2016/08/27 のログ
迦具楽 >  
「そ、食べる」

 白椿が座ったのを見れば、袋のほうに手を伸ばして勝手に自分の分を取ってフタを開けるだろう。

「おお、美味しそう!」

 蓋を開ける段階からうすうす気づいてはいたものの、視覚で情報を得ればいかにも甘そうな彩り。
 そして隣を見てみれば、きれいなコントラスト。
 とはいえ別に如何わしいイメージが浮かんだりとかはしない。
 多少絵になるなとは思いはしたが。

「だって貴女は美味しそうじゃないんだもの。
 私は人間が好みなのよ」

 不満そうな白椿にさらっと答えながら、自分もしろくまを口に含んで「んぅー!」と幸せそうに唸った。
 基本的に暖かいものを優先に食べるが、氷菓類も好きなのだ。
 残念ながら、体温が下がってしまうのでたくさんは食べられないのだが。
 

白椿 >  
まあ、好みがあるのは理解するが、世の中、美味そうじゃないと言われて喜ぶ女は少ないと思う。
なんだかんだで何処かで見初められてどこかしら食われたい欲があるのが女である。
少なくとも、多くの女にはそういうところがまったく無いわけではない。

とりあえず、自身としては、その部類に入る。
そもそも狐ともなればそうであるし、己がそうする側になりたいと思いつつも
認めた相手にそうされるのも悪く無いというのが本心である。
それが本物だろうと偽物であろうとかかわらず。

「うむ、不味いと言われると、魅力が足りないと言われているようで気分的に嬉しくないのでな。
好みもあろうが、買ってきたものが嬉しくないと言われるような、なんとも言えぬ感じがあるゆえの」

そしてしろくまはうまい。
なにがずるいかといえば、この、中にさらに入っている練乳である。
コレがあるので最後まで味が薄まるということもなくじっくり食べれるのだ。
溶けた時にも問題がないという素晴らしさを実現している唯一のかき氷とも言えるかもしれない。

「つまり、我はこのしろくまに劣ると言われておるような気がしてだな」

迦具楽 >  
「ふぅん、そういうものなのかしら。
 私の経験としては、美味しいって言った方が嫌がられたけど」

 正しくは怖がられた、なわけだが。
 それはそう、食欲的な意味で美味しそうと言われても、喜ぶ生き物はあまりいないだろう。
 それはそれとして、しろくまは非常に美味しいらしい。
 一口食べるために体を揺らして幸せを表現するものだから、膝の上の黒猫が非常に寝心地悪そうに不満の鳴き声をあげた。

「っと、ごめんごめん。
 んー、美味しい美味しくないじゃなくて、食べられないって言うのがいいのかしら。
 私の食性的に、食べ物として認識できません、って事でどう?
 残念ながらストライクゾーンの外でした、みたいな」

 それもまたずいぶんな言いようとも思えるが、当人としては相手の感情を鑑みて言葉を選んだつもりである。
 食事中はその他の複雑な処理がおろそかになるため、出力がいい加減だったりするのだ。
 

白椿 >  
「莫迦者。美味そうかどうかというものは魅力として大事なことなのだえ。
食と魅力が言葉として掛け合わされることがあるのは、それ故のこと。
嫌がられたとなれば、それは単にその言葉が捕食という意味で捉えられただけであろ」

狐としては、それはもう競っておかねばならぬ。
人形としてそう定められた以上は狐である。
どうしようもなく狐以上に狐である

なので狐としては、そこ大事なとこなので試験に出ます的見解であり
至極当然かつ常識にして共通見解であるところ。
狐で魅力がないものがいるだろうか、いや、ない。

魅力があるからこそ狐であり、狐であるからこそ魅力的なのである。
古来より魅力の無い狐などいない。

「……して。
ストライクゾーンの外だったというと、他には何があるのだ?
コレほどの狐を前にしてなにもない、というほど物足りないつもりでもないのだが」

そんな、スプーンの練乳を舐め取りつつ、くすくすと笑うさまは、やはり狐らしいだろうか。

迦具楽 >  
「えっ、捕食的な意味合い以外で捉える要素があったんだ?
 ……ふうん、そういう文化もあるのねえ」

 とても意外な話に感じた。
 いや『聲』の中にはそういう情報もあるのだろうが。
 だがしかし、普通は捕食的な意味合いで取られるのが普通だろうとも思う。

「貴女ってずいぶん変わってるのね」

 自分のことを棚にあげて隣の狐をしげしげと眺めた。
 だがしかし、やはり食欲的に美味しそうではない。

「他にって、私の食性に興味でもあるわけ?
 ……んまあ、女性としては魅力的なんじゃないかしら。
 とりあえず、私としては非常に腹立たしい胸部ではあるわね。
 もいでもいい?」

