2015/06/12 のログ
ご案内:「青垣山」に山吹 冠木さんが現れました。
山吹 冠木 > さくさく、さくさく。

人の手入れが少ない山近くの道を、慣れた様子で歩いていく。
時刻は夕方を過ぎ、夜も深まった頃合いだろうか。
手に持った懐中電灯の灯りだけが頼りとは思えないほど、
その足取りは確かで、しっかりとしたものだった。

山吹 冠木 > (……向こうとは違うけど、やっぱり山はおっかないな)

間近に迫る山の姿。
昼間の雄大で、見るものに自然の豊かさを伝えてくるそれとは違い……
今間近に広がるそれは、夜の深さを、自然の恐ろしさを……
その静かな畏怖を、沈黙で伝えてくる

山吹 冠木 > 「……早めに済ませないとな」

ぼやくように、自分を奮い立たせる様に呟く。
風に揺れる葉の囁きは、まるで獣の唸りの様に。
暗がりに動く影は、自分を狙う牙の様に見える。

…………慣れろ。そして、怖がれ。

散々に叩き込まれ、実際に命を救ったこともある教え。
だが、毎度毎度、胃がキリキリするような感覚と二人三脚しないといけないのは、些か辛いものがあった。

山吹 冠木 > 「……あれだ」

懐中電灯を片手に、草に覆われた道を歩くことしばし。

目印として用意したその鉄棒は、
地面に突き刺さした1ヶ月程前と変わらぬ姿で、
じっとそこに佇んでいた。

山吹 冠木 > 「ささっと掘り出すか……猪や熊の類いも嫌だが、
……この島なら、それ以上に危ないのが居ても不思議はないしな」

呟きながら鉄棒を両手で握り、
ぐいっと引き倒す様にして地面から引きずり出す。

棒の様に見えたそれは、実は棒ではなく……
地面に突き刺さっていたその部分。

平たく、頑丈で。そして大きな刃を露にしたその姿は、
大振りな作業用のシャベルであった。

山吹 冠木 > 手慣れた動きでスコップを振りかぶると、
勢いよく刃を地面に突き立てる。

柔らかな土を掘り返すと、再び地面に突き立て、掘り起こす。

ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ

乱雑な様で、しかしその動きは丁寧で……
地面に埋められた 何か を、慎重に掘り出していく

山吹 冠木 > 「……ん」

やがて……刃を伝わる手応えに、微かな違和感が混じる。
直ぐさまシャベルを草土に突き立てると、
土に汚れるのも構わずその場にかがみこみ、
両手を使って地面を掘り返しはじめた。

山吹 冠木 > 両手から肘、膝まで土にまみれながら、
黙々と地面を掘り返すことしばし…………

「あったあった」

やがて、その手は細長いワイヤーの様な物を掴み上げていた。
軽く手で土を払えば、傍らに転がされた
懐中電灯の光を受けて鈍い輝きを返す。

恐らくは一月ほども地面に埋められていながら
全く錆び付いていないようで……
軽く両手で引っ張れば、確かな手応えでその強度を伝えてくる。

山吹 冠木 > そのままワイヤーをずるずると引っ張れば。
鈍い輝きがどんどん地面から引きずり出されていく。

「……これだけあれば、十分だな」

地面からその終端が引き出された時、
その長さはワイヤーが周囲にとぐろを巻くほどになっており……
見ようによっては、まるで大蛇が地面から姿を現した様にも見えるだろうか。

山吹 冠木 > 「さて……長居は無用だ。早く帰って、風呂にでも入ろう」

疲れた様に肩を回すと再びシャベルを構え、
掘り返した穴を手早く埋め直していく。

ある程度軽く……恐らくは、再び掘り返すことを考えて
地面を埋め直すと、目印となるシャベルを、
しっかりとその場に突き立てた。

山吹 冠木 > 「よいしょ……っと!」

土を払い、輪っか状に纏めたワイヤーを肩に担ぐ。
長さゆえか、結構な重量があるようで……
担ぎ上げた体が僅かに傾ぎ、踏ん張る様にしてその場に留まる。

山吹 冠木 > 「…………」
ワイヤーを担いでから、懐中電灯を片手に念入りに辺りを見回す。
物事は、終わる直前、気が緩んだ瞬間が一番危ない。
もしもこんな状態で襲われでもしたら堪ったものではないからだ。
その場合は、掘り出した代物も置いていかなければならないだろう。

山吹 冠木 > 「……大丈夫だな」

安心した様に息を1つ。

そのまま静かに、しかし足早にその場を後にした。

ご案内:「青垣山」から山吹 冠木さんが去りました。