2016/11/02 のログ
久藤 嵯督 > .
■液体男 > 「死ぬのはテメェだっつってんだよ! ク・ソ・ま・わ・り・がァァァァ!!!」

液体男は管のようなものを長く伸ばし、先端に肉液の回転鋸を作り出す。
それをいくつも魔人に向けて振り下ろすが、いざ当たったと思った矢先、姿が見えなくなっていた。

■液体男 > 「やろっ……」

慌てて辺りを見回し始めて間もなく、青白い『生体電弧励起火炎《アークインパルス》』が液体男を飲み込んだ。
青い炎は液体男のいた空間を丸ごと消却し、魔人はその上空に佇んでいた。

魔人は一瞬のうちにその場から姿を消した。

久藤 嵯督 > ―――
一瞬で決着がついたように思えたが、実際には違う。
液体男は体を複数に分けており、それぞれが男の意志で動いていたのだ。

■液体男 > 「野郎ォ……あんな隠し玉持っていやがったのか……」

路地裏に近い下水道。そこで待機していた、体の一つ。
自分のうち一体と戦いっている最中に背後から襲い掛かる予定だったのが、一瞬にして戦いが終わってしまった。
それも、液体男の瞬殺という形で。

■液体男 > 「だが、アイツとまともにやり合うのは不味いってことが判っただけでも収穫か……仕方ねえ。
あの時と今回の恨みは、またいずれ晴らさせて貰うぜ……」

スライムのように溶けた状態で、ずるずると這いずりだす。
下水道の壁を伝い、奥へ奥へと消えていく……

久藤 嵯督 > .


   ―――直後、青い炎が立ち上がり、一瞬にしてスライムを消滅させた。


.

久藤 嵯督 > .
■液体男 > 「な、何だ!? 何が起きてやがる!?」

港の連絡船に潜んでいた液体男が狼狽する。
各地に散らばせた自分の分身が次から次へと消されていくことに驚きを隠せない。
死因はどれも青い炎によるもの。全てあの魔人による攻撃だということが嫌でも判る。
魔人は液体男の居場所を正確に把握し、尚且つ男に気取られる前に消却を行っている。

一体どうやって? なぜそんなことが出来る?
ますますもってわけがわからない。
個体数の減少はまるで死の足音。ひとつ、またひとつと完全なる消滅が迫ってくる。

■液体男 > 「こ、こうなったら海に……」

下水では駄目だったが、海水ならどうか。
身体の先端を浸けた瞬間、思考が一気に鈍くなる。
あまりに広い範囲を支配下に置こうとすると、やはりどうしても時間が掛かってしまう。
支配権が広がる前に丸ごと蒸発させられるのがオチだ。

■液体男 > 「ひ、ひィィィィ……」

液体男は必死で生にしがみ付いた。
それも深く永遠なる海に溶けるという選択ではなく、自らの意志を持ち続けるという形で。

そして訪れたのは後悔と、絶望。


「―――お前で最後だ。リキッド・ソーサー」

久藤 嵯督 > .
■液体男 > 「ああああああ!!!
死ぬ!!死ぬ!!死んじまうぅぅ!!!!嫌だァ!!!
ああっ!!うああああ!!!」

沸騰した水のように気泡を立てている。
泡立つ赤黒い液体は船底に潜り込もうとするが、魔人は船を磁力で浮かし、陸に上げた。
異なる別々の磁力で船をバラバラにして液体男を振り落とし、溶接することで即座に直す。
雷の落ちる一瞬の速度で、魔人は液体男の眼前に迫った。

■液体男 > 「なんでだよォ……!どうして俺が死ぬような目に遭ってんだよォ……!
俺は無敵で、不死身だったのにィ~~~……」

蚊の針ほどの慈悲は残っていたのか、魔人は己の目を指差し答えてやった。

「俺にも原理はわからんが、この状態になると”目が良くなる”。
俺のこの目がお前達の繋がりを認識した。だから知れた。それと……」

「―――お前が、俺に殺される理由を持っていた。
 それがお前にとって最大の失策だ」

追われていることに気付き、あろうことか挑んでしまったこと。
一度は殺害一歩手前まで追い詰めたのをいいことに、己の力を過信したこと。

もしも姿さえ見せなければ、繋がりを辿られることもなかったかもしれない。
もしも何もせずに逃げ果せていれば、辺境の地を牛耳ることが出来たかもしれない。

もしもまともな場所に生まれて来られたなら、こんな惨めな思いをせずに済んだのかもしれない。

恐怖と絶望は憎しみへと変わる。
自分を自分として産み落とした世界を憎悪し、赤黒い液体は激しく湧き立つ。

■液体男 > 「あああああ!!!!死ね死ね死ね!!!
消えろ!!!消えちまえ!!!何もなけりゃ良かったんだァァ!!最初から!!
ずっと真っ暗なまま何も生まれてこなきゃよォォォ!!!!」

魔人が、手をかざした。


■液体男 > 「消えちまえ……」

掌にエネルギーが集中し、周囲の空間が歪み始める。

エネルギーの球体はゆっくりと液体男へと近付いていく。


■液体男 > 「どいつもこいつも、消えちまえよ――――!!!」



最後の液体が、じゅっと弾けた。



.

久藤 嵯督 > その一撃を最後に、魔人の体から光が引いていく。
草葉が落ちるように穏やかな、暗闇と静寂への道。
さして面白くもなさそうな顔をして、液体男のいた場所を見下ろした。

「まるで手応えは無かったが、三段階目のいい調整になった」

風紀委員としての立場上、滅多な事では解禁されない能力。
使用すればするだけ細胞が死滅していくというリスクもあるが、そこはあんまり気にしていない。
訓練所で使うにも周囲への被害が大変なことになるので、こうして適度に使う機会があると有難いのだが。

「……ああ、歯」

久しぶりの解放感から、つい被害者の歯ごと消却しまったことを軽く悔やむ。
殺人鬼の処刑という大義名分はあるにしろ、莫迦正直に話せば始末書は免れないだろう。
しかし今更後悔したって仕方ない。どうせ既に死んでいたのだ。最初から無かった事にしておこう。

踵を返し、港に背を向けた。

「―――処刑完了」


その場に残されたのは、一点の焼け跡のみ―――

ご案内:「路地裏」から久藤 嵯督さんが去りました。