2016/12/09 のログ
ご案内:「演習施設」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > 普段、蘭は演習施設には授業以外で足を運ぶことが無い。
個人練習は、訓練施設のスペースくらいでやるのが感覚的に丁度良いのだ。
その蘭が、何故授業も無いのに来たかと言えば、常世祭の催しのためである。

常世祭期間中、演習区の施設は「制御大会」という名の模擬戦、デモンストレーションが華々しく開かれている。
蘭が足を運んだのは、魔術によるパフォーマンスを主題にした、恐らく最上級に平和な「制御大会」だ。

美澄 蘭 > もちろん、蘭は観覧者の側である。制御大会に出て華々しく披露するほどの技術など、蘭にはまだまだない。

この日のテーマは、「四大元素」だ。
四大元素を司ると、この世界でされている精霊…サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームを、音楽に乗せながら魔術で表現してみせるという、合計時間30分ほどのパフォーマンスということである。

『この度は、ご来場下さいまして、誠にありがとうございます…』

観覧スペースで待っていると(蘭は背が低い方ではないので、真ん中よりやや後ろくらいの位置にいる)、舞台パフォーマンス等で事前に流されるアナウンスが聞こえ始めた。

そろそろだ。
蘭の胸が期待に速度を上げ、蘭の色違いの瞳が輝く。

美澄 蘭 > アナウンスが終わり、少しすると地を揺るがすようなティンパニの音が聞こえてくる。
その上で踊る軽快なドラムの響き。早速、「サラマンダー」の演目が始まったのだ。

パフォーマンススペースの空間一面に赤い炎が広がり…その中に、黒と黄色で表されたトカゲの姿が浮かび上がった。

美澄 蘭 > 軽快なドラムや打楽器のリズムに合わせるように火の中を跳ねるトカゲは、どんどんその色を変えていく。
黄色が主体になったり、青くなったり、緑になったり。
背景の炎の色も、白くなったり、黄色くなったり、トカゲの存在を目立たせるように変わる。

音楽は打楽器だけで構成されてはいなかった。
ダブルリードの音がユーモラスな旋律を奏でると、トカゲが火の中を転がったり、どこかわたわたとした愛嬌のある動きをしてみたり。火で表現されているはずのそのトカゲは、まるで生きているかのような動きを見せた。

トカゲの愛らしさに、観覧スペースからは時折笑い声が小さく零れた。

美澄 蘭 > そんな中、会場に細く鋭いドラムロール。
それを聞いて驚いたかのように身をくるりと翻したトカゲは…炎と溶け合い、その形を翼を持った西洋風のドラゴンへ鮮やかに変えた。
炎で出来たドラゴンがパフォーマンススペースを激しく飛び回る。曲は、唸るように速い弦楽器の大編成の洪水となっていた。

ドラゴンのパフォーマンスと音楽の相乗効果で、観客スペースからどよめきが上がる。
蘭も、上空を見上げて、その口を小さく、ややだらしなく開いていた。

美澄 蘭 > 曲はどんどん速さ、鋭さを増していく。ドラゴンの飛翔も、その勢いを強めていく。
そうして盛り上がりが頂点に達するところで…天に昇ろうとした炎のドラゴンは天井に遮られ、ぶつかったかのように散り、その形を失う。
まるで、花火の生み出した星屑が舞い落ちるように、パフォーマンススペースをゆらゆらと落ちる、ドラゴン「だった」炎。

…と、いつの間にやら、パフォーマンススペースの床の中央には赤髪碧眼の、舞台衣装がかった服を身につけた青年が立っている。
青年が芝居がかったお辞儀をすれば、観覧スペースから拍手が上がった。

美澄 蘭 > 青年が退場すると、曲調が一転する。
ハープのアルペジオがゆったりと淑やかに奏でられる。
パフォーマンススペースが、静かに…しかしかなりの勢いで、水で満たされ始めた。

やがて、その水の中に現れたのは、薄い生地のドレスを纏った黒髪の女性。
彼女はまるで水の中こそが自らの領域であるかのように、ゆったりと、呼吸も必要としないかのように舞う。
重力から解き放たれて水の中を揺らめくその女性の様は、美しかった。

フルートが清らかな旋律を奏で、ホルンが寄り添う。
蘭もすっかり魅了されて、口元に手を当てながらほう、と息をつく。

魔術的にも、高度に水を統御する元素魔術、水の中で呼吸を可能にする補助魔術、おまけにしなやかな舞を可能にする身体強化魔術を、水の中を舞う女性は一人で、同時に使用してみせているのだが…それは、魔術に長けた者でないと判断が難しいだろう。
素人には、幻想的な水中の舞が見えるだけだ。

美澄 蘭 > やがて、音楽は哀切なメロディを奏でるヴァイオリンをその主役とする。
水の中を妖精のように舞う女性は、静かに…悲しげに目を伏せると、自らの腕でその身を抱き、くるりと背中から翻り、頭から下に沈んでいく。
他ならぬウンディーネや、それに類する精霊の悲恋伝説。そして、想い破れて水辺で命を終わらせた、古い物語の乙女達を模すかのように。

音楽が、弦楽器で哀切な和音を響かせ、ハープのアルペジオが彩りを添えて曲を閉じる。
水の中の女性が再度くるりと翻り、ゆっくりとその裸足を床につけた。
その時には、パフォーマンススペースの中の水もすっかり消えている。
女性も、濡れてはいなかった。

