2015/12/12 のログ
ご案内:「転移荒野」にステーシーさんが現れました。
■ステーシー > 怪異対策室一課、二課、三課という組織がある。
基本的には異邦人を保護したり、敵対的怪異を退治することが主な業務だ。
怪異対策室一課と二課は生活委員会の下部組織、公権だ。
だがステーシー・バントラインが所属している怪異対策室三課はある男が設立した私設組織。
生活委員会の末席に名を連ねてはいるものの、基本的にちょっとしたパトロールや一部怪異の対策を任される程度。
ステーシー・バントラインは猫耳の剣客である。
彼女が土曜の昼間から転移荒野にいるのは、
怪異対策室三課にも緊急の仕事が入ったからだ。
転移荒野で殺人が続いているのである。
原始的な武器が使われていることやその他痕跡から異世界から来た敵対的怪異の仕業の可能性が高かった。
川添孝一、桜井雄二、三枝あかり、ステーシー・バントラインの四人を含めた怪異対策室三課のメンバー。
彼らはすぐに連絡を取り合える準備をした上で転移荒野で一連の事件の犯人を追っていた。
■ステーシー > ……結果だけを言うならば、犯人は見つかった。
ステーシー・バントラインが一旦、怪異対策室三課の実働班の先輩と合流する予定地点で。
彼女の先輩は亜人の群れに捕まっていた。
曲りなりにも戦闘向きの異能を持つステーシーの先輩、佐原博史。
砂を操る異能を持ち、一対一の戦闘では無類の強さを誇る彼が。
「さ、佐原先輩………?」
見るも無残に痛めつけられ、血塗れでゴブリンに両脇を抱えられていた。
火を見るより明らかだ。こいつらが転移荒野で人を殺していた者たち。亜人の軍隊。
■ステーシー > 「佐原先輩を離しなさい!!」
腰の刀、銘刀・旋空に手を掛ける。
言葉が通じる通じないではない、まずは彼を助けなければ。
その時、緑色の肌を持つ亜人が一歩前に出た。
独特の衣装を身に纏ったその亜人は、彼ら亜人の中でもかなり目立つ。
ゴブリン? 小さいオーガ? そのどれとも違う。
だが、こちらを見る目に満ちる悪意と放たれる殺気は震えが来るレベルだった。
『お前も亜人か……』
こちらの言語を話した。珍しいことではない、向こうに言語魔術を使う者がいれば。
「だったらどうだっていうのかしら? その男性は私の仲間よ、今すぐ離しなさい」
『亜人が人間の味方をし、我々と敵対するというのか?』
「亜人も人間種も関係ない……レィス(人種)に関わらず、戦えない人間の代わりに命を賭して戦うのも私の使命……!!」
腰の刀に手を掛けたまま目の前の亜人を真っ直ぐに見る。
「佐原先輩はもう戦えないッ! ならば、彼を助けるために私は戦うッ!!」
亜人は呵呵と大笑する。
『ワシの名前は亜人王キサロガ、この世界に災厄を齎す者だ………愚かなフェルパー…名乗るがいい』
「こちらの世界での名は星薙四葉。本来の名をステーシー・バントライン」
荒野に風が吹き荒ぶ。
■ステーシー > 『この男は勇敢な戦士であった……敗北した戦士の運命は一つ』
亜人王キサロガが手を上げると二体のレッサーオーガが槍を持って佐原博史の両側に立った。
「!!」
駆け出すが間に合わない。即座に鉄の槍が佐原先輩の体に突き立てられた。
流れる血。零れ落ちる、命。
「き………貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
耳をピン、と立てて叫ぶステーシー・バントライン。
怪異対策室三課でお世話になった先輩が、こうも簡単に殺された。
その激情に任せて、旋空を抜き、天に向ける。
陽光に切っ先が煌いた。
「亜人王キサロガッ!! あなたを私の敵として認めるわ! その上で、断つ!!」
