2016/01/05 のログ
ステーシー > そして結果に意味がないのであれば。
この戦いこそが至尊なのだ。
異界の術法を前に口の端を持ち上げて、星を薙ぐ少女は笑う。

その一太刀/逸太刀を見逃さぬために。

 

血の匂いが、嫌だった。
悲鳴を聞くのが、嫌だった。

だが、それは奪うために斬っていたからだ。
この剣戟の応酬にそれはない。

一切の嫌悪なく血の中に身を投じ、戦いの叫びを上げられる。

 

連影撃と竜人の超速の打ち込みが噛み合う。
普通に考えれば致命の斬、ステーシーは僅かに身をかわしただけだ。
左腕が切り裂かれ、根元から地に落ちた。

「また軽くなったッ!!」

戦いの狂気に踊り、右腕一本で刃を振るう。
どうせ腕一本、後からプラーナで接合すればいい。
そんなことより、もう一度連影撃を放っても同じ破られ方をするだろう、ならば。

もう気迫しかない。

「白刃炎斬ッ!!」

地面を僅かに擦った刃が炎を巻き上げる。
プラーナが火花を炎へと変え、刀身に纏わせているのだ。
焔の影に蒼黒の猫が血飛沫と共に舞う。
懐に飛び込みながらの袈裟掛けの炎斬一閃。
執念の炎、燃ゆる焦がすが地獄ならばその剣、火の如く。

スノール > 鮮血が舞い、大輪の朱華が少女の体から咲く。
決した。
片手。腕は剣士の要。腕を失えば体幹も狂う。
ならば、最早、技は見るにあたわず。武辺を振るうにあたわず。
尋常なれば、これにて終幕。
竜はそう判断した。
 
そう、竜だけは。
 
「……!?」 
 
竜が、括目する。
立会い以来、初めて息を呑み、その様を見る。
血の紅ではない。
そこにあるのは……炎の赤。
その身を焦がす、紅蓮の焔。 
 
尋常にて勝負。
なれど、尋常の匙加減など、どこにあるというのか。
その尋常を図るものは一体誰であるのか。
一度仕合、向き合い、立ち会った以上。
 
それを決めるのは……敗者でしかない。 
 
 
剣閃が、奔る。
炎を纏い、袈裟掛けに走り抜け、軌跡に踊るは……血の朱色。
 
竜血を溢し、鱗を滑落させ、竜人は地に跪く。
体は動く。腕は振るえる。
だが、呼吸が、一時的にできなくなる。

呼応しようにも、炎の刃に空ごと焼かれ、ただ喘ぐのみ。
 
刹那過ぎても、竜は、未だ、立ち上がれなかった。

東郷月新 > 「ほう!」

男は喜び、機材の上から下りる。
そう、勝敗はついた。
だが、それよりも面白いのは少女の戦法。

腕一本を斬りおとされ、『軽くなった』とのたまった。

うん、良い。
凄く良い。
それでこそ、刀を振るう者である。
己の身を捨てても勝利を求め、相手の息の根を止める貪欲な姿勢。

男は少女と竜に向かい、拍手しながら近寄る。

「いやぁ、お見事、お見事!」

ステーシー > 確かに少女は腕を失い、バランスを失ったはず。
しかし、バランス感覚だけは。
猫生来の持ち味だった。片腕を失っても、猫は猫だった。

刃を振るった勢いのまま、くるりと一回転。
「白刃………」
返す刃で白刃一掃。地に足をつけ、最強の横薙ぎ一閃。
不動ゆえに地ならばその剣、山の如し。

と、振るう前に気付いた。
戦いは終わっていた。

「はぁ………はぁ………」

これはなんだ? 自分の腕は切り落され、立ち上がれぬ竜に白刃を浴びせようとしたのか、自分は。
これが現であるならば。
現に這い出した悪夢に他ならない。

「夢を司る神………アルテミドロス…」

その名を呼んだ時、拍手と男の声が響いた。
周囲を見渡せば、彼以外に喋る者はいない。
狂気の剣戟に気圧され、黙った者ばかり。

「……あなたは?」

腕を拾い、接合してプラーナを集中させながら聞く。
それにしても、どこかで見たような顔だ。
どこかで。

「………! 剣鬼! 撃剣! 月下の人斬り! ロストサイン――――東郷月新ッ!!」

刃を握り、男を睨みつける。
だがもう戦う力は残されていない。
出血、疲労、残されたプラーナ……全て絶望的だ。

スノール > 死は結果。
仮に此処で止めを刺されようと、竜は動かない。
一度剣を手にし、武を志し、それに身を賭した以上。
その果て、潰え、費やされるのならば。そこに後悔などあろうはずもない。
 
