2015/07/26 のログ
ご案内:「転移荒野」にハイドレンジアさんが現れました。
ハイドレンジア > (最後の一体が大口径弾を受けて白い血液を四散させた。
 10体のワーカーと呼ばれる戦闘固体が一斉にかかっても数分と持たなかった。対人用火器ではかすり傷を負わせることさえ難しく、故にまともな戦闘などない。蹂躙だ。10体は嵐に弄ばれるクルーザーのようだった。
 人型の上半身。6本に分岐した脚部。歪な戦闘固体が荒野を徘徊している。腕に相当する部位には大口径の滑空砲が握られており、肩には多連装ロケットランチャーシステムに良く似たシステムが搭載されている。虫を思わせる複眼があたりを絶え間なくスキャンしていた。
 ハイドレンジアは、荒野の廃屋の壁に寄りかかって目を瞑っていた。
 最後の一体がやられた。
 姉さまに怒られてしまう。
 恐怖と同時に怒りが湧き上がってきた。ズタズタに引き裂いてやるという強烈な感情である。)

「生意気。ぼくが壊してあげる」

(コートを壁から突き出た鉄骨にぶら下げる。大きく開かれた背中。腿の露出は大きく、艶やかな肌が外気に晒される。一見して露出の高い格好であるが下手に服を着ると内蔵兵器を作動できなくなる恐れがある。
 そして同時に、想う対象を模倣したいという欲望もあった。
 多脚型が次の獲物を探している。
 アマナは壁の裏でため息を吐いた)

ハイドレンジア > (右腕部が変形する。手が半ばから分かれると腕に亀裂が走る。三つの棒状パーツと内側に隠された砲身があらわになる。白い冷気が熱く揺らめく大気へと流れ落ちていく。
 ちらりと左腕を一瞥する。グラビティガン。車両程度であれば容易に捕獲し射出することも可能な兵器。ものを捕まえることはもちろん、銃弾を受け止める、吹き飛ばす、強力な重力を発生させて相手を握りつぶすことも出来る。
 だが多脚型は見るからに堅牢だった。事実スキャンしても未知の金属で守られており重量は桁違い。有効とは思えない。スタンバイさせずにエネルギーを別の武装へと流しておく。
 多脚型が肩からドローンを射出。周辺のスキャンを開始した。
 蝙蝠を思わせるソレをアマナはじっと見つめる。耳の格納アンテナがせり出てきた。)

【電子戦機能オンライン
 波長分析……合致 侵入成功
 擬似データ送信     】

(ドローンが突如動きを狂わせた。
 刹那、多脚型は見当違いな別の廃屋へと腕の滑空砲を撃ち放つ。榴弾砲。着弾と同時に廃屋の窓が消し飛び屋根が粉々になる。漆黒の煙に包まれ視界が死んだ。
 遅れてやってくる爆風が建物に到達したとき既にハイドレンジアという固体はいなかった。
 脚部が変形した。踵部分から隠された推進装置が出現する。背中と、脚部の一部が開くや、青い火を吹いた。
 大地に二条の線を残しつつ円を描くように背後から接近。
 プラズマ砲による奇襲の一撃――!)

ハイドレンジア > (――は、あらぬ軌道を描いて捻じ曲がった。彼方へとオレンジ色の砲弾が流れ去る。
 続けざまにプラズマ砲を撃ちまくる。速射モード。
 だが、全て違う方向へと捻じ曲がっていく。)

「偏向フィールド!?」

(アマナは素っ頓狂な声を上げて、続けざまに放たれる対人用と思しき12.7mm弾の嵐を掻い潜らんと踵部分からブースト炎を放った。青い瞳から放たれるかすかな光が残像を描き出す。
 大地を深く抉る弾幕を回避せんと、地を蹴った。両足と背中から火を吹きつつあっという間に数十m上昇。追尾してくる弾幕に対し戦闘機動を取った。時速0から時速数十数百と加速。大地を舐めるように飛翔すると、別の建物の影にもぐりこんだ。)

「……ふーん。面白いものつけてるんだ。
 引き剥がしてあげる。……ふふふ……」

(歯を覗かせて笑った。
 多脚型が別の建物を踏みしめる。めきめきと音を立てて天井が崩落していく。砂煙があがった。複眼が不気味な赤い光を灯して獲物を探している。
 獲物は、アマナである。
 けれどアマナは狩人である。
 狩人と狩人が殺し合いを演じているのだ。)

「いくよ?」

(アマナはおもむろに大地へと拳をたたきつけた。マンホールが捩れ、落ちていく。
 転移荒野に飲み込まれるのは魔物や怪異だけではない。街ごと飲み込まれてくることもある。
 多脚型が肩部多連装ロケットランチャーを斉射した。ひとたび上空へと高度を上げたロケットは、あたり一体に子弾をばらまく。範囲攻撃。一帯に火花が轟音を上げて炸裂した。)

「――遅い」

(多脚型がカメラアイを元来た方角へ向けた途端、真下のマンホールが吹っ飛んだ。
 放たれた赤い矢が腹部に相当する部位へと突っ込んだ)

