2016/10/06 のログ
■セシル > そうして、2分くらいした頃だろうか。
セシルの身体の上下移動が、規則的になった。かといって、レイピアの素振りがおざなりになっている様子も見られない。
(…よし、前回より早く慣れたな)
成長の手応えに表情が緩むが…それも、一瞬のこと。
セシルは、いっそう口元を強くひき結んだ。
(…では、いくぞ…)
次の瞬間、セシルは魔力の籠め方を、変えた。
■セシル > 「っ!」
そして、その次の一瞬…セシルは足がぐるっと持ち上がるように宙返りをした後、ズダン、という凄まじい音を立てて足から床に着地していた。
「…………。」
驚きに目を丸くしながら、肩で荒い息をしていた。
そういえば、宙返りする一瞬、押し殺されながらもセシルらしくない声が漏れたかもしれない。
(………これは…何度やらかしても慣れんな)
最初に飛行のための元素魔術の練習をしてから、一ヶ月と少しが過ぎ。
鍛錬の成果もあって、セシルは上下の浮遊なら安定させられるようになっていた。
…問題は、横の移動である。
上下移動なら足元だけを支えれば良いのだが、横移動の場合は身体の縦のラインも支えなくてはならない。
…そのための術式制御が、まだまだ出来ていないのがセシルの現状だ。
どうしても足の途中くらいまでしか支えることが出来ず、結果足「だけ」が風に吹き上げられて上下逆さまになってしまうのである。
未だに頭を打っていないのが、奇跡と言えるくらいの有様だった。
■セシル > 「………」
はー、と、音になるほどの勢いで強く長い息を吐いた後、端末の方に移動して測定結果を確認する。
「………やはり、足らんか………」
測定結果を確認して、口から苦い声を零す。
測定結果は、セシルの体感通り術式の展開範囲が足りず身体を支えきれていないことをありありと示していた。
(足りないのは魔力容量か、それとも魔術制御力か…
少なくとも、後者が足りていないのは間違いないな)
端末が示す測定結果と、しばし睨めっこ。
ご案内:「訓練施設」に龍宮 鋼さんが現れました。
■龍宮 鋼 >
(落第街をひとしきりうろついた後、いつものように訓練施設へ。
最近鍛錬が日課になってきている。
どうも自分のイメージとは違うような気はするのだが、なんせ力の制御がまだおぼつかない。
リベンジしなければならないヤツもまだまだ居るし、何より途中で投げ出すのは逃げたみたいでイヤだ。
そうしてほぼ自分と同じ重さ・体格の人形を抱えて扉をくぐれば、)
――。
(先客が居た。
しかも風紀委員。
露骨に嫌な顔をする。)
■セシル > 「………よし」
観念したように頷き、メモ帳を取り出して測定結果を自分なりにメモしたセシルは、端末の設定をリセットして休憩スペースに出ようする。
…と、そこで、それなりに有名な不良生徒と、鉢合わせてしまった。
「…鍛錬か。感心だな」
が、セシルはどこかの「校則絶対主義者」とはスタンスが違うようだ。
不良学生と言えど、向上のために励むならば歓迎するようで、男性的な、口の端を横に引くような笑みを浮かべる。
「私は今後の鍛錬方針を考えねばならんので、使ってくれて構わん」
そう言って、訓練スペースを後にしようとする。
■龍宮 鋼 >
(嫌そうな顔が不機嫌そうな顔に捻じ曲がる。
特に何も言われなかったのは良い。
元々不良学生の身だ、むしろそれはありがたい事ではある。
自身に場所を譲るように去ろうとするのも別に良い。
むしろ自分ひとりの方が色々と気が楽だ。)
――感心、だぁ?
(まるで自分を評価しているような。
そんな上から目線であるかのように感じられた言葉――勿論そんな意図は無いだろうが――が、妙に気に障る。)
何様だテメェ。
上から物言ってんじゃねェぞ、風紀委員。
(出て行こうとする彼女の進路を塞ぎ、至近距離から睨みつける。)
■セシル > 「…ん?」
これから鍛錬というのに、わざわざ自分の前に立ちふさがって睨みつけてくる相手を、「物理的に」上から見下ろす。
…20㎝ほど身長差があるので仕方がないのだが、かといってわざと屈んで目線の高さを合わせたら余計に相手の機嫌を斜めにしてしまうのは間違いないだろう。
大人と子ども、というほどの年齢差もないのだし。
「ああ…気に障ってしまったならすまん。
「どんな生徒であろうと」鍛錬に励むのは良いことだと思っただけなんだ」
睨みつけられても反発を示さず、それどころか、彫りの深い整った顔立ちの眉間に、申し訳なさそうな皺すら刻んでそう言って軽く頭を下げる。
今この場で鋼が明確な「悪いこと」をしていないせいもあるだろうが…不良生徒に対応する風紀委員としては、あまりにもらしくない。
■龍宮 鋼 >
(何故だかその余裕を感じるような態度がなおさら気に障った。
額に青筋が一つ浮かび、縦に長い瞳孔が細くなる。)
――ああ、オーケーオーケー。
わかった、なるほどな。
(一度視線を外し、下へ向ける。
人形を叩きつけるように地面へ投げ捨て、拳を鳴らす。
筋肉の軋みすら聞こえるような力で硬く握り締め、)
――ならテメェも「鍛錬」してけよ、なぁオイ!?
