2016/10/08 のログ
暁 名無 > 「あんなの……どうしろってんだよ!」

すっかり日の沈んだ後の青垣山にて、俺は絶望の淵に立たされていた。

事の発端は今日の昼前、落第街の路地裏で見つけた麻薬の売人の男の亡骸について。
一応教員という立場からその男に関する身辺調査の資料を見させて貰った──というか、
まあ、なんだ、いくら教員でも単身で落第街に行くなと怒られたのでその隙を突いて色々盗み見てきた訳なんだが。

どうやら野郎、この青垣山のふもとに作った畑が、このところ獣に荒らされている事を言っていたらしい。
もしや、と嫌な予感がした俺は、一応確認のために火が沈むのを待ってからこうして青垣山まで出向いたのだけど。

「……運が良いんだか悪いんだか……。」

自分の手で燃やした畑の跡地に行ってみれば、これが大当たり。
その畑を荒らしていた犯人と思われる猪に見事遭遇したって訳だ。
………しかも群れに。

暁 名無 > 岩陰に身を顰め、周囲の気配を探る。
奴ら、俺を餌場を守るための用心棒と判断したらしく凄まじいまでの執念で俺を追って来ている。
どうにかこうにか必死の思いで追跡を撒いたは良いものの、お陰様で現在地が青垣山のどの辺りなのか、皆目見当もつかない。
目印になりそうな物と言えば、木と、岩と、あと木と岩。

「くそっ、──明日が休みで良かったぜ。」

改造マフラー積んだバイクの排気音みたいな唸り声が割かし近いところから聞こえて、俺は身を竦めた。
1頭くらいなら、あの手この手を駆使して痛み分けには持ち込めるが、4頭5頭となると完全にお手上げだ。

暁 名無 > さて、どうするか──

逃げ回ってる間に幾つか試してみた事がある。
まず一つ目は、連中が人語を理解するかどうか。
……これに関しては何とも言えない。仮に理解していても、聞き入れるかどうかはまた別問題だから。

二つ目、物理耐性。
……隙を突いて落ちてた木の枝で全力でぶっ叩いてみたけど、俺の腕力が無いのか連中が馬鹿みたいに固いのか、
木の枝は綺麗に手元から折れて使い物にならなくなった。もちろんダメージなし。

三つ目、魔法耐性。
何種類かの魔術をぶつけてみたわけだが、俺のちんけな魔術じゃ大した効果を上げられなかった。
水も炎も風も、分厚い毛皮が見事に弾いて霧散するのを、俺は絶望と共に見ていた。

この三つの試行から分かった事は、連中、ばかみたいに物理耐性があってついでに魔法も碌に効かないモンスターだ、ってことくらい。

暁 名無 > 正直、完全に俺の手に余っている。
連中に嗅ぎつけられたら、という事を考えると煙草も吸えず、
このまま山の中を延々と鬼ごっこしなきゃならんと考えると目頭が熱くなってくる。
せめて誰かに救助要請を、と考えてまたこんな所に一人で来た事を説明したうえで説教喰らわなきゃいけないと思うとどうにも気が引けた。

「……どうにか切り抜けるしかねえ、か──?」

でも、どうやって。
腹の底に響くような唸り声と、地響きを伴う足音に怯えつつ俺は懸命に頭を働かせる。

ご案内:「青垣山」に巓奉さんが現れました。
巓奉 > 「ふーん、それはそれは災難だったねぇ。」

緊迫の状況からかけ離れた、からかうような声色が隣から聞こえてくるだろう。
いつの間に来たのだろうか岩陰に暁と同じようにして隠れている一人の少女がにやにやと笑みを浮かべている。

暁 名無 > ここがせめて街中や屋外であれば。
上手い事狭い路地などに誘い込んで各個撃破も望めるのだが。
生憎とここはだだっ広い山のなかである。四方八方からフリーダムに猪が突っ込んでくる。そんな場所だ。
明らかに地の利も不利と来てて、よくもまあ今まで数時間逃げ延びたもんだと自分で自分を褒めたくなる。

「……よし、生きて下山出来たらおっパブ行くぞ。」

あるのか知らねーけど、まあ歓楽街辺り探せばありそうだ。

暁 名無 > 「あン──?」

突然声がした俺は振り返って、すぐ間近にいる少女に怪訝そうな顔を向けた。
なんだよ驚かせやがって、一瞬猪が喋ったかと思ったじゃねえか。

「何だよ、今おっさんは至極忙しい。
 ……どうにかしてこの場を切り抜けておっパブに行くって決めたんだ。今決めた。」

巓奉 > 「こんな美少女を捕まえておいて猪と勘違いするなんて酷くないかな?」

言葉とは裏腹に表情はにやにやとしたもので説得力の欠片も感じさせない美少女(自称)。

「おじさんも大変だねえ、あんな猪に捕まっちゃってさ。
 あの様子だと怒り心頭ってヤツじゃないかな、うんうん。」

岩陰からそっと顔を覗かせて猪の様子を伺いこの状況を把握しようとしていた。
おっパブはスルーしつつ。

暁 名無 > 「自分で美少女っつー奴は大体猪と変わらん!」

我ながらトンデモな理屈を打ちたてつつ、その美少女(笑)と同様に俺も岩陰から猪たちの様子を窺う。
相変わらずブヒブヒドシドシ歩き回っていて、とてもじゃないが見つからずに山を下りるのは至難の業だ。

