2017/06/11 のログ
■クラージュ > 「声が聞こえた」
赤毛の少年は言葉を紡ぐ。
「人も世界も。神も魔王も。
どんなやつだって関係ない。助けを求められたら、俺はそれに応える。
そこに今更も遅いもないんだ」
大きく息を吸う。
吐く。
「俺は―――
力なき弱者を救う。
力に溺れる者を救う。
絶望の滅びになんて負けてやるものか。
救われない者がいる世界なんて真っ平ごめんだ。
『俺は俺が救われたいから世界を救う』。
俺のエゴの為に、ハッピーエンドにしてみせる」
一歩ずつ、絶望に支配されている少年に近づいていく。
「だから大丈夫だ。
まだ、君は堕ちてない」
■加賀智 成臣 > 「 。」
その声は、決して聞こえることはなかった。
虚空のように空いた空っぽの穴からは、虚しい風が流れ出すのみ。
「君は」
ふと。
この島で、最初に出会った男子生徒のことを思い出した。
ふと。
この島で、ともに働いた女生徒を思い出した。
ふと。
この島で、初めて友人になると言ってくれた女生徒を思い出した。
ああ、なんて美しい記憶だろう。
なんて素晴らしい過去だろう。
「まぶしすぎる。
そんな過去はいらない。いる。いらない。いらない。いらない。いる。ほしい。ほしくない。いらない。」
ぴしぴしと、地面が悲鳴を上げる。
ねじ曲がるように土が割れ、大地が意思を持ったように顎となって割れる。
「僕は、浮かばれたくない。
君が居ただけで十分だ。僕は、この世界に一人じゃない。
僕以外にも誰かがいて、この世界は美しくて、素晴らしい。
安心して、世界の脅威として死ねる。世界の汚れとして消え失せることができる。」
恐ろしく饒舌に。何かが取り憑いたように、その言葉は穴から流れ出る。
「僕はいずれ忘れ去られる。決して誰にも思い出されることはない。傷も染みも痕も残さず消え失せる。
それでいい。
彼らはきっと、君もきっと、僕を無かったものとして、これからの素晴らしい人生を過ごしていく。
それでいいんです。僕が入り込む余地のある人生【せかい】など、この世界にはない。」
■クラージュ > 「ああ、だから勇者なんてやっているんだ!!」
割れた大地を飛び越え。
「……自分を偽るな!!
その『眩しいもの』は君にも手が届くものだ!」
吹きすさぶ風に抗い。
「綺麗さっぱり無くなりたいようだが……俺は絶対に忘れないぞ!!
世界の理の外に身を置いている勇者だからこそ、このままでは絶対に忘れない!!
救えなかった人の事を忘れるなんて―――できるわけがない!!」
赤毛の勇者が、眼前に立った。
■加賀智 成臣 > 「………………。」
みしり、と音がした。
見れば、足先からまるで景色に溶けるように、消えていく。崩れていく。
「………。いずれ忘れる。人はそういう生き物です。
僕も。君も。いずれは、誰にでも忘れられる。世界から消え失せる。
いくら綺麗事を並べ立てても、それはすぐに世界の汚れに汚染される。
僕は止められない。」
胸元まで消えていく。
きっと彼は、またこの常世の何処かで、『誰にも会いたくない存在』として、埋もれ続けるのだろう。
自らの心を誤魔化して、いずれまた人前に現れて。
理由を付けなければ、人にも会えないような心をぶら下げて。
「……でも」
「ありがとうございました。こんなクズに、お世辞まで言って頂いて。」
そう言って。その体は虚空へ消えた。
■クラージュ > 「本心だ……!!」
加賀智を捕まえようとした手が空を切る。
「……汚れたら洗えばいいんだ。
絶望になんて、負けてやるものか……!!」
赤毛の少年の言葉が届いたかどうか……ソレは誰にもわからない。
ご案内:「廃神社」から加賀智 成臣さんが去りました。
ご案内:「廃神社」からクラージュさんが去りました。