2018/06/01 のログ
ご案内:「路地裏」に鈴ヶ森 綾さんが現れました。
鈴ヶ森 綾 > 時刻は午後7時を少し回った頃。
この時間帯でもまだ西の空には薄っすらと陽光の残滓がこびり付き、日中の名残を僅かばかり留めている。

しかしこの場所では昼夜等というのは大した問題ではないらしい。
落第街の大通りから然程離れてもいない路地裏に男が一人、うつ伏せになって倒れている。
着衣の背中は赤黒い血に塗れ、相当の出血量である事を窺わせる。

その傍らには黒髪の女が一人、しゃがみ込んで倒れた男の首筋に手を触れさせている。

鈴ヶ森 綾 > 「…1時間、という所かしらね。」

首筋に触れた手から脈は伝わってこない。男は完全に事切れているようだ。
検死の知識があるわけではないが、経験から死後1時間前後と推測できた。
となるとまだ日も沈みきらぬ内の凶行という事になるか。

死因は十中八九背中の傷。ナイフのようなもので随分深く抉られたようだ。
財布の類を所持していないところからすると、運悪く強盗にでも遭遇したのだろうか。
あるいは自分より先にこの死体を見つけた者がこれ幸いと持ち去った可能性もある。
何にせよ、これだけでは強盗とも通り魔とも、あるいはもっと悪辣な何かとも断定はできない。

鈴ヶ森 綾 > 「ま、探偵ごっこはこの辺にしましょうか。」

ごっこ、そう口にはしたが、実際は戯れのためだけに死体を弄っていたわけではない。
ここでは荒事は日常茶飯事、人死にですら珍しくないが、だからといってそこかしこに死体が転がっているという事も無い。
自分もまたこの場所を行動圏にしている以上、こういったトラブルと無縁ではいられない(もっぱら自分が引き起こす側ではあるが)

それがただ凶器を持っただけの暴漢であればどうという事はないが、思いがけない難物である事もしばしばだ。
そのトラブルの元がこうして痕跡を残していってくれたのなら、そこから得られるものは得ておこうという訳だ。

数分の間続いたごっこ遊びの手を止めて立ち上がり、軽く伸びをしながら天を仰ぐ。
ビルの狭間から見上げた空は、僅かな時間の間にさらに闇が深まったようだ。もう黄昏時とも言えない頃合いとなっている。

鈴ヶ森 綾 > 立ち去る間際、せっかくだから最後に顔を拝んでおこうかと足を使って死体を仰向けにひっくり返す。
その行為に死者に対する敬意というものを感じ取るのは難しいだろう。

「あら、意外と…。」

地に伏せた状態から天に向けられたその顔は、苦しむ間もなく息絶えたのか虚ろではあるが苦悶のそれではない。
加えて言うなら、それなりに整ったものだ。
割りと好みにはあっているのだが、死んでしまっていては元も子もない。
死肉漁りをする程に飢えているならともかく、今はそれ程でもない。なんと言っても獲物は生きているに限る。

「一時間程早ければね…勿体無いこと。」

鈴ヶ森 綾 > それにつけても、こんな風に一息の間に人を殺すというのはそれなりの技術が必要な事だ。
これはやはりただの取るに足らない強盗の仕業ではないように思える。

「嫌ねまったく…物騒な事。」

女の素性を知る者が聞けば笑うか眉をひそめるか、あるいはツッコミの一つでも入れたであろう言葉を残し、
その姿は路地裏の奥へと消えていった。

ご案内:「路地裏」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。