2015/08/26 のログ
ご案内:「第一演習場」に迦具楽さんが現れました。
迦具楽 >  
【保健室から抜け出して数日。
 知人から巻き上げた金で服を買い、適当なところで食料を調達し、神社の裏手にある禁足地で寝起きしているうちに、体調は十分に回復した。
 その間にも、少しずつ今出来ることを確認していった結果、自身の能力についてもある程度の把握が出来ていた。

 ――まずは食事に伴う生理作用。
 人間と同様の消化器官を持っているものの、その消化作用は人間のものと別物である。
 胃に落ちた物質を即座に分解し、エネルギーに変換し吸収する。
 そのため、器官はあるものの排泄を必要としない。
 水分は直接エネルギーに変換されないが、どうやら、人間を模した器官を維持するのに必要なようだった。

 ――次に身体能力。
 人間のカタチを模しているだけあって、やはり機能は人間のものに準拠しているらしい。
 とはいえ、その能力は人間の範疇にとどまらないようだ。
 回復してからある程度、軽く運動してみたものの。
 それなり以上の動きはできるようだった。
 どうやらエネルギーの蓄積に比例して、能力は強まっていくらしい。
 このことから、カタチこそ人間であるけど、実際は今もこの体はエネルギー体である事がわかった。

 ―――そして特殊能力と言えるもの。
 熱や炎の吸収能力は変化なし。
 今までどおり接触していれば人が相手でも変わりない。
 扱える熱量はあからさまに減ったけれど、それでもあの破壊神相手でもなければ限界まで引き出す必要が無いものだ。
 問題は、体を無変換状態のエネルギー体……流体の状態に戻れないこと。
 変換後の、人間の体を構築した状態が基本にされているらしく、これから大きく逸脱できないのだ。
 おかげで自衛能力が大きく落ちているのはいただけない。
 とはいえ、体の一部のみなら再変換も可能なため、応用次第ともいえるけれど。
 後は物質への再変換も、この体の維持に支障ない程度ならコレまで同様に行えるようだ。
 衣服をはじめ、とりあえずの道具ならあまり気にせず使えそうだ。
 最悪、変換した物質をもう一度体に戻せば、効率は悪いもののエネルギーの回収も出来る。
 暫く、荒事になった場合は、この物質変換と、一部変形で対応するしかないだろう。
 となると、この体の動かし方にもなれなくちゃいけないが――】

迦具楽 >  
「……案外、動けるものね」

【迦具楽の足元に倒れ伏した、四体の黒い影のような獣。
 演習、訓練用に即席で製造される魔道生物だ。
 これらを相手する演習メニューは、中々に過酷で怪我をすることも多いらしいのだが。
 ストレッチをするように手足を伸ばしていれば、その間に魔道生物達は霧のようになって散っていく。
 スペックこそ高い相手だったが、パターンさえ、動きにさえ慣れてしまえば対した相手じゃなかった、が】

「結局、ただ使い捨ての木偶に過ぎない、か」

【たった今打ち倒し、消えていった影を見て。
 自分と重ねずにはいられなかった。
 二度死んで、生き返り。
 迦具楽は既に、自分は”自然発生した生命”ではないと考えるようになっている。
 だとすれば、何者かによって、何かの意図を持って作られた存在に他ならない。
 ならそれは、誰が、一体何のために?
 自分の正体を知ろうと思考を進めていけば、それは自ずとぶつかる疑問であった。
 役割も知らず、目的も知らず。
 不幸にも自我を得て、ただ生きている。
 作り物だというのなら――自分は、何のために生まれたのだろうか?】

「貴方達が羨ましいわ」

【演習場のガラス張りになった特殊な一室。
 その四隅から現れる黒い四足歩行の獣。
 低く低く鳴り響く吼え声は、影が寄り集まったような獣達の物だ。
 ただ使い捨てられるために生み出され、戦い、勝とうが負けようが消え去るだけの獣達。
 そんな、プログラムに従って動くだけの魔道生物達が、どうしようもなく羨ましかった。
 ――だからコレは、ただの八つ当たりだ】

            クリエイト
             《創造》

【低く唸りながらタイミングを重ねて駆け出した獣達。
 そのうちの一匹に向かって数歩踏み込み、逆袈裟に右手を振るう。
 その手には自身の体を再変換し創造した、大振りなククリナイフ。
 その湾曲した刀身が獣に向けられ、斧のように重たい先端が突き出された前足を切り飛ばし、すれ違いざまには追い打つように背中から首へと叩きつける。
 勢いあまった獣は、手放されたククリナイフと共に床を転がり――その隙を見逃すまいと対角線にいた獣が獲物を手放した迦具楽に飛び掛る。
 それに無造作に左手を向け、今度は無骨な四角い盾を創造。
 左右のものより早く来たという事は、足を緩めずまっすぐにやって来たのだろう。
 創り出された鋼の板に衝撃が走り、鈍い音が鳴る。
 その向こうをうかがい知ることは出来ないが、問題はない。
 盾の中心を人差し指で軽く突き、左右の獣に備える。
 盾の中心が湾曲し、向こう側へと鋭く隆起した時には、左右の獣は迦具楽を挟んで飛び掛っていた。
 タイミングはほぼ――いや、まったく同じか。
 正確にカタログ通りのスペックで製造されている以上、個体差は存在しない。
 なら同じ動きをすれば同じ結果になるのは必然だ。
 けれどだからこそ、プログラムに沿ったパターン通りの動きであれば、相手取るのもたやすい。

 まず右手側。一方へと背を向けて対峙し、右手を突き出す。
 すると獣は組み込まれた幾通りかのパターンから解答を算出し、爪を、牙を立てる標的を迦具楽の首から右腕へと変更する。
 それは単純な距離と性質の問題。
 首よりは突き出された腕のほうが近く、多くの場合人型の存在は手足に武器を、または手足そのものが武器であるからだ。
 ソレを奪えば同時に飛び掛ったもう一方の獣が高確率で息の根を止める。
 この戦術パターンを組んだ者は、多対一のセオリーを正しく理解していたのだろう。
 獣の牙が迦具楽の右手に突き立つ――と同時に、その牙が沸騰し、融解した。
 室内を駆け回り観察に費やした一度。
 その甲斐あって、この獣達のスペックは十分に把握できていた。
 牙が溶けようと獣の勢いは止まらない。
 そのまま顎は右手を飲み込み、触れるそばから獣を溶かし、蒸発させていく。

 ――正面の獣が頭を溶かし、熱により発火して転がると同時。
 背面から飛び掛った獣は、その喉笛を貫かれて宙を舞っていた】

「……ほんと、羨ましい」

【四体の獣を蹴散らすと、迦具楽は太い杭のように変形した髪を元に戻し。
 転がる四つの死骸を眺め――消えていく姿に少なくない羨望を抱いた。
 与えられた明確な役割を果たして、それを終えれば跡形も残さず消えていく。
 そんな獣達が、少しばかり妬ましかった。

 ガラス張りの一室は、外から観戦できるようになっている。
 見るものがいれば、どこか寂しげに、消え逝く獣を眺める迦具楽の姿が見られることだろう】

迦具楽 >  
「――とりあえず、こんなものかしらね」

【それからさらに2セットほど。
 黒い獣と戯れれば、現状認識は十分すぎるところだった。
 思った以上に動き回れるが、それも日ごろからエネルギーを蓄えていなければいけない。
 毎日十分な食事が必要ということを再認識し、迦具楽は演習場を去っていった】

ご案内:「第一演習場」から迦具楽さんが去りました。