2018/07/24 のログ
■江風 白 > またここに来てしまった。もうここには何もないとわかっているのに。
ここは元々自分が育った場所、つまりは実家のようなものだ。
建物内の通路を歩きながら一つの部屋の前で足を止める。
「ただいま。」
扉を開くと、そこは実験用の動物でも飼っていたと思わせるような、一辺3m程の小さなドアの付いたガラスの箱がポツンと置かれた部屋だった。
周囲にはいくつかのデスクと監視用のカメラが取り付けられた跡、破壊されたPCが置かれてあった。
今でも思い出す。僕はここで生まれ、育ち、そして廃棄されたのだと。
■江風 白 > なんとなく、ガラスの箱のドアノブを捻る。が開かない。
というよりも壊れているのだろうか、長い間放置されたせいで開かないようだ。
ガラスの前に座り込めば、何もないガラスの内側を眺めながら思い出にふける。
「やっぱりここが一番かな...。」
落ち着ける場所とでも言った方がいいだろうか?
学校よりも、自室よりも、あの暗い路地裏よりも、よっぽどここの方が安心できる。
数えきれないほどの痛み、重すぎる期待、僕という存在が完成したときの先生たちの顔。
今でも鮮明に思い出せるほどにここは心地のいい場所だ。
■江風 白 > そんなことを考えている中、ふと床に落ちている資料に気づく。
前回来たときはこんなもの落ちていなかったはずなのだが。
興味本位に拾い上げ、さっと目を通す。
「これって...次の棟の場所...。」
目を大きく開けば、舐めまわすように何度も何度も内容を確認する。
この資料がダミーでなければ発行は一週間前、つまりはまだ棟がこの場所にある。
立ち上がり、その書類をポケットにねじ込めば、こうしてはいられないと部屋を飛び出した。
これが自分に向けられたものであれば、まだチャンスが残っているということ。
まだ僕には、価値があるのだと。
ご案内:「研究施設跡地」から江風 白さんが去りました。