2016/06/25 のログ
ご案内:「研究施設群/地下研究施設跡」にパドマさんが現れました。
■パドマ > 求めていた敵は既にいなくなっていた。
何らかの抗争によるものか、撤退したのかは不明であったが、広大な地下の研究施設跡へ足を踏み入れた女性を待っていたのはもぬけの殻だった。
危険性の高い物体を封じ込めておく為のエアロックつきのクリーンルーム。試験管型のカプセルには不気味な残骸が漂っていた。人のようで人ではなく、機械のようで機械ではないそれ。肉の部分は腐敗し、機械の部分のみが浮き彫りになっていた。
平素浮かべる穏やかなる表情ではない、プレパラートを覗き見る顕微鏡が如き視線を投げかけるは黒衣の女だった。
貴重な研究物を放置してまでも逃げなければならなかった理由が知りたくて操作盤に手を伸ばす。既に電力は死んでいた。パネルに手をかけると細腕からは信じられない馬力を発揮し、金属製のそれを捻じ曲げて手を突っ込んだ。
「電力………これでしょうか?」
微かな駆動音。パネルの一分が火花をあげた。
モニターが起動すると情報を吐き出していく。不気味な検体の状況は不明と表示されたままであった。
ため息を吐くと検体の濁った瞳を見つめる。
「あなたはどのような生命だったんでしょうか。
戦いのため? 実験のため?」
答えてはくれなかった。
■パドマ > 誰も居ないならばいかなることをやっても許容されてしまうのがこの世の道理。
ごく普通の女性としての思考と異常な機械の思考を同居させるパドマが抱いたのは好奇心であった。生きているかもわからない異形を目覚めさせてみたら、面白いことになるかもしれない。
操作盤に指を滑らせる。パスワードを求める一文に瞑目したのも一瞬だけ。目に不気味な輝きを宿らせると、操作盤へ指を向けた。爪が伸張していくと操作盤の内部へと蛇のように入り込んでいく。
ややあってパスワードが自動で入力された。指を抜くと、突っ込んであった手も抜いた。
警報が鳴り響く。警告ランプがけたたましい音と共に光を振りまいている。
試験管型カプセルが下へとせり降りていく。強烈な腐敗臭の漂う異形がぐしゃりと膝らしき箇所から床へと滑り降りて倒れこんだ。ぴくりとも動かない。
好奇心に目を輝かせたパドマが傍らに屈む。身動き一つしないそれの金属部品を指でなぞる。
「人のようですが 人ではない。あなたのお名前はなんですか?」
答えてくれるはずもない。異形を前にあれこれ視線を彷徨わせては観察を続けていた。
■パドマ > 「………へぇ」
異形が突如動いた。まだ生きていることを誇示するかのように目を開くと、女の腕に噛み付いた。
根元から食いつかれも女の表情は驚愕に歪むのみであった。
女が怪物の首を掴むと強引に引き剥がしていく。女とは思えぬ怪力にわずかに怪物が困惑を見せた隙をつき、腹部に蹴りが炸裂し床を滑っていく。
食いつかれた左腕は人工皮膚が剥がれ、強酸を含む唾液のせいかケロイド状に溶けてしまっていた。強く振り払ったせいかフレームが歪み奇妙な角度に曲がっている。
女が動作確認のために左手の指を曲げたり伸ばしたりする間に怪物が地を蹴り疾駆する。身のあたりが炸裂し、女の体が壁にめり込んだ。
女の額がざっくりと切れて赤い血液が滴っていた。液は空気に触れて白く変色していた。
「生物兵器というやつでしょうか? ぁあいけない。人を害することなど、あなたの本来の意思に反することでしょうに」
すらすらと語りかける。異形が吼えた。
■パドマ > 「ॐ」
異形のあぎとを断続的な弾丸の奔流が弾き飛ばした。
女がいつの間にやら手に握った収束銃身を持つ機関銃を片腕一本のみで撃ちまくっていた。異形が顔を腕らしき物体で覆うが、腕さえも鉛弾の連鎖によって削り取られて体液と化していく。
女が弾丸の尽きたそれを放棄すると、制御用コンソールに手を伸ばし右腕一本のみで持ち上げた。投擲。異形の腹部にめり込む。異形は溜まらず吹き飛ばされた。
異形の怪力で捻じ曲がった腕へちらりと視線をやる。肩の角度を変え、床に押し付けて自ら強引にフレームのゆがみを矯正した。
「フレーム強度の弱さは欠点ですね……。
お仕事に差し支えなければいいんですけど」
ぶつぶつと心配事を口にする。銀色のフレームの露出した左腕で床に転がっていた鉄材を握る。
■パドマ > 異形が飛び掛ると同時に鉄材を投擲。
遥か上空に位置するそれから武器を空間へ顕現させた。握るは本来対物火器として運用されるロケット砲。発射。弾頭が空中でロケットモーターに点火し、怪物の腹を食い破る。炸裂圧に耐え切れず怪物の体がばらばらに砕け散った。
簡素な樹脂製の筒を投げ捨てると、それに歩み寄っていく。砕け散った肉体と機械部分。死んでいる。
ほうとため息を吐くと、銀色のフレームの露出した自身の腕を見つめる。
「いけない。何か隠すものが無ければ帰れませんね」
都合よく布でもあればと視線をめぐらせる。布に該当しそうなものはなかなか見つからない。
■パドマ > ようやく見つかったのは白衣であった。
ボロボロで研究には適さないであろうそれをとると羽織る。男性用のためか外套のようになってしまったが、傷ついた箇所を隠すことはできた。
ほうとため息を吐くとその場を後にした。
ご案内:「研究施設群/地下研究施設跡」からパドマさんが去りました。