「別に怒らせるようなこたぁなーんもしてねえんだけどな!
 ……逆恨みって奴だぜ、ったく。あの野郎とんでもねえ置き土産残しやがって。」

それもこれも全部、改造大麻畑なんて作った奴が悪いんだ。

巓奉 > 「えー、猪と一緒だなんてショックー。」

ハハッと笑い飛ばしつつ猪の観察を行う。見よあの立派な太ももを。
きっと引き締まりつつも適度な脂がのってそうではないか!
我が家の食卓で牡丹の華が咲けば良いのにと思ったり思わなかったり。

「……牡丹祭りとか、良いと思わないかい?」

もはや、現状とは程遠い話をしていた。

暁 名無 > 「食うならちゃんと火を通して食えよ。
 ……まあ、食えるかどうか保証はしねえし、俺らが食われなきゃ良いけどな。」

重たい足音を響かせながら辺りをうろつく猪は全部で4頭。
どれもこれも大岩の様な図体でいて、そのくせかなりすばしっこい。
きっとこの山に元から居着いていたか、転移荒野に来たのがそのままこの山に住み着いたのだろう。
いずれにせよ言えるのは、まず間違いなく魔獣の類だ。

巓奉 > 「彼らのおかずだけは勘弁願いたいねえ。
 で、何か打開策は思いついたかな?」

今日の天気を語るが如く聞いてくる自称美少女。
どう見ても武具の類は持ち合わせておらずかといって魔術に精通しているようにも見えないだろう。

暁 名無 > 「そら勿論よ。猪の餌なんてまっぴら御免だぜ。
 ……とはいうものの、なーんにも思いつかない。」

怒られるのを覚悟で風紀か公安か、その辺の委員会に救助要請出すくらい。
最近できた助手にも一応助けを求めるか考えなかった訳ではないのだが、あいつが関わると山火事になりそうな気がした。
さすがに山火事とあっちゃ怒られるじゃ済みそうもない。

「……というわけで、上手い事囮になってくれ。
 それじゃ、幸運を祈る。」

ぐっ、と親指を立ててからよっこいせ、と目の前の自称美少女を岩陰から押し出そうとする俺である。

巓奉 > 「いやいやいや、ここは一つ年長者が矢面に立つべきだと思うな。
 将が矢面に立つからこそ兵は奮起するのさ。ささっ、骨は拾ってあげよう。」

するりと押し出そうとする手から逃れつつ暁の背面に回りこもうとするだろう。
そして将を送り出さんと小柄な身体を押し付け押し出すのだ。

暁 名無 > 「いやいやいやいや、そこはほら溢れ出る美少女力で上手く猪を魅了して足止めしてくれよ。
 大丈夫大丈夫、下山したらどうにかレスキュー引き連れて助けに来るからさ。それまでの辛抱だ。
 まあ多分おっパブ行ってからだから明日の朝くらいになるけど。」

こちらが下でに出たというのにのらりくらりと躱そうとしてきやがる。
ええいこのアマ一体何しに沸いてきやがった、大人しく人身御供の一つにもなりやがれ、
とは思うもののそこは口にしない俺の優しさである。
その結果押し合い圧し合い、岩陰で醜い争いが勃発した。

巓奉 >  
「確かに溢れ出る美少女力を以ってすればヒトを魅了するのは容易い事だろうね。
 だけど相手は獣だよ。か弱い美少女を贄に差し出すなんてそれは男として思うところは無いかな?
 大丈夫、キミならきっとあの獣に打ち勝つさ。さあ、今こそ英雄になる時だよ!」

にこやかな笑顔を浮かべぐいぐいっと岩陰から送り出そうとしている。
この男が自分を囮に使おうとしているのは明白だ。
ならば自分のやるべき事は一つ、とにかく目の前の男を送り出しこの窮地を脱する他ない。
とは考えつつもそこを口にしないのは優しさというものであろう。
延々と続くこの醜い争いに終止符は打たれるのだろうか。

全ての鍵は猪が握っている……かもしれない。

暁 名無 > 「そこまで言うなら実力行使に出ず俺を魅了するくらいの芸当やってみろってんだオウ。
 うるせい、知ったこっちゃねえや。
 知らぬ間にひょっこり生えてた不気味少女なんて魑魅魍魎の仲間だろ、だったら猪とも意思疎通出来る筈だ。ほれいけれっつごー!」

英雄なんてまっぴらなんだよこちとら。
そこまで言い掛けて口を噤む。何はともあれ今はどうにかしてこの少女を叩き出すのが先決だ。
このまま争っていてはいずれ物音から猪たちに勘付かれる。
その前に逃げ出すに……は……──ん?

