2018/09/11 のログ
モルガーナ >   
すぅっと一つ息を吸い込み、吐き出す。
そして雨の中顔を上げ、こちらを伺う少女へと目を向けた。

「……一時はどうなる事かと」

そこに浮かぶのは安心したような優し気な笑顔。
目じりに涙なんか浮かばせていたりもする。
それはもう何処からどう見ても迷い込んで窮地に陥った少女である。
……もし普段の彼女を知るものが見たら確実に二度見案件である。口調的にも。

「あ、綺麗にしないと。
 そう、確かこう……だった」

ゆっくりと壁に寄りかかりながら”初歩的かつ一般的な”魔法式を唱え始める。
初めに習う攻勢術式の一種である火炎術式はこの島では生活の至る所で見る事が出来る。

「血を残さないようしなければ」

それは普通よりもゆっくりとした速度で組み上げられ、倒れた屍人達を覆うように発現する。
ぐずぐずと汚泥が沸き立つような音と共にそれらは少しずつ灰になっていく。
……こんな場所に居て人助けなんてよほどのお人よしか目的があるかのどちらかだとは思うが
警戒はしておくに越したことはない。それに、”か弱いままで居られるならそれに越した”事はない。

「たすけてくれてありがとう。
 ……とは言え大丈夫ではないのは私ではないようだけれど」

熱で揺らぐ景色の中、足元が朧げになっている事に目を向け呟く。
足の向こう側の地面を打つ雨の波紋がそこそこ鮮明に見えているのだから
少なくとも無事とは言えない状況だとは思うのだが。

ステーシー >  
相手の笑顔と雨垂れではない涙を見て。
良かったと心から思う。
守るべきものはこの手から滑り、
壊すべきものはただただ急かすだけの歪んだ世界。
命を守り通せた、安堵。

「あら、魔術が使えるのね。それなら消毒も楽だわ」

手の甲についた返り血を服で拭う。
ハンカチまで使ってそれも処分になったら面倒。
お気に入りのだし。

雨が降りしきる中、表情をくしゃりと歪めて。

「大丈夫よ、ご飯を食べて眠れば治っているわ」

この世界のものを食べる。
この世界の空気を吸う。
それくらいしか、プラーナを回復する方法はないとも言える。
でも、これがなんだ。目の前の女性の笑顔に比べれば。

こんなものがなんなんだ。

「ダメよ、こんなところに来ては。最近のゾンビ騒ぎを知らないの?」
「家まで送るわ。あ、その前にここで戦闘があったことを風紀と生活委員会に連絡するけど」

くすくすと笑って。

「あなたが巻き込まれたことは、言うべき? 言わないべき?」

モルガーナ >   
装った表情の裏側で酷く冷静に相手を観察する。
目じり、指先、足の向き……ひと先ず敵意はない。
どうやら善人のようだ。一番運が良かったのはその点かもしれない。

「ええ、この島に来て少し経つから初歩的な授業は受け始めた所。
 役に立つものが使えてよかった」

表面上は酷く穏やかなまま。
取り繕う必要があったかどうかは少々疑問だが
その表情に思い当たるものを感じる。
安堵の中に僅かに混ざるそれは……

「死人の話は耳にはしていたけれど、元々この辺りに来るつもりではなかったから。
 興味が無かったと言えば嘘にはなるけれど、出来ればもう出会いたくは無い。
 報告は問題ないわ。こんな場所に来てと怒られはするかもしれないけれど、
 危うく怒られもできないようになるところだったのだから」

危うく思案に耽りそうになり、ひとまず問いかけに意識を引き戻す。
答え自体は嘘ではない。
それそのものはともかく近隣を破壊しないようにするのは骨が折れる。
それに何より見た目がよろしくない。鑑賞に堪えない。

「そう。貴方がそういうのならそうなのだろうけれど」

どうやら人の形をしているがヒトではないという点では同類のようだ。
一種の生命術式の使用者に同様の症状を見たことがある。
詳しくはもう少し見てみなければ断言はできないが。

「……後悔しているのね」

それよりもよく見える感情(もの)があった。
 

ステーシー >  
初歩的な授業……が、できていないのは自分か。
魔術はとにかく逃げる用のもの、それも魔結晶という使い捨てのアイテムしか使わない。
それに魔術講義は全部座学で単位を取ってきた。

