2015/07/10 のログ
ご案内:「スラム」に紅葉 椛さんが現れました。
■紅葉 椛 > ふらり、とスラムに黄色い影が現れる。
夜の闇では眩しいほどの黄色い影。
迷いのない足取りで何かを追いかけるように、ただただ歩く。
目深に被ったフードからは、鋭い眼光が漏れる。
「この辺り……のはず」
立ち止まり、ポケットから紙を取り出す。
誰かの名前と身体的特徴がそれには書かれていた。
くしゃ、と握り潰し、ポケットにねじ込む。
■紅葉 椛 > 黄衣の少女は、突然足を止め、前を見据える。
見据えるのは白髪の壮年男性。
なにやらブルーシートに座って何かを売っているようだ。
しかし、辺りには誰も居らず、肩を落としている。
「ビンゴ」
そう一言呟き、その白髪の男性に向かい、ゆっくりと歩く。
足音を立てず、ゆっくりと。
■紅葉 椛 > 「やァ、おじいさん。
昨日は何を食べたの? 美味しかった?」
壮年の男性の前まで来ると、そんな質問をする。
ポケットに手を突っ込み、ふわりと笑う。
『お客さんかい?
昨日はそうさな……シチューを食べた。なかなか美味かったぞ』
壮年の男性は答える。
客が来たのだと思い、笑顔で。
その応えを聞き、少女は口を開いた。
「へぇ、最後の晩餐が美味しかったのはいいことだ。
辞世の句を読む時間は必要かな?」
にたり。
嫌な笑みを浮かべてそんな言葉を投げつける。
楽器ケースを降ろし、開いた。
中から鉈のような、五尺はあろうかという漆黒の大刀が現れる。
■紅葉 椛 > 『は?』
男性は呆然とする。
当然だ、目の前の少女が突然訳の分からないことを言い出したのだから。
しかし、少女が取り出した物は刀。
人を殺すために作られた武器。
自分の置かれている状況がわかったのか、顔が青ざめる。
『な、なんっ、何故ワシを……
死んでたまるものか!』
立ち上がり、逃げ出す。
死から逃げるため、全力で駆ける。
黄衣の少女は、それを嗤う。
「あっはは、そうだよね、死にたくないよねぇ?
でもごめんね、これもお仕事なんだ」
大刀を肩に担ぎ、緩やかに追う。
男性が見えなくなっても、足音が聞こえる。
ゆっくりと、遊ぶように、獲物を追う。
■紅葉 椛 > 『はーっ、はーっ……なんだったんだ、今のは……』
膝に手をつき、建物の陰で立ち止まる。
ゼヒュー、喉から嫌な音が鳴る。
月明かりに照らされた道を振り返るも、少女は居ない。
逃げ切ったか、と安堵の息を漏らす。
『ワシを殺すなぞと言いよる輩は初めてだ。
何故ワシを狙う……』
突然、月が翳る。
「ダメだよ、おじいさん。
最後まで逃げ切らなきゃ」
後ろから声がする。
振り向くと、数メートル先に少女が居た。
手には漆黒の大刀。
三日月を貼り付けたような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
■紅葉 椛 > 『だ、誰か! 助けてくれ!! 殺される!!』
男は叫ぶ。
しかしその声は虚しく、夜の闇に散っていく。
「残念、誰も来ないみたいだね?」
いやらしい笑みを湛え、そう言う。
ゆらり、ゆらりと男へと歩く。
男は叫び続ける。
誰も、近くには居ない。
『な、なんでワシなんだ!
そ、そうだ。仕事と言っていたな!
金なら支払われた金額の倍を出そう!
だから助けてくれ!』
精一杯の命乞い。
少女は立ち止まる。
それを交渉の余地ありと捉えたのか、男は更に言葉を続ける。
『ワシを狙うようなやつが誰かは知らんが、端金のはずだ!
