2016/12/24 のログ
■美澄 蘭 > 自分に気持ち悪さを催す、混沌とした気配。
その中で、とある一つが色を濃くしながら降りてくる。
様々な色を交えた、濃い紫色。
蘭が気付いて振り向くと、それはもう地上に降り立とうとしていた。
(………!?)
蘭はその気配の方を振り向いて…恐怖に息を呑み、そのまま、一歩後ずさった。
生きているものという感じはまるでしないのに、敵意だけは徐々に形を為してくる。
筋肉によって形作られたかのような四本の脚。逞しい、人を呑み込むことすら出来そうな巨躯。
風にたなびく豊かな尻尾に…豊かな飾り毛に覆われた耳を持つ頭。
頭には、黒く空虚な空間を空け、鋭い牙のような枠に縁取られた口。
目はないのに、顔がまっすぐに蘭の方に向けられていた。
「………なに、これ………」
蘭がまた一歩後ずさると、紫色の、獣のような影は蘭の方に一歩踏み出す。
影の口が、また一際大きく開いた。
■美澄 蘭 > 動けなくなった「獲物」に狙いを定めてか…影が、距離を詰めるべく、力強く跳躍した。
大きな口を、声もなく蘭めがけて開いて…
「…こ…」
蘭は、動けなかった。ただ、辛うじて残った呼気を集めて…
「………《来ないで》っ!」
震える声で悲鳴を上げる、ただそれしか出来なかった。
それでも、震えながらも張り上げられたその声は、まるで周囲の空気を不思議な力でも使ったかのように揺るがし…
…そして、バチィッという鋭い音とともに、蘭の視界が、白く染まった。
■美澄 蘭 > 蘭と、その影という二者の外側からすれば、蘭を中心にするかのように、雷が球状の空間に弾けたように見えただろう。
『………!』
悲鳴を上げることもなく、獣の形をした、巨大な紫色の影は走る雷に焼かれ、引き裂かれていく。
それが収まった時…そこにあったのは、引き裂かれて蠢く紫色の「ナニカ」と、身をすくめ、強く目を閉じている少女の姿。
その周辺は土が露出しがちな荒野だったが…雷のせいで、まばらに生えていた草が焼け焦げていた。
「………?」
予期された苦しみがやってこないのを不思議に思った蘭が、目を開けると。
「………!」
広がる光景に、また別の意味で息を呑まざるを得なくなってしまった。
■美澄 蘭 > (…これ…私がやったの…)
口元をおさえ、ばらばらになった「ナニカ」から距離をとるように後ずさりながら、「あの瞬間」を必死に思い出そうとする。
(そう…わけ分かんないまま、「来ないで」って叫んで…
…力がふくれあがる感覚は………駄目、一杯一杯で覚えてない…
………でも………)
少し、目を閉じて周囲を「視て」みる。
これだけの魔力が「暴走」すれば、その名残くらいは感じられるはずだが…
(………ない………)
蘭は、自分の力の名残を、感じ取ることが出来なかった。
■美澄 蘭 > 自分の力の名残を探るついでに周囲を「視」て、他の強い気配を感じられなかった蘭は…「化物がバラバラになり、自分は無傷」という状況から、自分が何かをしたという判断をせざるを得なかった。
(…そういえば、前に獅南先生の研究室でこれの凄く弱いのをやらかした時…「本当に魔力の暴走だと思っているのか」って、聞かれたっけ…)
口元は手で隠され、苦々しげな目つきだけが表にある。
………と、蠢いていた「ナニカ」が、近くにあるもの同志でくっつき始め、徐々に形を取り戻し始めた。
■美澄 蘭 > 「やばっ」
流石に何度も危険は冒せない。物理防御術式を記した紙に魔力を通し、その上に隠蔽術式を被せると、「ナニカ」が形を取り戻す前にこの場を去るべく、駆け出す。
(…流石に、いい加減調べてもらわないとまずいわね…制御出来ないままとか、社会に出る上であり得ないし。
…でも、どこで調べてもらったら良いのかしら?魔力を使ってるんだと思うけど…異能でいいのかしら…)
頭の中でそんなことを考えながら、転移荒野を後にする。
強力な力を振るってしまったことに恐怖をほとんど見出さなかった自分自身に恐怖を覚えたのは、帰ってからのこと。
それから、震える手で教務課に電話をかけ、自分を調べてもらうのに向いた研究所を紹介してもらうことにしたのだった。
■美澄 蘭 > そして、獣の形を取り戻した「ナニカ」はといえば。
その頃には蘭の姿も気配もすっかり遠のいてしまっていて、すっかりその少女のことを忘れたかのように、どこかへ跳び去ってしまったのだった。
それは、転移荒野に漂う混沌とした魔力の塊が、人に仕えた異世界の魔獣の霊魂を得て形を成したもの。
浄化や祓いを伴わない討伐には手間がかかるかもしれないが…それは、また別の話である。
ご案内:「転移荒野」から美澄 蘭さんが去りました。