だが、終が訪れることはなく、代わりに響くは手を打つ衝音。
 
膝をついたまま視線を向け、目を細める。

東郷月新 > 男はうんうんと頷く。
片腕をもがれてもなお勝利を求める貪欲な『意思』。
そして、たとえ戦闘能力が無くなろうとも、息の根を止める事こそが決着だと理解する『本能』。

間違いない。
この少女は、極上の剣士だ。

「いやぁ、小生も有名なもので。
しかしお見事ですな。息の根をきちんと止めないのが画竜点睛を欠きますが」

竜と少女を交互に見る。
まぁ、自分ともう一戦するほどの体力は無いだろう。

こちらもそろそろ公安が嗅ぎ付ける頃だ。
落第街以外での場所の戦闘は極力避けたい。

「出来れば名を伺えますかな?」

少女に向かい、愉しそうに問う。

ステーシー > 「ロストサインの殺人剣士……ッ!」

画竜点睛? 何を言っている。
この戦いは両者の矜持によって成ったもの。
しかし相手の弁を止める『力』を今の少女は持たない。

「この戦いは……戦いに迷う私に、新たな道を見せてくれたもの…」
「それを………くっ…」

失血に意識が揺らぐ。
東郷月新を睨みつけたまま、言う。

「ステーシー・バントライン。こちらの世界での名を星薙四葉」

できれば捕縛したい。だが、今はあまりにも。

スノール > ゆらりと、竜が立ち上がる。
言の葉は解さない。
少女と目前の男の会話の内容も、当然理解できない。
だが、身体は動く。腕は振るえる。
空を焼かれて一時過ぎれば、すでに呼吸も元通り。
ならば、竜の行いに躊躇いなどない。
 
出血などまるで省みず立ち上がり、再び剣を構え直すのみ。
 
少女は既に疲労困憊。
技を競うにあたわず。
ならば無論……今度は目前の男、東郷へと向けて。
 

東郷月新 > 「新たな道を見せる?」

くくっとせせら笑うようにしながら。
男は無造作に少女に近寄る。
相手の必殺の間合いまで、構えも取らずに。

「そんなモノを見つけなくとも、あなたはとっくに分かっておいででしょうなぁ」

少女の顔をのぞきこむように顔を近づけた東郷は。
優しい声で諭すように言う。

「あなたが最後に踏みとどまって『しまった』四の太刀。
あれこそが、本能で悟っている剣士としての道でしょうに」

何処まで行っても、剣術とは殺人の技。
剣士とは、相手に死を与えようとする本能を持つ者。
己の肉体が悟っているものを何故否定するのか。

「ま、いずれお会いしましょう。
その時は――是非、一人の『剣士』としてお相手願いたいものですなぁ」

そして、立ち上がる竜にも声をかける。

「いや、お見事――と言いたい所ですが、いただけませんなぁ。
たかが腕一本奪った所で剣を止めるとは。
まぁ、それが竜としての矜持なのかもしれませんが」

ステーシー > 「来るなッ!」

東郷月新に向けて鯉口を切る。
いつでも斬れる。しかし、斬れなかった。
剣士とは何か。剣術とは何か。

「黙れ………黙れ…!!」

呻くように顔を背けることで精一杯。
果たして、四の太刀を踏みとどまったのは弱さなのか、強さなのか。
この男の甘く染み入るような言葉に、揺さぶられた。

膝をつき、刀を握ったまま意思が挫かれた。

スノール > 東郷の言の葉を竜は解さない。
意をとることは、態度から多少は可能であろうが……それで、竜の行いが変わることはない。
ただ、変わらず。剣先を向けるのみ。
抜くか。抜かないか。
傍らで震える少女を後目に、ただ、東郷の様子を伺う。

東郷月新 > 「さて……出来れば刃を合わせたいところですが、小生これでもお尋ね者でしてなぁ」

こちらに向かってくる殺気が幾つか。
公安の犬どもだろう。
やれやれ、面倒な事だ。

「では、ごきげんよう。
いずれまたお会いして――その時は、愉しい死合(コロシアイ)がしたいものですなぁ」

くすりと微笑を残すと。
ロストサインの殺刃鬼は、踵を返し、ふわりと屋根の上へ消え去った。

ご案内:「訓練施設」から東郷月新さんが去りました。
ステーシー > 肩口の傷を押さえたまま、竜人の顔を見ることができなかった。
自分は勝者の誇りをヤツに見せることができなかった。
それなのに、この場にいること自体が恥知らずだ。

しばらくして、東郷月新の乱入でうやむやになった私闘の罪を抱えて。
彼女はその場を後にした。

ご案内:「訓練施設」からステーシーさんが去りました。
スノール > 去っていく男の背を最後まで見送り……剣を腰に納める。
最後に、憔悴した少女に一瞥のみを送り、竜もまたその場を辞した。
留めるものはいなかった。
おそらくは、あの東郷を追う事を優先したのであろう。

ご案内:「訓練施設」からスノールさんが去りました。