「……いいんじゃない、報告しなくても」
「あなたはもう十分に反省しているわ」
「反省している人に、怒られろというほど苛烈な性格じゃなくてよ?」

携帯デバイスで適当に報告、後はこの場を離れて帰るだけ。
風紀への協力者面が許されているのも、元・怪異対策室三課の肩書きと龍殺しの名があるだけ。

「……後悔? しているわ、毎日ね」

――――後悔のない人生なんてない。
そんなありきたりの言葉では済まない。

「毎日眠る前に考えるわ、私が寝ている間にもこの街の人間から犠牲が出ている」
「……余さず救うなんて、出来はしない。でも……」

表情を歪めている自分に気付いて、ぱっと笑顔を作り。

「なんてね。ワーカーホリックかしら?」
「仕事のしすぎはー。体に毒なのよ。学生の時からこんなんじゃ、先が思いやられるわねー」

作った笑顔を貼り付けたまま。

「私はステーシー・バントライン。登記上の名前は星薙四葉。どっちでも好きに呼んで」

モルガーナ >   
「最低限身を守る水準程度は身に付けなくては。
 この島では何が居るのかもわからないのだから……
 と言いつつこの様なのだけれど」

嘆息してみせる。
実際日頃の授業でも学術面では真面目に学んでいるが
実地訓練では一生懸命なふりをしている。
戦えるなどと知られていない方が何かと便利だからだ。
だから演習自体は中の上位を装っている。
こういう場では無力を振舞う事が可能であればそうある方がずっと”楽”だ。

「この島は面白いけれど、穏やかではないようね
 怒られずに済むのであればそうであると嬉しいけれど」

そう、元の世界なら兎も角、此方では神性なるものや
龍殺しなど似合わないとも限らない。実際問題龍自体は観測されているのだから。
……会話は成り立ちそうもないが。

「……そう自身に言い聞かせねばならない程?」

何故だろうと純粋な疑問に首を傾げる。
この子は酷く不器用な子なのだと思う。
敵は敵と割り切れるほど他者を切り離せないのだろう。
理解はできる。そういうものなのだろうと。
けれど共感はできない。そういうものだから。

「例えそうでも貴方は誰か救えるのでしょう?
 全員が救えないからと言って、一人を救える事を蔑ろにする必要はない。
 現に私を”助けて”いる。」

穏やかな笑みを浮かべたまま似合わない酷く優しい言葉を吐き出す。
本心から言う事はないかもしれないが嘘は言っていない。
自分がそれを信じていようといまいと、その側面があることは確かなのだから。
……もっとも、切り捨てられないからこそ到達できる頂もあり
自身に立ちはだかって来た者は皆そんな者達だったなとふと思い出す。

ステーシー >  
嘆息する彼女のことを思う。
命の危険があったというのに気丈。
気高い魂を持っている人かも知れない。
直感的にそう思った。猫の勘。

「そうね……私もお説教は懲り懲りだわ」

最近、パンデミックのいるところにでしゃばりすぎている。
風紀の足並みを乱すと怒られてばかり。
尻尾をゆらりと揺らして、溜息をついた。

「………慰められちゃったわね?」

雨に濡れる顔を両手で拭って、獣耳を振って水気を飛ばす。
どうせすぐに濡れるのだけれど。

「そろそろかしら」

雨水に濡れていい感じに血が流れた旋空を鞘に納める。
黒刀と合わせて二刀、雨に濡れてずっしりと重い。

「あなたが明るく生きてくれるなら、私は今日の選択を後悔しない」
「あなたはゾンビに襲われた。私は服を血でダメにした」
「でもね、生きるってことは雨の日ばかりじゃない。この雨雲の向こうにだって、星空はある」