なんなら3倍、いや、4倍出そう!』
そう、早口で捲し立てる。
■紅葉 椛 > ため息を1つ。
呆れたような目で男を見た。
「死ぬ前に面白い話でもしてくれるかと思ったら命乞いかぁ……。
もうお前、黙れよ」
少女の姿が、消える。
数メートル先の少女が消え、男は左右を見る。
居ない。どこだ。
音もなく、男の後ろに、居る。
大刀を振りかぶる。
────一閃。
男に背を向け、歩き始めた。
もう用はない。そう言わんばかりの足取り。
ゴトッ。
後ろで何かが落ちた音。
■紅葉 椛 > 「あぁ、疲れた。
証拠に何か持ち帰るのも面倒だし、ここに来てもらえばいいかな」
ふと、ここで何かに気付く。
楽器ケースを置いてきてしまった。
大刀を肩に担ぎ、先程の露店に向かって歩き出す。
■紅葉 椛 > 数分歩くと、主の居ないブルーシートが所在なさげにそこにあった。
その前には楽器ケースが落ちている。
「盗られてなくてよかった。
これくらいしか入れられるのがないもんね」
大刀を楽器ケースに仕舞い、背負う。
少女は、仕事を終えた充足感に包まれていた。
「ふぅ、この手の依頼は久しぶりだなぁ……
なんでも屋も楽じゃないよ」
そう一言呟き、黄衣の少女は夜の闇へと消えた。
ご案内:「スラム」から紅葉 椛さんが去りました。
ご案内:「スラム」に『死立屋』さんが現れました。
■『死立屋』 > 落ちている首、そして首なし死体を見ると、天を仰いで嘆く。
「―――あゝ、誰がこんな酷い事を、
最早老い先短いこんな老人を殺して、一体何の意味が在ると言うのかッ!!!」
落ちている首を抱えると、その場でくるくると回り、
そしてその首を天に掲げる、ぽたぽたと垂れた血が、
顔を、そして服を濡らす。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああ―――ッ!!!」
いきなり泣き始めると、地面を転げまわる。
「衣装がッ!!!
私の大切な衣装がああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
いきなり、ぴたりと止まると、ぱたぱたと服をはたいて、
ゆっくりと、ゆらりと、まるで地面から滑るように立ち上がる。
「―――なんて素敵な染色だ、素晴らしい、ご老人。」
暫く狂ったように笑い続ける。
「ああ、実にいい、実にいい色だッ!!!!
なんというセンス、なんという才能、ああ、なんて素晴らしい!!!!」
■『死立屋』 > 「素晴らしいぞご老人!!!!!
まさに今宵、ここで、貴方に出会えたのは!!!!!
天才と天才の交わり、そして、新たな芸術への昇華の羽ばたき―――。」
崩れ落ちると、神に祈るような動作を取る。
「貴方はもはや、言葉すら語らぬ冷たき躯!!!!
しかしその行動は、私に貴方の才能を存分に示してくれたッ!!!
あゝ、命を賭した芸術、命を賭した衣装、命を賭したあゝあゝあゝ!!!!!」
その男性の首を抱きしめる。
「―――何と、何と尊い事か。何と何と何と。」
そのまま再び地面を転がり、死体のほうに近寄る。
「貴方と言葉を交わしたかった、一言でいいから、あゝ―――。
それを願う事は、悪い事なのでしょうか、あゝ―――。」
■『死立屋』 > 「ヒヒッ、あ、ヒヒヒヒヒヒッ!!!!!」
腹を抱えて笑い始める。
「ハハッッヒヒヒッ!!!!!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!」
バンバンと床を叩く、首を投げ捨てると、
そのまま床を転げまわった。
「ヒヒヒ、何を言ってるんだ俺は!!ヒヒッ!!!」
足をじたばたと動かし、狂ったように笑い続ける。
「アアアヒヒヒヒヒヒヒヒヒアアアアアアアアアアアアアヒヒヒヒッ!!!!」
■『死立屋』 >
―――いや、彼は狂っていた。
裁縫道具を取り出すと、男の首を雑に縫い合せはじめる。
■『死立屋』 > 「『ほつれた』衣装はこの今宵の一笑の礼に、
この俺が、『死立屋』が直して差し上げよう、
その演目≪じんせい≫を続けるかは、貴方次第。」
その場で誰に向けてか一礼する。
「俺は、裏方へ戻るとしよう、裏方らしくな。」
芝居がかってそう言うと、そのままゆっくり、
ゆっくりと近くの闇へと歩み寄って……。
「―――ハハハハハ!!!!!ヒヒッ!!!!!」
突然、腹を抱えて笑い出した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
ハッハッハッハ!!!!ヒヒヒヒッ!!!!!!」
バンバンと床を叩くと、
這いずるように、転げるように、闇へ、舞台裏へと移動していく。
「何が『裏方らしく』だヒヒッ!!!!!馬鹿じゃないのか!!!!!
