2015/07/06 のログ
ご案内:「スラム」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 「これ以上、ヨキについて来るでない」

(小声で背後へ言い遣る。彼の後ろ――ではなく、足元を歩いているのは、一匹の黒い子猫だ。
 痩せて貧相な毛並みをして、ヨキの隣をついて来る。
 顔見知りに会ってきたその帰り、どういう訳か懐かれた)

「早く逃げるがいい。
 ヨキのゆくところ常に剣呑ぞ、轢き潰されても知らんぞ」

(少なからず土地勘があるらしい。
 決して平坦とは言えない路地を、右へ左へ、縫うように歩く。
 目指すはスラムの出口だ)

ヨキ > (スラムへ入るためには、襤褸を被り、塵芥の臭いを浴びて化ける。
 真一文字に引き結んだ口で歩きながら、その目と肌とは絶えず天地左右へ向けられていた。
 子猫がにゃあんと鳴くのを、もはや止めもしない。
 自らの重みで踏み外すことのない道を、子猫を轢き潰す者のない道を――あるいは、自ずから回避できる限り危険の少ない道を、警戒に満ちた眼差しで選び取る)

ヨキ > (不恰好な足取りで歩く子猫が通りの隙間を跨ぎ損ねそうになるのを、片手で掬い上げる)

「親猫はどうした?
 その姿でよくぞ生き延びたものよ。人間の慰み者になろうところを」

(ひそひそ話に返る言葉は勿論、ない。
 壁から壁へ渡された低いアーチ上の鉄骨を潜りながら、言葉を続ける)

「今のヨキには、“真面目な”公安も通り魔も、等しく鬼の子よ。
 この不夜城とて必要悪ではないかね、なあ猫よ」

(にゃあん。)

ヨキ > (夜半の道を、明滅する裸電球がちらちらと照らし出す。小脇に抱えた子猫の痩せた腹に、人差し指が柔く食い込む)

「…………、修行僧の気分だ」

(毛並みの奥で、薄い肌が生温く脈打っている。
 か弱い身じろぎに、甘えた鳴き声に、じっとりとした半眼になる)

「お前は既にしてヨキに取られているのだ。
 あとは食われるだけだぞ」

(ぐびり。喉が鳴った)

ヨキ > 「……いいや。この島の人間は、ほとんど猫を食わん。
 ヨキもそれに従うだけだ」

(首を振る。
 猫の首筋に穿たれた、火傷の跡を見下ろす)

「そら。この道を真っ直ぐゆけば歓楽区だ。
 少なくとも遊びに捌かれる危険は幾分か減るだろう。
 どうするね、猫よ」

(遠くに見えるネオンの光は、未だスラムを照らすほどには至らない。
 子猫の身体をそっと降ろしてやると、猫は光から逃げるようにしてスラムの奥へ逃げ戻る)

「…………、何だ。やはりそちらがお前の里か。
 不物好きな奴よ」

(追い掛けることもせず、子猫が暗がりへ消えてゆくのを見ていた。
 警戒が緩み、些か無防備に立ち尽くす)

ご案内:「スラム」にオーロラさんが現れました。
オーロラ > 「物好きついでに剣呑剣呑」

ケラケラと、それ見て笑う少女が一人。
路地裏の木箱に腰掛けて、スカートの中身が見えようとお構いなしに足をふらつかせる。
内巻き気味の黒髪を棚引かせて、隙間から覗く瞳もまた鮮やかな黒。
立ち尽くすヨキをみて、ケラケラ、ケラケラ、少女は笑う。

「危うくサスペンスって感じ?」

ヨキ > (響いた声に、ぐるりと獣めいて振り返る。
 少女の顔を、身体を、下着を、晒した足を順番に等しく見遣って、最後に顔をふたたび見る)

「宙ぶらりんに焦らされるのは、焦らすのも好かんよ」

(眉間の眼鏡のフレームを指で押し上げる)

「その制服は君のものか?それとも横流しか。
 女ならば、生憎と間に合っている」

オーロラ > 見える顔は人懐こい笑顔。
流れる肢体は細身で小柄。
晒した足は健康的で、チラり見えた下着はストライプ。
最後、二度面見た顔は、やはり変わらぬ無邪気な笑み。
 
「一応正規品で、私も焦らすのは苦手な性質なの。
だから、単刀直入にお誘いするわねお兄さん。
私をちょっとエスコートしてくれない?
スラムの外に出るまで、ちょっとの間でいいから」
 
確かにここはスラムの外縁には近いが、まだまだ一般生徒の通る道からは遠い。

ヨキ > 「エスコート?ふ。
 その語はまず、そこに投げ出している足を閉じてから使いたまえ」

(肌を切り裂いて作ったような大口が、笑みの形に吊り上がる)

「護衛を頼むような肝の持ち主には見えんな。
 ……妙な気を起こすでないぞ。金も血の気も持ち合わせておらなんだ」

(首肯の代わり、顎で出口の方角を示して促した。
 隣にひとり分のスペースを開け、元の足取りで歩き出す)

「君は生徒か。斯様な場所で何をしていた?」

オーロラ > 「あら、ごめんなさい。ついつい、好き勝手足を動かせることがいつも嬉しくて」
 
そういって、笑みに向けてオーロラも笑みを返し、木箱から飛び降りてヨキの隣に並ぶ。
ひどい身長差のせいか、お互いに目が合わない。
それでも、オーロラは気にせずヨキの隣をちょこちょこ歩く。
まるで、先ほどの黒猫のように。
 
「そういうお兄さんは先生かしら?
私は正に御察しの通り生徒で、名前はオーロラ。
ここには夜のお散歩にきてたの。
そしたら、迷っちゃって途方にくれてたってわけ。
ところで、妙な気の意味を図りかねているのだけど、手を握るくらいは許容範囲?」
 
下方から覗き込むように、ヨキの顔を見上げる。