2016/12/19 のログ
ご案内:「先進異能開発研究所」に飛鷹与一さんが現れました。
飛鷹与一 > ここを訪れるのはもう何度目になるだろうか。未だに慣れないこの先進異能開発研究所。
最先端の異能の開発、という凡人にはよく分からない研究を専門にしているらしい。
本来なら少年に一切関わりは無く、風紀委員の仕事だとしてもまず訪れる必要性が無い場所だ。
だが、こちらには転校当初から嫌々ながらも仕方なく世話になっている。

(…それでも、俺の異能の根本的な所は未だに不明、なんだよな)

そう、自らの地味に厄介な異能を制御、あるいは消去する手段を求めて”人体実験”に応じている。
これまでも、よく分からない薬品を飲まされたり、色々と身体検査をされたり測定されたり。
思い出すのも億劫なくらいに色々されたのは確かだ。

ただでさえ死んだ魚の如く生気のない瞳が余計に死んでいる…ここは苦手だ。
やがて、自分の名前を呼ばれてとある博士の研究室へと移動する。

『やぁ、飛鷹クン。調子はどうかな?相変らず君はゾンビみたいな目をしているねぇ』

「……どうも、博士。…それで、今日はどんな検査を?」

何時にも増して無表情かつ淡々とした口調で問い掛ける。この博士は苦手だ。
何と言うか、常にニヤニヤしてて人を小馬鹿にしていて対象を実験動物にしか見ていない。
それはまだ我慢できるが、人の過去すら抉り出すように責め立ててくる。それが嫌いだ。

飛鷹与一 > 『いやいや、その前に君にひとーつ、忠告…と、ゆーか宣告をしなきゃならないんだなぁ』

「……何ですか?」

『うーん、君…このままだと遠からず死ぬよ?…もしくは、”また”誰かを殺しちゃうかも?』

「……は?……どういう事ですか一体」

ゾワリ、と悪寒とも憤怒とも付かぬ感情が渦巻く。…遠からず死ぬ?…いや、それよりも。
”また”誰かを殺すとはどういう事だ。死んだ瞳を僅かに細める。
しかし、件の博士は相変らず人を食ったような笑みを浮かべて楽しげだ。

『またまたぁ、惚けちゃって。…だって君ぃ…ご両親殺しちゃってるじゃない?
おまけに、お兄さんを犯罪者にしちゃって、妹さんまで廃人にしちゃったんだよねぇ?
…あーでも、君の異能のせいだから君自身は悪くないんだよね?ゴメンゴメン』

「………。」

ギリ、と無言で拳を握り締める。血が滲みそうな程度にはそこに力が込められている。
出合った時からそうだが、この博士はこちらをよく煽ってくる。
しかも、このように人の地雷を平気で踏んで…更に、掻き回してくる。

「……それで?俺の異能に付いていい加減、何か進展はありましたか?」

渦巻く感情を抑える…抑え込む。ただでさえ風紀委員という立場だ…ここで博士に暴力を振るえば。
風紀委員会に迷惑を掛けるし、下手したら停学か最悪は退学になる可能性もある。

飛鷹与一 > 『おやおや、つまんない反応だねぇ。けど…分かり易いねぇ飛鷹クン。もうちょっと煽り耐性を付けたまえよ』

……正直に白状するならば。相手を理解する事を大切にする少年でも限度は矢張りある。
この博士は、取り敢えず一発殴りたいがそれは駄目だ。静かに深呼吸して自らの頭を少しでも冷やそう。

「…それで、俺が遠からず死ぬってどういう――『まさに君の異能だよ』……え?」

『君の異能は、まぁしょーじき”正体は”分からないけどねぇ。
確実なのは、因果干渉…あるいは運命改変に近い属性だという事なんだよね。
ただー…君の場合は、力のコントロールどころか、オンオフも最低限の調節すらも出来ない。
おまけに異能の気配がひっじょーーーに薄い!余程そっちに長けた人じゃないとまず気付けないだろうねぇ』

「…ええ、そこはもう何度も同じ説明を受けてる気がしますが。俺が聞きたいのは…」

と、尋ね返そうとした所で、博士が人差し指を立ててこちらへと指し示す。
相変らず、それはもう人を食ったようなふざけたニヤニヤ笑いのまま。

『だからねぇ、常に発動しっぱなしなのが問題なのさー。
君のお話だと、どうも生まれ付きみたいだしぃ…少なくとも15,6年?はずっと異能がオンな訳じゃない。
…それで君自身になーんも異常は無い。…そんな不自然がある訳ないよねぇ?
……生命力を削ってるんだよぉ、君の異能は君自身の』

「……それは、つまり」

つまり、この異能の代償は自身の生命力…寿命で、既に15,6年も発動し続けているから、かなり生命力が削られていると?
そんなふざけた事が…とは言えない。腹立たしいが、これでこの博士は意外と有能らしいのだ。

(……自分を削って、周囲に無差別に変化を与える…?それが俺の異能の本質?)