「なるほど、そこまで言うなら……。」

巓奉 >  
「まったく、キミは分かってないなあ。楯になる気概くらい見せなきゃモてないよ?
 魑魅魍魎と呼びつけるなどもっての他さ!」

ぷりぷりと怒って(いるように)振舞う少女。
目ざとく何かを言いかけた様子を察知したものの、敢えて踏み込もうとはしなかった。

「そこまで言うなら……何だって言うのさ?」

この男、何か妙案でも浮かんだのだろうか。黙って続きを促すだろう。

暁 名無 > 「得体の知れん奴にモテるつもりは毛頭ないっ!」

もっと真っ当にモテたいものである。
その点昔の俺は真っ当に……真っ当に……
真っ当にモテるって……なんだ……?モテる……って
いやいや、今はそんな事考えてる場合じゃなくってだな!

「後は宜しく頼む!」

俺はおもむろに今身を隠している岩の上に跳び乗った。
そして猪たちへと大声で呼びかけると、今度は頭上の枝目がけて跳びあがる。
持ち前の身長と、昔そこそこ鳴らしたジャンプ力で辛うじて枝にしがみついた俺はそのままよじ登って猪たちの突撃を躱すという算段だ。

巓奉 >  
「あっ!!」

枝にしがみつく男を見て少女は一杯食わされたと思った。

見よ、彼の言葉に一瞬で反応し振り向く岩山を。
見よ、鼻息荒々しく迫り来るケダモノ達を。

あれっ? でも、これって自分が黙って音を立てずに上手いこと岩陰を盾にしつつ逃げたら……?
『成程』と彼の意図を理解した少女はそそくさと立ち去ろうとするだろう。

暁 名無 > 猪たちの巨体がギリギリ届かない程度の高さでは不安がある。
俺はもう一段上の枝によじ登ると、遥か下に置いてきた少女を見下ろした。

「さてさて、俺の方はどーにかなるとして。
 あっちは大丈夫かねえ……?」

文字通りの高みの見物で、迫りくる猪たちを一瞥してから再度少女を見る。
さてお手並み拝見である。散々な事言ったからには上手くやってのけるのだろうな?

巓奉 >  
相手は獣だ、それならそうと言えば言葉にして良いのに。
そう思いつつ、音を立てないように『そーっとそーっと』この場を逃れようとするだろう。

そう、足元に一本の程よく枯れ枝が無ければそう出来ていたはずだ。
ペキッと小気味良い音が辺りに響いた。

「ははっ……おーたーすーけー!!!」

数瞬の静寂の後、音の正体を暴いた猪たちは少女を先頭に木々の合間へ消えていった。

巓奉 >  
その後、少女の悲鳴を聞かなかったからすぐには捕まらなかったはずだ。
とにかく猪の脅威は去ったのは間違いないだろう。

ご案内:「青垣山」から巓奉さんが去りました。
暁 名無 > 少女の悲鳴と、逃げ去る足音。
そしてそれらを追う獣の雄叫びと地響き。
十二分に遠退いたところまで行ったのを確認すると、俺はゆっくりと木から降りた。

「よしよし、あの子にゃ悪い事をしたが……まあ、上手くやるだろ。」

確証は無い。
でもいつの間にか傍に居た事といい、この山に居てあの余裕さといい只者じゃ無さそうだ。
だったら余計な心配は無用。ただ無事を祈っておけばいいだろう。

「さて、問題はあいつらが本当に畑荒らしの犯人なら……。」

少し、厄介なことになったな、と俺は頭を掻いた。

暁 名無 > 「ひとまず今は無事に下山する事を考えるか。」

これからの事を考える為にも、まずは家に帰りつくことが先決だ。
幸い脅威は遠ざかっていたので、改めて注意深く現在位置の割り出しを行う。
木の種類、星の位置、今の時間。それらが分かれば、標高とおおまかな方位くらいは自ずと分かってくる。

「えーと、……とりあえずあっちだ。」

大まかな帰り道を割り出した俺は、再び猪に遭遇しないよう十分に気を付けて下山を始めるのだった。

ご案内:「青垣山」から暁 名無さんが去りました。