2016/07/26 のログ
ご案内:「路地裏」に加賀智 成臣さんが現れました。
■加賀智 成臣 > 夜も更け、静まり返った路地裏。
「………あー、いて……」
むくりと、人影が路地裏のゴミ箱の中から起き上がる。
学生服は血まみれで、黒い生地の上で乾いた血糊にゴミが貼り付いている。
そんなスプラッタで斬新なファッションにも関わらず、男の体には傷の1つもない。
「……クソ共が、どうせやるなら殺せよな……」
ボソリと呟いて、服のゴミを払う。
■加賀智 成臣 > 「……………。」
地面に落ちた、ガマ口の財布を拾い上げて中身を確認する。
空だ。中に入っているのは、タバコの火に顔を焦がされた学生証のみ。
その学生証には、【加賀智 成臣】と書かれている。
「…はぁ。まぁいいや…どうせ変わんないし……
げっほ、ごほ……あー、死にたい……」
軽く喉から血と疸を吐き出し、路地裏に吐き捨てた。
ご案内:「路地裏」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。
■奥野晴明 銀貨 > 「どうして死にたいんですか?」
加賀智の背後から細く澄んだ声がそう問いかけた。
振り向くなら、路地裏にぽつんと年若い少年らしい人影が立っている。
どこにでもあるファストファッションに身を包み、安い野球帽の下からいやに整った顔立ちが覗く。無表情で純粋にどうしてなのかを聞きたがるような顔。
「ひどい格好ですよ、お兄さん」
一歩相手に近づくと、その衣服についたゴミを払おうと手を伸ばす。
■加賀智 成臣 > 「………。誰ですかね?見世物じゃないんですけど。」
背後からの声に、じっとりとした目線を向けながら振り返る。
ガリガリと頭を掻けば、髪に付いたまま乾いた血糊が地面にボロボロと落ちた。
「何で死にたいか、ですって?
そんなもん初対面の人間に聞くことじゃないでしょうよ。…へっ。」
死んだ魚のような生気のない目と声が、路地裏の静かな空気を震わせる。
手を伸ばされれば抵抗もせず、しかし興味も持たずに別の場所を手で払う。
■奥野晴明 銀貨 > ぱんぱんと軽く手のひらで黒地の布を叩いて汚れを落とす。
だいたいの部分を払い終えるとこれでよしというふうに頷いた。
「それもそうでしたね。
でも、今さっきお兄さんが死にたいと仰ったので気になって」
言われればそうだなぁというように納得した顔で、理由を述べる。
腰に下げていた水のペットボトルを開き、持っていたハンカチを濡らして相手に差し出す。
顔にも血糊が付いているか、ゴミでよごれたか。
拭ってというように前につきだした。
「銀貨、っていいます。ごめんなさい、見世物として見てたわけじゃないんですけど」
悪びれる様子もなく淡々と名乗った。
■加賀智 成臣 > 「………。どーも。」
差し出されたハンカチを受け取り、顔を拭き始める。
乾いた血がぽろぽろと落ちるが、不思議な事にその体には一切の傷がない。
しかし、相手を返り討ちにしたという感じでもないし、それが出来そうなほど強くも見えない。
「銀貨さんね、まあ随分羽振りの良さそうな名前だこと。
僕は加賀智。……加賀智 ……………成臣です。」
名前がやたらと小声になった。
自分の名前が大嫌いであることから来る劣等感である。
「で、何で死にたいかって?あー、んー。
何で生きてるかわからなくなったからじゃないですかね?ハハ。」
どこか他人事のようにそう呟いて、肩をすくめた。
■奥野晴明 銀貨 > 相手の肌に一切の傷がないことには気づくがそれを指摘することもない。
ただ口元に指を持って行ってふむ、と頷いた。
「ご丁寧にどうも、加賀智さん。下のお名前、好きじゃないんですか」
相手の言葉尻が弱くなったことからそういうふうに推測する。
力なく空疎に笑い、肩をすくめる相手をなんとなし眺めながら
「なるほど、生きる理由がわからないから死にたいんですね。
例えばですけど、今みたいに死んだほうがマシだと思うような苦痛を受けても
死ねないことも関係ありますか?」
相手の目を覗き込んで尋ねてみる。
■加賀智 成臣 > 顔を拭くのに一段落ついて、ハンカチを離す。
ハンカチの表面がすっかり赤黒くなっていた。
「ええ、大っ嫌いですね。ナオミなんて女みたいでしょ?
