2015/07/07 のログ
■ヨキ > 「……足?何だ、怪我でもしていたのか」
(隣に並んだ相手の頭を一瞥してから、正面へ顔を戻す。
ぴりりとした警戒の空気が、白い肌に宿る)
「オーロラ。悪くない名をしている。
――ヨキだ。かつて教えた生徒が、あぶれて此処に暮らしているでな」
(横目でオーロラと視線を合わせる)
「妙、というのはおおよそ考え得る反社会的行為のことだ。
……手?」
(不思議そうに自らの両手を見分してから、)
「それはヨキの想定外であったな。ほれ」
(先ほどの猫の毛が付いていない、手袋越しの右手がオーロラの手を拾う。
獣人の大きな手のひらと短い四本の指で、包み込むように掴む)
■オーロラ > 「ん。昔ちょっとね。ベッドとは長い事縁のある生活してたからさ。
あ? 名前褒めてくれた? うれしぃー! 我ながら気に入ってる名前なんだよね。
ヨキせんせも、お洒落な名前だね。
まるで、神話に出てくる神様みたいな名前。
しかも生徒思いでこんなところまで来るなんて、イケメンだね」
上機嫌を微塵も隠しもせず、手を握られればさらに嬉しそうに相好を崩す。
「おっきくて素敵な手だね。先生、『異邦人』?」
■ヨキ > 「なるほど、それでか。だが足を放る場所と時間は選ぶべきだな。
もう一度ベッドから離れられない生活になろうと、不思議はない。
……ヨキというのは、斧のことだ。木を切り倒す斧。
これでもイケメンで神のように思われるならば、次はもう少し身奇麗にしておこう」
(その言葉のとおり、被ったフードは埃っぽい、スラムの色をしている。
表情を輝かせるオーロラに反して、こちらの横顔はぴくりとも動かず、無表情のまま)
「ああ、異邦人だ。学園が出来る少し前に、『門』を潜ってきた。
だから、もともとヨキの手は娘の手を握るようには出来ていない。痛みはしないか?
生徒を傷つける訳にはいかんでな」
■オーロラ > 「流石教師。教訓も交えて色々教えてくれるなんてイケメン極まるね。
しかも、神様かとおもったらそれすら断ち切る鋭い斧刃の名前とは、いやはや、出来てるね」
イケメンは何着たってかっこいいよ、とかいいながら、無表情を気にもせずにまた手を握り返す。
小さな手だ。自らで握りしめれば、それだけで自壊するのではないかと思うほど。
「心配する事ないよ、ヨキせんせ。痛くないし、とってもあったかい。
それに私も結構遠くから来たから、余所者同士仲良し子良しだよ」
そういって、またケラケラと笑う。
「ねえ、先生はどんな世界からきたの?」
■ヨキ > 「ヨキは“出来て”いなければこの学園に籍を置いてはいられんのでな。
……斧とは、人間の暮らしのシンボルだ。持った名は、きちんと体現せねばな」
(握った手のひらの中で、小さな手が動く。目を伏せる)
「……『遠く』とは、君も異邦人かね。それとも島の外から?
ヨキの世界は、ひたすら野山と田畑が広がるばかりであったよ。
ちょうど青垣山や……神社の辺りのような。
だがヨキは、ずっと山の中に独りであったからな。
この通りのように狭い獣道を住処にしていた」
(粗末な木箱が階段代わりに使われている、不親切な段差を乗り越える。
左手に付いていた猫の毛を外套の裾で払い落としてから、オーロラを両手で引き上げんとする)
■オーロラ > んしょ、っと声をかけながら引き揚げられて、とんとんと木箱を昇る。
そのたびにまた短いスカートがめくれるが、お構いなしだ。
動くことそのものを楽しむように、オーロラはヨキのあとをついていく。
「島の外。ずっと遠くのベッドの上からこっちにね。
ヨキせんせみたいな世界は、行ったことまだないな。
こっちの世界ですら、そういう場所にはあんまりいったことがない。
緑と土に囲まれる生活を送ると、やっぱり先生みたいな研ぎ澄まされた感じになるのかな?」
■ヨキ > (オーロラが段差を越えるのを確かめて、片手を離す。
はじめに握った片手は、離さずに繋いだまま)
「ほう。……見も知らぬ島でベッドの外となれば、さぞ楽しかろう。
ヨキからすれば、今のヨキは随分となまくらに成り果てたものと思っていたよ。
そうだな……学生が使う教科書の中にも、ヨキの世界に似た風景が載っていた。
釦のない服を着た人々が、みなひっつめ頭をしていた。……」
(そうしていくつか例示したのは、ちょうど江戸時代に当たる頃の情景だ)
「君とて鈍くはないだろう?頭の回りは良いように見えるが。……ああ、」
(二人の横顔が、いよいよ色を増すネオンに照らされる。
街区の雰囲気が、明確に様相を変えつつあった)
「その次の角から歓楽街だ。……娘には変わらず不安の尽きぬ場所であろう。
家は居住区か?このままヨキが送ってやるぞ」
■オーロラ > 「うん! 毎日楽しいよ。ご飯は美味しいし、ウィンドウショッピングは楽しいし、町は広いし。
ヨキせんせみたいな素敵な人とも出会えるしね」
教科書の歴史の件でまた少し笑う。
先生のいた世界は、それなら美しい世界だったんだろうなぁとかなんとか言いながら。
「私はどうかな、わからない。
でもね、今の私が楽しい事だけは、『全部きっと間違いなく』わかっていることで、それが大事。
だから、頭はどっちでもいいかな」
そして、歓楽街が近付いてくると、ヨキの手をするりと放して、一歩前に出る。
「ん。ここまでで大丈夫。送ってもらうのも魅力的だけど、それはまたの機会ってことで。
それじゃ、またねヨキ先生。今日は一杯お喋りしてくれてありがとう!
それでは――良い学園生活を」
そういって、パタパタと走り出して、人ごみの中に消えていく。
笑みの残滓を残すように。するりと、溶け込むように。
ご案内:「スラム」からオーロラさんが去りました。
■ヨキ > 「良いことだ。毎日が楽しめているのなら。
……この島は土地柄、磐石に楽しめぬ者も少なくない」
(『全部きっと間違いなく』。朗らかに断定する口調に瞬きする。
言葉を口にする前に、少女の手が離れる)
「……またの機会か。君の名前と共に、それも覚えておくとしよう。
気を付けて帰るのだぞ、――オーロラ君」
(聞き知ったばかりの名で、相手を見送る。
小さく笑い返し、相手へ背を向ける形で別れる。
雑踏を歩きながら、顔を覆っていた襤褸切れをするりと外し、路肩のゴミ捨て場へ流し入れる。
波打つ黒髪を、かぶりを振って揺らす。
そうして寄ってくる客引きの男の前を、そ知らぬ顔で通り過ぎた)
「女ならば、間に合っているでな」
ご案内:「スラム」からヨキさんが去りました。