2018/11/20 のログ
ご案内:「異能研究特別室」にダリウスさんが現れました。
ダリウス >  
「ふあーあ……ふぅ…流石にこう籠もりっきりだと…肩、…がッ」

デスクについたまま、両腕をぐいーっと上にあげる
ミシミシという音がした

「やれやれ…肩こりに効く異能とか発現しないかな…?」

トントン、と自分で自分の肩を叩きつつ、
デスクに置かれていた、すっかり冷え切ったコーヒーを口へと運ぶ

『そんな都合良く、簡単には自分の欲しい異能は手に入りませんよ』

室内の誰かがそう相槌を打つ

「だよね。僕たちの研究が進めばそのへんにも光明が見えるんだけど。
 ──よし、みんな。少し休憩しようか」

部屋の端々からはい、と返事があがる

ダリウス >  
研究室の面々は、連れ立つようにして部屋から出ていく
こういう演出も必要だ
人間は本来、休みなしで働くことなんてできないのだから

早朝に出勤し、仕事をこなし、休憩と食事を取り、仕事を片付け、帰宅する
最低でもそう動かさなければ、周りから怪しまれてしまう
能率は悪くなるが、変に嗅ぎ回られるよりはずっと良い

「さて」

ブラインドと窓を開けて室内を換気する
吹き込む風は肌寒い、それでも澱んだ空気よりは心地が良かった

ダリウス >  
「制御薬の流通は上々、かな…。
 でももう少し多くのデータが欲しい…副作用は可能な限り潰さないと、大きな事故に繋がる…」

デスクへとかけなおし、コンピュータのシステムを立ち上げる

──そこには大量の制御薬が落第街を中心にバラ撒かれた、その拡がりと撒かれた数のデータ
そしてそれを起因として起こった事件の報告書が連なるようにいくつも表示されている

「"異能を持っていない、と思っていた人間"も制御薬を使うことで異能者として覚醒できる…。
 うん、やっぱり異能がないのではなくて、使い方がわからない、使えない人間も此処には多かったんだ」

顎先に手を当て、提出されたデータに満足げに頷く
仮説の一つは証明に近づいた、あとは───

「薬の効果は個体差によって24~72時間程度でバラつきがある…。
 元々異能を使えなかった人間は、薬が切れると制御できなくなり…力の暴走に繋がる、か。
 予測の範疇だけど、此処が一番の改善点かな………」

ダリウス >  
「…あとは、薬の性質そのものの問題点……」

異能の力に対する精神的な影響を限りなく薄め、制御を可能にする
言い換えれば自我・自己というものが自覚なしに薄くなってゆく

罪の意識が軽くなる、躁鬱が激しくなる、自分で自分を抑えることができなくなる

突然自在に使えるようになる、超常の力
それを躊躇わず悪事に使う…そんな事件の報告もいくつか上がっていた

「───は、後回しでいっか」

最も大事なデータ、それは精神の揺らぎによる、異能の力自体の変質
制御薬により御しやすくなった力、故の新たな側面の開花…という報告は上がっている
けれど異能そのものが変化を起こしたというデータは、まだ出ていない
その結果が出てこないことには、重大な仮説の一つが証明されることはない

ダリウス >  
「これだけの臨床実験を経て、今だ結果はなし……。
 じゃあ、仮説は間違っているのか……とするのは、まだ早計かな…」

システムを落とし、コーヒーを片手に立ち上がり、窓の外を眺める
寒空、そのうち初雪でも拝めそうな空だ

「…もし人の心によってすらも異能の力が変化しないとしたら今の研究は完全に手詰まりだ。8年間が無駄になる。
 ───可能性が潰えるまで、データを集める他にない、けど……」

流石に寒くなってきて窓を閉める
ブラインドも閉じて、暗くなった室内で再びデスクについた

「(でも僕が間違えているとしたら…涼子、一体なぜ君の異能は変化したんだ……)」

自らの妻の死と、死後肉体を失っても存在し続けた異能の力
で、あるならば肉体ではなく精神に依る力は確実に存在する

制御薬を用いることで、当時起こった現象の証明に近づける……はず

「…結局僕の仮説に縋って、犠牲を厭わない人体実験を続けるしかないねえ」

───2時間後、異能研究特別室には再び灯りが灯っていた

ご案内:「異能研究特別室」からダリウスさんが去りました。