口元を歪めて邪悪に笑うキサロガ。
『やれ、やつも武器を持って我々の前に立った……戦士だ』
亜人の群れがこちらに向けて一斉に突撃してくる。
この状況を一人で覆せるのは、対多数戦闘に長けた桜井雄二先輩だ。
だが助けは期待できない。
この転移荒野は広い。
既に緊急信号を発信してあるが、桜井先輩たちが来るまでにこの戦いの決着はついているだろう。
ならば自分の道を切り開くのは、自身の力と旋空に他ならない。
■ステーシー > 「猫撫で斬りッ!!」
袈裟斬りと逆袈裟を繰り返しながら走ることで多数の敵を切り伏せる。
一体一体は大したことはない、C級怪異災害と言ったところだが、何分敵の数が多い。
全員を倒し、キサロガを斬るまで体力が持つかどうか。
亜人を斬る亜人。
ステーシーは剣風となって敵陣を駆け巡る。
■ステーシー > 斬る。斬る。斬る。斬る。
失った命を悼み、より多くの命を奪う矛盾。
しかし矛盾こそが命の本質であるならば、復讐もまた物語の一つ。
勢いよく敵勢を切り伏せる中、白い光が煌いた。
「うぐっ!?」
二本の投げナイフのような刃が太ももに突き刺さっていた。
顔を上げると、キサロガの悪意に満ちた笑みが見えた。
奴が最悪のタイミングを見計らい、このナイフを投げたのだ。
「う、う………」
痛みに顔を歪めながらナイフを引き抜く。
蹲るステーシーに周囲の亜人が一斉に襲い掛かってくる。
■ステーシー > 死に至る運命。
それを覆すためには、自分の存在を賭けるしかない。
「うわあああああああああぁぁぁぁッ!!」
絶叫と共にステーシーの周囲の亜人を怯ませる白の極光が彼女から放たれる。
プラーナ。
自分がこの世界に存在するための力。
上手く使えば傷を瞬時に塞ぎ、疾風の如く動き、敵を薙ぎ倒す力を発揮できる。
だが使いすぎればこの世界から消え果る、最悪のリスクを孕んだ力。
それを一時的に全解放した。
即座に太ももの傷を塞ぎ、空に向けて跳躍しながら切っ先にプラーナを集中させる。
「ハイブリッドレインボウッ!!」
キサロガのいる方向に虹色の光を放つ。
強い衝撃を伴うその光が、キサロガを一時的に怯ませる。
『ヌウッ!?』
後方に跳びながら、短期決戦の道を選ぶ。
このプラーナを持って最大最終の奥義を放ち、敵を殲滅する。
■ステーシー > 切っ先を下ろし、脇構えを取る。
「ディバインブレード、旋空でつかまつるッ!」
神々の刃の名を持つ刀、旋空。
その刀身にプラーナを通し、広範囲攻撃で決着をつける。
それがステーシーの選んだ戦術。
「私の一振りは山をも断つ……私の一振りは海をも斬る………私の一振りは、星をも薙ぐ!!」
切っ先から迸るプラーナが推進力を生み出し、前方に超加速。
難しいのはここからだ。
限界までプラーナを使い、それを制御した上で自分が世界から消えないこと。
それが生き残るための法(ロウ)。
足で地面を踏む。急制動、ブレーキをかけながら敵陣との距離を測る。
足元の岩が砕けながら速度がやや落ちる。
「バントライン一刀流奥義、星薙ッ!!!」
そのまま旋空を横薙ぎに振った。
刀身から放たれる白光は地平線を払うかの如き破壊の力を亜人の群れにぶつける。
刀を地面に突き刺し、体を支えるように地面に立つ。
砂埃が巻き上がり、敵の姿は見えない。
「……やった!?」
■ステーシー > 死屍累々の荒野。
今だ窮めずの秘技なれど星薙の威力は絶大だ。
亜人は全滅した………かに見えた。
『まさかそんな隠し剣があるとはな……』
ボロボロになりながらも、亜人の王は確かに荒野に立っていた。
『ワシの仲間を殺した罪を購え』
持っている槍の柄頭で地面をドン、と突くキサロガ。
「……っ! 星薙を耐えたの!?」