 おそらく女性体としてはまず間違いなく物足りない容姿ではないだろうと思う。
 それはそれとして、憎たらしい胸肉は、相手がなんだろうと胸肉。
 食べ終えたしろくまのカップを置いて、両手をわきわきとさせながら据わった目を向ける。
 

白椿 >  
「変わってるも何も、欲を満たすことはだいたい”食す”ことであろ。
……感情による欲求はなにかを取り込むことで満たされる故。
性欲、物欲、上昇志向、自己顕示欲、特にわかりやすいものは、あらかたそうではないかえ?」

まあ、わからなくもないが。
悪食だというのでないのであれば、美味しい美味しそうでない、というのは生物として大事な部分ではある。
実際にそうかどうかはさておき、一般的には重要な部分で。

互いに謎の物体でありながら人間を語るさまというのも面白いところであるかもしれないが
幸か不幸か、それを楽しめる第三者はこの場にはいない。

「ふむ……胸か。
さて。
我の胸に触れても良いとするなら、何を差し出してくれるのか気になるところであるな」

狐としては、面白いかどうかである。
興が乗れば何でも良く、興が乗らなければなんでも駄目だからだ。
端的に言えば気分次第であり、決定など全てそうした好みと偏見による基準とも言える。

とりあえず相手の容姿が女性的かどうか、という点においては、狐としては問題にしていない

迦具楽 >  
「ああなるほど、そういう風に言えばその通りかも知れないわね。
 やっぱり貴女は変わってるわよ」

 確信を得た。
 とはいえ、言ってることは理解できるのがなんとも言い難い。
 なのでさらっと流すことにした。

 人間でないからこそ、人間というものを考えるというものなのだろうか。
 残念ながら第三者足りえる蝿は、蝿叩きで叩かれ今も熟睡中である。

「何を差し出すか、ねえ。
 むしろ貴女は、何を差し出されたら満足するのかしら。
 何を差し出したらその胸肉をもいでいいの?」

 揉むではなく、捥ぐ、なところが酷く暴力的である。
 とはいえ、揉ませてもらえるなら割とさわり心地は気になるのだ。
 なにせ自分にはないもので、将来的にも望めなさそうなものである故に。
 要求されれば、たいていの物品であれば創り出せはするのだが。
 

白椿 >  
「ふふ、もぐとはまた物騒な……そうさな、ではその情を味わうとしようかえ」

微笑。
問に問で返す以上、それは何を要求されても構わないという放棄でもある。
ならふっかけるだけふっかけるのが楽しみであり、面白いというもの。

「なら、体を与えるので心を寄越すが良かろ。
無論、無いなら作るまでのこと。無いものは受け取れぬのでの。
蜜のように甘い恋か、魚の臓のように苦い恋か。
はたまた、薄く味のせぬ恋かはわからぬが、寄越してくりゃれ」

心と体なら釣り合うものであり、悪い話でもない。
もっとも、心が満たされた時それがどうなるかはまた別問題ではあるが
少なくとも取引として妥当なところではあるだろう。

それがよいかどうかはともかくとしても。

迦具楽 >  
「こころ……心?」

 別に要求されるだけなら何だって構わない、と思って聞いたものの。
 まさか物質でないものを要求されるとは思っていなかった。
 いや心も物質であるという説もあるにはあるけどともかく。

「心、ねえ。
 体というなら触ったり捥いだりもできるけど……心ってどう渡せばいいのかしら?」

 まさか自分がするように魂を捕食するというわけでもないだろうし、と。
 言ってることからなんとなく、恋話でもしろって言われてるような気がするものの。
 実際に行動として何をすればいいのかわからず、首を傾げた。
 

白椿 >  
「恋してもらうしかあるまいに。恋すれば恋しておるとわかるであろ?
さすれば、その頃には別のものが欲しくなっておるやも知れぬが」

やはり。
食の話からしてこの者、情が薄く思える。
意図したものではなく。

そうであれば、別に悪いものでも悪い話でもなかろ。

「我にその恋が通じれば、それはそうだとわかるものであろ、互いに」

まあこの者、それでどうなるかはよくわからぬが、それはそれで一興。

迦具楽 >  
「恋、恋かぁ……」

 恋がどうのと言われれば、今まさに迦具楽にとって面倒な話題の一つである。
 八月に入ったころか。
 丁度自分の恋愛観というものが友人のそれと違うことを知って頭を抱える事になったのだ。
 とはいえ悩んでもどうにもならないと思ったので、今では開き直っているのだが。