(叫び、拳を振りぬく。
彼女の顎を真下から突き上げるようなアッパー。)
■セシル > 流石に、相手の纏う空気が変わったのは分かる。
…が、いきなり攻撃をしてくるとまでは思わなかった。
「なっ!?」
のけぞるようにアッパーを避けた後…横の方に「強く一歩踏み出す」。
訓練スペースの出入り口からは遠のいてしまったが、鋼からは一瞬で5m以上の距離をとった。
「私には私の鍛錬目標がある…今は訓練スペースの方には用はない!」
そう叫びながら、鋼の様子を伺う。
相手がどのような存在か、風紀委員会に全く情報がないわけではない。
…そこから判断するに、恐らくレイピアでは「意味がない」。しかし、サーベルを使って良い状態かどうかは判断がつきかねた。
…相手の気迫に、背中が嫌な汗をかく。
■龍宮 鋼 >
(アッパーを避けられ、身体が泳ぐ。
一歩踏み出し身体を支え、離れた彼女の方を睨み付けて。)
テメェの都合なんざ知るか。
俺がテメェに用があんだよ。
(ゆらりとそちらを向く。
ぐるりと右腕を回し、両の拳をゴキゴキと鳴らしながら握り締めて地面を思い切り踏みつける。)
見下してんじゃねェぞクソがァ!
(地面を蹴る。
先ほどの彼女と同じような速度で迫り、振りかぶった右腕を叩きつけるように振るう。)
■セシル > 「都合無視で強要されるのを「鍛錬」とは言わん!」
中性的な低く太い声が、鋼の無茶に正面から反論する。
「貴殿ほどの強者を見下した覚えは…ない!」
(速い…!)
幸い、鋼の因縁付けで異能再使用までの時間は何とか稼げた。今度は後ろに「一歩強く踏み出し」て、更に距離をとりながら…
「付与・魔力《エンチャント・オーラ》!」
(やむを得ん…!)
そう叫んで、サーベルを引き抜く。剣が、白く澄んだ光を強く放った。
■龍宮 鋼 >
(またも避けられ距離を取られる。
速さは同程度、となれば腰の刀がある分ややこちらが不利だろう。
懐にもぐりこめば、あるいは。)
――逃げてんじゃねェ!!
(そう考えているうちに刀に手を伸ばされる。
今から踏み込んだところで間に合わない。
右腕に「力」を集め、甲殻を手の甲に。
すぐさま解けばその甲殻は剥がれ落ち、それをすかさず掴み取る。
鋼のような硬度の、投げつけるにはちょうど良い大きさの「投擲武器」を。)
させるか!
(踏み出しつつ、それを投げつける。
弾丸のような速度でサーベルの柄めがけて投げつけられた甲殻。
それを追いかけるように尚も地を蹴り、その勢いのままに彼女の右わき腹へ左拳を叩きつけるように振り抜く。
踏み込んだ脚を軸に、移動速度を丸ごと拳に乗せたリバーブロー。)
■セシル > 「ぐっ…!」
慣れた速さで剣を引き抜いて、魔力で強化された刀身で「投擲武器」を叩き落とす。
…が、そこには既に鋼の拳が迫っていて…
(………ええい、どうにでもなれ!)
一か八か、先ほどまで練習していた風の浮遊魔術の要領で、風の魔力を自分を中心に強引に展開する。出来るだけ、威力高めで。
詠唱も何もかもなしで展開される風の魔力は、まさに「暴走」そのもの。
鋼の攻撃をまともに受けるのではなく、何でも良いから衝撃を殺そうと判断したのだ。
鋼にどれだけの影響が出るかは分からないが…少なくとも、セシルの身体は後方に吹き飛び…何とか受け身をとりながらも、壁に衝突する羽目になるだろう。
■龍宮 鋼 > (今度は捉えた。
そう確信し、左拳に続けて右拳を叩き込まんと右拳を走らせに掛かった瞬間、)
――ッ、!
