2015/10/06 のログ
鏑木 ヤエ > (──十月。吹くは幾らか冷たくなった身体を冷やす風。
 全体的にボルドーを基調にした服装は秋には随分とぴったりで。
 常世大ホールに吹き込む秋風がミルクティ色の髪をゆうらと揺らした)

「……はっはあん。芸術の秋とは言いやがりますがこりゃ随分と」

(飾り付けられたホールに学生が揃い踏み。 
 今日は本島から来ている中規模な劇団の公演が行われる、そんなイベントが開催されていた。
 理由もなく訪れた訳ではない。
 ただラウンジのバイトで優待券を貰った、という劇団に対して失礼極まりない理由だった)

「ゲージュツですねえ」

(カタン、と軽い音を鳴らして踵のヒールがホールの入り口を叩いた)

鏑木 ヤエ > (本島から人が来ているということもあり、非常に人が多い。
 ごとんという重いブーツの音やぺたりとしたヒールのない靴の音。
 様々な人々の様々な足音が重なり合う。
 普段は気にも留めない筈なのに気になってしまうのは大ホールという場所ゆえか)

「……独り言すらも目立つって訳ですね」

(静かなホール内部に自分の声が地味に響いているのに気づいた。
 人間は緊張すれば音に敏感になると聞いた。
 異邦人なら緊張しなくてもいいのだろうかと思ったが些細な疑問だ。
 どっちにしろ、この空間に緊張しないような人の方が少ないだろう)

鏑木 ヤエ > (ホールの入り口を潜った。
 コロッセオ状のもともとは闘技場としても使われていた空間。
 この場所で異能同士のぶつかり合いが起きていて人々は熱狂していたのだろうか。
 ぼんやりと思いを馳せた。それは古代ギリシャの文化に手を伸ばすのに似ていた。
 何千年も間はあれど、全てに於いて同じ過去だ。
 それが一年でも半年でも変わることはないだろう。その面影をちらりと横目で見た)


「(…………演劇の歴史ってどんなんでしたっけねえ。
  生憎やえは知識がないもので困ったものですね、調べておけばよかったです)」
 
(そう胸中で独りごちたところでポンと手を打った。
 愛用のポシェットから携帯端末を取り出せばアプリを立ち上げた。 
 愛らしい自分にそっくりな──自分よりもやや等身の低いアバターが迎え入れる。
 ドリームランド。管理人のピンクな噂をよく聞くインターネットサービス。
 そのSNSの膨大なデータにちょいっとアクセスする。調べものというものだ)

【やえです】

(SNSを開くと同時に書き込みだけひとつ。
 ゆっくりと指定された席につけば、調べものをしながら開演を待つのだ)

鏑木 ヤエ > (暫くずうっと画面を見ていた。
 スワイプする画面。移り変わるインターネット上の景色。
 ───演劇で起こった変化やその他詳細な話。
 自分も大好きな哲学の話にだって関わってきた。
 誰もが憧れた偉大な劇作家の言葉は興味深くはあったがあくまで一笑に付すにとどめるのみ。
 それは現実に生きる自分からしたら馬鹿馬鹿しいにも程があるような話で)

「……キョーミねーですね、途中で寝ないようにしねーといけねーです」

(ゆらり、暗くなった視界。
 当然それに合わせて携帯端末の電源を落とす。
 暗いホールにヴ───ッ、と開演の合図が鳴った)

「やえにオハナシ、見せてくださいな」

(大きく舞台に、橙色のスポットライトが当たった)

ご案内:「常世大ホール」から鏑木 ヤエさんが去りました。