2015/09/25 のログ
ご案内:「演習施設」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (休憩用に設えられたベンチのひとつに長身を横たえて、長い足を地面に放り出している姿がある。
その身体能力と頑丈さとを見込まれて、ヨキが演習に駆り出されることはままある。
早い話が、動くサンドバッグ、または打たれ強いデコイだ。
馴染みの教師からそうした話が持ち込まれるたび、自分は一介の美術教師に過ぎないと説明するのだが――
結果的に、こうして依頼が尽きることはない)
「………………、」
(額に手の甲を乗せて、空を見ている。
素足の一本はベンチの上に、もう片足は地面に。
大きな手の陰が差した目元に、金色の焔がちらついている。
ぎらぎらと粘り気を帯びた眼光が、ただ空を見ている。
擦り傷と青痣にまみれたその姿からして、知らぬ者が彼を見て美術教師と判じられることは、およそ皆無だろう)
■ヨキ > (夕刻前、空は未だ明るい。演習に参加していた面々は引き上げ、ヨキひとりが残っている。
校舎へ戻るには未だほとぼりが醒めず、こうして風に身体を冷やすに任せていた。
頭の中にぐるぐると、獣のように言葉にならない、人の思考が渦巻く。
夕飯の買い物をしていないな、とか、借りたDVDを返さなくては、とか。
明日の授業の進め方。カフェテラスの期間限定メニュー。
さる違反部活に所属していた学生が、自分の最後通牒を蹴ったこと。
美術館の企画展が、よい方向に転がっていくであろうこと。
美しい娘を、美しい顔のままに息の根を止めてやる方法。
学園祭。食事の約束。『獲物』のスマートな誘い文句。漫画の新刊。
それらのいずれもが、ヨキにとっては紛れもない生活のすべてだ。
貴賎も、清濁も、正邪も善悪もそこになく、ただひたすらに、地続きの生だった)
■ヨキ > (そうした空想に耽るうち、やがて。
脳裏で幾度となく嬲り、喉笛を裂いたその顔が、猟犬たる自分が追うべき『獲物』ではなく――
見知った顔にすり替わっていることに気がついた)
「…………。ああ」
(『だめだ、そういうのは』。それはヨキの大いなる節度だ。
追っていいもの、悪いもの。それらに厳然たる区別をつけることが、ヨキを人間たらしめる一線だった。
『あの肉』はきっと美味い。
何故ならあれは、ヨキのいとし子であるからだ。
手塩に掛けて手ずから手に掛けたその肉は、一入美味いと決まっている)
ご案内:「演習施設」に白鷺奈倉さんが現れました。
■ヨキ > (目を閉じる。長い息を吐く。
上体を引き起こすと、ベンチが重たげに軋んだ。
顔を伏せたまま、ぷるぷると頭を振る。
死人のように冷え切った身体のくせ、瞳の奥の熱は一向に醒める気配がなかった)
「……みな果てを知らず、強くなるものだ」
(競技の記録が、年々塗り替えられては伸びてゆくように。
武の術もまた、磨かれてゆく。
その都度ヨキには、背骨を捕まれ引き摺り出されるような寒気があった。
そういう意味で――彼は討たれるときを待つ、一匹の魔物であった)
■白鷺奈倉 > (その日は魔術演習の授業の帰りだった。
教師による魔術の行使の是否の授業の発展として普段の教室ではなく演習施設が指定された、その帰り道。
ついでに頼まれた委員会の雑務も兼ねて散々パシられたその帰り道で、
だらりと脱力するような、それでいて何度か遠目に見た顔があった)
「……、センセ、大丈夫ッスかね」
(そろりそろりと足を彼の居るほうへと運ぶ。
起こさないように、それでいて体調が悪くないかと伺うように。
もし悪いのであれば保健室に行くのを勧められるようにと。
腰まで伸びた青い髪を揺らして、そろおりと彼の傍へ)
「体調不良とかなら保健課の人でも、保健室でも行った方がいいんじゃ」
(こそこそと、申し訳なさげに眉を下げて問う。
彼が起きているか、起きていないかは彼にとって然程大きな問題ではないらしい)
