2016/12/01 のログ
ご案内:「訓練施設」にクロノさんが現れました。
クロノ > (好評開催中のお祭りも、日が暮れて屋台が並ぶ区画以外はひっそりと静まり返って夜の佇まい。そんな訓練施設の一角に、ジーガシャ、ジーガシャ、と個性的な足音を連れ立ってやって来たのは重厚な鋼鉄の装甲に身を包んだ…保健室の養護教諭兼、公務補の男の子ロボ。)

…なんだか、ちょっぴり緊張するなー。

(少年を模した電子音声が呟く言葉とは裏腹、その声の銚子は相変わらず平和に間延びした雰囲気。やって来た射撃訓練室の扉をそっと開いて、照明のスイッチをつける。冷えきった室内に響くのは自分の機体から鳴る機械の駆動音だけで、辺りには冷たく乾いた静寂がひしひしと感じられる空気が満ちていた。)

…えっと、

(入室管理簿に丁寧に所属と名前を記入して、施錠されたロッカーからゴーグルと耳栓を取り出す。今日練習で使用するのは一応護身のために日頃から携行している小さな自動拳銃だから、それを胸のハッチから取り出して外見上の異常がないか丁寧に確認を。)

クロノ > (自身の愛銃はそれこそ自分の機体と同じくらい年期の入った旧式のものだけど、今でも大切に手入れされていてしっかり正しく仕事をしてくれる。用途があくまでも護身用だから、口径も小さく射程も短く、また装弾数も決して多くはない。)

………。

(医師であり養護教諭であり公務補である自分が、この銃の引き金を引くという状況は可能な限り回避したい。けれども万が一の際には、躊躇なく迅速に、そして的確に使用しなければ自分はともかく、周囲の生徒や同僚の身が棄権に曝されることになる。…いざというときに役に立てなくて、不馴れだから、下手だから、では済まされない。道具であり機械である自分が他者に向けて引き金を引くというのは、それだけの重責と正確な判断、確実な成果が求められるものだから。)

クロノ > (万が一の緊急時に備えて携行する通常弾や各種特殊弾ではなく、今日は訓練用の銃弾が装填されたマガジンをグリップにセットする。ゴーグルをかけ、耳栓をして、射撃室の中に入って扉を閉め、前後左右の安全確認も忘れない。)

……。

(遠くスポットライトに照らし出される的が人の上半身の形をしているのは、本来人の生活を豊かにするために製造されたロボットとしては、男の子は毎度胸が苦しく痛む気持ちになるのだけれど。静まり返った射撃場の片隅、ジージーと機械の男の子の腕が動く冷たい駆動音だけが響いて、やがて静寂が戻る。銃の安全装置を解除し、的と対峙して構え、しんと静まる世界。そこには射手の呼吸音も、緊張と集中に鼓動する心音もない。)

クロノ > ……。

(「パン、」と一度だけ、軽く乾いた音が空気を震わせる。ほんの少しだけ遅れて、銃身を飛び出した薬莢が固い床に落ちて転がる金属音が続いた。…何度聞いても慣れない、不安になる、胸を締め付けられる小さな騒音。)

クロノ > (ここに来る前の、見た目の割に長い人生もといロボ生の中でもひかくてき長い年月を過ごした、前線地域や難民キャンプでの、寒く、暗くそして長い夜の記憶が蘇る。)

……。

(パン、パン、と数秒おきに続けて繰り返される発射音と、直後同じく遠い的で僅かな煙を上げて銃弾が食い込んでいくその位置を確認しながら、緑色の装甲を纏ったロボットは一発毎に射撃姿勢と照準を補正する。…最も、そもそも弾痕はその何れも、寸分の誤差なく的の中心を穿っているのだけれども。)

……。

(数発、微調整をしながら繰り返した射撃の最中、男の子の形をしたロボットの、琥珀色の眼差しには生きた人間のような温かさはなく、ただ真っ直ぐにガラスの瞳が的を見つめているだけ。当たり前といえば当たり前なんだけど、血も涙もない機械の、それらしい本来の淡々としたこの姿は、毎日生徒たちと保健室で談笑する男の子の様子からは…あまり想像して欲しくないものだった。)

