2017/03/06 のログ
セシル > この場の危機が去ったという意味では、彼らが逃走を図った真意は構わない。
しかし、彼らの悪事の根を突き止めきれなかったのは残念だった。
…もっとも、あの様子では大それたことは難しいだろうが。

「いや、弱き者を守るのは、風紀委員として、剣士として当然のことだ」

礼を言われれば、そう淡々と言いながらも、口元には誇らしげな笑み。
それが、少女がよろめけば、口の形は「あ」という形に変わる。

「おっと…」

よろめく少女の身体を、セシルは自分の身体で受け止めて支えようとした。
華奢な少女の身体を受け止める程度では、セシルの身体は動じもしないだろうが…よりかかるマリアには、セシルの鍛えられた細身ながらも筋肉質で硬質な感触の身体と…もしかしたら、不自然にも思えるような、ささやかな胸部の柔らかさが分かるかもしれない。

マリア > 貴女の読み通り,その真相は実に他愛ないものであった。
が,少なくとも少女と,ここに居るマリアが救われたという事実だけは確かに残る。

「………すみ,ません…っ…。」

青年に受け止められて,マリアは身体をびくりと硬直させた。
申し訳ない気持ちや,気恥ずかしさが耳の先を染めるのに時間はさほどかからないだろう。

「まだ,腕が動かないままだったようで…。」

マリアは受け止められたまま,うまく身動きを取ることができない。
暴れても迷惑をかけるだろうし,青年に全てをゆだねるのが正解だと,敢えて動こうともしなかった。
胸の柔らかさまで感じ取るほどの心の余裕は,まだなかっただろう。

セシル > 「いや、大丈夫だ。
貴殿くらい軽ければ、何ともないよ」

緊張だろうか、身を硬くする少女に、そう言って笑いかけるセシル。
…が、少女の言葉に、眉を寄せ…

「…まだ腕が動かない?よほど持続時間の長い拘束魔術だな…
私に「斬れる」かは分からんが、見せてもらっても良いか?」

と、少女の身体を、自立出来るかどうか様子を伺いながら、腕で支えつつ自分の身体から離そうとする。

マリア > 青年の言葉は優しく,そして頼もしい。
それは,女の子としてのマリアが思い描いていた“王子”のイメージそのものだった。

「……もちろんですけれど…斬…?」

バランスさえ取れれば,立つことは容易だった。
青年に支えられて,マリアはしっかりと,青年の前に立つ。
しかし青年が何をしようとしているのかまでは,分かるはずもない。

セシル > 現実の王子には、「政治」の問題が色濃くつきまとうが、セシルにはその色が薄い。
まさに、「幻想の」「王子様」といった風情だろう。

「…先ほどは、結局人には振るわずに済んだものだがな。
貴殿に使われた魔術の効果が何らかの形で「見える」ものであるならば、私の魔法剣で「斬る」ことが出来る」

少女がしっかりと立てば、少女の腕が、どのような魔術で拘束されているのか、確認しようとする。
…とはいっても、セシルの魔力感受性はそこまで高くない。拘束を示す何かの効果が見えなければ、「斬る」のは難しい。

マリア > 皇子である点はこのマリアも同様だったし,正当な皇子である兄も見た。
だが,兄はそれこそ血統以外にさほど見るべき点など無い,凡庸な人物でしかなかった。

「……私には,ただ腕が,まるで縛られているみたいだとしか。」

敢えて強引に腕を動かそうとしてみるが,やはり動かない。
しかし,それによって動きを抑え込むものの正体がわずかではあるが,見えてくるだろう。
実に単純な,魔力によるロープとでも言うべき拘束魔術。
単純であるがゆえに,術士の手を離れてもそう簡単には自然消滅しないのだろう。

セシル > 「………む、確かに見えんな…」

残念ながら、ぱっと見、魔術についての、分かりやすく視覚的なヒントはない。
セシルの眉間の皺が深くなる。
中性的ながらも彫りの深い顔立ちが、ある意味際立つ。

「…ただ縛られている感覚と、大差ない…?
………あ!」

セシルの口から、閃きの声が漏れる。
少女が強引に腕を動かそうとすることで、少女の腕を拘束する魔力のロープが、服の表面の皺という形で間接的に可視化されていたのだ。

「………少し怖い思いをして腕を自由にするのと、自然に解けるのを待つのと、どちらが良い?
無論、貴殿の身体に傷が出来ぬよう、細心の注意は払うが」

少女を怖がらせないよう、努めて眉間の皺をほぐしてから…少女の顔を、真剣な眼差しで伺いながら問うた。

マリア > 自然に解けるのを待つ,という選択が安全なように聞こえる。
しかし,ずっとこのままでは一人で帰るわけにもいかず,この青年にさらなる迷惑をかけることになるだろう。