アアハハハハハヒヒヒヒヒ!!!!!!」
闇の手前、ゆっくり滑るように立ち上がると、大きく手を広げる。
「―――あゝ、私は生粋のッ!!!!」
そして悲観的なポーズを取る。
この『舞台』を見ている、誰かに見せるように。
そして目を見開くと、大きく口を開いた。
「『演者』だというのに―――ブッフッ!!!ヒヒッ!!!!」
『台詞』の途中で笑い出し、近くの壁を叩く。
それだけでは止まらず、腹を抱えて崩れ落ちた。
「だーめだ、笑いがとまんねぇッ!!!!ヒヒヒッ!!!!!」
そうして狂ったように笑いながら、闇へと消えて行った。
■『死立屋』 > その狂ったような笑い声をBGMに、
月明かりをスポットライトに、
死立屋に衣装を直されたその『役者』は目を開き、
『死』から『立』ち上がる。
「ま、待て4倍で足りないならじゅうばッ―――!!!」
男はあたりを見渡し、そして、ため息をついた。
「―――た、助かった、のか?
……なんだったんだ、今のは……」
男は結局『彼』を知らず、彼女のみを知って、
ただその『演目≪じんせい≫』へと戻っていく
『裏方』の事を、舞台に立つ『キャラクター』は知らない。
月というスポットライトから外れると、男もまた、闇へと消えていく。
「―――ヒヒッ!!!!」
闇に、それを嘲るような短い笑い声が響いた。
ご案内:「スラム」から『死立屋』さんが去りました。
ご案内:「スラム」に癲狂聖者さんが現れました。
■癲狂聖者 > スラムの片隅、入り組んだ地形のさらに奥まった場所。
そこには舞台があった。
単に木材がそれっぽく重なっているだけだが――――
フェニーチェという組織は時折、ここを利用する。
違法薬物と演劇の魅力を教え込むための劇場として。
舞台の上に仮面の男が立っている。
舞台衣装に袖を通し、足場の悪い舞台の上をまるでスケートでもするかのように滑らかに移動して回る。
「きみも舞踏会に行きたいのかね」
芝居がかった口調でゆっくりと振り返る。
「よろしい。では仮装着(ドミノ)と天鵞絨(ビロード)の仮面を手に入れたまえ」
「仮装着は黒繻子の、なるべく洒落たやつがいい」
「それから舞踏靴と、とくに今回は黒絹の靴下をはきたまえ」
「で、火曜日の晩十時半ごろ、きみの家で待っていたまえ」
「ぼくが迎えに行くからね」
仮面の男が喜色たっぷりに語りかける。
「とまぁ、ジャン・ロランの『仮面の孔』という作品の台詞ですな」
観客は薬物で酩酊したまま、彼の一人舞台を見る。
■癲狂聖者 > 「薬は十分に行き渡りましたかな……?」
観客の目を引く派手な動作、それは演者の乱れ舞い。
「結構!」
「今宵は私、癲狂聖者(ユーロジヴィ)のステージにようこそ!」
「罪もなき囚人たちよ! 私たち、フェニーチェの劇を見に来てくれたことを感謝します」
腐った目をしたスラムの住民たちの視線は今、彼に注がれている。
「ホラー短篇の雄・ロバート・ブロックがその世界に入るきっかけになったのは、ある映画のワン・シーンを見てからです」
「それは無声映画の『オペラの怪人』ヒロインが怪人の白い仮面を取り去り、その素顔を見た瞬間の絶叫シーン」
「ロン・チャニーが演じた素顔の怪人もさることながら、恐怖映画には魅力的な仮面が数多く存在する」
男は芝居がかった台詞と動きで舞台の上を『滑る』。
ツツ、と移動すれば、まるで魔術師か何かのよう。