クロノ > (いくら見た目相応の男の子と違わない挙動や会話をしていても、それはAIによって緻密に、精巧に制御された何百の機械部品が作動して出力した結果。万が一にでもこの機体の電子頭脳が侵入者によって不正に操作されれば、きっとこの男の子の形をした機械は何の躊躇いもなく、真っ直ぐにそして正確に、日々接する生徒や同僚たちを傷つけるに違いない。…そんな最悪の結末に至らないことを日々祈りながら、こうして人知れず、いつ訪れるかも定かではない緊急事態に備えての鍛練は怠らない、そんな養護教諭。)
クロノ > (マガジンひとつ分の銃弾を射ち終えて、空になったそれをグリップから取り外す。安全装置をかけ、再び自分の胸のハッチに愛銃を収納して、耳栓とゴーグルを外す。そうしてふと思い出したように深く深く深呼吸をひとつして、じっと目を閉じて。)

……。

(しばらくそうして瞑想っぽい精神の整理整頓をしたら、ふぅ、といつもの男の子の口調で短く一言、再び開いた琥珀の眼は、いつも通りののんびり性分な養護教諭のものだった。)

……ん。今日も異常なし、と。

(足元に散らばる薬莢を手早く箒と塵取りでかき集めて掃除して、その数を数えて専用のゴミ箱に入れ、管理簿に使用弾の種類と数を記入する。手慣れた仕草で行われる至極地味な作業を続ける男の子からは、先程までのような無機質な冷淡さも妙な緊張感、威圧感もない。)

クロノ > (射撃室での後片付けを終えた男の子は、再び周囲の安全を確認し、もう一度備品や装備の忘れ物が無いか確認して部屋を出る。射手だけが入る空間から、訓練室の廊下に出たところで手近なベンチに腰を降ろして、んー、とのんびり伸びひとつ。ここまで戻ってきてようやく、戦闘任務にも適応できる高出力高機動機体のロボットは、普段の日常モード。機械なんだし、凝る訳でもない鋼鉄の肩をぐりぐり回したり、首に手を宛てて頭をぐるぐるしてみたり。その挙動は男の子…というよりは残業帰りのサラリーマンみたいなオヤジ臭さ漂うものだけど、誰に見られている訳でもないので当人に気にする様子もなく。)
クロノ > (しばらくの間、天井の照明をぼんやり眺めていた男の子はふと思い出したように、金属の両手を顔の前に広げてくんくん、スンスン。先程オヤジ臭い仕草をしたかと思いきや今度は子犬よろしくそんな確認をして、またのんびりと部屋の壁、そこに貼られて並ぶポスターを見つめる。)

……帰ったら、身体のお掃除もしなきゃ。

(弾薬特有の、硝煙と火薬の僅かな匂い。ほんの些細なそれだけど、学校という空間で、それも養護教諭兼医師であり、見た目男の子なロボットがそんな匂いを纏っていては大問題。)

クロノ > (自分は学校の備品だし、非常時に備えての護身用拳銃の携行や訓練の申請も漏れなく手続き済だから、事務的には何の問題も無いんだけれど。)

…戦うお医者さん、か。

(いつか、どこかの難民キャンプで患者の幼子に言われた言葉がひしひしと、鋼鉄のココロに食い込むような感触。自分たち難民を治療しにやって来た医師団のロボットが、患者の目前で敵兵に銃口を向ける光景。出来ることなら見せたくなかった、悲鳴と怒号、銃声の飛び交う凄惨な世界。不安と恐怖、憎しみと悲しみに満ちた、純白と鮮血、鮮やかすぎる2色の世界。)

クロノ > (そんな過去の、しかし寸分の狂いなく正確に記録された記憶のしがらみを振りほどくように、男の子は年季の入った首をジージー鳴らしながらぶんぶんと振る。)

…ん。大丈夫、大丈夫。

(あのとき自分を見上げていた幼子が、今何処で何をしているかは分からない。けれども、今自分は学校の備品だし、与えられた職務もある。それをしっかり全うして、生徒や同僚、みんなと今を生きていく。それが今の自分の責務だから、と。ジジジ、と握りしめる金属の拳に込めた男の子の意思は強く、固い。)

クロノ > (射撃訓練を終えた養護教諭は、さて、と立ち上がって廊下の掃除をてきぱき進め、一通り綺麗になったのを確認して、また個性的な足音を連れて訓練施設を後にする。…明日もまた、きっと平凡だけど新鮮で、平和だけど刺激的な1日が忙しく訪れるのだろう。隙あらばさんざんぼーっとしている男の子だけど、立ち止まっている暇は無さそうだ。)
ご案内:「訓練施設」からクロノさんが去りました。