■ヨキ > (ずるりと頭を揺らすように起こした顔の、口の端を手の甲で拭う。
晒した上腕や脛に青痣が浮かぶ代わり、顔は至って綺麗だ。
何気ない様子の半眼がにやりと笑って相手を見遣る――が、
目の奥はあまり笑っていなかった。気の立った犬の目だ)
「――やあ、君。公安の子か。いいや、心配はご無用。
少しばかり演習でヒートアップして……
今はその、ほとぼりを醒ましていたところだ。至って元気だ」
(だから大丈夫、と左手をひらひらと振る。
けれど然して追い払うでもなく、緩い調子で言葉を続ける)
「ヨキとの課外授業ならば、喜んで付き合うけれど」
(にこりと笑って、小首を傾げる)
■白鷺奈倉 > (一瞬ちらり覗いた獰猛そうな、ぎらりと輝くシトリンに気圧された。
元来人の視線や人の顔色を伺ってきたせいか、それを確かに見遣ると冷や汗を流した。
「隣、失礼するッスね」、と小さな会釈とともに彼の座るベンチの横へと腰を下ろす)
「え、っと。白鷺奈倉、って言います。
2年生で、公安委員会で。基本雑務とかばっかりやってるっス」
(へらりと下から覗き込むような笑み。
相手に不快感を与えないようにと彼が続けていたそれは一部では不評らしい。
困ったように眉を下げて、髪を掻き上げる)
「ン、なら良かったッス。
………、センセでも演習でヒートアップとかするんスね。
なんか冷たそうだな、っていうか、スイマセン。そんな感じの印象で。
誰に話を聞いたって訳でもないんスけどね。
……課外授業スか。
最近ちょっと自分に自信がないんスけど、お悩み相談みたいなのでもいいんスかね」
(また緩く、笑う。
名も覚えていない教師だったが、教師という存在に絶大な信頼を置く彼はひとつ。
伺うように視線を向けた)
■ヨキ > (すとんと腰を下ろした彼を、別段取って食うようなことはしない。
軽い調子で、そうそう、白鷺君、と聞いた名を復唱する)
「綺麗な名だと思っていたものでな。
――ヨキだ。美術を教えている」
(演習場で擦り傷青痣のその出で立ちは、美術教師の印象からは些か遠い。
奈倉が見せるその笑い方にも、取り立てて不快さは見せなかった)
「冷たそうって?はは、まさか。
このヨキほど好奇心旺盛な大人もあるまいよ。
いや……身体の頑丈さで演習相手に駆り出されて、つい。
わざと負けるは性に合わんし、生徒を傷つける訳にもいかんでな。
スポーツの秋ってやつさ」
(腰の後ろに両手を突いて、寛いだ姿勢で座る。
続く奈倉の言葉に、顔を隣へ向ける)
「……お悩み相談?勿論だとも。
美術も体育も、道徳の授業もやるヨキだ。
何か困りごとでも?」
■白鷺奈倉 > (彼の言葉を聞けば嬉しそうに顔を緩めた。
小さくヨキ、ヨキ先生、とまた同じようにして復唱する)
「はは、ちょっと嬉しいです。余り言われることがないスから。
それじゃあヨキ先生、と。改めてどうも、白鷺ス。
……、てっきり異能制御やらの先生かと。
美術……第一印象、ってやっぱりあるんスね」
(言外に意外だ、とまたへらり笑った)
「でもそんな先生がいるのはいいな、って思うッス。
生徒に対して真摯に向き合ってんだな、って。
……先生に青痣つけるっていうのも中々凄い話だとは思うッスけどね。
俺には出来そうもない話です」
(困りごとか、と。
その問いは現状ひどくありがたいものだった。
相談事が出来るような友人もおらず、また彼の印象に縛られない初対面の教師。
初対面の他人は最も相談に適している、という話もどこかで聞いたような気がする。
相手の印象に囚われることなく、立場的にも忌避のない意見を聞ける。
ありがとうございます、と頭を下げた)
「あの、こんな事聞くのもどうかと思うんスけど。
───公安委員会のやり方が間違っている、と。先生は思うッスか。
ちょっとばかり悩んでしまって。
一般職員の俺が如何こうできることもないんスけど、気になって。
その先生の眼にはどう映りますかね、公安委員会っていう存在は」
(真剣な様子で、じっとその瞳を、まっすぐと瞳の奥を見据えた)