2017/06/11 のログ
クラージュ > 「声が聞こえた」

赤毛の少年は言葉を紡ぐ。

「人も世界も。神も魔王も。
 どんなやつだって関係ない。助けを求められたら、俺はそれに応える。
 そこに今更も遅いもないんだ」

大きく息を吸う。
吐く。

「俺は―――
 力なき弱者を救う。
 力に溺れる者を救う。
 絶望の滅びになんて負けてやるものか。
 救われない者がいる世界なんて真っ平ごめんだ。
 『俺は俺が救われたいから世界を救う』。
 俺のエゴの為に、ハッピーエンドにしてみせる」

一歩ずつ、絶望に支配されている少年に近づいていく。

「だから大丈夫だ。
 まだ、君は堕ちてない」

加賀智 成臣 > 「      。」

その声は、決して聞こえることはなかった。
虚空のように空いた空っぽの穴からは、虚しい風が流れ出すのみ。

「君は」

ふと。
この島で、最初に出会った男子生徒のことを思い出した。
ふと。
この島で、ともに働いた女生徒を思い出した。
ふと。
この島で、初めて友人になると言ってくれた女生徒を思い出した。

ああ、なんて美しい記憶だろう。
なんて素晴らしい過去だろう。



「まぶしすぎる。
 そんな過去はいらない。いる。いらない。いらない。いらない。いる。ほしい。ほしくない。いらない。」

ぴしぴしと、地面が悲鳴を上げる。
ねじ曲がるように土が割れ、大地が意思を持ったように顎となって割れる。

「僕は、浮かばれたくない。
 君が居ただけで十分だ。僕は、この世界に一人じゃない。
 僕以外にも誰かがいて、この世界は美しくて、素晴らしい。
 安心して、世界の脅威として死ねる。世界の汚れとして消え失せることができる。」

恐ろしく饒舌に。何かが取り憑いたように、その言葉は穴から流れ出る。


「僕はいずれ忘れ去られる。決して誰にも思い出されることはない。傷も染みも痕も残さず消え失せる。
 それでいい。
 彼らはきっと、君もきっと、僕を無かったものとして、これからの素晴らしい人生を過ごしていく。
 それでいいんです。僕が入り込む余地のある人生【せかい】など、この世界にはない。」

クラージュ > 「ああ、だから勇者なんてやっているんだ!!」

割れた大地を飛び越え。

「……自分を偽るな!!
 その『眩しいもの』は君にも手が届くものだ!」

吹きすさぶ風に抗い。

「綺麗さっぱり無くなりたいようだが……俺は絶対に忘れないぞ!!
 世界の理の外に身を置いている勇者だからこそ、このままでは絶対に忘れない!!
 救えなかった人の事を忘れるなんて―――できるわけがない!!」

赤毛の勇者が、眼前に立った。

加賀智 成臣 > 「………………。」

みしり、と音がした。
見れば、足先からまるで景色に溶けるように、消えていく。崩れていく。

「………。いずれ忘れる。人はそういう生き物です。
 僕も。君も。いずれは、誰にでも忘れられる。世界から消え失せる。
 いくら綺麗事を並べ立てても、それはすぐに世界の汚れに汚染される。

 僕は止められない。」

胸元まで消えていく。
きっと彼は、またこの常世の何処かで、『誰にも会いたくない存在』として、埋もれ続けるのだろう。
自らの心を誤魔化して、いずれまた人前に現れて。
理由を付けなければ、人にも会えないような心をぶら下げて。

「……でも」

「ありがとうございました。こんなクズに、お世辞まで言って頂いて。」

そう言って。その体は虚空へ消えた。

クラージュ > 「本心だ……!!」

加賀智を捕まえようとした手が空を切る。

「……汚れたら洗えばいいんだ。
 絶望になんて、負けてやるものか……!!」

赤毛の少年の言葉が届いたかどうか……ソレは誰にもわからない。

ご案内:「廃神社」から加賀智 成臣さんが去りました。
ご案内:「廃神社」からクラージュさんが去りました。