人差し指を立てて、子供っぽく笑った。

「というのが師匠の受け売りね!」

モルガーナ >   
「反省……か。
 あまり得意ではないのよね
 なんにせよまた危ない目に合わないようには気をつける。」

慰めたという言葉には曖昧に誤魔化すように言葉を返し
自身の長髪を撫でつける。傘もささずに降りしきる雨に打たれ、随分と濡れてしまった。

「そう。良い師匠」

純粋で真っすぐな子に伝えるにはよい表現だと思う。
きっと随分と言葉を選んだことだろう。
それか、その師匠自体も似たような気質を持つ存在なのかもしれない。

「そう考えると雨の日も悪いものではないかもしれない。
 ……雨の日があるから陽光の温かさを思い出せる。
 それに雨の日に傘もささずに踊る人も居ていいのかもしれない」

早く晴れると良いわねと微笑みながら空を見上げる。
未だ空は厚い雲に覆われ、雨は降り止む兆しを見せず
唯々只管に地上に零れ落ちる雫は降られる者と水溜りに波を奏でている。

「余り笑顔を作りすぎないようにね
 助けてくれたお礼にせめてもの忠告」

雨に濡れた髪が張り付き片目を隠す。
見上げた緋色の瞳に映るのは唯々昏い夜空だけ。

「……」

それも瞬きするような一瞬。
傍らの少女に再び顔を向けた時にはそこには元通り心から安心したような笑顔が浮かんでいた。

「行きましょう。ステーシーさん。また襲われないうちに。
 ……ああそうそう、普段の私に会ったら別人に見えると思うけれど
 そこは見過ごしてくれると嬉しい」

そう笑いながら片手を差し出す。
何方かと言えば彼方が素に近いのだけれど。

ステーシー >  
「……ん」

頷いて。周りは死者の灰だらけで、雨も降っていて。
ロクな状況じゃないけど。笑顔があっても不自然じゃないはず。

「ええ! とっても良い師よ、離れ離れになっても……その…」
「……刀を盗んで家出したことを半殺しで済ませてくれるはずだわ」

淀んだ目で遠くを見た。
ここからじゃ見えないね、星空。

「雨の日に踊るの? 歌うんじゃなくて?」

私は映画が好きだけど、さすがに雨に歌うあの古い映画は見たことがない。
続く言葉は、雨音で聞こえづらかったけど。
聞こえてしまった。聞いてしまった。忠告……

「うん、作り笑顔、上手くないしね……」

口元だけで笑って、相手の手を引いた。
別人に見える? どういうとこだろう。

「ええと……二重人格とかそういう?」

そんなことを話しながら、路地裏を後にした。

モルガーナ >   
「一種の病気みたいなものかもしれないけれど、
 まぁこの島では珍しくもないでしょう?
 ……半殺しで済めば良いですねそれ」

思った以上に愉快な決別の仕方をしてきたらしい。
穏やかではない単語が飛び出した気がするが
まぁそこは師弟同士でなんとかしてもらおう。

「苦手なままで居られるならそれが一番。
 慣れてしまうと笑い方を忘れてしまうから。
 ……それはともかく、さっきの言葉は確か
 こちらの世界の言葉だったと思うけれど。」
 
ふっと息を吐いて簡単な口調で続く言葉を口にし
何気ない台詞を吐きながら手を取ろうとした瞬間、

「――っ!?」

静電気と言うには強い力で反発が起きた。
それは龍同士の反発に酷似したもの。
思わず一瞬目を開き、手を引きかけるが無理やりその反応をねじ伏せ
素直に驚いただけと言った表情を形作り

「随分強い静電気だったわね。」

笑って再び手を取る。
そうして結局名前も素性も伝えないまま
別れる時まで優し気な笑みを浮かべ続けた。






二人が立ち去った雨の中、ゆっくりと動くものがある。
路地の中心を離れ、出力を抑えた初等魔法では燃やしきれなかったそれは
再び死者を増やすという使命を全うしようと立ち上がり……

一瞬後真っ白な劫火に包まれる。
瞬間で周囲の水分を蒸発させたその炎は降りしきる雨の中
全ての痕跡と、灰すら飲み込んで真白へと変えた後
何事もなかったかのように虚空へと消えさった。
残ったのは劫火の余波で溶け、鱗のようになった地面と壁面。
そして融けた地面や壁面に当たり蒸発する雨の音。
それも次第に暗い空から降り続ける雨粒の奏でる音に飲み込まれていく。

……龍は何物も差別しない。
生者も死者も、人も人以外も。
全ては等しく灼き尽くすものなのだから。

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