2016/09/01 のログ
ご案内:「訓練施設」にセシルさんが現れました。
セシル > 先日、黒魔術の教師にアドバイスを受けた「空中で活動する方法」。
示された魔術書をある程度読み込み、セシルなりに消化したつもりのところで、いざ実践と意気込んで訓練施設にやってきたのだった。

(教本によれば…元素の密度と、重力に抗う方向への風の流れが肝要なのだったか)

そんなことを考えながら、訓練スペースの一室へ。

魔術訓練の方はあまり厳密にやっていないから、端末の訓練設定は少し手間取ったが…
それでも、魔力や術式の観測を設定するのには成功した。

セシル > 「さて、それでは…」

レイピアを抜き、意識を集中させる。
剣術の鍛錬ではないのに何故剣を抜くかといえば…「空中で剣を持つ」鍛錬と、専用品ではないとはいえセシルの剣が魔術媒体としての意味を持ち合わせるためだ。
魔力を、自分の足元に集める。
その気になれば詠唱なしの発動も出来る術式であるが、セシルの魔術の練度では、それは叶わないだろうと判断した。

「風よ、我が身体を宙に誘え…浮遊(フロート)」

密度ある大気、身体を支える、持ち上げる流れ…
イメージしながら詠唱をし、魔力を術式へ変換する。

セシル > セシルの足元で風が………一気に立ち上がった。

「!?………うわっ!」

一気に上方向に噴き上がる風で、セシルの身体がたかだかと宙に舞い上げられる。
足を起点に風が立ち上がったため、足を空に向ける形で。
ついでに、セシルの口から普段の声とは違う、高くないなりに、明確に女性の声だと分かる悲鳴があがった。

「………くっ!」

空中姿勢の制御など、ほとんど経験はないが…気合いで宙返りをして足を地面に向け、何とか着地をする。

「………はぁ、危なかった………」

せめて肩から受けるつもりではいたが…恐らく、軽く3mは舞い上がっただろうか。
それで肩口からこの床に落ちれば、かなり痛かっただろうと思われる。

…ついでに、声を作り損ねたのは最初の悲鳴だけ…のはずだ。
誰にも聞かれていなければ良いのだが。

「………。」

何となく、訓練スペースの窓から休憩スペースなどの様子を伺ってみたり。

セシル > …幸い、セシルの訓練風景を見ていた者はいなかったらしい。

「…ふう…」

安堵の息を漏らす。
いや、初めてのことに失敗はつきものなのだが、一瞬「地声で」上げてしまった悲鳴を聞かれたらと思うと、少し恥ずかしいのだ。
…身体が女のものであること自体を隠す気は毛頭ないが、それで侮られるようなことがあるとまずいのだ。風紀委員という立場的にも。

(………まあ、侮られてから考えるか)

セシルは、一旦心配するのをやめて端末が観測したデータを見ることにした。

セシル > セシルには、魔術式を詳細に読み取るだけの知識はない。
…しかし、観測された魔力・術式構成から、セシルでも分かることがあった。

(…魔力の放出が急激過ぎて、術式が崩壊している…?)

観測された術式は、そもそも術式として綺麗な形になっていなかった。
そして、観測された魔力の流れも、どちらかといえば「爆発」に近いような動きをしていた。

(………攻撃以外の用途で使う術式の魔力制御は、こうもあり方が違うのだな)

セシルが魔術の道を志さなかったのは、身体を動かす方が楽しいからという理由が最も大きいが、魔術の才に溢れた異母姉とその母の存在の影響もないわけではない。
…そして、セシルの故郷では、魔術の才に溢れた女性は、もっぱら治癒の道を志すことが多かった。
魔術の道を志さず…そして、「女」としての典型的な生き方からは徹底して外れてきたセシルは、そういった「女ならでは」の魔術にとんと縁がなく、攻撃魔術の延長線上にある魔力の扱い方しか知らなかった。

(課題は山積みだが…「魔法剣」のあり方を考える手がかりになるかもしれんし、まだ諦めるわけにはいかんな)

それでも、セシルは諦めなかった。

セシル > そうして、四、五度ほど術式の練習を繰り返しただろうか。
最初のような事故こそ繰り返さなかったが、ほとんど浮き上がらなかったり、浮き上がっても風の流れが不均衡で姿勢を保つのが困難だったり…。

そうこうしているうちに、セシルの魔力が足りなくなった。
不均衡な風の流れの中で無理に姿勢を保とうとしたせいで、身体を支える筋肉にも著しい疲労を感じる。
何とか剣を腰に戻して訓練スペースを出て、休憩スペースのベンチに倒れ込んだ。

「…はあ…」

有酸素運動の類ではない。ぐったりと身体の芯に力が入らない感覚に、疲れた息を漏らす。
…魔力の消耗も、馬鹿になっていない。

(…「魔法剣」がどれほど楽だったのか、改めて思い知るな…)

「魔法剣」で消耗する程度の魔力なら、セシルは制御に不安を抱えたことがなかった。
…それが、魔力の展開の中心を剣ではないところにおき、消費量を増やした瞬間にこれである。

(…魔力容量を増やす鍛錬や、魔力制御の鍛錬も、した方が良いのだろうか)

士官学校時代の魔法剣の講義では、特に魔力に不足を感じなかったし、成績も悪くなかったのでほとんど気にしていなかった。
しかし…出来ることを増やそうと思えば、避けることは出来ないようだと思われた。

セシル > そうして、ぼーっと今後の鍛錬について考えていると、やっと体力が持ち直してきた。
これで、また動き出すことが出来るだろう。

「…よし、帰ろう」

魔力容量の鍛錬は、シンプルなものなら自室でも出来る。
とりあえず今日の鍛錬の教訓を今後に活かすため、今は英気を養うことにし、セシルは訓練施設を後にしたのだった。

ご案内:「訓練施設」からセシルさんが去りました。