素敵な名前だなんて言われますけどね、僕は大嫌いですよ。」
はぁ、とため息を付きながら頭をガリガリとひっかく。
先程より多少イライラしているようだ。
「ええ、何の因果か何をやっても死ねないものでね。理由なんて私が聞きたいくらいですから聞かないでください。。
溶岩に飛び込んでもみたし太陽に突っ込んでもみた。でも死ねなかった。
虫に臓物を食わせた事も、虎に腹を裂かせた事もある。でも死ねなかった。
何で僕だけこんな目に合わなきゃいけないんでしょうねぇ、ええホント。」
ぺっ、と唾を路地裏に吐き捨てる。
コンクリートの壁にぺちゃりと当たった。
■奥野晴明 銀貨 > 「名前は自分で決められないですものね。
でも親にもらったものだからとか、そういう理由でごまかさないで
大嫌いだといえるのはいいことだと思います」
見るからに苛つく加賀智に対して、どこか薄い微笑を讃えて
「わぁ、すごい……。僕も大半のことはされたけれど
そこまで徹底した自殺や他殺は無かったかも……」
相手の数々の自殺歴を聞けば、驚くどころかずれたような反応を示す。
吐きかけたツバをちらりと目の端で見るが
「確かに、死にどころを自分で決められないのって辛いですよね」
そこだけは理解できるようで、うんうんと頷いた。
「でも、死なないことに関してはあなただけじゃないかもしれません」
■加賀智 成臣 > 「……ええそうでしょうとも。へっ。」
苛々する。
なぜ自分を肯定してくるのか分からなかった。
自分の名前を親に憚ること無く嫌いだと言えることが良い事?意味がわからない。
『良い事』なわけがあるか。こっちは相手に否定させて適当に反論でもしてやろうと思ったのに。
「………へぇ~~~~~~。それで?
不死身の人を探して、一緒に仲良くお手手繋いで頑張って生きていきましょうとでも言うんですか?
ごめんですね。僕みたいな奴が生きてたって何の得にもならない。さっさと死ぬべきだし、僕もそうしたい。」
苛々が募って、性格の悪さがだんだん表に出てきたらしい。
あからさまに口調が荒くなっている。
「ぶっちゃけ死にどころがどうとかどうでも良いんですよ。さっさと死にたいだけなんですよ。
でも何をやっても痛くて熱くて辛くて苦しいだけで死ねなかった。
かと言って、プラスになることは何をやっても身にならなかった。
何をやったって無能なままだし成長も進化もないんですよ僕は。」
ガリガリと頭を引っ掻いている。クマに侵された三白眼が、じっとりと銀貨を睨みつける。
■奥野晴明 銀貨 > 「だって、自分の気持ちに正直って言うことでしょう?
自分の名前が嫌いだということを言えるのも
自分が死にたいと思っていることを僕に言えるのも正直だからじゃないですか。
それってけして悪いことだけじゃないと思いますけど」
かくりと首をかしげる。だんだんと相手が苛々するのを肌で感じているが
どこ吹く風で受け流しているように見える。
無表情に近い顔はぴくりともしない。
「まさか、もうあなたは十分頑張って生きているじゃないですか。
それに僕ごときが一緒だなんて、あなたに失礼でしょう」
嫌味で言っている様子ではない。
続く言葉を一通り遮ることなく聞いている。
じっとりとした視線を真正面から受け取りながら
ようやく納得いったというように手のひらをぱんと打ち合わせた。
「なぁんだ。あなた色々試さなくても最初から死んでいるじゃないですか。
だって、何をやっても無能で成長がなくて進化もないなら
それって『停滞』でしょ。
停滞し続けているなら死んでいるのとなにか違いがあるんですか」
■加賀智 成臣 > 「……………。」
ぴたり、と頭を掻く手が止まった。
「停滞し続けてるのが嫌なんですよ。死ぬならさっさと死にたい。
死にながら生きるなんてまっぴら御免だ。
誰かに虐められた経験ありますかね、貴方。」
へっ、と鼻で笑って肩をすくめた……
が、その手は震えている。
「さっさとこの世から居なくなりたいんですよ。えー、ハイ。ハハ。
この世は…どいつもこいつもクソッタレばかりだし…あー、僕もきっとクソッタレだと…他の人には思われてるんでしょうね。
ええと、まー、なんです、か。つまり……もうどうでもいいや。」
言葉を詰まらせながらそんな事を言う。喋っていることが支離滅裂である。
さきほどより一層激しく頭を掻く。ぶちぶちと何かが千切れるような音が聞こえる。
「今じゃ何を見たって路端の石と大して変わりゃしませんよ。
頑張って生きてる、なんてとんでもない。」
■奥野晴明 銀貨 > 「虐められた経験……まぁ気味悪がって遠ざけられたりとかなら」
自分のこれまでを振り返りながら、いじめようとする気概があるひとすら
いなかったなぁと心のなかで呟く。
異能を操れなかった頃の銀貨に生半に手を出せば返り討ちどころか生命を落としたって仕方ない。
徐々に支離滅裂になって自傷に近いような頭のかきかたをする加賀智に
微かに銀貨の眉根がよった。
「残念ですけれど、この世は残酷なので
きちんと生きた人にしかちゃんとした死が巡ってこないんですよ。
どうかな、僕が路端の石だと思われているなら
その石っころやクソッタレに話しかけられてこんなにいらいらすることもないでしょう。
まぁでも、あなたが認めなくたって
僕はあなたが十分頑張って生きていると勝手に思ってます」
挑発するような、何を考えているのか読めない紫の瞳が
加賀智の忙しない様子をじっと見つめている。
■加賀智 成臣 > 「その程度で済んでよかったですね。じゃなくて、気の毒に?