『当然だ、ワシには神槍ヒューマンドゥームの守護がある』
「ヒューマン……ドゥーム…」
今まで持っていなかったが、キサロガは槍を持っている。
どちらかと言えば巴型の薙刀に似ているそれは、禍々しい気を放っていた。
『だが連発できる技ではないようだな……貴様の足が透けておるわ』
「!?」
ステーシーが足元を見ると、薄くなっている。
この世界に存在する確率がゼロに近づいている。
プラーナの使いすぎだった。
『なれば今のワシにも十二分に勝ち目はあるというものよ』
「くっ……」
槍を持った亜人王が独特の走法でこちらへ疾駆する。
『貴様の命を我が神に捧げよ!!』
「ううっ!!」
弱っているステーシーは槍の間合いで次々と放たれる凶刃を受けるのが精一杯だ。
■ステーシー > 咄嗟に後方に後退し、懐からエスケープの魔結晶を取り出した。
帰還の術法が入った使い捨ての結晶。
これを使えば瞬時にホームに帰れる。
逃げるのは不本意だが、死ぬよりはいい。
逃げ帰ればその隙に――――
『甘いわぁ!!』
踏み込んできたキサロガがステーシーの取り出した魔結晶を斬り砕く。
「そ、そんな……!」
『ふん、その表情だと奥の手か逃げる手段か……使う隙など与えぬ』
後は敵を切り伏せて帰還する、この方法しか残されていない。
だが……槍の間合いを切り抜けて敵を倒す。
それが疲弊した現状では極めて難しい。
「ならば。推して…参るッ!」
再び剣戟の応酬が始まる。
ステーシーの体の端々が切り裂かれ、血が流れる。
だがキサロガは無傷だ。
刀剣で槍に勝つには三倍の力量差が必要だ。
素早さでは勝っている。
力で負けている。
リーチで圧倒的に劣る。
相手は白打(近接格闘)は強いのだろうか?
相手は……隙を見せてくれるだろうか?
ステーシーの頭の中を一瞬で様々な想いが交錯する。
ご案内:「転移荒野」にギルゲイオスさんが現れました。
■ステーシー > ヒューマンドゥームの穂先がステーシーの喉元を狙って突き出される。
「バントライン一刀流……天笹(あまざさ)ッ!!」
その刃を渾身の力と精緻なる技術で振るわれる角度で弾く。
一足飛びにキサロガの懐に飛び込み、そして。
『舐めるなぁ!!』
キサロガの手がステーシーの腕を掴み、亜人王は蹴りをステーシーの腹部に叩き込む。
ぐっと呻いたステーシーは何とか相手の斬撃をかわして距離を取った。
酸素が欲しい。
呼吸がしたい。
それだけの思いで肩を上下させた。
『この地にて人間どもを殺し、そして貴様に仲間を殺され』
キサロガが腰にかけていたランタンのような祭具を手に取る。
『その負の想念が大分溜まってきたわ……』
初めて気付く。そのランタンに強大なる力が溜め込まれていることに。
魔術の素人が見てもわかるレベルだ、それは周囲の空間を歪めながらそこに存在している。
「あなたは一体……」
ステーシーが必死に呼吸を落ち着けながら相手に質問をする。
『ワシの世界では人間と亜人が戦争をしていた……三年前、亜人側の勝利に終わったよ』
キサロガがランタンを愛しげに見る。
『ワシの世界の人間種は絶滅した。だが足りぬ――――まだ憎しみ足りない』
狂った王は話を続ける。
『違う世界の人間でも、殺し続けなければならぬ…それがワシの世界の選択なのだ』
「その……そのランタンはッ!」
『これはワシの世界の神が宿ったものよ、もうじき完全な形で復活し、この世界を呪いで満たすッ!!』
ステーシーは思わず息を呑んだ。
■ギルゲイオス > さて…………
(戦場から幾分と離れた、空。
様子を眺めながら、首をかしげて唸る魔王の姿が)
何時もより随分騒がしいなと来てみれば、水分とまた派手にやはりあっておるようだが