そこは異界、口を開いた非日常。
■癲狂聖者 > 「連続殺人鬼(シリアル・キラー)ものに限ってみても、なにより有名な『十三日の金曜日』シリーズ」
「あれはホッケー・マスクでしたな……」
男が手を軽く振ると、手の中にホッケーマスクが現れる。
手品か、魔術か。しかしそのマスクからは禍々しい雰囲気すら感じる。
「『悪魔のいけにえ』の電動鋸男の人肉面(レザー・フェイス)」
「『ハロウィーン』シリーズの怪人ブギーマンの白い仮面」
「あれはSF映画の『スタートレック』のカーク船長のラバーマスクを改造したものというのは有名な逸話です」
話をしながら、男は手の中に何枚もの仮面を用意し、そして消していく。
仮面。そう、仮面―――――男がもっとも執着しているもの。
仮面こそが今日の舞台のキーワード。
仮面で表情こそわからないものの、男の声は喜びに満ちている。
それが胡散臭い、という点を除けば。
好きなボードゲームの話をする少年のように純粋だ。
■癲狂聖者 > 「センスの光るところでは、ミケーレ・ソアビ監督のイタリア映画『アクエリアス』」
「巨大な梟の仮面が錬金術的なムードさえ感じさせてくれたものです」
そこで男は自分の仮面をくい、と人差し指で軽く持ち上げる。
「今日の私の仮面はいかがでしょうかな?」
「私、ユーロジヴィのお気に入りなのですが」
外套を翻し、そうおどけて見せると、観客たちが顔を見合わせて笑った。
演劇に必要なものは何か。
その一つに、観客に共通体験をさせるということがある。
共に笑い、共に泣き、共に怒る。
その一体感が劇を名作たらしめるのだ。
今は、その一体感を増すために薬物を使用しているだけだ。
ご案内:「スラム」にマティアスさんが現れました。
ご案内:「スラム」にヴィクトリアさんが現れました。
■癲狂聖者 > 月光のスポットライト。捻れた世界観の演出。
それらを計算した上で舞台は成立する。
ああ、良い月夜だ。とても良い月夜だ。
「そう! お気づきのように、これらの恐怖映画には、ノン超自然(スーパー・ナチュラル)なストーリーも多い!」
「妖魔・怪物ならぬ、日常的な人間の恐怖。これらを、超自然的なベクトルへと近づけるためには」
コツコツ、と指先で自分の仮面を叩く。
「――――――仮面という異形が必要だったのです」
その時、観客の一人が倒れた。
ドラッグに耐性のない人間が混じっていたのだろう。
仮面の男が指を鳴らすと、その観客は謎の男たちに担ぎ出されていく。
「いやはや、私の夢は実は演者ではなく舞台監督でしてな!」
「こうして人を使う立場に若干の憧れが」
冗談を交えて、仮面の男の話は続けられる。
ご案内:「スラム」に三崎 春華さんが現れました。
■ヴィクトリア > ……あー。
【なんか聞こえてくると思ったら、アレか
スラムには馴染みが深いから知ってる例のやつだ
ぶっちゃけ、あんまタチの良くないヤツだ
安全はどーでもいいのだが、ボクの大事なコマを削り落とすやつだってのがあまり好ましくない
そういった安全や規律は風紀や公安の仕事だ、ボクの知ったことじゃない
そう言う意味で、また復帰したのはあまり好ましくないなーと思いつつ様子を見る】
■三崎 春華 > [「客席」の中には一人の少女。一見スラムの住民に見えるが、舞台からは意思のはっきりした眼――薬物に溺れていない――が見て取れるだろう。少女は微笑みながら話を聞いている]