(巨大な壁を叩き付けられた。
攻撃を確信した瞬間、これ以上ないタイミングでのカウンター。
元より魔力に抵抗の少ない身体だ。
何がなんだかわからない内に、彼女よりも高速で後方へ弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。
受身も満足に取れず、格闘ゲームのように壁でバウンド。
かろうじて床に脚を付けることは出来たが、自身の身体を支えきれずに崩れ落ちる。)
あ――っぐ……
(それでも尚立ち上がる。
途中で咳き込み血を吐くが、ブルブルと震える腕で地面を押し、ガクガクと笑う脚で身体を支える。
声は出ない。
それでも赤い瞳に敵意をみなぎらせ、部屋の反対側に居る「敵」をにらみつける。)
■セシル > 「………けふっ………すまん、大丈夫か」
自分も壁に背を打った衝撃で呼気を軽く吐き出しながらも…鋼を気遣うような、様子を伺う目つきをしながら立ち上がるセシル。
まさか、相手がこれほど魔術に弱いとは思っていなかった様子で、その瞳には驚愕の色も混じる。
「無理に身体を動かすな…少し待っていろ」
驚愕と気遣いの入り交じった、複雑ながらも真摯な表情のまま、急いで訓練スペースの出入り口へ向かう。
…救護担当を呼ぶために。鋼が引き止めなければ、医療関係者を連れて戻ってくるだろう。
■龍宮 鋼 >
――うる、せェ……。
(とっさに化勁で威力を逸らそうとしたのは間違いだった。
奪った魔力が身体を通ったせいで内蔵のどこかにダメージが入ったらしい。
しかも威力も逸らせず、むしろアホみたいな速度で壁に叩きつけられてしまった。
呼吸がうまく出来ないが、それでも彼女の言葉は無理矢理喉を搾り出して跳ね除ける。
無理矢理に出したので、ひどく聞き取りづらい掠れ声だっただろうけれど。)
ッ、――ひゅ、っは、ゲホッ……。
(逃げるなと言おうとしたが今度は流石に声が出ない。
咳き込んでいるうちに、彼女は行ってしまった。
一人になった訓練施設。
投げ捨てた人形に近付き、その近くに座り込む。
その人形に自身の魔力をこめようとして、やめた。
戻ってきた彼女らを巻き込んではたまらない。
そう考えたところでその甘い考えを持った自身にイラついて、地面を思い切り殴りつけた。)
■セシル > 良かったのか悪かったのかは分からないが、鋼の反発はセシルの意識に届くことはなかった。
セシルは、2人の母親くらいの年に見えるおばちゃん救護係を連れて戻ってきた。
『…ちょっとアンタ、これ!何やったらこんなに酷いことになるわけ!?』
鋼の容態を確認して、まずセシルを怒鳴りつけるおばちゃん。
「…距離をとるべく、無理に風の魔力を展開させたのが良くなかったようです…
申しわけありません」
恐縮しきりで、俯きがちにおばちゃんに弁明するセシル。
『風紀委員なんだから、「訓練」の範囲を超えるような怪我させないでよね、もう!』
「………言葉もありません…」
おばちゃんのお説教に縮こまる一方のセシルである。
おばちゃんは、セシルの反省した様子にひとまずふん、と鼻を鳴らした後鋼の方に駆け寄り
『ほら、アンタもさっさと怪我見せて!
酷いわね〜もう、内蔵傷めちゃってるじゃないの!』
と、鋼の身体を支えるように脇に腕を入れながら腹部にそっと手を当てようとする。
………こう見えてこのおばちゃん、医学的知識と治癒魔術の技量を備えた、スペシャリストである。
■龍宮 鋼 >
(二人の言い争い――と言うかおばちゃんのお説教を聞いている。
彼女が怒られていても特に何も反応を示さず、黙って息を整えて。
しかしおばちゃんがこちらへ近付いてくれば、おばちゃんの手を押しのけた。)
――触んな。
(そのままおばちゃんの身体を遠ざけるように押す。
見た目には乱暴な動きだが、その実おばちゃんが倒れたりしないように気を使った動き。
治療を拒否するように押しのけ、口の端から僅かに垂れている血を手の甲で拭う。)
■セシル > どうやら、セシルは鋼からふっかけられたことをおばちゃんに申告していないらしい。
おばちゃんがセシルを見る目は完全に容赦なかった。
怪我人たる鋼には、幾分哀れみの目を向けていたが…それでも、邪険に遠ざけられれば
『突っ張らないの!内蔵傷めちゃったら動けば動くだけ酷くなるんだから!』
と、押しのけられてなお手当しようと迫るストロングスタイル。
セシルは…その様子を見て、沈痛な表情で目を伏せながらこめかみに手を当てている。
おばちゃんのストロングスタイル相手ですら怯まないこの調子ならば、最初に自分が機嫌を損ねたのは当然の理だった…などと、今更ながら。
■龍宮 鋼 >
(彼女を見る。
おばちゃんの対応を見れば、自身からケンカを吹っかけた事を黙っているのは明らかだ。
先ほどまでなら舐めるなと烈火の如く怒りはじめているところ。
だがこちらからケンカを吹っかけて怪我をし怪我をさせ、その上医療のおばちゃんまで連れてこられた上で尚もキレると言うのはあまりにも幼稚過ぎるから。)
――うるっせェな!