「えっと……。」

悩んだのは方法ではなく,目の前の青年をなんと呼ぶべきか,だった。
けれどそれも,ほんの一瞬のことで…

「……もっと怖い思いをするところだったので,その……
 …お兄さんに,お願いしても,よろしいでしょうか?」

…先ほど,男の1人に突進した時もそうだったが,この少女には“怖がる”という素振りが見られない。
もっともこんな場所で大立ち回りをするような少女だ,さほど不思議でもないかもしれないが。

セシル > 「………ああ、私は「お兄さん」ではないよ。
セシル・ラフフェザーだ。好きなように呼んでくれて構わない」

柔らかい苦笑混じりにそう言う。
誤解を解いたつもりだが…ついでに名乗ったので、「名前で呼べ」というアプローチだけに捉えられてしまう可能性は、一応頭においておく。
その後…表情を、再び真剣なものに。

「そうか…分かった。
それでは、見えないロープの位置が分かるように、腕を…そうだな、縛られているのを無理矢理解こうとするように動かして、その状態で止めてもらえるか?」

そう、少女に請う。それから…今度抜いたのは、刃のついた、レイピア。

「付与・魔力《エンチャント・オーラ》」

そうセシルが唱えると、レイピアの刀身が、光を帯びた。

マリア > 「あ…すみません……ラフフェザー様。」

マリアは目の前の青年の性別に疑いをもつ切っ掛けさえつかめていなかった。
実際にはきっかけは既に得ているのだが,気付く気配もない。
だからこそ,貴女が想像したとおりにとらえ,名前を呼んだ。

「…わかりました,こう……ですか!?」

マリアが腕に力を込める…腕や服に不自然な痕が残り,不可視の縄が確かにそこにあるのだという証を作り出した。
目の前で行われる魔法を,しかしクローデットの駆使するそれとはまったくことなる青年の魔法を,マリアはまっすぐに見た。

セシル > 「………あー………。
いや、それは後にしよう」

危惧した誤解の残り方をしたことに苦笑を零しつつも、それは一旦おくことにする。
この少女に傷を残さず、拘束から解き放つのが最優先だ。セシルは、表情を引き締め直した。

「ああ…分かりやすいな。その状態で出来るだけ維持してくれ」

少女の服や腕に残る後から、不可視のロープの位置を類推し…ゆっくり、静かに、そのロープが1ミリ残るかくらいの感じで、レイピアの刃を入れていく。
少女の身体はもちろん、服も傷つけたりしないように…細心の注意を払って。
魔力を纏わせることで、魔力にぶつけられるようになった剣。シンプルな魔力のロープであれば、「斬れる」はずだが…。

マリア > 貴女の思った通り,魔力を纏った剣は魔力のロープを切り裂き,
文字通りマリアには傷一つつけることなく,それを取り払った。

「……っ…!」

両腕が急激に自由になる。
何がどうなったのか,マリアにはさっぱり分からなかったが…

「…取れたっ,すみません,何から何まで,ありがとうございます。」

…ともかく,この青年が恩人であることに間違いはなかった。

セシル > 「…おっと!」

急激に自由になる少女の腕が大きく動くのにぶつけないよう、急いで剣を引く。
それから、剣に宿した魔力を解除して、剣を収めた。

「風紀委員として、魔剣士として、このくらいはな。
………しかし、何故こんなところで、あんな連中に?」

何とない風で尋ねる。
実際のところ、拘束を受けながらも足掻く様子やら、魔法剣を向けられて怯む様子を見せないところやらで、内心はこの少女のあり方を訝っているのだが。

マリア > 「風紀委員,魔剣士…。」

小さくその言葉を繰り返してから,
尋ねられた内容に,僅かに躊躇うような表情を見せた。

「……知り合いの家から帰る途中だったのですが,
 さっきの男たちに追われている女の子に,助けてって言われたので…。」

それは,情けない理由を聞かせるのは気恥ずかしかったからに他ならない。
最初からこの青年が来ていれば,何の問題も無かったはずなのだ。

「…私の力じゃ,どうにもなりませんでした。
 ラフフェザー様が来てくださらなかったら,どうなっていたか…。」

マリアは,改めて深々とお辞儀をする。
風紀委員,そして魔剣士。かつて夢見た“王子様”は今のマリアにとって,一つの目標になり得るものだったかもしれない。
青年を見るマリアの紅色の瞳が,輝いて見えるのはそのためだろう。

セシル > 経緯を聞いて、ふむ、と真顔で頷き、

「なるほど…その彼女の姿は見当たらなかったが、彼女は逃げ切ったと思って良さそうか?」

一応、そんなことを確認する。
目の前の「少女」が、助けたところで力つきたことを恥ずかしがって話すのを躊躇したなどと思っていないセシルには、かえって「少女」の振る舞いが引っかかるのだ。

