2015/11/18 のログ
ご案内:「スラム」に“黒い虎”さんが現れました。
■“黒い虎” > ひんやりとした、ある晩。
スラムの中でも比較的、グループやファミリー等をつくらず、徒党化していないところ。
辺りに立ちこめる桃色の煙を不快そうに払いながら、背の高い影が浮かび上がるように現れた。闇の中に黄金色の眼がふたつ、チラホラと漏れる薄明りに反射し、煌めく。
(あまりこっちに来たくなかったけど、しょうがない。
さて、取り決めの場所は、……ここか)
足音もなく、掃溜めを滑るように、静かに進んでいく。
やがて、あばら家の前で足を止めると、短く数回、決まったリズムで扉をたたいた。
そのまま黙りこくって、しばしの間待つ。
■“黒い虎” > やがてキイキイと錆びかけた蝶番が音を立て、扉の向こうから薄汚れた男が顔を出した。
それは辺りを見回し、人気のないことを確認してから、“黒い虎”に耳打ちするように囁く。
『言われた通り、数は揃えましたぜ、旦那。
で、依頼の確認をしてえんですがね。
“特定のルール内で騒ぎを断続的に起こし、落第街一帯の警戒をそれとなく上げる。”
アンタのいう事、俺っちにゃあ理解できねえですが、報酬が出る、間違いないんですかい』
家主の訝しそうな口調に、“黒い虎”は安心させるように両手を上げた。
「ああ、それで問題ないさ。歓楽街から表の方へまで話が漏れればなお有難いが……
ま、贅沢は言わないさ。ある程度まで効果が出はじめたら、撤収して構わない。
それと、これは軍資金だ、とっときなよ。報酬は別に、例のところへ入れとくからさ」
そういうと、長身の影は懐から分厚い封筒を取り出し、相手に掴ませる。
「あくまで威嚇だからさ、くれぐれも、やりすぎないようにね。
死人は絶対なしだ、最悪でもリンチ一歩手前くらいに留めておいてくれ。
あと、“本物”が出張って来る前に逃げること。ま、それくらいかな」
『へへへ、了解しやした。
俺っち達だって、そのくらいわきまえてますわ。あ、“本物”の情報掴んだら、そちらに流しておきやすぜ』
下卑た薄笑いを浮かべると家主は引っ込み、扉が静かにしまった。
■“黒い虎” > (まあ、その封筒、開けた瞬間に広域展開する監視術式仕込んであるけどね。
さてと、あとはこっちで頃合を見て、情報工作しておくか)
“黒い虎”はその後も扉をじっと眺めていたが、やがて踵を返し、来た道を帰っていく。
が、途中で何度か立ち止まり、ひとつの区画をぐるぐる回ったり、ゴミ拾いをしてみたりした後、誰にも気づかれることなく、風と共にその姿を消した。
そのすこし後、路地裏付近を発端に妙な噂が出回り始めるだろう。
“異能もちを優先して喧嘩を吹っ掛ける妙なチンピラたち”の噂。
そして、かれらはめいめいが勝手に、近年、新聞やテレビを騒がせる連中の名前を自称し始めるかもしれない。
そのうわさがどこで尾ひれがついて、あるいはどこで足が生えて歩き始めるのか。
この時点では、まだ、これみよがしに撒かれた“種”もしくは“餌”にすぎず。
ご案内:「スラム」から“黒い虎”さんが去りました。