(事のの成り行きを察するに、ゴブリンや何やらの小規模な軍勢と、女性が戦って今は大将と、言った雰囲気ではある。
そして疲労や実力としては、どうやら女性の方が押されている状況、であるらしい)
さて、どちらが良いモノで、どっちが悪いモノなのか、よく分からぬ所ではあるのだが――
(高度を降ろしながら、寄ってゆくは二人の戦いの最中。
見る余裕がもしあれば、其方から、此方にそろそろと気づいてもよい頃合いの距離になりつつある)
朧げながら、声も聞こえるようになってきた感じであるな。
ふーむ……どうにも、あの大将がロクでもない事をやろうとしている、といった雰囲気か。
となると、止めるべきはあちら、か……。
(言ってみれば、此方は魔術の専門家である。
どういう原理かまでは分からぬものの、あのランタンはよろしく無い物、だというのは分かる。
地表近くで更にと速度を上げると、速度を更に上げ、黒い弾丸の如く大将の方へと接近してゆく)
■ステーシー > ステーシーがよろめきながら旋空を構える。
もう万に一つも勝ち目はない。
ただ、ただ……誰かが来てほしかった。
自分が負けたとしても誰かがこの歪みを正してくれることを願った。
その時。
『何っ!?』
キサロガが驚きの声を上げる。こちらへ向けて灰色の髪の大男が接近してくるのが見えたからだ。
『何者だっ!!』
亜人王がヒューマンドゥームと呼ばれる呪詛に満ちた槍の刀身を男に向けて突き出す。
ステーシーは新たに来た……飛来した男を呆然と眺めるばかりだ。
■ギルゲイオス > 何者かと聞かれれば、そうであるな。
(微かに上げる口の端。
相手の構える武器の切っ先が此方に向けられると、剣の柄に手を掛けて)
――通りすがりの魔王、とでも名乗っておこうかっ!!
(互いの間合いに入るその直前に、着地。
勢いを殺さずに両足で荒地を滑ると、砂嵐が舞い踊り。
大将の槍へと思いっきり打ち付けるように、剣を振り抜く。
魔王の剣、単純な重量にして50kg以上と並みの武器をはるかにしのぐ。
それに飛翔の勢いを乗せた一撃は、大岩位砕いても可笑しくはない威力を持っている)
■ステーシー > 『魔王か、それはいい!! この世界が緩慢に終わる始点を見物していくがよい!!』
槍を弾かれ、キサロガの手が痺れた。
凄まじい質量攻撃。そして女が持つ刀もそうだが、ヒューマンドゥームの斬撃を弾ける時点で男の武器も並ではない。
口元を歪めてキサロガが遠間から突きを連続で放つ。
『この世界の調査は済んでいる! 人間が満ちた世界……醜い、醜いぞ!!』
キサロガは吼える。
『人間種というだけで万死に値する!! その味方をする義理が貴様にあるのか!!』
ステーシーはディバインブレード・旋空を握ったまま戦いを見守る。
来た。切望していた誰かが、狂った王と戦っている。
だが彼は魔王と名乗った。
魔王……かつて師匠リルカ・バントラインが戦った悪しき存在…目の前の男性は一体?
■ギルゲイオス > っち! まぁ遠目でも分かっておったが、随分と手練れであるな。
格好つけて近寄らず、離れて爆撃でもするべきであったか。
(剣による一撃は入ったものの、武器を弾き飛ばすには至らなかったようだ。
少なくとも口だけ、ではないらしい。
飛行の術式を慣性制御に切り替えると、体勢を立て直す――間はどうにも与えてくれないらしい。
舌うち一つかき鳴らして身を捌くも、幾つかの刃が肩や脇腹をかすめ。
紅い血が僅かに舞う)
蛮族の王にしては、中々洒落た事を言うではないか、終わる始点か。
(地面を蹴り出すと、大きく後方へと跳躍。
丁度と、ステーシーに近づいてゆくこととなる)
醜いだのなんだのと言うのは、結局お主らの主観であろう?
