2016/07/18 のログ
ご案内:「転移荒野」にヒドラさんが現れました。
■ヒドラ > 頭部へと飛んでくる刃物。
しかしながら強靭な竜の鱗に対してたかが尖ったソレなどどれ程のダメージになろうか。
例え
鉄壁に紙飛行機を投げつけたのと同じくらいである。
怯むことはない、黒い龍の長い首が伸びて…
「ガァッ?!」
美味しく食糧頂こうって頭から飛び込んだら、
テーブルに頭をぶつけたみたいな、そんな感覚だったんだろう。
氷の壁面へと正面衝突するのだった。
もっとも、金属の刃物さえものともせん全身を持つ竜の身体。
急所をぶつけたとて龍は屈せず、ベギベギと氷壁を己の頭と牙に蓄えた魔法の炎熱で程なく融解させ、
ほんの数瞬間もなく壁に風穴をあけると共に、物々しいその頭部を晒して、
その身に執拗に牙を立てんと縋りよるだろう。
輝く竜の目に少々の苛立ちが籠った。
■詩春 > 馬鹿面。
傷1つなく光を綺麗に返すその氷壁。
べたーんと映るその龍は、図体の割に可愛いマヌケ面を晒していた。
とはいえ、その表情を観察している暇はそんなに無さそうで。
イライラしてますといった表情を前面に押し出しながら大きく息を吸い込む。
「っと!? …『闇夜に届け我が願い。全てを飲み込む黒き影に包まれれん。』 影天。」
打って変わるように囁くように唱えた呪文は、その怪物に届くか否か。
言うが速いか消えるが早いか。
引いた炎の先、壁面の先に見えるはずだったその人の影。
決して光の屈折で見えない位置にいるとかではなく、ましてや焼き払われたわけでもなくて。
影から影へ瞬間的に移動する、影天。
移動したその先。
「さて…グレートに、ぶちのめしましょうか?」
何を思うか、すぐ舌を伸ばせばパクリと食われそうな眼前…よりすぐ下。
当然無策ででているわけではなく。
影の中で作り上げた即興の氷の鎧があるからこその自信の表れではある。
「今から使う呪文、ちょっと時間がかかるんで少し待ってもらえます?」
当然聞かないのはわかっているけれど。
だからこそ氷の鎧を纏ってでてきたのだけれど。
「『世界を我が意の侭操ろう。世界を我が手に入れよう。』」
ぼそりぼそりと呟く呪文は、今度は確かに耳に届いた。
聴覚があるとして、なおかつそれを処理できるほど冷静であれば、という前提が付くが。
魔力が見える目だとか、感知出来る特殊な器官とか。
そういう専用技能が無かったとしても。
たとえただ魔法使いでも。
いや、それこそ魔法とは何かとさえ知らない異界の民であろうと確かに感じる異様な空気。
それこそ、危険を察知する事こそ生きるコツだと実感している魔物であれば尚更感じるだろう。
この呪文を完成させてはならないと。
幸か不幸か、この少女が纏う氷の鎧は、薄い。
いや、対人であれば殴る蹴るなど余裕でよそ目で、衝撃さえ通さないだろう鎧ではあるけれど。
巨躯を持つ魔物の前では少々物足りないような、そのレベル。
呪文が完成するか、その前に氷の鎧を貫けるか。
もしくは呪文が完成する前に防御体勢を取れるかどうか。
この生存競争は、これが分岐点になるだろうか。
■ヒドラ > 竜は屈せず。なんてカッコつけた割に全然カッコ付いていなかったがそれはさておく。
一悶着抵抗してくれたがやっと食えるわぁ~とちょっとばかり癒された顔でがぶんと口を閉じて。
「……?」
美味しい空気、頂きました。
「ガァッ…?」
見失った?
若しくはちょっと頑張り過ぎて溶けた?
それとも夢でも見てた?
とか色んな事考えてたけど、捕食対象は己のすぐ真下に居たと言う。
それをみつけるまでやたらきょろきょろしたり、
口をガチガチさせたり結構かかった。
どうやって気付いたのかって、生物的な第六感としかいえんものだった。
「―――?」
彼女の言葉を理解するわけでもなければ
魔法の意を知っているわけでもないのだが。
しかし龍は傲慢で、己を強者と驕って譲らない。
それは上位であれ下位であれ、龍はそうあるものが定説だ。
危険を知り、それでなおも物怖じもせず、ただ食欲だけを持て余すその所以、
龍にとって彼女に牙を立てる事は、人にとって、更に乗った食い物にフォークを立てるのと同じだ。
警戒はしない。ただ動き回るのが鬱陶しいので殺してしまえ。
鼻から何色ともつかん奇妙な息を吐き、そして口から空気を吸う。
切り裂く様な追い風、後に
「―――ガアアアァァァッ!!!」
電気、熱気、瘴気。
ヒドラの持つ三つの魔力の籠る息が、しっぺ返しとばかり、向かい風として吹き荒れる。
夜中なのに昼間みたいな気温に荒野の一部の気温が上がった。
三種の色は互いに殺し合わず、一体となって、氷と命を焼き滅ぼし、蝕まんとする。
■詩春 > 「『この大言壮語を誰もが笑うだろう。誰もが愚かだと嘲笑うだろう。』」
…頭上に目を向ければアホ面を晒しながらフラフラと視線を回す龍。
「…っ!『私は世界から外れた者となるだろう。世界が我を拒絶する。』」
うるさい。
