2017/04/21 のログ
ご案内:「転移荒野」にステーシーさんが現れました。
■ステーシー >
これは戦闘である。
「バントライン一刀流、禁じ手ッ!!」
「一刀金的破ッ!!」
今、転移荒野に現れたコボルトの群れ、そのリーダーの急所を鞘で痛打した。
戦闘は終わった。
転移荒野の後方には、彼らがやってきた異世界と繋がるゲートがある。
依然、ゲートは不安定だ。
今、怪異対策室三課であるステーシーがやるべき仕事。
それは彼らを説得して元の世界に戻すことだ。
■ステーシー >
泡を吹いて倒れこんだコボルトリーダー。
コボルトと呼んではいるけれど、多分犬獣人の一種だろう。
一緒か。一緒ね。
コボルトの軍隊が動揺した瞬間、翻訳機を介して叫ぶ。
■ステーシー > 「全員、整列!! ここに正座ッ!!」
■ステーシー >
大声に気圧されながらも、コボルトたちは整列して荒野に座り込む。
よし、以前亜人が来た世界と言語体系が一緒だ。
携帯翻訳機は正常に動作している。
―――あの夕陽が沈む前に決着をつけるッ!!
「いいかしら、あなたたち」
「あなたたちの後ろのゲートが閉じると、あなたたちは元の世界に帰れなくなるわ」
「だったら今すぐ帰りなさい、なうなう」
コボルトたちを急かした。
彼らもこの世界の迷い子となるのは本意ではないのか、顔を見合わせている。
■ステーシー >
おずおずと手を上げるコボルトの一人。
「発言を認めます」
シュビッと指差すとコボルトの一人が語り始めた。
『オレたち、どこでもいいから国土を広げてから帰るように王から言われた』
『手ぶらじゃ帰れない』
なるほど、彼らは国単位で動いていると。
それにしてはちょっとアバウトすぎる命令で動いている。
「このまま帰ったら怒られるでしょうね」
『だったら…』
「でも帰れなくなったら怒られることもできないのよ!?」
コボルトたちが騒然とし始める。
帰る家がある彼らを、この世界で野垂れ死にさせることだけは絶対にしてはならない。
■ステーシー >
その時、バントライン一刀流禁じ手が一ツ『一刀金的破』を受けて悶絶していたコボルトのリーダーが起き上がる。
『じゃあ、ここでオレが王になってこいつらを食わしていく!』
『帰れないなら、ここがオレたちの国土だ!!』
おおー、と希望に目を輝かせるコボルトたち。
私は頭痛薬を取り出して一錠飲んだ。
水なしで噛んで飲めるタイプの頭痛薬だ。
「……私一人に負ける国王がどうやって国民を守るの、ねえ」
コボルトたちが静かになった。
なんだか涙目になっている子たちもいて悪いことをしている気分だ。
「言っておくけどね、私なんてこの島じゃ相当、弱くて大人しいほうだから」
『マジで』
「マジで」
身振り手振りで説明しだす。
「私の知り合いにね、ニコラス・アルヴィンっているけど」
「頭が三つあって腕が六本あって全部の手で剛剣を持つ魔人よ」
コボルトたちが震え上がる。
『ちょー怖ぇー』
私は満足げに頷く。
「ちょー怖いわよ」
■ステーシー >
「あとね…楊柳って女の子がいるけどね」
『ああ』
「頭が三つあって腕が六本あって全部の手で槍を持つ魔神よ」
コボルトたちが恐慌状態に陥る。
『また異形だ、怖ぇー』
私は指先をチッチッと振った。
「でしょう?」
「あとね、真乃真って人がいるけどね…」
息を呑むコボルトたち。
「頭が三つあって腕が六本あって全部の手で手裏剣を投げる魔王よ」
いよいよもって怯えだすコボルトたち。
『頭と腕がいっぱいあるの怖い……』
「でしょ?」
ニコラス、真乃真、楊柳。本当ごめんなさい。
■ステーシー >
「それとね……常世タワーっていう赤い電波塔があるのよ、この島」
『そうなのか……?』
私は口を吊り上げてコボルトたちに言った。
「あの電波塔が赤いのは、コボルトたちが刺さってその血で染まっているのよ」
コボルトたちから悲鳴が上がった。
神に祈るような動きをしているコボルトもいる。
「あなたたちもこの島で生きようとしたら刺さるわよ、常世タワー」
コボルトリーダーが不承不承手を上げる。
『でも、オレたちがそのトコヨタワーってのに近づかなきゃいいんじゃないのか…?』
私は難しい顔をした。
そして、ダメ押しにこう発言した。
「この島の大抵の建造物は……コボルトが刺さっているわ」
今度は悲痛な呻き声が聞こえた。
折ったッ!! 心をッ!!
■ステーシー >
「あなたたちも常世島の犠牲者になりたくなかったらッ!!」
「今すぐ後ろのゲートから元いた世界に帰ってしまえー!!」
大声で脅かした。
コボルトたちは蜘蛛の子を散らすように武器を捨ててゲートに向かって走っていった。
最後まで逃げ遅れたコボルトを気にしていたリーダーがゲートを通って消える。
これで全員。
「はぁ………」
その場に膝を着いた。
「ニコラスさん、真乃真さん、楊柳さん、常世タワーの管理者の皆さん」
「本当すいませんでした……」
私は疲れ果てていた。ミッション、コンプリート。
■ステーシー >
鉛のように重い足を引きずり、夕日に焼かれた大地に空しく影を刻んだ。
薄氷の上の平和と揶揄される常世島の平和。
それは私達、生活委員会や怪異対策室三課もちょびっとは支えている。
はずだ。
ご案内:「転移荒野」からステーシーさんが去りました。