戦争やら争いの事を言っているのであれば、ここの人間だけでなく――他の世界、それこそ魔族だろうが、亜人だろうが、そうと変わりはせぬよ。
ならば、お主がこの世界を滅ぼそうとしているのも、十分と醜い事だと思うのだがな。
(見た目を裏切る重量を秘めた剣を掌の中で回転させると、両手で再びと構え直して)
正直に言えば、この世界に味方する『義理』なんてのは無いのであるがな。
ただ、此方の世界では世話になったヤツも多いのでな。
そやつらを守るため、で理由は十分であろうさ。
(小さく笑い声を喉で鳴らせば、ステーシーの方へと気配を向ける)
動けるか?
無理はせずとも良いがな、協力できそうなら、その方が有り難いのである。
(呼吸を整えれば、両足、地面を踏みしめなおす)
■ステーシー > 『終わりが始まるということよ、魔王。人間が満ちる世界などとっとと潰れたらいいのだ!!』
ヒューマンドゥームによる突きの速射は確実に魔王の身を掠める。
致命傷を与えられなかったことに舌打ちをする亜人王。
『フン、所詮全ての存在は己の知るところしか知らぬ』
『ワシらが醜いと感じ、ワシらが良いと思った行動をし、ワシらが全てを終わらせる』
『一切の矛盾なくな……そもそもワシの言葉は貴様らの言語で亜人、と訳されているであろう』
『人間の亜種…このイビツな言葉が罷り通ることが既に間違っている!!』
狂った王は自らの言葉だけを切り取って投げかけ、軽くヒューマンドゥームを振る。
空間が裂けるような異音が響く。
軽く振っただけでこれだ。
あの槍がどんな力を秘めているのか、ステーシーには想像もつかない。
『守るため……もっともくだらん理由だな、魔王』
ステーシーは息を整えてから胸元を押さえる。
時間経過でプラーナは回復する。
足元が透けている状況は何とか治ったが、まだ十全に力を発揮することはできそうにない。
でも。
「動けるわ、私の名はステーシー・バントライン」
「コンビネーションで攻めましょう、私が隙を見て奴のランタンを破壊する」
「……私の刀が、本当に夢の神が宿っているのなら」
「人の夢を守るために悪しき神を押さえてくれるはず」
刀を構えて、ステーシーはキサロガに向けて走り出す。
「戦いましょう、魔王ッ!! 奴の目論見は私たちの剣で打ち砕く!!」
ギザギザに走りながら、キサロガに向けて駆けるステーシー。
■ギルゲイオス > なるほど、つまりそれがお主の正義、という事か。
至極単純に、人間が気に入らないから滅ぼす。
お主の眼から見て、人間が汚らわしいから滅ぼす、か。
(間合いをとりながら、片目を薄くとする。
さて、どういう武器かというのは兎も角として。
直撃はなるべく喰らいたく無い所だ)
ま、亜人云々は、分からぬ話ではないがな。
とはいえ他に丁度いい言葉も――いや、これは置いておくか。
(考え始めるとキリもなさそうだ)
そうであるかな?
王というのは結局のところ、国の民を守るのが一番の責務ではないか?
これを下らぬと言ってしまえば、王という存在そのものを否定するようなモノであるよ。
(ちょいとばかしに肩を竦めれば、顔を横へと緩くと振って。
このやりとりが功を為したのかどうかは分からないが、後ろの方から動く気配)
魔王ギルゲイオス・ホッドケーテ、である。
ま、積る自己紹介は後回しとして。
(軽くと地面を蹴り出せば、右斜め前方に疾走してゆく)
ではま、我は精々派手にやって、あ奴の眼をひくとするか。
しかし、はは、なんともむず痒さを感じる口上であるな。
もっとも、そう言うのも嫌いではないが、なっ!!
(切っ先、大将へと向ける。
当然、距離は開けたままであり、届きもしないのだが)
ガンズ――
(術式を、魔王の剣を通じて増幅。
本来、詠唱を除いた発動術式のみでは、大した量は出せない、のだが。
魔王の背後に生まれて浮かぶは、30程の炎弾。
それらは熱量が増すにつれて、槍のごとき姿を取る)
ローッ!!
