2015/07/07 のログ
ヨキ > 「……足?何だ、怪我でもしていたのか」

(隣に並んだ相手の頭を一瞥してから、正面へ顔を戻す。
 ぴりりとした警戒の空気が、白い肌に宿る)

「オーロラ。悪くない名をしている。
 ――ヨキだ。かつて教えた生徒が、あぶれて此処に暮らしているでな」

(横目でオーロラと視線を合わせる)

「妙、というのはおおよそ考え得る反社会的行為のことだ。
 ……手?」

(不思議そうに自らの両手を見分してから、)

「それはヨキの想定外であったな。ほれ」

(先ほどの猫の毛が付いていない、手袋越しの右手がオーロラの手を拾う。
 獣人の大きな手のひらと短い四本の指で、包み込むように掴む)

オーロラ > 「ん。昔ちょっとね。ベッドとは長い事縁のある生活してたからさ。
あ? 名前褒めてくれた? うれしぃー! 我ながら気に入ってる名前なんだよね。
ヨキせんせも、お洒落な名前だね。
まるで、神話に出てくる神様みたいな名前。
しかも生徒思いでこんなところまで来るなんて、イケメンだね」
 
上機嫌を微塵も隠しもせず、手を握られればさらに嬉しそうに相好を崩す。
 
「おっきくて素敵な手だね。先生、『異邦人』?」

ヨキ > 「なるほど、それでか。だが足を放る場所と時間は選ぶべきだな。
 もう一度ベッドから離れられない生活になろうと、不思議はない。
 ……ヨキというのは、斧のことだ。木を切り倒す斧。
 これでもイケメンで神のように思われるならば、次はもう少し身奇麗にしておこう」

(その言葉のとおり、被ったフードは埃っぽい、スラムの色をしている。
 表情を輝かせるオーロラに反して、こちらの横顔はぴくりとも動かず、無表情のまま)

「ああ、異邦人だ。学園が出来る少し前に、『門』を潜ってきた。
 だから、もともとヨキの手は娘の手を握るようには出来ていない。痛みはしないか?
 生徒を傷つける訳にはいかんでな」

オーロラ > 「流石教師。教訓も交えて色々教えてくれるなんてイケメン極まるね。
しかも、神様かとおもったらそれすら断ち切る鋭い斧刃の名前とは、いやはや、出来てるね」
 
イケメンは何着たってかっこいいよ、とかいいながら、無表情を気にもせずにまた手を握り返す。
小さな手だ。自らで握りしめれば、それだけで自壊するのではないかと思うほど。

「心配する事ないよ、ヨキせんせ。痛くないし、とってもあったかい。
それに私も結構遠くから来たから、余所者同士仲良し子良しだよ」
 
そういって、またケラケラと笑う。
 
「ねえ、先生はどんな世界からきたの?」

ヨキ > 「ヨキは“出来て”いなければこの学園に籍を置いてはいられんのでな。
 ……斧とは、人間の暮らしのシンボルだ。持った名は、きちんと体現せねばな」

(握った手のひらの中で、小さな手が動く。目を伏せる)

「……『遠く』とは、君も異邦人かね。それとも島の外から?
 ヨキの世界は、ひたすら野山と田畑が広がるばかりであったよ。
 ちょうど青垣山や……神社の辺りのような。
 だがヨキは、ずっと山の中に独りであったからな。
 この通りのように狭い獣道を住処にしていた」

(粗末な木箱が階段代わりに使われている、不親切な段差を乗り越える。
 左手に付いていた猫の毛を外套の裾で払い落としてから、オーロラを両手で引き上げんとする)

オーロラ > んしょ、っと声をかけながら引き揚げられて、とんとんと木箱を昇る。
そのたびにまた短いスカートがめくれるが、お構いなしだ。
動くことそのものを楽しむように、オーロラはヨキのあとをついていく。
 
「島の外。ずっと遠くのベッドの上からこっちにね。
ヨキせんせみたいな世界は、行ったことまだないな。
こっちの世界ですら、そういう場所にはあんまりいったことがない。
緑と土に囲まれる生活を送ると、やっぱり先生みたいな研ぎ澄まされた感じになるのかな?」

ヨキ > (オーロラが段差を越えるのを確かめて、片手を離す。
 はじめに握った片手は、離さずに繋いだまま)

「ほう。……見も知らぬ島でベッドの外となれば、さぞ楽しかろう。
 ヨキからすれば、今のヨキは随分となまくらに成り果てたものと思っていたよ。
 そうだな……学生が使う教科書の中にも、ヨキの世界に似た風景が載っていた。
 釦のない服を着た人々が、みなひっつめ頭をしていた。……」

(そうしていくつか例示したのは、ちょうど江戸時代に当たる頃の情景だ)

「君とて鈍くはないだろう?頭の回りは良いように見えるが。……ああ、」

(二人の横顔が、いよいよ色を増すネオンに照らされる。
 街区の雰囲気が、明確に様相を変えつつあった)

「その次の角から歓楽街だ。……娘には変わらず不安の尽きぬ場所であろう。
 家は居住区か?このままヨキが送ってやるぞ」

オーロラ > 「うん! 毎日楽しいよ。ご飯は美味しいし、ウィンドウショッピングは楽しいし、町は広いし。
ヨキせんせみたいな素敵な人とも出会えるしね」

教科書の歴史の件でまた少し笑う。
先生のいた世界は、それなら美しい世界だったんだろうなぁとかなんとか言いながら。
 
「私はどうかな、わからない。
でもね、今の私が楽しい事だけは、『全部きっと間違いなく』わかっていることで、それが大事。
だから、頭はどっちでもいいかな」
 
そして、歓楽街が近付いてくると、ヨキの手をするりと放して、一歩前に出る。 
 
「ん。ここまでで大丈夫。送ってもらうのも魅力的だけど、それはまたの機会ってことで。
それじゃ、またねヨキ先生。今日は一杯お喋りしてくれてありがとう!
それでは――良い学園生活を」
 
そういって、パタパタと走り出して、人ごみの中に消えていく。
笑みの残滓を残すように。するりと、溶け込むように。

ご案内:「スラム」からオーロラさんが去りました。
ヨキ > 「良いことだ。毎日が楽しめているのなら。
 ……この島は土地柄、磐石に楽しめぬ者も少なくない」

(『全部きっと間違いなく』。朗らかに断定する口調に瞬きする。
 言葉を口にする前に、少女の手が離れる)

「……またの機会か。君の名前と共に、それも覚えておくとしよう。
 気を付けて帰るのだぞ、――オーロラ君」

(聞き知ったばかりの名で、相手を見送る。
 小さく笑い返し、相手へ背を向ける形で別れる。
 雑踏を歩きながら、顔を覆っていた襤褸切れをするりと外し、路肩のゴミ捨て場へ流し入れる。
 波打つ黒髪を、かぶりを振って揺らす。

 そうして寄ってくる客引きの男の前を、そ知らぬ顔で通り過ぎた)

「女ならば、間に合っているでな」

ご案内:「スラム」からヨキさんが去りました。