「…そうだな…以後は、危ない橋は渡らぬように」

深々とお辞儀をされれば、そんな風に言う。
…しかし。

「………あー…夢を見てもらっているところ、大変申し訳ないが。
「お兄さん」ではない、と言っただろう?私は、男ではないんだ」

「少女」の瞳が輝く様を、「いつもの件」かと思ったセシルは、申し訳なさと、若干の面倒くささに頭を掻きながら、改めて、はっきりと真実を口にした。

マリア > 青年の問いかけに,マリアは頷いた。

「えぇ,大丈夫です。私が身代わりになる形になってしまいましたけど…。」

それだけは,自信をもって言える。
もっともその一瞬のためだけに力を使い果たしたともいえるのだが。

「そうですね…,またご迷惑をおかけしても,申し訳ないですし。」

男であるマリアは,無論,この時点で男だと信じて疑わぬ青年に惚れているわけではなかった。
けれどその羨望の眼差しは,貴女をして誤解させるに十分だっただろう。

「……え,……ええぇ!?」

ショック,という風でもない,間抜けな,素っ頓狂とも言えるような声を上げてしまった。
恥ずかしさのあまり両手で口を塞ぐ。そして思い返せば,確かに胸に抱きとめられた時に感じた柔らかさは,男性ではあり得ない。
…様々な感情が交錯して,ともかくともマリアの耳は真っ赤になるのだった。

セシル > 「そうか…分かった。」

「少女」の力強い頷きに、セシルもそれを信じることにした。

「…しかし、そうしてくれると有難いな。
弱者の盾たる風紀委員の立場が、色んな意味でなくなってしまう」

しかし、少女が「危ない橋を渡らない」ことを心がけることに同意したようなことを言えば、穏やかに笑いながらも、どこかシビアなことを言うのだった。

「…ああ…誤解させてしまってすまないな。
こちらの格好の方が慣れているし…こうして立ち回るのにも、都合が良いものだから」

真っ赤になってしまった「少女」をなだめるように、「どうどう」と手でおさえるような仕草をしながら詫びる。
…もっとも、ショックを受けた風ではないのは、セシルからすれば新鮮な反応ではあった。

マリア > 「……………。」

マリアは,貴女の顔をまっすぐに見た。
最初に聞いた声があの野太い声だったのが全てを決めてしまったのだろう,
こうしてみれば,確かに女性らしく見えなくもない。
……いや,正直に言えば,信じられないという心情そのものは変わらないのだが。

「いえ,なんと言うか…いろいろと,すみませんでした。」

自分の性別を明かせない以上,深く話すことはできない。
謝っておかねばと思ったのは,胸に飛び込んでしまったからということだけではないだろう。

「…慣れているとは言っても,どうしてそんな恰好をされているのです?」

その質問は,後から考えれば無粋で無礼なものだっただろう。
けれどマリアはこの時,自分とセシルをわずかながら重ねてしまっていた。

セシル > 「いや、何も気にすることなどないだろう?
さっきのような輩は、誤解したままでいてくれた方が都合が良かったりもするからな」

謝られても、鷹揚にひらひらと手を振ってみせて、朗らかに笑うセシル。
こちらに来て以降、「誤解」は割と「有効活用」しているので、その負の面は背負うと割り切っているのだ。
…が、目の前の「少女」が事情を掘り下げようとしてくれば、少し困ったような笑顔に変わり。

「…面白い話ではないよ。
私は少し特殊な生まれで…その関係で、男装で育っただけなんだ」

「故郷ではたまにあったことだよ」と、苦笑混じりに。

マリア > 「そういう…ものなのですね。
 誤解していてもしていなくても,ラフフェザー様はあんな男たちには,負けないと思いますけど。」

貴女が明るく笑うものだから,こちらも楽しそうに笑い返す。
けれど,つい聞いてしまった疑問への答えは,まさしく自分もそう答えざるを得ないだろうと,そう思える答えそのもので…