■マティアス > 「んふっ」
(冷酷に、客観的に、愉快に笑う少年が一人)
「楽しそうですね面白いですね愉快に愉快ですね? ええ、こういう「如何にも」な雰囲気とか、オクスリやってそうな舞台とか好きですね?」
(落第街中に漂う澱んだ雰囲気を楽しみながら、緊急用の細胞をばら蒔くために彷徨いていたのだが、なかなか楽しそうな光景が目の前に広がっているようだ、ニヤニヤしながら一人呟く)
(こういうヤバそうな雰囲気はクズいので大好きだ、物陰から傍観する)
■癲狂聖者 > 「しかし、仮面舞踏会には、堂々と本物の怪魔も忍び込んできます」
「エドガー・アラン・ポオの『赤死病の仮面』という作品をご存知かな?」
「それは――――――」
話の途中で、薬物に淀んでいない瞳を見つける。
「その話はまた次の機会にいたしましょう」
「そこのお嬢様、舞台にお上がりください」
三崎春華を指名し、手招きする。
「あなたの瞳は美しい、さぁ! 一晩のヒロインとなりましょう!」
「それとも、あなたにも役名が必要ですかな?」
「殺戮の舞台女優、とでもお呼びしましょうか」
芝居がかった台詞で客席の少女を呼ぶ。
■三崎 春華 > [こちらに向けて言われている事を確認すると、とりあえず周りを見渡す。他の人に言っているのではないようだ]
「私、ですか?」
「いやあ、照れちゃいますねー」
[少女の服装は演者とは正反対と言えるほどラフだ。木の階段をスニーカーでこんこんと上がる]
「役者不足かもしれませんが、せっかく名前を貰えるのならそれでいきましょう」
「私は≪殺戮の舞台女優(レーヌ・ミシェル)≫」
[靡く飾りがあるかのように、くるりと回ってみせる]
■マティアス > (舞台の上に少女が上がったのを見て、呟く)
「んー、んー、なにか始まるみたいですね?」
(んふっ、と笑いながら心の中で拍手、まだ前に出るつもりは無い)
■ヴィクトリア > あーあー、楽しそーだなァ?
【物陰から見守る。
正直、舞台がどーなろうと割とどうでもいい
なんとゆーか、アレだ
ボクの迷惑になりそーなことをされると気分的にムカつくというだけだ
とゆー訳で、コトの成り行きをとりあえず見守る
困ったことにされなきゃいーなーと思いつつ】
■癲狂聖者 > パン、と手を叩くと、くるりとターンをした。
そして舞台に上がる少女に恭しく一礼。
「皆様、レーヌ・ミシェルに大きな拍手をお願いします!」
観客たちが拍手を始める。
それは扇動。いざとなれば、スラム街の住人程度巻き込んでしまえるという劇団の手管。
しばらく続いていた拍手を、右手を上げて制する。
「世にも怪奇(ビザール)な仮面舞踏会(マスカレード)へようこそ!」
「貴方のようなダンシング・パートナーの到来を待っていました」
「レーヌ・ミシェル………さぁ、私と握手をしましょう」
仮面の男が白手袋を嵌めた右手を差し出す。
「夢のようなひと時を、あなたへ」
その右手の手袋からは僅かに、ほんの僅かに。
注射器の針のようなものが突き出ている。
先ほど住人たちに使った違法薬物と同質のもの。
刺されば、ドラッグの影響を受ける。常人なら。
仮面の男は悪意の握手を求めた。
まるで淀みのない動き、完全に意思の元に制御された一挙手一投足。
彼は演じているだけだ。フェニーチェの一員という、役を。