こんなもん寝てりゃ――ッ治るんだよ!。
(だから代わりにおばちゃんへ怒鳴るのだが、途中で腹が痛んで言葉が止まる。
それでもそれを隠して尚も怒鳴る。
ストロングスタイルおばちゃんに負けず劣らずストロングな意地をもってしておばちゃんの手を退け続ける。)
■セシル > 『ああもう意地張らないの!
寝てれば治るけど、手当受けた方が早く治るし、痛くないに越したことないでしょ!
寝てる間訓練出来なくなるのはそれで良いの!?
強くなることより意地を張ることの方が大事なの!?』
何ということだろう、おばちゃんは引かなかった。
それどころか、真正面から、鋼を諭すようにその顔を見据えて。
…しかし、母親くらいの年齢だけあって、心配なのは本当なのだろう。その顔は真剣そのものだった。医療従事者の矜持というものもあるのだろう。
「………。」
鋼から吹っかけられたことを黙っているセシルも、ある意味「意地を張っている」わけで。
微妙に気まずそうな表情をしながら、視線を他所へと泳がせた。
■龍宮 鋼 >
慣れてんだよ!
怪我すんのも痛くて痛くて寝れねェのもそれ抱えてケンカすんのも折れた腕で人形ひたすらブッ叩くような真似も、今までずっとそうやって生きてきてんだ!
(こちらも引かない。
諭すような言葉が欲しいのではなく、治療が欲しいのでもなく。)
――今更そんな風に言ってくるんじゃねェよ!
(これはただの八つ当たりだ。
昔の事を今言っても仕方が無い。
だから、ただの八つ当たりだ。)
■セシル > 『………ッ』
「………」
文字通り、血を吐くような鋼の告白に、息をのんで一瞬手が止まるおばちゃん。
セシルも、どこか痛ましい表情で鋼の方を見ている。
おばちゃんの少しの迷いの間に、逃げ出すことが出来るかもしれない。
そうでなければ、容赦なく治癒魔術の手が伸びてくることになるだろうが。
■龍宮 鋼 >
退け。
(その隙を逃さず、今度こそ押しのけて立ち上がる。
人形を抱えた際に僅かに表情が歪むが、動きは止めない。
抱えあげた際に、自身がケンカを吹っかけた相手と目が合い、一瞬動きが止まる。
先ほどの言葉を聞かれ、バツの悪そうな顔。)
――悪かったな。
(すぐにいつも通り不機嫌そうな顔に戻り、歩き出す。
彼女のそばを通る際に彼女にだけ聞こえる声で小さく呟く。
そのまま歩いて訓練施設の扉を潜り、別の部屋へと歩いていく。
途中で通路の壁を殴った音が彼女らに聞こえただろう――)
ご案内:「訓練施設」から龍宮 鋼さんが去りました。
■セシル > 『あっ………ちょっと、もう!』
押しのけられることに驚き、それからおばちゃんが鋼の歩いていく方向へ振り返った時には遅かった。流石におばちゃんはそこまで素早くない。
悔しそうなおばちゃん。
「………いや、こちらこそ悪かった」
セシルにだけ聞こえるように呟かれた言葉への、一瞬遅れての返事。相手には届いただろうか。
…しかし、最後に壁を殴ったらしい音が聞こえれば、
「『………。』」
2人で、黙ったまま顔を見合わせるしかなかった。
■セシル > 「………彼女の身分は風紀委員である程度把握していますので、関係各所に連絡しておきます。私も罰を受けなければいけませんし」
少ししてから、溜息を吐き出しながらセシルが言う。
『あら、あの子問題児なのね?』
「問題児というか…まあ、境遇については彼女が自分で示唆してくれましたけれど」
おばちゃんのきょとんとした顔での追求に、少し視線を泳がせながら答えるセシル。
「………ああいう学生を、「日常」に引き戻せてこその「教育」だとは思うのですが…
なかなか、踏み込む言葉が見つかりませんね」
そう言って再び溜息を吐くセシルの表情は、やるせなさに溢れていた。
■セシル > そんなこんなで、セシルは一応自分の打ち身の治療を受けてから訓練施設を後にする。
後日風紀委員に報告をしたところ、相手の名前だけで全て察せられてしまったらしく、「厳重注意」だけで済んでしまった。
………相手にそういう「色」がついてしまっていることに、セシルはまた、戦闘能力とは別に自分の無力さを思ったのだった。
ご案内:「訓練施設」からセシルさんが去りました。