ハイドレンジア > (衣服の靴は――こうしたことを想定している。ただの靴のようだが尋常な靴ではない。変形機構に合致するよう変形するばかりか、推進炎にも耐える。
 故に、脚部から火を吹いて飛翔しても問題は無いのだ。
 多脚型のフィールドと拳が衝突した。別の方角へと捻じ曲げんとフィールドが働くが、結果、真下からやってくるアマナを弾き飛ばすと同時に反動で前に転倒する羽目になった。
 アマナは舌打ちをした。
 フィールドが硬すぎる。物理的に破壊することは難しいかもしれない。
 多脚型の胴体目掛けてプラズマ砲をチャージ。背中の放熱板が立ち上がり、鳥のように羽ばたいた。
 どこを狙っても弾かれる。どこでも構わない。
 大威力を込めたプラズマが電磁力で射出される。反動で空中で一回転。着地と同時にバク転して敵の追撃に備える。
 多脚型が咆哮した。各部からエアを排出している。ギョロリと小さき狩人の姿を複眼で認めると、各部から推進炎を吐いて姿勢を起こした。
 ――つい、と滑空砲が立ち上がった。
 アマナはプラズマ砲を左手で押さえて真正面から銃身を狙っていた。
 ウィンクしてみせる)

「ぼくをずたずたにしたいんでしょう? してみせてね」

(発砲音が二つ)

ハイドレンジア > (榴弾砲が放たれる。火薬の炸裂と破片で対象を破壊する弾頭である。装甲対象には通用しにくいが、ハイドレンジアのようなまともな装甲を持たない兵器には危険極まりない威力を誇る。
 滑空砲内部で加速した弾頭は膨張した空気に後押しされて飛翔していく。偏向フィールドは外向きに作用する。内側からの力は阻害されない。
 次の瞬間、偏向フィールドから飛び出した瞬間にプラズマ砲が榴弾砲の弾頭を破壊した。信管が作動。空中で壮絶な衝撃を放つ。同心円状に拡散する火炎が多脚型のフィールドをしたたか打ち付けた。
 フィールドダウン。多脚型が後部脚で地面を踏みしめ、しかし、よろめいた。
 ハイドレンジアは楽しそうに口元を歪めた)

「撃ってくれてありがとう」

(破れないならば破れる武器を持ってくるまで。
 多脚型が姿勢を取り戻そうと踏ん張っている隙に、宙へと進出した。空中で数度回転して着地点を調整。頭部へプラズマ砲を突きつけた――!)

「このぉぉッ………えっ」

(多脚型に隠されていたアームが腕を掴みあげていた。あらぬ方角へオレンジ色の球体が逸れていく。
 次の瞬間、多脚型は各部スラスターを吹かし回転すると、ハイドレンジアを建物の壁目掛け投擲した。
 小柄が壁を破壊し中に吹き飛んでいく)

ハイドレンジア > 「あッ゛  う、くぅ……」

(ハイドレンジアは室内のタンスを破壊して壁に埋まっていた。苦悶の表情を浮かべ外を睨み付けている。
 めきめきとタンスを腕力でどかすと、穴の外で巨体がこちらを見ているのを直視してしまった。
 巨体が拳を振り上げる。腕部のスラスターがオービタ打ち上げ時のロケットかくや赤い火炎を噴出した。
 次の瞬間、廃屋ごと拳がハイドレンジアの体を荒野へとたたき出したのである。
 地面で数度バウンドして荒野の表面を削りながら静止する。
 口の中の擬似的な赤い血液を吐き出すと、ぱっくりと裂けた額を押さえ、片膝を付く。
 多脚型がのしのしと接近してくる。)

「はぁ~……はぁ~っ……ふぅ。
 痛かった。痛かった……!」

(額を擦ると、立ち上がる。
 まだ戦えると)

ハイドレンジア > (グラビティガン オンライン。
 矢継ぎ早に放たれる12.7mm弾を重力の壁で空間に縫い付ける。作動に要するエネルギーが爆発的に上昇していく。その場で数歩よろめくと脚部の推進装置を開いた。後方へステップと同時に吹かしてスキーのように滑っていく。右へ。左へ。ジグザグのランダム機動を取り射撃を散らす。)

「せえのっ!」

(地を蹴った。推進装置の推力を最大へ。空中で敵の射撃を潜る。数発が髪の毛をかすった。
 対空砲火を潜った赤い閃光が、獣のように敵の頭部へと飛び掛った。
 拳を叩きつける。一発目でカメラを潰し、すかさずプラズマ砲に変形させて背後を見ずに射撃をブチかます。高熱のプラズマが背後から掴みかからんとしていた隠しアームの関節から先をあの世に送った。
 プラズマ砲、接射。
 一発。二発。三発。モード変更、速射。
 発射間隔を機関砲かくやという速度へと変更。多脚の化け物が暴れまわるのを、グラビティガンで相手と己を固定する荒業でいなす。
 頭部から内側へ、毎分数千発という無数の破壊エネルギーが注ぎ込まれた。)

「はー……気持ちよかった」

(多脚が、肢体をがくんがくんと震わせて静止した。
 プラズマ砲から白い蒸気が上がった。背中の放熱板が羽ばたき熱を逃がそうとする。
 恍惚とした表情で破壊された多脚型を見遣る。頭部から中がドロドロに融解していた。)

ハイドレンジア > 「随分古い型みたいだけど……偏向フィールドなんておもしろいもの積んでたよね。
 どこかの世界の兵器だったんだろうけど……。
 うーん。どれどれ」

(上にのしかかったまま感想を述べる。
 そして頭部パーツの残骸を投げ捨てると、中に腕を突っ込んでパーツを物色し始めた。
 破壊されて使い物にならない部品ばかり。
 コンピュータは全て破壊されていて鉄くずと同じ価値しかなかった。
 残念そうにコードを引っ張って弄ぶ)

ハイドレンジア > (ふと我に返り見下ろすと、ワーカーたちの補充要員がやってきていた。
 バラバラになった仲間を回収し始める。
 アマナは作業を手伝いながらその場を後にするのであった)

ご案内:「転移荒野」からハイドレンジアさんが去りました。