ご案内:「先進異能開発研究所」に飛鷹与一さんが現れました。
飛鷹与一 > 『ククク、それで周囲に与える変化はランダムっていうのが滑稽だねぇ。
法則性も何にもなくて?何を齎すのか完全な博打で?それで、君自身は何一つ出来ないと。
クッハハ、いやぁ本当に君はアレだなぁ。引っ掻き回す道化役みたいだねぇ…うん、君はやっぱり『掻き乱す者(トリックスター)』がお似合いかもねぇ』

「……博士、そのふざけた名前はどうにかなりませんか」

この博士が命名したその名前が気に食わない。が、自分の異能はデータベースにソレで登録されているらしい。
掻き乱す者…否定は出来ないのが腹立だしい。自分自身の命すら掻き乱して削っているのが。

『いーじゃない、道化も案外楽しいもんだよ?…いやぁ、でも飛鷹クンは真面目だからねぇ。
…うん?あぁ、そうかそうか!真面目だからこそ道化役に最適なのか!クッハハ、痛快痛快!』

一人笑って手を叩いている博士を死んだ瞳で見据える。我ながらここまで煽られて我慢できてるのが不思議だ。
悔しい事に、異能に関しては彼の分析は割と正鵠を射ている面も多大にある。だからこそ余計に…。

飛鷹与一 > 『いやぁ、笑った笑った!しかしアレだねぇ飛鷹クン。
……君さぁ……”死んだ方が価値があるんじゃない?”』

ブツン、と。何かが切れたような音が聞こえた気がした。幻聴だろうか?そうだろうと思いたい。
ゾワリ、と異様な気配がハッキリとこの研究室内に漂い始める。
発生源はこの少年…更に、目に見える形で何やら幾何学模様じみた羅列が薄っすら浮かび上がる。

『ウヒャヒャ!飛鷹クン、ちょーーっと、堪え性がないんじゃあない?でも、いいねぇいいねぇ!
君の力の”本質”がちょーーっと顔を出してきたじゃない!!』

喜ぶ博士の後ろにあったデスクが不意にパソコンごと”蒸発”する。
何の前触れも無く、魔術でもない。”最初からそこに無かったかのように”消し飛ばした”。

『おぉ!?凄いねぇ、これはアレかい?分解?いや解体かな?いやいや、存在を改変して消し飛ばしたのかな?
…ほらほら、そんなもんじゃないだろぉ?飛鷹クン。もっと出してくれないと正体が見えないじゃーないかぁ』

「………っ…!!」

ギリッと奥歯を噛み締める。頭の片隅の冷静な部分が警鐘を鳴らす。
これは異能の暴走…正確には、その前兆に近いものだ。このまま解放したら即座に自分は死ぬ。
…色々と博士には言いたい事があるが、そこは堪える。…目の前に浮かぶ幾何学模様を見る。

(…初めてみるけど、これが俺の異能のハッキリした形なのか…?)

そもそも自分の異能に明確な形などあるのだろうか?と、ボンヤリ考えながら…右手を握り締めて。

「……痛っ…!」

取り敢えず自分自身を思い切り殴った。その衝撃で幾らか気分がクリアになってきた気はする。

飛鷹与一 > 「……人を煽るのは結構ですが…生憎と、自滅するつもりはまだありませんので」

自分を殴ったお陰である程度マシになったが、これどうやって止めればいいのだろうか?
…むしろ、早く止めないと研究所が消滅するか自分が死ぬ。

(制御…制御しないと。いや、いきなりぶっつけで出来る筈がないし。…嗚呼、むしろデスクとパソコンなんか消し飛ばしてしまってるし、弁償額捻出しないと…)

冷静なようで一部現実逃避しかけているが、ギリギリ留まっているとはいえ止め方が分からない。
そもそも、目に見える形で異能が発現したのが初めてだから対処法が分からない。

(…博士は…ああ、駄目だ凄い楽しそうだからアテにならないししたくない。
それに、博士の口ぶりだと俺の異能の本質はまだこの先にあるっぽいし…)

取り敢えず、普通に死にたくないので何とかしよう。イメージ…制御…固定…。

「……空」


昨日もとある講師と談笑しつつ見た空をイメージする。イメージを固定したらそこに力を”移す”ような。
力の流れをそちらに傾ける。水の流れが分かり易い。そして…

「……そっちに…流…す!!」

不意に異様な気配が研究室内から消え、少年の周囲に現れた不可思議な幾何学模様が消える。
そして、彼自身は気付いていないが、この研究所の真上…上空に数メートル程度だが”穴”が開いていた。…それも、暫くしたら消えてしまうだろう。

『…何だ、もう終わりなのかぁ…つまらん、ほんとーにつまらん!
飛鷹クン、もーちょっと、男なら根性を出さないといかんよ?』

と、いけしゃあしゃあとブーブー文句を垂れ流す博士は無視だ。
正直それどころではない。何かゴッソリ体から力が抜けて今にも倒れそう。

飛鷹与一 > (…マズいなこれ…視界がチカチカするし、体中からゴッソリ何か抜け落ちた感覚があるし。
…フラフラする、平衡感覚もおかしい。…やっぱり博士の言うとおり、自分の生命力を削ってるのか…?)

だが、ここで倒れたら目の前の博士に何をされるか分かったものではない。
残念ながら、この博士は救護を呼ぶどころかこちらを人体実験するだろう。賭けても良い。

「……博士、今日の検査はこのくらいでいいでしょうか?」

物凄い虚脱感をなけなしの気合と根性で耐えながら尋ねる。
博士は何か口を尖らせていたが…一応オーケーらしい。
あと、消し飛ばしたデスクなどの弁償はいらないそうだ。こちらの異能の一端を見れたのが何だかんだご満悦らしい。

(…こっちはもう情報処理が追い付かないしフラフラなんだけどな…ハァ)

ともあれ、頭を下げてから重い体を引き摺って研究室を出る。
…研究所の外までが凄く長い距離に錯覚してしまう。

「…これ、回復するんだろうか?してくれないと困るんだけど…」

自分の生命力とやらに賭けてみるしかないのだろうか?

飛鷹与一 > 「…何とか…研究所の外に出て…せめて、寮の入り口…くらい…は…」

そこまで呟いた所で盛大にぶっ倒れて意識を失う。
他の研究員が何だ何だ?と、少年へと駆け寄ろう。その後、救護施設へと運ばれていったかもしれない。

ご案内:「先進異能開発研究所」から飛鷹与一さんが去りました。