2018/08/31 のログ
ニコラス >  
そっか。

(彼女が幸せならそれでいいと思う。
 頭を上げて表情をやわらげた。)

求道者、ってやつかな。
俺はそこまではなれないなぁ。

(人より多く矢を撃ってきた自覚はあるが、そこまでとは言えない。
 色々と寄り道もしたし、寄り道をしてしまう。)

あんまりここまでは来ないけど、たまに来るとやっぱ綺麗なんだよなぁ。
写真?
別に構わな――

(気付く。
 いや、むしろなぜさっき気が付かなかったのか。
 あの顔を思い出すのに時間がかかっていたということを。
 目を見開いて、口元を右手で覆う。)

アリス >  
「本当に綺麗よ、この景色が……ニコラス?」

相手の様子が変わった。
表情を覗き込んで、眉根を顰める。

「だ、大丈夫? ニコラス。具合でも悪いの?」
「写真が嫌い? それとも……」

心配げに彼の周りをうろうろ。
いったい、急に何が。

ニコラス >  
――いや……。

(どういえばいいのか。
 彼女とは会ったばかりだ。
 会ったばかりでそんな話をするのはどうなのか。)

――俺、な。
いわゆる異邦人、ってやつで。

(でも言った。
 誰かに話さずにはいられなかった。)

そんで、なんつーか……。
向こうの、――知り合い、の顔が、思い出せなくなってきてて、さ。

(山からの景色はとても綺麗だ。
 どこまでも見渡せそうだけれど。
 ――ここからは、見えない。)

アリス >  
彼の語った言葉は。
とても悲しく響いた。

もし自分が異世界に飛ばされて。
パパとママの顔を思い出せなくなったらどう思うだろう。

「ニコラス……」

こんなことがあるのだろうか。
異邦人は時に星に呪われることがある。
飛んだ時点で現地の言葉がわかるようになる人がいるのも、その一環で。
でも、それにしたって……神様は意地悪だ。

「あなたは……大切な人を忘れてしまいそうなのね」

今にも泣き出しそうなくらい、表情をくしゃりと歪めた。

ニコラス >  
いや、まぁ、そんな重大な話でもないんだけど、さ。

(例えば死んだ人の顔は時間が経つほど忘れていく。
 小さいころから会っていない友達の顔を思い出せない。
 人の脳はいらないものは忘れるように出来ている、と授業で習った。)

忘れちゃいない。
あいつと過ごしたことも、あいつと見た景色も、何も忘れてない。
――あいつの顔だけは、忘れないと、思ってたんだけどな。

(前髪をくしゃりと掴む。
 考えてみれば当然のこと。
 写真も何もないのだ。
 人の脳はいらないものから忘れていく。)

アリス >  
「ニコラス……写真、やっぱり撮りましょう!」

そう言って自撮り棒に接続したスマホを構える。

「私はあなたのことを忘れないわ、何度だってこの写真を見て思い出す」
「あなたに罪はないのよ、だから笑いましょう」

自分も涙を浮かべていた顔を、ハンカチでぐしゃぐしゃと拭いて。

「あなたが大切な人と再会する時まで、あなたは笑っているべきだわ」

そう言って変に神妙な顔つきで、スマホのカメラ機能を起動させた。

ニコラス >  
……なんでアリスが泣いてんだよ。

(無理やり作った笑顔。
 自分でもわかるほどのぎこちない笑顔だけれど、彼女の言うとおりだ。)

よし、撮ろう、写真。
笑って記念撮影だ。

(そう言って身体を寄せる。
 ちょっとだけ女の子に近いとたじろいだけれど、身体を寄せてカメラの方を向いて。)

アリス >  
「あなたが泣かないからでしょ!」

そうぴしゃりと言って、二人で笑顔を作って写真を撮った。
ぎこちなくて、作り物の笑顔を、二人で共有した。

「ねえ、ニコラス」
「この写真、メールするから! 街に下りてきたら、絶対メールボックスから受信してよね!」

そう言って無理やりテンションを上げて自分を慰めた。
今日は友達ができた日。本当は元から友達だった日だけど。
その日の記念なんだから、笑っていようと思った。

ご案内:「青垣山」からアリスさんが去りました。
ニコラス >  
男の子は、そんな簡単に泣いちゃいけないからな。

(さっきよりはまともな笑顔を浮かべて。
 撮った写真を見せてもらえば、それはひどい笑顔の写真だった。)

ん?
――うん、わかった。
ちゃんと受け取っとくよ。

(そうして彼女を山の麓まで送り届けて、自分は山へ戻る。
 街へ戻ったら真っ先にメールを開こう。
 そうして、転移荒野あたりへ大物を狩りにいこう。
 あの時からどのぐらい先に進めたのかを。
 守られるのではなく、守ることが出来るようになったのかを確かめよう。)

ご案内:「青垣山」からニコラスさんが去りました。