女性が、その緑色の目を満ち足りたように輝かせて観覧スペースの方を見…そして、優雅にお辞儀をして退場していく。
演習施設の中で、拍手が響いた。

水の中で、苦しさも見せずに舞ってみせる女性。水が引けば、濡れてすらいなかったその姿。
魔術を使いながら、同時に顔の表情まで使って全身で表現をしてみせた技量。

蘭は、その高度さをどこまで理解したのだろうか。

美澄 蘭 > 続いて、風、大気を司るシルフの演目だが…目に見えない「大気」「風」を使ってどう表現するのだろうか。
そう蘭が不安半分期待半分でいたところ…木管楽器の可愛らしく軽やかな旋律に合わせて、パフォーマンススペースの上部から、たくさんの布が空間に降ってきた。
長さも、幅も様々で、生成り色に見えながらもよく見ると色に差異のある、たくさんの布。

それを、風が支え…音楽に合わせるように、布達がうねり、組み合わさって形を作り始めた。
空中で、布で造形をしてみせるほどの、風の統御である。

美澄 蘭 > 木管楽器が、弦楽器が軽やかに遊び、時折低音がひょうきんにおどける中で、風は、布で様々な造形を作り上げた。
風に揺れる花、空舞う猛禽…そして、宙を軽やかに踊る女性。
シルフを模したのだろう、布で形作られたその女性は、先ほどの「ウンディーネ」とは様相の違う、駆けるような、跳ねるような、軽やかな舞を披露する。
中空でのピルエット、しなやかに伸びる手足…。

美澄 蘭 > そうして踊っていた女性が床に足をつけると…造形が一気に解け、「彼女」は布の山へと戻る。曲も、弾けるように和音を響かせて終わった。
そうすると、そこにいたのは…布で形作られていた女性よりも小柄な、ピーター・パンを思わせる格好の、中性的な雰囲気の漂う女性。
厳密には、彼女は転移魔術でそこに転移してきたのであって、布の中で踊っていたのではないのだが、その辺りの判別は素人には難しいかもしれない。魔術や魔力を感じ取る力があれば、先ほどの「ウンディーネ」の演目とはまるであり方が違うことを感じ取るのは難しくないのだが。

彼女は、少年じみて元気のいいお辞儀をすると、軽やかに退場していった。
その軽やかさに蘭も思わずはつらつとした笑顔を零し、拍手で彼女を送る。

美澄 蘭 > その女性がいなくなると、今度は鍵盤打楽器が硬質ながらもどこかコミカルな旋律を奏でだす。
その背後で、小物打楽器がチャカポコ、カチャカチャと転がるように鳴った。
土の精霊、ノームは、この世界では一般的に小人と解釈されている。その表現だろう。

まずは鉱石で出来た小人(流石に伝承通りの大きさでは小さ過ぎるためか、人の子供くらいの大きさである)が一体現れ、ぴょーん、と可愛らしく跳ねた。

美澄 蘭 > 小人は、跳ねながらその数を増やしていく。しかし、どれ一つとして同じ色合い、同じ輝きの組み合わせのものはいない。
一人が二人になり、二人が四人、四人が八人…音楽に合わせて4回も小人が跳ねれば、そこには16体の小人達。

小人達は音楽に合わせて跳ねたり、近くの小人と手を取ってくるくる回ったり、あるいはでんぐり返して小人同士でぶつかったりする。
小人達はぶつかると一旦ばらばらになり…お互いのパーツをところどころ交換して、また踊り始めるのだ。

一度として同じ組み合わせは無い。二度と、同じ組み合わせの輝きは現れない。

どこかシュールな様相ながらも、小人達はコミカルな鍵盤打楽器の曲に合わせて、可愛らしく踊り続ける。

美澄 蘭 > 曲が終了に向かうように盛り上がっていくと、鉱石の小人達は全員で手をつないで1つの輪を作り、くるくると回り始める。
4小節ごとに、少しずつ減っていく小人。曲の終わりには、曲の始めと同じく残っているのは一人だけだった。
最後の小人は芝居がかったお辞儀をしたかと思うと…まだまだ小柄で男らしさの発達していない容貌ながら、目に知性の光を宿す少年に変じた。
彼が術者だったのだ。

楽曲の中で、小人達は何度パーツを交換していただろうか。
術者の少年は、その中でどのような状態だったのであろうか。
よほど魔術の造形が深くなければ、真相は闇の中であろう。

少年はもう一度芝居がかった仕草でお辞儀をする。
観覧スペースから拍手が鳴り響くと…先ほどまでのパフォーマンスを披露していた三人も姿を見せ、4人で手をつないで再度お辞儀をしてみせた。

美澄 蘭 > もう一度、会場に拍手が満ちて、「制御大会」という名のパフォーマンスは終わった。
会場から人が捌けていく…と、出口のところでパンフレットやら、今回使われた術式についての解説書やらが売られていた。
「頂いたお代は研究費の補助になります」とのことであった。商魂逞しいことである。

「………。」

もっとも、蘭も足を止めて眺めてしまうのだが。

美澄 蘭 > 「う〜ん…」

売り場のコーナーを、周囲の人を邪魔しないような位置から見つめながら、顎に手を当てて思案する蘭。
パンフレットの方は、大した額ではない。問題は解説書の方だ。
こちらは、パンフレットほどは安くない。
単品なら大したことは無いが…両方揃えようとすると、ちょっとだけお財布が痛い。ちょっとだけだが。

美澄 蘭 > 「………。」

やがて、少女は自らの意思の弱さを嘆くかのように一つ息をついて。

「すみません…これと、これをお願いします」

きっちり両方買って、演習施設を後にしたのだった。

ご案内:「演習施設」から美澄 蘭さんが去りました。