(発動。
槍襖は一斉に投射され、大将のいる地点回りを爆撃するように殺到する。
炎の槍は貫通能力もさることながら、地面であろうと敵であろうと、着弾と同時に爆発し、炎と爆風をまき散らしてゆくこととなる。
ちなみに、だが。
ステーシーにとっては、熱風を感じる程度で済むようにはなっている)
■ステーシー > 『既に王位は若者に譲り渡してきた、ワシは古き王というわけよ…』
『戦争中に生まれたワシには憎悪しかない! 人間を滅ぼすほどの憎悪しかな!!』
炎の槍が無数にキサロガに向かう。
『ヌウッ!! 終の顎門!!』
キサロガがヒューマンドゥームを切り上げるように振ると、呪詛が濃紺の弾丸となって飛来していく。
それらはホーミングして炎の槍を撃ち落としていくが、数でキサロガの呪弾が劣った。
6、7発分の炎の槍が着弾、キサロガが爆炎に巻き込まれる。
『ヌアァ!!』
次の瞬間、炎を切り裂くように飛び出してきたステーシー。
「バントライン一刀流……雪童(ゆきわらし)ッ!!」
空中を捻るように飛びながら猫の身のこなしでキサロガの左肩、胸元、右肩を瞬時に三連突き。
亜人王の体から鮮血が吹き出る。
『まだだ!! ヒューマンドゥームの呪詛を全て解放してくれる!!』
キサロガが槍を掲げると、呪いが人の顔のような形となり、無数に周囲を乱れ飛ぶ。
それはランダムに岩や砂、空間などに齧りついていく。
「ギルゲイオスッ!!」
キサロガの背後に着地したステーシーが魔王を呼ぶ。
長期戦は不利。倒すなら今、この瞬間がチャンスだと。
同時攻撃、その先陣を切る。
自らに襲い掛かる怨念を切り払いながら、黒猫は走る。
プラーナに頼らない。自らの剣技に魂を込める。
ただの一閃。それが彼女の選んだ選択。
ただそれだけが、槍と刀の差を埋める300%の斬撃を生み出す。
「白刃一掃ッ!!」
強く踏み込んだ横一文字の斬撃。
それは確かにキサロガの槍、その防御より速く、相手の腰元を斬りつける。
ランタンが真っ二つになり、そして。
■ギルゲイオス > 憎悪は力ともなるが、それだけでは何も為せぬよ。
いや、既に終わっておるの、であるかな。
であれば――
(着弾と共に周囲へとまき散らされてゆく爆発。
紛れるように駆けだすと、相手との直線距離を進む)
――その憎悪と共に、あの世へと逝くが良い、古き王よ。
(さらに牽制、十程の火の玉が飛翔。
槍に比べれば威力は堕ちるものの、それでも普通の人であればこれ一撃で十分な程の火力はある)
(炎の合間から見えるのは、大将へと躍りかかるステーシーの姿、と)
ぬっ!?
(目を見開くとともに、直前へと迫るは大口を開けた人の)
頭っ!?
(身を翻した所へと飛び込んだ顎が、派手にコートの裾を抉っていく)
狙いの甘いやけっぱちの攻撃ではあるが、ああもばら撒かれると随分と面倒、であるなっ
(防禦用の術式を積層展開。
一枚一枚は薄いモノの、並べて纏うは七。
齧りつかれるたびに消滅してゆくが、一撃と、入れるまで保てればそれで良し)
任されたッ!!
(ステーシーの声に合わせて、姿勢を低くと取る)
アンクションッ!
アンクションッッ!!
アンクションッッッ!!!
(物質加速術式、それを三重起動。
全部まとめて、自分自身に掛ける。
飛行術式に比べれば、此方の方が瞬間的な加速力には優れる。
三つ同時となればなおさらだ。
難点は、ヒトに使う事を考慮していない分、負荷が高い事、だが)
さぁ、貴様の正義も、ここで、終わりだっ
(加速により、距離は一瞬として消し飛んで。
通り抜けるは黒き風。
携える重剣の一撃を、通り抜けざま、大将の胴へと向かって横一文字に薙ぎ払う)