2018/05/26 のログ
ご案内:「スラム」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 違反学生を始末する過程で負った傷は、空が白み始めても塞がらなかった。
人通りも、野良猫の気配もない路地の隅に、ひとりの教師が身を隠している。
廃墟と廃材の陰から通りの様子を窺いながら、自分の身体を見下ろす。
脇腹や太腿の布地が裂かれ、血を滲ませている。
裸眼の眼差しはどこか朦朧として、不眠の疲労を感じさせた。
「……おかしい……」
普段ならば、持ち前の馬鹿みたいな魔力でとっくに快癒していてもおかしくなかった。
それがまるで常人のようにじくじくと疼き、痛んで熱を孕み、血を滲ませている。
命を落とすほどの出血ではないが、思うように動けないのは事実だ。
返り血と額からの流血で前髪はぼさぼさだし、気に入りの服は台無しになった。
埃っぽい顔を顰める。身綺麗にしていたいと言った昨日の今日でこの有様だ。
■ヨキ > 治癒も防護も、理論だけなら概ね理解出来るようになった。
それに反比例して、魔術の出力自体はどんどん落ちていった。
理屈を学ぶごと、見る間に不器用になってゆく。
「……スランプですらないな、」
元から不向きと自覚していたのだから。
どうやら自分は、厄介な袋小路に迷い込んでしまったものらしい。
自分が見えていないだけで、恐らく出口自体はあるんだろう。
一刻も早く解決しなければ、常世島の秩序の守護に支障が出てしまう。
柄の悪い二級学生のように暗がりに座り込んで、頭上に広がりゆく朝の光を見上げる。
■ヨキ > 不意に、魔力を扱えなくなってしまう未来を思って薄ら寒さを感じる。
これまでずっと、自分は超常の身体能力と魔力とに命を救われてきたのだ。
そうしたある種の無謀が出来なくなるとすれば、常世島の裏側で荒事を生き延びることは困難だろう。
体術も、魔術も、精神力も、何もかもが足りない。
人間だからこそ辿り着ける境地がどこかにあると信じて止まなかった。
「………………、」
目を閉じる。昨日の訓練施設で味わった一瞬の明晰を、再び手繰り寄せるために。
殺した息はごく静かだ。それでも路地に漂う血の臭いだけは、どうしたって消せはしないが。
■ヨキ > 朝を迎えてようやく眠りに落ちるこの街で、傷を塞いで動けるようになるまでは少しの時間が要った。
負けるものか、立ち止まってなるものかという思いが日に日に増してゆくのを感じる。
廃材がからりと揺れる音が小さく響いたその後は、はじめから何者も居なかったかのように忽然と姿を消していた。
ご案内:「スラム」からヨキさんが去りました。