2018/05/25 のログ
ご案内:「訓練施設」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 放課後の休憩所に、間延びした溜め息交じりの声が響く。
「はあああああ……」
長身がはみ出すほどの小さなベンチに、軽装のヨキがくたびれた様子で丸くなっていた。
大きな背中が、息切れのために上下している。
夕方以降空いている訓練所のひとつを、魔術の練習のために借りたのだ。
持ち込んだ飲み物のボトルを早々と飲み干し、自動販売機でスポーツドリンクを買い求めたところである。
人間になって二年近く経ち、魔術学の知識はそれなりのものにはなってきた。が、如何せん実技が追い付かない。
厖大な魔力が、未だに制御しきれずにいる。御すれば詰まり、放てば操作が効かない。
だからこうして、空いた時間には独りこつこつと『自習』に励んでいるのだ。
■ヨキ > 元はといえば神性に由来する魔力を、ひとの言葉と思考で操ることなど出来ないのかもしれない。
それでも、ヨキはこの常世島で培われた魔術学でこそその力を行使したいと思っていた。
自分はもう、異世界の獣でも、半死半生の獣人でもないのだから。
整った空調でしばし涼んだのち、ベンチを立って休憩室を離れ、元の訓練所へと歩き出す。
頭の中では小難しい魔術学の理論がぐるぐると渦巻き、眉間には薄く皺が寄っていた。
学生がいない時間帯を選ぶのは、大きな図体で近寄りがたく険しい顔を見せないためだ。
■ヨキ > 訓練所の一室の、中央に立つ。徐に見下ろした両手に、ぱちりと紫電が跳ねる。
魔力を統御する言葉と、言葉にしがたい美しいものを脳裏に浮かべる。
たとえば転移荒野に降った不可思議なオーロラだとか、青垣山から見た夜明けの光だとか、大時計塔から見下ろした街の光だとか、そういうものを。
「――…………」
野放図に広がり拡散する魔力に、指向性を与える。
黒色に彩った指先が、やがて青い光を帯びてゆく。
多少なりとも魔術学を学んだ者には何てことのない、ごく初歩的な技術だろう。
それでも、ヨキにとってはひどく多大な集中を要した。
まるで吐息の一つでも零せば破れてしまうかのように、自らの身体に向かってじっと神経を研ぎ澄ませる。
■ヨキ > 小さく息を吐き出すのと、右手の指先を持ち上げたのは同時だった。
(――あ)
いける、と思った。
流れるように引いた右腕が、光の軌跡を描く。
左足が頭よりも高い位置まで上がって空を切り、風の音を伴って弧を描く。
身体を捻り、蹴撃を二度、着地した瞬間に再び蹴り上げて三度。
室内を、人工物とは異なる青白い光が満たしては消える。
最後に二本の足で地面に立ったあとも、四肢に集中した魔力の流れは途切れていなかった。
皮膚に太陽光を透かしたように、両手の内側が茫洋とした光を灯していた。
「……………………、」
果たしてこつを掴めたのかどうかさえも判然としない。
ほんの数秒間、眼前に広がった光景を目の当たりにして、まるで信じられない表情で足元を見つめていた。
■ヨキ > 「で……出来ッ」
できた、と声を上げようとした瞬間、魔力の集中がふっと途切れる。
あとはもう、どこへともなく撒き散らされる力が溢れ出てくるばかりだった。
一度昂揚してしまった心では、もう先ほどの切っ先のように研ぎ澄ました冷静さは戻ってはこなかった。
仮にも魔術師を名乗ろうとするならば、あの状態を空気のように保たねばならないのだ。
「……さ……先がやっと見えたと思ったんだがな……」
がっくりと肩を落とす。
ご案内:「訓練施設」に宵町 彼岸さんが現れました。