「んー、恋が通じるとかなんだとか、よくわからないけど。
 貴女にとって、誰かを好きになる、恋をするってどんな気持ちなの?
 私は、その相手に幸せになってほしいって気持ちになってる。
 でも私の友達は、自分以外を見ないで自分だけを見ていてほしい、って気持ちになるみたい。
 貴女にとって私の気持ちは恋に入るの?
 貴女にとって恋するって気持ちはどういうものなの?」

 知らず、また問い返していた。
 自分の気持ちは、はっきりと恋しい相手がいると言える物ではあるのだが。
 友人のような激しい思いではないのだ。
 そういう思いを所望されているのだとすれば、迦具楽から出るものは何もなかった。

 

白椿 >  
「……ほう」
これは面白い。
つまりは、恋に恋している、というところである。
愚かで可愛らしい、そして愛しくて健気。
知るまでが幸せで、知ってからは切なくて苦しくて大事なもの。
何がそうなのか知らない幸せを、今まさに享受しているという。

まあ、これはひとことで言えば愛でるしか無い。
雛が鳴きながら懐に飛び込んできたようなものとなれば、優しく可愛がるしか無い。

狐はそういうのを見て面白がるのが好きなのだから。
もちろん、自分がそうされるのも含めて。

「ふふ、愛い奴よの。
答えは持っておるぞ。
”知った事か、”というところで。
そのようなもの、他人にわかるわけ無かろ。

そなた、先程のしろくまが美味いというのを感じたと思うのであるが。
その感情を他人と比べて優劣を図ったり、内容を調べたりすることに何ぞ意味があるのかえ?」

美味いは美味い。
感じたことは感じたこと。

他人の感覚に置き換えられる物でもなければ、他人が感じた美味さをわかるわけでもない。
ただ自分の体験に置き換えて想像するだけの疑似体験である。

「ゆえに。
そのほうが恋したのであれば、己で自覚した時に初めて恋となるのであろ。
それは、あとからわかるものか、自然にわかるものか、自分を騙していたのが変化するのか……
いずれにせよ、そなたが恋と思えるようになれば自然とそうなるであろ」

そう思えるならそれで十分だし、それ以上でもそれ以下でもなく。

迦具楽 >  
「……ふぅん」

 膝の上の黒猫を抱き上げながら、そんなものか、と鼻を鳴らす。

「確かに美味しいって思った気持ちを誰かと比べる事には、意味を感じないわね。
 まあ要するに、貴女にとっては恋を恋だと自覚していれば、恋しているとなるわけか。
 だとしたら私の恋は、貴女にとっても恋であるって事ね」

 自分の気持ちが相手にとって対価となるのかどうか。
 迦具楽にとってはその一点に関してが問題だったのだ。
 ゴロゴロとのどを鳴らす黒猫の腕をつかんで万歳させる。

「好きな相手が最後の瞬間に幸せだと思える人生を送ってほしい。
 私はそれをどんなカタチであれ見守っていられればそれでいい。
 そして臨終の間際にその魂も記憶も体も、一切合切、すべてを平らげる」

 黒猫の腕を動かして遊びながら、その腹を見せる。
 どうやらこの黒猫は雄らしい。

「それが私の恋だけど、これ以上の話を要求するなら貴女の胸肉だけじゃ足りないわね」

 「お互い残念だにゃー」といいながら黒猫を操って笑った。
 

白椿 >  
「胸肉も何も、初めから全部食らうつもりではないのかえ?
まあ頭ではそう理解しておっても、恋は別であるからの。
なってしまったら、正直もうよくわからぬ。そんなものであろ」

くく、と微笑しつつ、面白がるような目で。

所詮、恋などなってみないとよくわからない。
燃えるような恋かもしれないし、冷めた恋かもしれない。
規定するのは単に、準備運動をしておかないとどうしようもなくなった時に迷って大怪我をするからだ。
心が。

「またこれは可笑しなことを。
それは願望であり希望であって、恋とはまた違うもの。
他人から奢られる飯は美味ければ良いと思うが、美味いかどうかは別であろ。
もしすれば、気に入るあまり通い詰めになるやも知れぬ」

一息置いて、面白がるように近づいて。

「……そうした願望を言うのであれば。
もはやどうしようもなく相思相愛になって、恋に溺れてただれた生活を繰り返した挙句
それも日常と成り果てた先に、まったりと恋愛を楽しむように恋仲になれれば良いと思うておる。
まあ、楽しければ形など問わぬ、飽きなければ良いであろ」

