると、動物のようなまねごとをするほかなくなるのかもしれない。

ぺろりと舐められた掌のくすぐったさに思わず、んぅと声を漏らす。

「先生のえっち」

咎めるどころかどこか嬉しそうに言って、蓋盛に腕を取られる。
そのままぴったりと体を寄せて歩き始めた。

蓋盛の謝罪の言葉に緩く首を振る。

「いいんですよ、僕椎月先生のこと好きだから
 謝らないでください」

ね、と言いながら相手の手を強く握る。
ついでにさっき彼女がしてくれたようによしよしとその頭を撫でてやった。

蓋盛 椎月 > 「…………今更だな」

時間の止まったかのような銀貨の身体を目のあたりにする度に、
この子供を完全に救えてはいないと咎められたように思ってしまう。
銀貨とは反則じみた異能を持つ蓋盛にとっての無力の象徴だった。
それがどれだけ傲慢な考えかは自分でわかっているために、
口に出すことはけっしてしないけれど。

「……他に言葉が見つからなかったんだ」

控えめに言って可愛げのない子供である銀貨の、
こうして可愛らしく振る舞うさまを見ることができるのは自分だけだと気づくと、
かつての遊びでは経験できなかった不可思議な喜びが蓋盛の中に満ちた。

彼が撫でやすいように、少しだけ首を引っ込める。
火の消えたような表情で、視線を彼方へとやったが
腕や手に伝わる感触があまりに確かだったために、
それをより強く求めようと、蓋盛も握り返し、身を寄せ返す。
今日は寒いからな、といらない言い訳を心の中でして。

「……、わたしも……、」

その先を言葉にしないまま、二人は落第街を後にするだろう。

ご案内:「路地裏」から蓋盛 椎月さんが去りました。
ご案内:「路地裏」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。