というか、あー、んー、えーと……」
汗をかき始めた。
それも、暑さで出る汗ではなく、嫌なことを思い出した時のジットリとした脂汗である。
眼球にタバコを押し付けられたり。空き缶を飲み込まされたり。
理科室に忍び込んで硫酸を飲むように言われたり。そんな記憶が蘇ってくる。
「あー、それはですね。こう、石に躓いたらイライラするでしょう、じゃなくて、何だ。
ちゃんとしてなくたって死にたいんですよ。あー、こう。どんなに悲惨でも良いから死にたいんです。
僕はこう、なんというか…あー、何だ…頑張ってるというか、惰性で生きてるわけで…………っ。」
さっ、と何かに気付いたように口に手を当てる。
「…ごブッッ!!!
げぼ、ごほっ……!!げっ、ぉえ"ッ……
げほっ、げほ……げふっ…げぼ……ッ!!」
口に当てた指の隙間から、血を吐いた。
「…っ、げほ、なんだ、病弱で、僕は、死んでるはずの人間が、生きて……
ストレスで、すぐに血管が……死んで当然、で…生きる意味も、げふっ……」
ぽたぽたと口から血を垂らし、ぎゅるぎゅるとせわしなく眼球を動かす。
どうやら、「持病」のようだ。不死身にもかかわらず持病というのも妙な話だが。
■奥野晴明 銀貨 > 「別に無理して言わなくてもいいですよ。
本当、その程度で済んで良かったです」
嫌な顔もせずゆるやかに笑って返す。
だが加賀智の様子がおかしいことに気づけばさっとそばに駆け寄って
その体を支えようとする。
「あーすみません。僕と問答すると大変なことになっちゃうんですね。
気づかなくて申し訳ないです。
とりあえず、落ち着いて、その隅に座ってください」
血を吐きつづける加賀智に路地の比較的綺麗な場所を勧めて座らせようとする。
どこに隠していたのか、ポケットから手のひらサイズの聖書と思しき本を取り出して
「難儀な方ですね、病に蝕まれて苦しんでもその病が死なせてくれるわけでなし。
治癒の魔法は要ります?……といってもたぶんすぐ戻るのでしょうけど」
ひらひらと目の前で本をかざしてみる。
■加賀智 成臣 > 「げぼっ、ごぼ……げはっ、げほ……
ぁ"~、ハイ……ぺっ、げほ……ハイ、大丈夫、大丈夫ですから、ハイ……」
虚ろな目でそんなことを繰り返しながら、促されるままに路地裏に座り込む。
しばらくすれば、突発的な発作も治まってきたようだ。
「………あー、大丈夫、です。げほっ、げほ……
喉に血が残って面倒くさいだけなので、ハイ。もう治りましたね多分……」
ぺっぺっ、と口の中に残った血を吐き出す。
そして、血に塗れた手を額に当てる。にちゃり、と嫌な音がした。
「……だから死にたいんですよ。苦しんで苦しんで、その先に希望があるわけでもない。
停滞し続けるだけで死んだように暮らしていけるなら僕だってそうしてますよ。病がそれを許してくれない。」
■奥野晴明 銀貨 > 相手の発作が治まるのに合わせて、取り出していた本を黙って仕舞う。
ああ、せっかく綺麗にしたのにと加賀智に渡したハンカチで
相手の手のひらと額を拭おうとする。
「なるほどなー。大体の事情はわかりました。
また問答しちゃうと体調を崩されそうですから控えます。
じゃあ現実的な話、異能の無効化って試したことは?」
加賀智の決して死なない体質が異能であるならば、
それを無効化することで不死が解けるかもしれない。
もっともきっとそういう方法も彼はすでにしているかもしれないが。