ストレスが溜まったかのように震えるかのようにうるさく鳴らされる硬い音。
集中力が乱されると、忌々しげに表情を歪める。
「『否、我が!世界を!拒絶するッ!』」
呪文は、まだ完成していない。
もう一息、にしてはまだ長いが一息ついた後。
この少女が息を吸い込むのと、化け物が息を吸い込むのと。
タイミングは殆ど同時だった。
「………~~~~~~~っ!!」
勝利の女神は、どうやら彼女の味方はしなかった。
咄嗟に氷の鎧を変形。
急所を守るようなタイプから全身を卵のように包みこむようにしたのが功を奏したけれど。
その分薄くなった氷の鎧…膜はカラフルなブレスを大幅に威力を殺しながらも、彼女を守りきることは出来なかった。
白の雪化粧が散りばめられた黒の装束。
今はその雪は溶かされて黒こげの跡に摩り替わっている。
彼女の自慢であった長髪。いや、今はショートに成り果てたけれど。
…ここは髪だけで済んだと喜ぶべきだろう。
確かに確実に、そのブレスはダメージとして彼女に通った。
服の下も、その白一色であった綺麗な肌は見せられない状態になっているはずだ。
「……………。」
その表情が、歪む。
苦悶ではなく、怒りで。
時を止める「程度」だったその魔法。
それを更に、昇華させる。
「『拒絶した世界を我が支配する!腐りきったこの世界を我が支配するッ!』」
氷の殻はもう破れた。
怒りによって前が見えなくなっているのか、その状態でも構わず早口で詠唱を唱え続ける。
「『吹き荒れろ豪風!逆巻け暴風!震えよ大地!狂えよ時間!』」
彼女の目に宿る炎。
呪うように叫ぶ呪文。
灼熱に照らされた大地。
それに反して、彼女に集まるのはとてもゆるやかな、冷たい魔力。
「『さあ、ひれ伏せ、神の御前だぞ!』」
完成した呪文。
閑静な空気の中、荒々しく叫ぶ。
「アルジェントディオ!シュネートライヴェン!」
手に作り出す一振りの剣。
光の屈折次第では透明に見えるような氷の剣。
掴めば折れそうなそんな細い刀身は、確かな威圧感を放っていた。
「…謝っても許さない。全身切り刻んでも許さない。」
魔力切れを起こしそうなほどフラフラしている人間の台詞とは思えない獰猛さは、本体が発しているものだったけれど。
■ヒドラ > 「………。」
龍も、驚いたんだろう。
ただし窮鼠猫を噛まれた驚きではない。
足の裏でおもっきり踏み潰してたら生きてた程度の驚きだ。
見ての通り、力の差がありすぎると尚も龍は慢心している。
どうせ潰れかけの蟻が足掻いているにすぎんとたかをくくっている。
たかが一刀で何が出来よう、
その小さな身で何が出来よう。
皿の上に置かれた食い物が、
踊り食いされる鰯が、
「ガアアアァァァ―――ッ!!!」
何が出来ると言うのか。
あの詠唱にて作られた一振りの剣等、恐るるに足りぬ。
これで終わりだとばかり、龍は咆哮と共に、頭から目下の食い物に飛びかかった。
■詩春 > 「…うるさいです。」
心底うっとおしげに、更に顔を歪ませる。
そのまま感情のまま振るう剣。
「……、頭でいいですか。」
まるで夕飯を決めるようなノリで、何処に剣を差し込むを選ぶか決めて。
食らい尽くそうと上から襲い掛かるその巨大な頭。
その頭と衝突するように飛び跳ねながら剣を縦に振るう。
それは、まるで豆腐を切るかの如く。
その鱗の硬さを無視するかのように、頭上の化け物を文字通り一刀両断した。
………。少女はそのまま動かない。
龍種であれば、剥ぎ取ればそれなりに高値で売れるだろう。
この世界でもそうであるとは限らないけど、少なくともゴミ扱いされるという事はないだろう。
そうでなくても、この龍が特殊な龍で、実は切っても復活するんですとか可能性を考えれば、一刻も早くその場を離れるべきだ。
逸れは自覚していても、少女は動かない。
高性能である剣に魔力を殆ど持っていかれた。
当然、魔力切れに陥る。
寧ろ、龍を倒すまで意識を保っていた事を誇るべきだと。
その少女は暗闇に意識を投げた。
暫くの間、死体の傍で寝ていた事を自覚した女が悲鳴を上げた事は、仕方のない事だろう。
■ヒドラ > 「ギャアアアアアァァァァァァ………」
突き入れられたそこは心臓である。
まごう事なき急所にして最大弱点。
本来ならそんなもの歯牙にもかけない筈なのに、驚くほどスムーズに龍の頭に入り、そして鱗の鎧を裂いた。
魔力を含んだ紫色の鮮血が飛び散って、その頭は二つに分けられる。
ヒドラは生命活動を停止…死んだのだ。
「」
どんなに見かけが強そうでも、
どんなに己が強いと驕り高ぶっていたとしても。
所詮敗北してしまえば笑いもの。
まして頭を二つに分けられて解体標本の出来損ないみたいになってる龍など
龍としての誇りも何もあるまいて。
死んだように眠った、己が食わんと欲したその身の横へ、
どしゃあっと重力に従って、龍の身体は崩れた。
少女の懸念も杞憂に、
その龍が蘇る事はなかったそうな。
ご案内:「転移荒野」からヒドラさんが去りました。
ご案内:「転移荒野」から詩春さんが去りました。