2016/05/31 のログ
ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 夜風に晒される岩山の天辺で、時おり小さくちらりと瞬く金色の光がある。
太古の昔からそこに在ったように黙して坐す、一頭の巨大な獣が口端から吐息と共に吐き零す焔の色だった。

宵闇に紛れる黒色の獣は、しんとして通る者もない荒野をじっと見下ろしている。
この静謐こそが、荒野のあるべき姿とでも言うように。

老翁めいて重い咳と共に、汚泥に似た血を二度、三度と嘔吐する。
咳のたび焔が大きく燃え立って、元より乱れた毛並みを一層ちりちりと縮らせた。
熱に焦がれるばかりの黒い毛皮は、しかし焔に巻かれることがない。

ヨキ > 地に滴った血の池が風に乾き、毛皮が張り付きかけたところで、漸う重い腰を上げる。
四足で大地を踏み締めて立ち、岩山から身を躍らせた。

その巨体が着地する様は――だが至って静かだった。
土の一片をも割ることなく、静寂には微塵の瑕疵も立ち入らなかった。

点々とした血痕は、あとにはただ錆び付いた油のように染みつくばかり。
いかなる生き物の痕跡とも一致しない、朽ちた鉄塊の無機質な臭いだ。

ひどくゆっくりと、獲物の気配を探すように辺りを歩き回る。

歩調に合わせて焔が長く棚引き、鮮やかな残像を暗がりに残してゆく。

ヨキ > 獣の横顔に、人間と同じ機微を察することはできない。
鋭い眼差しだけが、冴え渡る夜の荒野をじろりじろりと睨み回している。
人に仕える獣、永きを生きる神仙の化身、はたまた知恵ある怪異。
そのいずれとも取れる、冷たい表情だった。

しばらく歩き続けて、ごふる、と息を吐く。
歩く中途で徐に足を止め、腹をつけて地面に座り込む。
だだっ広く開けた荒野の、遮蔽物の一切がないど真ん中だった。

息を切らした背が、大きく上下していた。

ご案内:「転移荒野」にヘルトさんが現れました。