そして、そちらはどうだ、と。

迦具楽 >  
「ああ、そう、そういう事」

 そこまで聞いて、ようやく合点が言ったとばかりに頷くと。
 黒猫で遊ぶ手を止めて、声を上げて笑いだした。

「あはは、ごめんごめん、それは無理。
 言ったでしょ、私はもう恋をしてる。
 そして私はこの気持ちを彼以外に向けるつもりはないの。
 今はまだ、ってだけだけどね」

 と、そこまで愉快そうに笑って、ゆっくり立ち上がる。
 抱き上げられたままの黒猫は、どこか窮屈そうに身じろいでいた。

「その胸肉を捥げなくて残念だったわ。
 でも貴女、かなり変わってるし、面白いし。
 貴女が私をその気にさせてくれるなら、私が貴女に恋することもあるかもしれないわね。
 その代わり、そのときは胸肉だけじゃすまないだろうけど。
 まあそんな事は置いといても、また遊びたい気持ちにはなったわ」

 立ち上がった迦具楽は満足そうに笑い、黒猫を一息に飲み込んだ。
 黒猫を抱き上げていた両腕が黒い液状物質に変わり、猫を取り込んだのだ。
 後には猫がいた痕跡は、抱いていたとき抜け付着した毛くらいのものか。

「私は迦具楽。
 ただの迦具楽。
 あなたの名前は?」

 そして自分から名乗り、ようやく名前をたずねた。

 

白椿 >  
「好い。良い善い。
我が欲しい、というのであれば、せめて好いてもらわねば話にならぬだけのこと。
だいたい、勿体無いであろ。気も無いのにせっかくの胸をどうこうするなどと」

金を払ってすら、恋愛の紛いごとをするというのに、恋もなければ愛もないのに
胸をどうこうされるなどという話自体、狐にはつまらない。

そうでなければ陵辱される時だけであるし、それはそれでまた別の話である。
力のあるものが力のないものを征服することは、それはされる側にとっても意義のあること。

「恋はまあ、ひとことで言うなら出会いであり相性である故な。
何がどう欲しいというのは結局のところ、互いがどう感じるかでしか無いし、わからぬ。
わからぬからこそ面白いが、恋とは違う欲からそうなることも得てしてありがちな故、
まずは、唇のひとつも欲しいところであるの」

まあそれはさておき、惚れた腫れたも相性次第。
出会いは偶然、恋は必然なれど、花が咲くのは種を植えるところからである。

「白椿の狐をやっておる。」

名乗られれば返し、猫を取り込むさまを面白そうに見やる。
そして何かに気付いたように。

「……む。それは、こう。
猫耳になったりはしないのかえ?」

迦具楽 >  
「もったいない、ね。
 私からすると切り落としてやりたい部位でしかないんだけど」

 いっそ、今ここで切り落としてやろうかと思わないでもなかったが。
 さすがにそんな気分でもないので、じっと睨んでから肩をすくめるだけに留めた。

「そうね、結局縁があるかないか。
 そう言ってみれば、この縁もなにかのきっかけになるのかもしれないわね」

 「残念ながら性欲はあまりないのよ」と、自身の唇に指先で触れて笑う。

「白椿の狐、狐ねえ?
 ――ただ食べただけだし、自然にはならないけど……猫耳ってこんな感じかしら」

 うにょん、という擬音が似合うか。
 迦具楽の頭に黒い三角が生える。
 それはまさしく、猫の耳だろう。

「ま、作り物同士仲良くやりましょ、狐さん?
 カキ氷美味しかったわ、それじゃあまたね」

 そう微笑んで背中を向けると、

「あ、その蝿が起きる前に帰ったほうがいいわよ、面倒だから」

 そんな言葉を残して路地裏の奥へと去っていく。
 方角としては異邦人街の方向だろうか。
 そしてその後姿、臀部からはなぜか、黒い尻尾がおまけとばかりに生えて揺れていた。

 

ご案内:「路地裏」から迦具楽さんが去りました。
白椿 >  
「おお、怖い怖い。
それならそれで、薄い胸も愛でるには良いものぞ。
結局は何が好まれるかはわからぬゆえ」

なお、我は大小問わず好むぞ、と付け加えつつ。

「恋も性欲も情欲も、あるかないか試してみれば良い。
無いと思ってたものがあったり、あると思ってたものが無いのもよくあること
その猫耳がなにか良いことになるかもしれぬし」

猫耳も好きな輩が居るゆえ。
まあ何が幸いするかわからぬし、世の中そのようなもの。
良いことが失敗の原因で、悪いことが成功の原因であったりもする。
漠然と眼前の球だけ追いかけていても詮のないこと。

「ふむ、よくはわからぬが、善い縁ということで」

ゆらりと揺れる尻尾を見送ると、やがて、自身もまた暑くなる前にその場をあとにした。

ご案内:「路地裏」から白椿さんが去りました。