2015/07/19 のログ
ご案内:「青垣山」にビアトリクスさんが現れました。
■ビアトリクス > 青々と木々茂る霊峰、青垣山。
夏といえば海、そして山――だが、
青垣山には整備された登山道などなく、行楽にはとても向かない。
また、その深くには遺棄された自走機械、
得体のしれぬ幻想生物などが棲息しているという。
あまり常人の立入るべき場所ではない。
――しかし、麓であればさほどの危険はない。
休みを利用して青垣山に訪れた少年――ビアトリクスは、
もちろん奥深くまで踏み入れるつもりなどはなかった。
「暑いな」
曇り空であったため気温はあまり高くないが、湿度は高く、不快指数は高い。
首にかけたタオルで汗を拭う。
■ビアトリクス > ふところから取り出した地図に目を落としながら、
膝位の高さまで伸びた草をかき分け、踏みしめて歩く。
標識や看板の類などはもちろんないが、見通しはよく、迷うことはないだろう。
ここまで来るだけですでに結構息が切れている。
たとえ青垣山が行楽用に人の手が入っていたとしても
登山は無謀だっただろう。
本土でやった林間学習の悪夢が思い起こされて顔をしかめる。
人生に二周目があったなら、アレだけは絶対に回避しないとならない。
しばらく歩くと、木々に埋もれるようにして
五角形のシルエットが浮かび上がっているのが見えてくる。
明らかな人造物の気配。
ビアトリクスの目当てはそれだった。
ペットボトルの水で喉を潤すと、焦らずそれに向かって歩を進めていく……。
■ビアトリクス > きぃ、とアルミの扉を開き、中に入る。
外とは違う、湿った匂いの空気。
管理が放棄され、打ち捨てられたままになった温室。
鋼材にガラスで被覆されたさらにその外側を、木々の葉や蔦が覆い
内部はひどく薄暗い。
葉や蔦の隙間から差し込む微かな日の光が頼りだ。
転ばないように、念を入れて、懐中電灯で足元を照らしながら中を歩く。
何かを栽培していたようだが、長い歳月の放置の果てに
残っているのは伸び放題に張り巡らされた蔦のみ。
比較的平らな場所にレジャーシートをしき、
その上に腰を下ろす。小休止。
■ビアトリクス > 遺棄され、朽ち果て、エントロピーの増大に任せるだけの死んだ空間。
いわゆる廃墟。
そう言った、生のニュアンスの薄い場所に、ビアトリクスは安らぎを覚える。
活気溢れる場所は、落ち着かないのだ。
背負ったリュックを下ろす。
その中から包みを取り出す。
出てくるのは、手製の鶏肉のサンドイッチ。
昼食としてのそれを、口に運び、かぶりつく。
余ったチキンとトーストで作ったものにしては、なかなか満足行く出来だ。
ひとりの安らぎに、ささやかな幸福を感じる。
……別にピクニックするためだけに来たわけではない。
国立常世新美術館。
常世島にある代表的な美術館の一つだ。
そこで近々行われる公募展に、応募するための絵の題材……
それをここに探しに来たのだ。
■ビアトリクス > 食事を済ませ、スケッチブックと色鉛筆を取り出す。
比較的明るい方向に向け、さまざまな角度からスケッチを行う。
モノトーンの空間が、画用紙に記録されていく。
風に葉のこすれる音、虫や鳥の声、鉛筆の走る音。
「……こんなものか」
数枚のスケッチを済ませると、スケッチブックを荷物に仕舞いこみ、
レジャーシートの上に横になった。
■ビアトリクス > 数十分ほど、眠りに落ちるでもなくこてりと横たわった後、
ゆっくりと身を起こす。
ここまで行脚するだけでも結構大変だが、なかなか悪くない場所だった。
ここの良さがわかる者が他に見つけられたら、連れてくるのもいいかもしれない。
荷物を片付けて、帰路につく。
ご案内:「青垣山」からビアトリクスさんが去りました。