2017/03/01 のログ
ご案内:「転移荒野」に和元月香さんが現れました。
和元月香 > 無人の荒れた土地。
何らかの戦闘でもあったのか、古かったり新しかったり様々に抉れた地面。

ざくり、とその上から黒いラインが引かれた白のスニーカーが足跡を刻んだ。


「うーわ。見事に何にも無い」
(結構暗いなー。…当たり前か)

ページも表紙も全てが黒の、辞書程の大きさの素性不明の魔道書のみを抱えた月香。

初めて来たその場所に、冷たい夜風で髪をたなびかせながら、ゆっくりと歩いていく。

(やっぱり誰も来ない訳じゃないんだな…。足跡がある)

何の変哲も無い地面を眺めたり、興味津々そうに、じっくりと辺りを見回しながら。

和元月香 > 「……っと。この辺でいいかね」

障害物の無い広い場所を陣取り、うんと独りで頷いた月香は抱えていた黒い本を適当なページで開いた。

すると独りでに浮かんでくる、白い文字。

『ツキカ』『ツキカ』『いよいよ』『役に立てる』『役に立てる』『ワタシ』『ワタシ』

____……『嬉しい』。

狂気的な速さと量。
月香はそれに「相変わらずキモいな」と露骨に顔をしかめる。

「はいはい。嬉しいのは分かりました。
てか感謝してよな。
お前何かヤバい感じするから、わざわざ演習場じゃなくてここに来たんよ」

ヤバい感じ。つまりはその禍々しい気配だ。
周りの人に容赦無く危害を加えるかもわからない。
なので、恐らく人は訪れないであろう転移荒野を訪れてこの魔道書を“試す”事にしたのだ。

和元月香 > 「……さて。どうやんのかなこれ」

(気合いを入れたはいいものの、一体これは何の魔道書なんかねぇ…)

肝心の事を忘れていた、と月香はとりあえずページ捲る。
何も書かれていない、ただただ闇が広がっているだけだ。

暫く悩み、月香は大変不本意そうに顔をしかめたまま本に問う。

「……これどうやって使うん?」

『簡単』『簡単』『魔力』『魔力』『注ぎこむだけ』『そしたら』『すると』『主』『正式な主』『後は』『すぐ分かる』

「…」
(お前それ羅列しなくてもよくない?一回だけでもよくない?)

ぶっちゃけめっちゃ読みにくいわ、と口に出さずツッコみながら、月香は表紙に掌を押し当てた。


「ッふォわ!!」

……叫び声が変だとかは、気にしちゃ敗けだ。

「……ん?」
___魔力に反応したのか、紫の光が本を包んだ。
それに呼応して、ゆっくりとページが捲れる。
次々と本の言葉では無い、この世界の物でも無い異世界の文字が次々と刻まれていく。

「……え、これ……」

月香はその文字を見て、少し目を見張った。……“見覚え”のある文字だったのだ。

和元月香 > (…これ、七千回目ぐらいの…黒魔術フィーバーワールドの…。わぁ懐かしい)

大昔である。
まさか手かがりをこんな所で見つけるとは、と月香は驚きと喜びの混ざった感情の籠った瞳で本をまじまじと眺める。

(…なるほど。だからか、私が“これ”の扱い手に相応しいのは…文字が読めるからか!!!

私の記憶力をなめるで無い!!)

完璧だ。読める。
……見開き1ページに書かれた魔法構成の超論理。

それは分かる筈無いので無視する事にして、魔法構築方法だけざっと読む。

「……うん、結構簡単…なのか?
まぁ論理の方訳分からんし、どんなのか分かんないけどとりあえず発動させてみよう」

軽い。軽いが、これが月香なのだ。
本に、この世界と全く違うアプローチで魔力を送り込む。

そして。

___ズルリ。

白い文字が寄せ固まり、ズルズルと“それ”は魔道書から這い出てきた。

漆黒の艶の無い色。
スライムのような不形体の体。

「…う…わぁ……」

月香がそれを見て、迷惑そうにうめいたのは訳がある。

それは、それを見た途端勝手に沸き上がってくる感情。


常人なら恐らく、見た途端吐き気を催しかねない程襲ってくる、混濁した数々の“負の感情”。

即ち“憎悪”や“嫌悪”、“嫉妬”に似た気持ちまで。
人が感じ得るほぼ全ての負の感情が、訳も分からぬのに一斉に。

和元月香 > ______ボトン。

謎のスライムが重々しい音を立てて地面に落ちる。
ぷるぷる震えて丸くなったそれは、150cm代後半の月香の腰にギリギリ届かぬくらい。

それを死んだ魚のように見据える。

「……マジか」
(あ~、精神干渉系?……うっわマジか、ここでやってて本当に良かった)

オリハルコンメンタルのお陰で全く影響を受けていない月香は周りに危害を与えなかった事にほっと息を吐く。

見るだけでこれなら、きっと相当迷惑になってしまっただろうと。


(………あ)

そして気付いた。
もしかしてこの本、通常だと術者にも危害を及ぼすのでは?
ただ恐らく、この類いは耐性がある者には効果が無い。

その耐性が、ほぼほぼ備わっているのが。

「……私ですか、そうですか」

それもあって、この本は自分を主に選んだのか。
はぁ、とため息を吐いて微動だにしないスライムの前にしゃがみこんだ。

そしてちょっとした好奇心から、つんと突いてみて____……。


「ッうわ」

___ブワワワワワワワワワワワッッ!!

それは、トラウマを掘り反されるような苦痛のような感覚。

一瞬とはいえ様々な感情を先程以上に力強く、刷り込むように怒濤のように叩きつけてくるそれ。


思わず指を離し、流石の月香も、驚愕に尻餅をついた。