2016/10/07 のログ
ご案内:「路地裏」に暁 名無さんが現れました。
暁 名無 > 「──こりゃひでえ。」

常世島の暗部、と名高い落第街。
その更に奥の奥と言うべき路地裏にて、俺は顔を顰めた。

俺の目の前にあるのは、1つの骸。
既に息絶えてから数日が経とうとしている【それ】は、この街によくある普通のホトケさんとは若干訳が違っていた。

──動いていたのだ、ついさっきまで。
生きている人間と同じ様に、二本足で立ち、自らの意思で移動していた、と言えば分かり易いか。
とある事情から俺は落第街に来て、この、今は死体の男を探していたわけなんだが……

「一歩、遅かったか。」

俺は懐から煙草を取り出すと、口にくわえて火を着ける。
独特の甘ったるいフレーバーが死体の放つ臭気に混じって吐き気を促す様な物へ変わる。

暁 名無 > 死体は生前、この落第街に住んでいた麻薬密売人の男。
自身の異能を用いて無害な植物の細胞を作り変え、マリファナも真っ青な代物を造り上げてはそれを売り捌いていた。

──まあ、肝要なのはそこじゃねえ。
この男が使っていた植物は青垣山のふもとにこっそりと畑が作られていたのも判っているし、
その畑もついさっき俺がしっかりと焼いてきた。今頃察しの早い委員会が消火に当たってるだろう。

「……畑ェ作った場所が悪かったなぁオイ。」

この男が作った畑。その地中にはとある微生物が棲み付いていた。
俺がわざわざこんな所までヤクの売人なんか追いかけて来たのは、それが原因だった。

暁 名無 > リビングデッド、と言われる連中が居る。
簡単に言っちまえばゾンビだ。動く死体。生きている死体。
その微生物は、そいつらの正体の一端を担っているともいえるものだ。
──連中は、生きている生物に寄生し、宿主の死後その身体を乗っ取る。

「まあ、もっとも……連中自体に生物を生かすだ殺すだっていう力はねえ……っと。」

俺は死体の髪を掻き分ける。
すぐに弾痕が見つかり、こいつの直接の死因は判明した。
売り手と買い手の間にいざこざがあったんだろう。この街じゃ珍しくも何ともない。

ところが、その後が面白い。
こいつが殺された後、こいつに寄生していた微生物たちが活動を始める。
元の棲家を荒らされた恨みもあったんだろうか、死んだこの男を連中は一週間に亘って動かし続けた。
それこそ、昼夜問わず。この落第街の中をうろうろうろうろと。

その目撃情報が俺の耳に入ったので、まさか、と思って俺はここまで出張って来たってわけだ。

暁 名無 > そも、何故俺が落第街をうろつくゾンビの話を聞いて、その正体が微生物と思ったのか。
この時代に飛んでくる前に、一度連中の相手をした事があったからだ。

死体が蘇る村がある、と聞いて興味を持った俺は日本から遠く離れた島国の漁村まで出向き、
噂通り、死体が息を吹き返す──まあ、実際死んだままなんだが──現場に鉢合わせた。
その後、何やかんやあってその事件が微生物の仕業であると突き止めてからは
そいつを研究所に持って行って研究を進めて貰っていたんだが。

「──まさか十年以上も前にこんなところでまた動く死体騒動とはな。」

暁 名無 > さて俺はさっき、一歩遅かった、と口走った訳だが。
一体全体何が遅かったか、というとだ。

この微生物、活動期間に限界がある。
そもそも豊かな土壌でしか生きてられない程弱弱しい連中で、
死体を動かすのも、次なる生息地を求めての事だ。
その期間はざっと見積もって7~10日間。
宿主が生きている間は完全に仮死状態で潜伏し何もせずに居るが、
宿主が死ぬと一気に増殖。一晩で宿主の身体を完全に乗っ取って動く。
そして活動期間が終わりを迎えるとたちまち全滅する。そんな面白い生態をしている。
だからこいつらを生きたまま捕えるには、死体が生きてる間に……てのも変な言い方だな。ともかく、ゾンビってる間に捕まえなきゃならなかったわけだ。

「……畑の方は焼いちまったしな……。」

ついでに連中、火にはべらぼうに弱い。
なので元々の棲家だった畑の土の中は、きっと死屍累々だろう。微生物の。まあ見えないけどな。

暁 名無 > まあ、表向きには動く死体も居なくなって、タチの悪い売人は消えて万々歳、ってところなんだろうが。
俺としては手っ取り早く未発見の微生物を報告し、
その生態を予知さながらに言い当てて未来人としての信憑性を得ようと目論んでいたわけだが。

「やーっぱ畑の土だけこっそり持ち帰れば良かった、かね?」

わしゃわしゃと頭を掻いてもどうにもならない。
思わぬポカミスやらかして自分の立場向上に失敗した俺は、とりあえずこの遺体の発見を報告するべきところに報告する事にした。
──まあ、タバコが燃え尽きるまでちょっとタンマ。

暁 名無 > 「──ま、他の手を探すか。」

多分、この時代に未発見の生物なんてごまんと居るだろう。
なんせ常に異世界との接点が開き、そして異界からの存在が流れてくる場所だ。
本気で探せば、ひと月も掛からず未知の生物は発見できる。

……とは思うものの~

「俺も食ってく為には教員としての仕事もしなきゃならないわけで。」

教員以外の職に就けば良かったか、と思うもののやっぱり身元不明の未来人なんてそうそう雇ってくれるところも無く。
俺自身この時代の事を知っている以上、迂闊な事をしないためにはやっぱり教員になるのが手っ取り早かったんだ。
──研究者は嫌だ。ぜったいにいやだ。

ともかく、俺はこの島に来てすぐ支給されたスマホを用いて委員会へと電話を入れる。
使用履歴から何から全て送信され記録されるこのスマホは何だか昔を思い出してちょっと腹立たしい。
今度自分のでも買いに行こうか。

暁 名無 > 「──あ、もしもーし。
 新米教師の暁でーす。今ちょっといいー?」

電話の応対係の子から『先生フランクすぎます』と注意されつつ。
俺は死体発見の報告をしながらその路地を後にするのだった。

死体とはいえ男と狭い路地に二人きりってのも嫌だしねえ。
ていうか死体であれば尚更嫌なもんだよな。

ご案内:「路地裏」から暁 名無さんが去りました。