「……ご,ごめんなさい,こんなこと,聞いてしまって…!」

少女は妙に慌てて質問について謝り,それから…

「……本当に,お強いんですね,ラフフェザー様は。
 羨ましくなってしまうくらいです。」

セシル > 「威圧だけでことが片付けばそれに越したことはないだろう?
そういう時に、「誤解」はあった方が有難いんだ」

「不本意な部分はないでもないがな」と言いながらも、軽く笑う。
色々あって、それを割り切って…今のセシルがいるのだろう。

「…いや、気にしなくて良い。かなりの頻度で「誤解」が生じている以上、湧いて当然の疑問だからな」

「さっきから、随分感情が忙しそうだな?」と、「少女」の振る舞いについて軽口を叩く。
いっそ、それで「少女」の萎縮が取れないものかと。

「…まあ、鍛錬は幼い頃から積んできたからな。
地味だが、鍛錬は裏切らん。少しずつでも、前には進める」

「羨ましい」と言われれば、そう言いきる。
淡々とした表情ながらも、そのきっぱりとした口調には、自ら積み上げてきた強さへの自負が滲んでいる。

マリア > 感情が忙しそうだ,という言葉に,少女は思わず頭を掻く。

「……すみません,お恥ずかしい限りです。」

小さく息を吐いて,気を取り直した。あまりにも衝撃が大きすぎて,動転していた部分が少なからずあったのだろう。

「…私がラフフェザー様を男性と見間違えたのも,男性より…その,男らしいというか…頼もしいというか……。
 あ,これ失礼な言い方ですね……なんていえばいいかなぁ…。」

一頻り悩んでから,あぁ,と何か思いついたように,

「まるで,騎士様か,王子様みたいでしたから。
 …その調子じゃ,きっとたくさんの女の子に追いかけられちゃいますよ。」

鍛錬によって自ら得た力と,自信。それは自分に欠落しているものだった。
何より眩しく映ったのは,性別を偽りながらも,自身に満ち溢れたその在り方。
……その裏に,いったどれ程の苦悩,努力があったのだろう。

「……そろそろ,帰ろうと思います。
 申し遅れましたが,私はマリア=フォン=シュピリシルドと申します。
 ラフフェザー様,またお会いできましたら…嬉しいです。」

…貴女の剣技も,その言葉も,そして立ち振る舞いも,マリアは当分忘れることができないだろう。
今はまだ,羨望の眼差しを向けることしかできないが……。

セシル > 「いや…女生徒としてはあまり見ない反応だったもので、ついな」

「こちらこそすまない」と、少女の様子を見て笑う。
赤くなって動揺する…というのは、寧ろ男子生徒に多い反応だったような気はする。
…しかし、流石に「真実」には至らない。「少女」の姿が、あまりにも「少女的」過ぎるのだ。

…そして、「少女」が「男らしい」という言葉を使わないように、一生懸命逡巡して…そして、「騎士」や「王子様」に辿り着き、ご丁寧に「忠告」までしてくれば。
………なんかもう、全部慣れ過ぎていて、一生懸命な子どもに暖かい視線を送る大人みたいな感じで、困った笑いを浮かべるしかなかった。

「…全部言われ慣れているし…何だったら、女生徒にも追いかけられ慣れているからな。
気にしなくて良いよ」

そう話す声には、はっきりと笑声が混ざっていた。
…と、名乗られつつも、相手が帰ることを表明すれば…

「マリアだな。帰るのだったら、家まで送るか?
安全な区画まででも良いが…あんな目に遭って、大変だっただろう」

「何かあってはまずいからな」と、真剣な表情で、マリアの表情を伺った。

マリア > クローデットの魔法が無ければ,あるいは看破されていたかもしれない。
しかし,マリアは一方で,奇妙な感覚を抱きつつあった。
看破されたとしても,自ら告白したとしても,貴女はきっと,それを大きな問題にはしないだろうと。

「……………。」

それは貴女の境遇や,その立ち振る舞い,言葉の一つ一つ,それらすべてが,そう感じさせる何かを持っていたのか,
もしくは単に,マリアの願望を貴女に投射しただけのことだったのかもしれない。

けれど,少なくともマリアは,この偽りの姿で貴女と過ごす時間が延びることを厭わなかったし,
ヴィルヘルムとして貴女ともう一度出会いたいとさえ思っていた。

「…お願いしてもよろしいでしょうか。
 少し強がっていましたが,無理をし過ぎてしまったので…。」

身体は限界を超えている。次に何かあれば,まず間違いなく無事では済まないだろう。

「…もし,お時間がありましたら,お茶でもいかがですか?」

そんな提案をしながら,マリアは貴女とともに歩む。

ご案内:「スラム」からマリアさんが去りました。
セシル > 「………?どうした?」

マリアの不意の沈黙に、そんな言葉を投げかけるが、まだ「少女」であり続けねばならないマリアは、核心に迫る返答をすることはないのだろう。

「…他人を守りたいならば、自分を守る余裕を確保しておくことだ。
でなければ、燃え尽きてしまって逆効果だからな」

無理をしたことを白状する「少女」に、そう、笑いながらも真面目な忠告をして。

「…お茶か…有難い誘いだが、今回の件の報告をせねばならんからな。
また今度、機会があればご馳走になろう」

そんな風に言って笑いながら、「少女」を、「彼女」が望む地点まで送っていくだろう。

ご案内:「スラム」からセシルさんが去りました。